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弔いの旅路  作者: クジラ
新章 成長期というのもの
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君がくれた色

「っと、ここまでが回想です。どうですか? なかなかいい話だったでしょう? あの日から僕はルルちゃんの作品を作り続け、大通りの隅に露店を開けるまでになったのです! 感謝してもしきれませんよ。彼女は僕の……芸術の恩人です! ええ!」


「まぁ……後に親からの反対がありましたが……頭でっかちですので……あの人たち。俗物に流されるな、だの、品格を失うな、だの、難癖ばかり、まったく、嘆かわしい! ルルちゃんの素晴らしを理解できない人が肉親にいるだなんて!」


 そう遠くない内にルルちゃんはサングリアを席巻(せっけん)するアイドルになるでしょうが、今はまだ街のお硬い連中たちを動かすまでには至っていません。その山を動かさないことには、それこそただの流行り物枠、すぐに飽きられ、人気は廃れてしまうでしょう。サングリアのコンテンツ消費スピードは尋常じゃなく早いんです。末永くファンとして活動を続けたい僕にとって、その結末だけはなんとしても避けたいところ。


「それにしても、まさかここでルルちゃんと出会うとは思いませんでした。なんの運命のイタズラでしょうか。きっと僕のルルちゃんに見合う男になるという誓いに、神様が用意してくださったご褒美に違いありませんね」


 彼女の魅力にサングリア市民たちは遅かれ早かれ熱狂する。その熱を永久に冷めさせないために僕は生まれ変わると決心した。僕の作った芸術で、彼女のアイドルとしてのステージをさらに押し上げるために。


「肌見放さず胸元に忍ばせているルルちゃんを模した粘土造形。これが現状僕の最高傑作となります。自身に変革を起こさなければ、過去作は超えられない。そんな思いを胸に僕はここに来ました」


 これみよがしに僕はナイトたちに最高傑作を見せつける。これが完成した時、あまりの出来栄えに身震いをしたのを覚えています。売るために作った作品でしたが、自分だけの物にしたいという独占欲が湧いたのは、この作品が初めてでした。


 もういいでしょう。僕はいつものメンバーにたっぷりとルルちゃん人形を見せつけた後、それを胸元にしまいます。


「いやはや、ワシも若い頃は芸術に磨きをかけたが、そこまでの情熱はなかったのう。身体を動かすこと方が得意だったゆえ、武芸にばかりかまけてしまって、いやいや立派なもんじゃ。その人形、まるで本人をそのまま小人にしたような出来栄えじゃな」


「俺も造形品を作って売ってた時期があるからわかるけど、かなりの腕前じゃねぇか? よく見てみりゃ」


 スタッドさんとガウからのお褒めの言葉、嬉しい限りですね。そうです。こればっかりは自信作ですので、誇らしげに見せびらかすことができるのです。最高傑作ですから。あまりの出来栄えに僕を苦悩させるほどのやつですから。ええ。


「ごめんモッコ、そのアイドルってやつはなんなの? 俺田舎育ちだからよくわかんなくて」


「いい質問ですナイト。そして難しい質問でもあります。そうですね。アイドルとは」


「平たく言えば光です。黒く塗りつぶされた空に昇りゆく太陽からやってきた天の使いです。世界に鮮やかな色彩を配り歩く宿命を背負った光の三原色、それがアイドルです」


「へぇ〜そうなんだ。初めて知った。アイドルってなんかすごいんだね」


「いっ、いやいや! 違うよ! ナイト! そんなこと信じないで! モッコの過剰表現だから!」


 むっ、マクの鋭い指摘に笑いが起きました。まぁ少し過剰な表現をしたのので仕方ないですが……良しとしましょう。みんなの笑顔もルルちゃん同様に、素敵なものだと僕は思いますから。


 それからしばらく談笑が続きました。僕はここで皆をわざわざ食事処に集めた理由を切り出すため、長い一呼吸を吐きます。さて、本題というやつを始めましょうか。


(やぶ)から棒にすいません。皆さんとこうして夜が明けるまで話す、ことも悪くはありませんが、どうしても話しておかなければならないことがありまして」


風雲急(ふううんきゅう)を告げる。事態はすでに、いつ悲劇が起きてもおかしくないほど差し迫っていると僕は考えています」


「お願いします皆さん。ルルちゃんを不逞(ふてい)(やから)から守るため、僕と一緒に戦ってくれませんか」


 どうしてルルちゃんがこんな所に来たのか、真意を確かめる方法はありませんが、いつの時代も、自分のことしか考えれない身勝手な輩は居るものです。身近なところで言えば、スタッドさんの知り合いを不幸にしたという、あのデカブツがそう。あれと同じような輩がもしミミゼラブルに参加していたとしたら、想像したくありませんが、また悲劇は繰り返されるでしょう。


