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弔いの旅路  作者: クジラ
新章 成長期というのもの
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バニング・スタッドという人物

力尽きて描ききれなかった後半の方の描写増やしました。前半に時間をかけすぎてしまいました。半端なまま投稿しちゃってすみません。




 死んでいったのぉ……仲間たちの声が聞こえるんじゃ。


 おいバニング!! 時々、そう呼ばれた気がして、早朝、はっと目を覚ます。


 それは、空耳だとは思えんほど、はっきりと聞こえる。


 妙にはつらつとした声で、姿は見えなくとも、小憎たらしい笑みを浮かべている表情が容易に想像できた。どこか楽しいところに行こう! そう言わんばかりの声色で、もう増えることがない亡友との思い出を掘り起こしては、物寂しい気持ちに襲われた。こんな老骨になにを期待しているのか、ワシだって時期にそちらに行く身だというのに。


 喉頭(こうとう)に何かが形成されていく。唾を飲み込むたび、呼吸をするたび、それは大きくなって、やがて息苦しさを覚えるまでに膨れ上がった。


 確証はない。だが、ワシはこの異物感の正体を知っている。長い年月を、思えばこの感覚と共に生きてきた気がする。


 つまり、そういうことなんじゃろう。友は、あの世からワシに、こう言いに来とるんじゃ。


 俺たちとした約束、ちゃんと守っているか……って。


「いっ、言いたいことぉ~? なんだジジイ! たっ、たまたまラッキーパンチが当たったからっていい気になるなよ!」


「いでぇ〜〜いでぇよぉ〜兄者ぁ……って、あ゙で? でもなんか、よく考えてみれば……あんま痛くねぇど? デヒヒッ、ごめ~ん兄者ぁ~オデの勘違いだったみたい〜、よっこいしょぉ〜っと!」


「おおゴラァ!? ビビらせやがって! ディブタ! あんま油断すんなよ! このジジイ無駄に手練れだぞ! 足元すくわれたくなきゃ、いつもより慎重に行け! ただでさえバカなんだからお前は!」


 勝手な奴らだと思う。死にゆく友の頼みなど断れるわけなかろう、それを知っていて、奴らはあえて死の淵まで心の音を黙っているのだ。


「ワシの勤め先、今は引退したが、その経緯から、今でもワシのところには街の揉め事がよく耳に入ってくる」


「貴様ら……身に覚えがないか? 先月、いたいけな少女の身体に、消えぬ模様が無理やり刻まれた暴行事件のことを」


 バニング……俺の家族を……サングリアを頼んだぞ……お前になら安心して任せられる……今まで楽しかった……。


 小っ恥ずかしい台詞と共に、ひとり、またひとりと、眠気に誘われた瞳はまぶたを閉じていく。ワシには未だ来ぬ就寝の時。もう目覚めることがないと知っていれば、もう顔を突き合わす日は来ないと知っていれば、普段言えぬ事も気兼ねなく言えてしまうのだろうな。


「ああん? 少女ぉ〜? 知らねぇな。さすがの俺たちでも子供にまで手ぇ出さねぇよゴラァ! 舐めんな! なぁディブタ!」


「……えっ……うっ……うん……そ、そうだぞ、そうだぞ! あっ、兄者の言う通りだー……あっ兄者のぉ……」


「……ディブタ……お前……なんかしどろもどろだけど……まっまさか、本当にやっちゃいねぇよな、カタギだぞ……それも子供相手だ……」


 被害に遭ったのは、友の孫娘だった。すぐに会いに行ったが、人と会える状態ではないらしく、会うことは叶わなかった。外に出るのが怖いと、身体に刻まれた模様を誰にも見られたくないと、娘の言葉を代弁し説明してくれた両親の声は悔しさで震えていて、思わずワシの拳にも力が入った。


 犯人を見つけられないでいる。情報も少なく、もはやサングリアを出た可能性すらあるとのこと。ディエゴ様は芸術以外に興味がないお方だから、街の治安を守る責任はワシらにあるというのに。


 戦友(とも)は良き夢を見て眠っておる。起こすもんじゃないぞ悪党ども。友が最後に言い残した言葉、あれは誓いだった、約束だった。家族を、サングリアを……ワシは……ワシは……


「託されておるのだ!! この背に!!」


「悪事は許さんぞ悪党ども!! 元近衛師団隊隊長! バニング・スタッドの目が黒いうちはな!!」


「くっ……近衛師団隊長……だと!? チッ……なんでそんな奴がミミゼラブルに参加してんだゴラァ!」


「ううっ……どうしよう兄者ぁ~……オデ……オデ〜……」


 怪しいのは弟の方だ。明らかに動揺が増している。間違いなく事件に関与していると見ていいじゃろう。ミミゼラブルに来た甲斐があった、参加者を全員調べる気でいたが、こんなにも早く目星がつくとは。