「う~む、エスタが警護にあたると思うが、確かにそれだけでは不安じゃな。1日中警護に時間をあてれるわけでもないし」


「俺はすまねぇけど戦力になれねぇ。この杖がなけりゃまともに歩けないぐらいだしな」


「ボクはいいよ。力になれるかわからないけど。ナイトはどうする?」


「ああ……当然やるよ。でも、ほんとにそんな悲劇が起きるのかなぁ? 気にしすぎってことない?」


 いい感触です。やっぱり僕の見立て通り、この4人は非常に協力的な人柄でした。いずれルルちゃんのファンクラブに勧誘しましょう。当然無理強いなく。


「ナイト。甘いです。純粋な心を持つナイトには難しい話かも知れないですが、例えば集団が同じ意思を持ったとしましょう。ルルちゃんの入浴姿をひと目(おが)みたい、を、その意思と仮定します。すると何が起きるか、善悪の境界線が曖昧になります。俗に言う集団心理と言うやつですね。否定しにくい空気が生まれます、悪ノリが連鎖し、やがてその気のなかったものまでが犯罪行為に手を染め始めます。街から離れたこのような場所ならなおさらでしょう。先ほど集団でミミゼラブルを去ろうとしていた騒ぎのように」


 扇動するものひとり現れるだけで、容易く染まる。そういう趣旨をナイトに力説しました。ナイトは神妙な面持ちになり、いつでも力が必要なら言ってくれと言ってくれました。理解は得られたようです。


「ではさっそく予行演習と行きましょうか。事が起きてからの対処では間に合いませんからね」


「やはり、1番警戒すべきは覗き行為でしょうね。僕は露天風呂を掃除させられていましたから、その脆弱さをよく理解しています。まず柵がありません。囲いというものがないのです。一応高低差がありますで、下からは見えないようになっていますが、坂を登ればいいだけですし、また施設からの行き来に高低差は存在しません」


「よって施設に残る者と、風呂場周辺を警護する者の二手に分かれることになるでしょう。ちょうど今、ルルちゃんが入浴を始めている頃だと思います。エスタ教官と共に向かったので、施設側は大丈夫として、野外の対処がお留守です。さっそく向かいましょう」


 ガウは置いてきました。寂しそうな顔をしていましたが、仕方ありません。怪我人は連れて行けないですから。早く完治して、また馬鹿げたあだ名で僕を呼んでほしいです。おい、モッコリンと……いや……やっぱ嘘です、呼んでほしくないです。ええ。


 そうこうしている内に目的地につきました。この傾斜(けいしゃ)を登った先にルルちゃんが……っと、いけないいけない。僕の豊かな想像力を働かせる時ではないですね今は。気を引き締めないと。


「ふむふむ。真夜中ですがこの辺りは木々もなく見晴らしがいいですね。月明かりでも十分不埒者(ふらちもの)を発見できそうです」


 傾斜の下、背に露天風呂を構える位置、警戒可能な視界は210度ぐらいですかね、前方は30メートル先の木々が生い茂るところまで。警護がしやすくて助かります。


「ルルとやらが風呂に入る時は、最低2人はここに配置するべきじゃのう。迎え撃つ役割と、増援を呼びに行く役割を持った者が」


「ううっ、ボクは迎え撃つなんてできないよ。増援を呼びに行く係でいい?」


「うっ、俺も……てんで刃が立たなかったし。前の争いでも」


「ではスタッドさんが常にここに居てもらって、マクかナイトが伝達係を務める、で良いでしょうか? それ以外は巡回ということで」


 愉快に頷いてもらうことができました。これでひとまず安心ですね。ふっ、と吐いた息と共に肩の力が抜けていく感覚が訪れます。いくばくか、神経質になりすぎていたようです。


 僕の悪い癖……そう締めくくろうとした折、心臓の脈打つ音と同時にまた、肩にめいいっぱいの力みが込められます。木々の奥から人の声が聞こえてきました……それも大勢の声です。嫌な予感がします。


「あれぇ~先客かぁ~、隅に置けないなぁ。俺たちに内緒でルルちゃんの裸体を拝もうだなんて」


「まっ、やっぱ考えることは同じだよな! 男なら!」


「なぁに、さんざんひどい目にあってんだ俺たちは。ちょっとぐらいいい思いしたって罰は当たらねぇさ。ルルちゃんだって、まんざらでもない感じで許してくれるよ、きっと」


 思ったより数が多いですね。そして思ったより事が起きるのが早いです。僕に先見の明があったこと、まず称えましょう。最悪の未来を回避できる選択を発生させたその慧眼(けいがん)に。


「マク、エスタを呼んで来い。宿にいるはずじゃ。モッコとナイトは下がっておれ。ワシが対処する」


「なんだなんだぁ? お前ら覗きに来たんじゃねぇのか? お利口さんかよ? ノリ悪いぃ~!」


 ゲラゲラと月明かりに侵入してきた下衆共が僕たちを嘲笑(ちょうしょう)する。よくヘラヘラと笑えるな。こちらはこみ上げる怒りで、頭がどうにかなってしまいそうなのに。


「数が多いな。後続もまだまだいるようじゃ。こいつは骨が折れるぞ」


「スタッドさん。いきなり争うのは得策じゃありません。まず僕が彼らの説得を試みます。いいでしょうか? 武器も持ってきてないことですし」


「おおゴラァ!! その必要はないぜ!」


 破裂音がなったかと思うほど馬鹿でかい声量から放たれる威圧の定型文。今1番聞きたくなかった声の主が憮然とした態度で森の奥から現れました。


「デヒヒヒヒヒ! なんだぁ~? 柵とか囲いとかがあるって言うから、こんなバカ重たい武器持って来たってのにぃ〜、どこにもないじゃないかぁ〜。言ったやつ、半殺し確定なぁ〜。誰か忘れちまったけど〜」


 肩を怒らし練り歩くその様、実に醜いことこの上ないです。


「ゴラッソ! ディブタ!」


 名を思い切り叫んだ。いったいいつから来てた? だが、なるほどわかった。ミミゼラブルの面々が非行に走るのがやたらと早かった理由。こいつらだ、こいつらが扇動者となり皆を煽ったんだ。そうに決まってる。


「久しぶりだなゴラァ! 会いたかったぜ。特にそこの腐れジジイ! お前が我が弟をのしちまったせいで、ずいぶんとここまで来るのに遅れちまったよ。まっ、来たタイミングだけはよかったみたいだけど」


「ああ~、お前〜! ジジイ〜! この前はよくもやってくれたなぁ〜! すっげぇ頭痛かったんだぞぉ! 絶対ぃ絶対ぃやり返すぅ〜!」


「くっ、奴が手に持っている武器。鍛錬用の棍棒じゃな。やはり怪力だけは本物か、軽々しく50キロを片手で持ちよってからに」


 エスタ教官ですら重たそうに持っていたあれを、片手で持ち上げいるのか? 僕は1番軽いやつでもしんどかったんだぞ。なんて力の差だ。くっ、理不尽この上ない、腹立たしい限りだ。


 大勢の中で手に武器を持っているのは、どうやらディブタだけのようだ。まさか邪魔者が現れるなんて微塵も考えていなかったんだろう。まぁ、それはなんの備えもないこちらも同じだが。


「この数、ワシらだけではどうしようもない。エスタが来るまで我慢じゃ。辛抱が求められる、先陣は切るが、なるべくやられないように粘ってくれ。いいな!」


 スタッドさんがディブタの元へ駆けていく。だが奮闘むなしく、周りの人間に取り囲まれ羽交い締めにされてしまった。


「デヒヒヒヒヒ! ジジイぃ。お前運がいいぜぇ〜。オデは今、ただただあの子の裸が見たいだけなんだからぁ〜! お前にかまけてる暇なんかないんだよぉ~。だからぁ〜……一発で許してやる〜!」


「ぐぶわぁ!!」


「スタッドさん!!」


 スタッドさんの身体が中を舞う。50キロの重さを誇る棍棒を、動きを封じられたまま鞭打(べんだ)のように食らったのだ。そのままピクリとも動かなくなってしまったが、なんらおかしなことではなかった。あの威力なら当然だ。