「……証拠は残ってねぇんだろディブタ? なら簡単な話だ……しらばっくれればいい……最後までな」


「ああ〜? そんなことでいいのかぁ〜?」


「ああ、んでこいつらをボコすことも変わらねぇ。けひひ、その際勢い余って殺しちまうかも知れねぇけど、俺様たちは厳しいミミゼラブルの訓練の最中だ、死人のひとりやふたり、出たってなんもおかしくはねぇよな」


「ああ〜! 兄者ぁ〜あったま良い〜! そうか〜なにも変えなくていいんだ〜。デヒヒ。そうとわかればぁ~」


 反抗されることは想定済み。ワシとてやることは変わらない。衰え痩せ細ってしまった身体だが、まだまだこんな奴らに後れを取るほど、衰えちゃせん。


「ガウ! ナイト! 引き続きワシがこいつを相手する。片割れのほうは頼んだぞ」


 幸いナイトの判断で頭数では勝っている。兄の方は弟と違って体躯も小さく、2人がかりなら問題ないだろう。


「デヒヒ。今度は油断しねぇ〜ぞ〜ジイサン。えーっと、頭はおろさないようにっと。あ〜おい〜離れるなよぉ〜」


 間合いを確保する。奴の最大の長所は、2メートルはあろうかという背丈に比例して長い豪腕だ。あの手に掴まれれば最後、ワシとて振りほどくことは難しいだろう。掴み技の警戒度は最大に、間合いを見極めながら、鈍い動きの隙を突き叩く。


「ジイサン〜ちょこまかと〜動くな〜! 掴みづらいだろ〜! こいつめ〜!」


 右足を前に突き出す単純な蹴り、顔を先ほど打たれているのだ、痺れを切らせば足技を使うと思っていたぞ。


「くっ、この〜!」


 予測していた蹴りを右になんなく躱す。そして、あえてこのタイミングで間合いを詰めた。ワシを掴みたそうにしとったぶん、そう、出てくるよな、体勢を崩してでも左手が。


 奴の右手は、地に崩れようとしている身体の衝撃を和らげるため降ろされている。


 つまり今この状況は、中に浮いた奴の左手1本分の力と、既に回旋運動(かいせんうんどう)に入っている、ワシの渾身の一撃との力比べとなる。


 結果は明らかだった。ワシの全身を可動させた動作は容易に奴の浮いた豪腕を跳ね除け、蒼白になっている奴の顔面と棍棒の間には、なにも遮るものが無くなった。


「今度は手加減などせんぞ!!」


 慈悲などない。泣き寝入ることしかできずに苦しむ、善良な人々の無念を知れ!! 


 こめかみ目掛けて振り払った一閃は、鈍い音を響かせ確実に頭蓋へとめり込む。


「はぁ、はぁ。ふぅ~」


 少し本気で動いただけで軋む身体だ。早期決着でなければ勝機は薄かったが、無事勝負はついた。


「ワシの勝ちだ」


「ぐ、ぐわぁ〜!! いってぇ!!」


 地に仰向けで倒れる対象を見下ろしていると、突如としてガウの叫び声が草原に響き渡った。


 どうやら向こうが窮地のようだ。っ間に合うか、老人にあまり無茶はさせないでほしいが。


「くっ、ジジイ! まさかディブタをのしやがるとはな。信じられねぇぜ」


「引け。お主に用はない」


 ガウが腹を抱え膝を折っていた。ただ外傷はなく、腹を殴られただけみたいだ。


「そういうわけにはいかねぇんだよ! 弟と俺は一心同体なんだから! それに、まだディブタがやったって証拠はねぇだろ!」


「往生際の悪い……」


「おーいナイト! 戻ったよ〜! あれ……あのでかいのは……もしかして、もう倒しちゃった?」


 マクの声……もう戻って来たのか、追っ手は……上手く撒いたようだな。


「あっ……」


 冷や汗がにじみ出た。ククポが現れた方向には……見えていないのか。そこに倒れるディブタの姿が。


「えっ……なにか踏んで……」


「ククッポ〜〜!!」


「デヒヒ……デヒヒ……デヒヒ……捕まえた、捕まえたぞ〜ククポ〜!」


 いっ、いかん……ククポがディブタを踏んづけた衝撃で目覚めてしもうた。あれだけ打ち据えたのに、なんという頑丈な奴……いやでもまて、なにか様子が。


「デヒヒヒヒヒ……デヒヒヒヒヒ! う〜ん……お前……お前……よく見ればぁ〜、あの時の女みたいに可愛い顔してんなぁ〜」


「ううっ、離して……離してよぉ」


「マク!!」


 頭に血を(したた)らす、半狂乱じみたディブタの豪腕に捕まるマクの名を叫び、ナイトが駆ける。くそっ、目まぐるしい状況の変化、どうする、どれから対応する。


「オデ兄者に追いつきたくてなぁ〜、ついこの前ぇ〜お前みたいな女捕まえて練習してたんだよ〜! デヒヒ……でも、そいつがあまりにもいい声で泣き叫けぶから、途中でお絵かきのことなんて忘れちゃって、結局最後まで練習できなかったんだぁ。もったいねぇだろ? だからお前、あん時の続きやってくれねぇか〜、えーと、どんな絵柄だったっけ? うーん、とりあえずぶっ刺すしてから思い出すからぁ〜、ちょっと待ってなぁ〜」