「離せっ! 離せよ! くそ!」


 ナイトも捕まってしまいました。残りの砦は、僕だけになってしまったみたいですね。間に合うでしょうか、このままマクがエスタ教官を連れて来るまで。ルルちゃんは、その心に傷を負うことなくいられるでしょうか。


「来るなら来い! ただしお前ら! ここは僕が死んでも通さないからな! 進みたければ、僕を殺して行け!」


「デヒヒヒヒヒ! あ? なんだって、ちいせぇの……」


「おおゴラァ……怖いならどけや……手足プルプル震えてっぞ?」


 僕を無視して進もうとするディブタの足にしがみつきます。通さない。必ず、彼女は僕が守ります。


 何度も何度も殴られました。唇が切れ血が出ようとも、痛みを痛みで塗り替えられようとも、僕はしつこく足元にへばりつきます。それが気に食わなかったのか、ディブタは、スタッドさんをのした一撃を僕にも見舞いました。


「うぐぅう……」


 坂の傾斜に勢いよく叩きつけられます。痛みはもはやよく感じませんが、全身が頭から出る血で濡れていることはわかりました。このままだと死んでしまいます、それほどの外傷です。


「おいディブタ? なんかそいつ胸元から落としたぞ? なんだそれ?」


「ううん〜? あっ! これあの可愛い女の子そっくりだ! 見てみぃ〜兄者ぁ〜」


「ほんとだな。にしてもよく作られてんなこれ。小人が現れたのかと一瞬思っちまったぜ」


「が……がえせ……それは……ぼっ、僕の最高傑作だ……触るな……汚い手で……」


 なんとか声を振り絞ることに成功しました。


「なんだ……お前が作ったのかよこれ。けっ……つまんね、あっ……そうだディブタ……それ壊しちまえよ! こいつの目の前で! ぎゃははは!」


「デヒヒっ! 了解〜! なんかよく見てみりゃブサイクな作りだなぁ! 勘違いだったみたいだぁ〜、そっくりなんて言葉ぁ」


「全然っ、あっ、似てない〜ねぇっ!!」


 ディブタが僕の最高傑作めがけて棍棒を振り降ろす。重さ50キロの一撃だ、その重さは僕が身を持って体験している。僕の作品は無事では済まないだろう。


「ああ……ああ……そんな……僕の……僕の宝物が……ぐずっ」


「ぎゃははは! 俺たちに逆らうからこんなことになるんだよ!」


「デヒヒヒヒヒ! 違いねぇ兄者ぁ! おいそこのヒョロヒョロ! そう泣くことないぜぇ? またいちからやり直せばいいだけだろ? ほら材料ならここに、粉微塵(こなみじん)として用意してやった……ぜ!? はっ?」


 悪意の塊かのような言葉の最後に、えらく間の抜けた声が入る。なんだ?


「なんで? なんで壊れてねぇの? 当てたよなオデ……確実にど真ん中、ぶち当てたよな?」


 ざわざわとゴラッソとディブタの後ろの連中が騒ぎ出した。その煽りを受け、ディブタたちは、僕の最高傑作を壊そうと、何度も何度もルルちゃん人形めがけて棍棒を振り下ろすが。


「嘘だ……嘘だ!! なんで壊れねぇ!! まさかまさか……この作品は……この作品が……まさか!!」


「ディエゴ様の定義に認められし芸術、魂芸術品(こんげいじゅつひん)だとでも言うのか!!」


 壊れない。僕の作品は。ありありと、皆を照らす太陽のように、変わらずそこにあり続けた。


 魂芸術品……それは芸術家としての最高峰、ディエゴ様の設定した芸術の定義に見初められたという名誉の証。その品には保護の力が働き、未来永劫の存在を許されるのだとか。当然今みたいに傷ひとつ付かず、劣化もしないのが特徴らしい。まさか、僕の作品が選ばれていたのか? 自動的に適用されるそうだが、まさか……。


「くそっ! なんでだよなんでだよ! 俺たちの入れ墨はいつまでも認めやがらねぇクセに! なんでこんなしょうもねぇのは認めちまうんだよディエゴ様!! ふざけんな!!」