 腸が煮えくり返った。話を聞いていれば神経を逆なですることばかり言いおって、外道が。


「いでぇ! なんだぁ〜! お前ぇ!」


「マク大丈夫か!」


「ナイト! ありがとう、助けに来てくれたの?」


 兄の方は後回しにした、弟の方に向かって駆ける途中、先行していたナイトが投擲した棍棒が見事奴の手に当たり、拍子に落っこちたマクをかかえ、踵を返していた。


「スタッドさん。逃げましょう! ここはいったん!」


 すれ違いざまナイトが言う。逃げるだと……罪を自白した罪人を目の前にして? なにを言って……。


「バニング! 危ねえ!!」


 ククポに向かうナイトの背を見ていると、急に身体に衝撃が走った。


「ぐぎゃああ! あっ、足がぁ!! 足が!!」


「ガウ!!」


 背に迫りくる奴の気配に気づかなかった。くそっ! ワシを庇ってくれたガウが、ガウの右足が。


 先程までは持っていなかった棍棒を握りしめ、奴はワシを見下ろしていた。ナイトが投げた棍棒を拾っていたのか、果たして武器をもったこいつに、今のワシが勝てるかどうか……。


「仕方あるまい……」


 仲間の治療を優先しよう。ディブタの攻撃で打ち叩かれたガウの足は、あらぬ方向に曲がってしまっている。一刻も早く治してやらないと。これ以上戦闘を維持することは困難とみて、のたうち回るガウを抱きかかえ撤退を始めた。


「ナイト! ガウが怪我しておる! ククポに乗せてやってくれ!」


「ああ〜、こら〜逃げんなぁ〜!」


 逃げるなという割には奴らは対して追ってこなかった。まぁあれほど脳天をぶっ叩いたのだ。まともに走れやしないのだろう。痛み分けという結果になるのか? 今のところは。


「ガウ。大丈夫ですか? その足……見るも無残なその足は……ええ」


「大丈夫なわけねぇだろ……っ、いってぇ!」


「ガウ。すまん……ワシの判断が遅れたばっかりに……」


「バニングのせいじゃねぇや……くそ! あいつら……覚えとけよ。この借りは絶対に返すからなぁ! !? いってぇぇ!!」


 元気印のガウの口数が減ってしまったミミゼラブル道中。少しみなの空気が重くなってしまっている中、ワシたちはついに目的地であるノーダス山までたどり着くのだった。


 それほど標高のない山だが、奥には連なる山々がそびえている。その最初の1山目に目的地はあった。


「やっとついたか! ここが目的地のノーダス山頂!」


 初めて来る場所ではなかったので、迷うことなく一直線に来れた。完全に頂上には登りきらない場所にワシたちの目的地はある。


「あれが、私たちが泊まる施設でしょうか? ずいぶんとまぁ、趣のあるというか、ボロいというか、素敵な場所ですね」


 モッコはそう言うが、確かそれほど古い建物ではなかったような。だが確かに、施設は草木で覆われている。どういうことだ。


「5人全員揃っているな。おめでとう諸君。ミミゼラブル第一関門突破だ」


 この声はエスタか。いつの間に後ろに。


「早速だが君たちにやってもらいたいことがある」


 ワシと目が合うとエスタは、しばらくこちらを見た後、何事もなかったかのように瞳をそらした。


「この施設、およびノーダス山にある訓練場、その全ての清掃を言い渡す! 清掃具は用意している、好きに使うといい」


 ガウを筆頭に不満を垂れるワシのチーム、エスタは何ひとつ気にせずにワシに近づき小声で、


「スタッド隊長……家でのんびりと余生でも堪能していればいいじゃないですか? なぜこのようなところに?」


「うむ、まぁワシにも色々と考えがあるのだ。気にせず接してくれ」


「はぁ、わかりましたよ。無茶はしないでくださいね。悲しむ人が多いですから、あなたにもしものことがあるとね」


 ここに来るまでにあった事は話さずにいた。エスタに協力を仰いでもよかったが、どうしてもあいつはワシ自身の手で捕まえたかった。奴らは入れ墨とやらを広めたいと言っていたから、ミミゼラブルから降りはしないだろうし。


 あの力自慢を無力化し、サングリアまで連行するのは至難の技だが。これはワシの意地でもある。幸い決着をつけるには最適の場所だ。さっそく全盛期の感覚を取り戻すための訓練を……と言いたいところじゃが……その前に……面倒くさい掃除があるみたいじゃったな。


「なぁ、エスタ」


「なんですか?」


「ワシの掃除、免除してくれんか?」


「だめに決まってるでしょ」


 とほほ、まぁそう来るわな……。

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