 ゴラッソとディブタ双方が僕の芸術に罵声と暴力を浴びせる。そして、とどめの一撃とばかりに頭上にまで振りかぶった棍棒を振り下ろすディブタだったが、なんと、逆に棍棒の方が真っ二つに引き裂かれてしまった。


「そんな、バカな……バカな……」


「はぁ、はぁ、力をいたずらに振り回す愚行はもう終わりましたか?」


 すっかり意気消沈してしまった集団に、僕は意を決し話しかけます。


「考えたことはありませんか? なぜ男は女性よりも力が強く生まれてくるのか? その差分が意味することについてです」


「はぁ? なんだ急にゴラァ! 知るかよそんなん! よえぇのが悪いだろ! どう考えても!」


「守るためですよ。あらゆる脅威から女性を」


「僕は、その差分を、尊厳を踏みにじることに使う輩を、暴力に使う輩を、許すことはできません」


 そう。許さないんです。曲がりなりにも男に生まれた僕ですから。


「なぁ……俺もう降りていいか? なんかバカバカしくなってきたよ」


「ああ……俺も。悪ノリが過ぎたかもなぁ今回は。帰るわ」


「あはは、解散解散〜……はぁ〜あ……何やってたんだろ俺……いくらストレスが溜まってたからってなぁ……」


 どうやら後ろの連中には伝わったみたいですね。蜘蛛の子を散らすように去って行きました。


「おい……お前ら……ああクソ! 調子のんなよ、お前ゴラァ! はぁ〜……帰るぞディブタ!」


「ええ! 兄者ぁ! 女の裸は?」


「2人でどうしろってんだ! ちったぁ考えろ! バカ!」


 未だ反省の色が見えない2人も無事帰って行く。これは僕の完全勝利と言っていいでしょうね。ええ。


「モッコ! ひどい傷だ。どうしよう。ああ~どうしたらいい?」


「ナイト……まずはスタッドさんを宿まで運んでくだい。僕は後でいいです。というか頭をあまり動かしたくありません。4人がかりぐらいで僕を運んでほしいです。お願いします」


 輩たちから解放されたナイトが血相抱えて走ってきました。ナイトは聞き分けのいい人です。僕のお願いを聞いて、スタッドさんを抱え走って行ってくれました。


「ああ……頭が……頭が」


 割れそうだ。あおむけ状態、薄めで月明かりの視認を何度も繰り返す最中、それは香った。僕の血の匂いに混じる、妖艶な花ような匂いだった。


「君が……モッコ君?」


「ルルちゃん……」


 言葉で確認するのもいらない。紛れもないルルちゃんが今、僕の顔面の上で、僕を見下ろしてる。目がかすんでよく見えないけど、間違いない。まだ聴覚は生きているから。


「ごめん……話し聞こえちゃっててさ。だいたいここで起きたこと知ってるの」


「これ、私そっくりの人形。君が作ったんだよね。魂芸術品……ってやつ」


 知られていたのですか。少し恥ずかしいですね。歯に浮くようなセリフも少し吐いてしまいましたから。


「ええ……そうみたいですね。僕自身びっくりしてます」


「触ってもいい?」


「うわ~すごい精巧! 肌質なんかも私とそっくりかも〜、どうやってるのこれぇ~!」


 なんでしょう。なにかわかりませんが、すごく楽しそうです。思わず釣られて笑みがこぼれてしまいました。そんな僕を見て彼女は人形をいったん膝に落とし、


「ありがとうね。魂芸術品になるまでの作品のモチーフになれるなんて、アイドル冥利に尽きるよ! ファンとして私をここまで愛してくれてさ」


「愛? ですか……そんな大層なもの、僕のような人間にはないです」


「ルルちゃん。僕はただ君を、少しでも楽にさせてあげたかった。少しでも、心労ってやつを軽減させてあげたかった。それだけです」


 ルルちゃんの前で嘘はつけません。思いの丈は吐き切りました。


 ルルちゃんはそんな僕に何を思ったか、僕の両頬にその綺麗な手を添えて、


「それを愛と言わないで、なんていうの?」


 ずいぶんと真っ直ぐな瞳で僕を見つめました。僕の中を何かが貫いて行きます。


 そうか……そうだったんだ。彼女が僕にくれた色……その色彩は……。


 愛の色……だったんだ。


 

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