刻まれるは暴力の残滓
最後の方の誤字直しました。
10回以上は見直してるのに、なぜ投稿する前に気づけないのか、不思議でしょうがないです。
喧嘩上等とばかりに、高圧的な態度と威圧的な風貌で固められた集団。その中でも、彼らの特徴を最も色濃く反映した、おそらく頭目と見受けられる男が、俺たちに向かって声を張り上げていた。
「ああん!? ゴラァ! 聞いてんのかゴラァ! なんとか言えやゴラァ!」
身体つきが細く肉体的な怖さは皆無だが、巻き舌とドス効いた声はそれなりに怖い、顔のパーツをこれでもかというほど中心に寄せることに長けた男、俺は怒っているんだぞ、という感情だけは無駄に伝わってくる。
「……ううっ……ナイト……どうしよう……ボクたち……どうなっちゃうの……」
「あはは……あはは……こっ、これは……万事休すですね、はい……」
理不尽極まりない怒号、不快この上ない連中だが、相手は2チームが協力しあっているのか、数でいえば10人はいた。ククポを置いていけという要求を拒否すれば争いは避けられないだろう。もしそうなれば、多勢に無勢、俺たちに勝ち目はない。
「ゴラゴラうっせぇぞ! このゴラゴラ野郎!! お前らだって反則だろうが! こんな大勢で脅しやがって! チクるぞ!」
「ゴゥラッァ!! 誰がゴラゴラ野郎だゴゥラッァ!!」
ガウの啖呵に、もはや滑稽に聞こえる男のゴラァ、という言葉が連呼される。口癖なのか、明らかに言い過ぎだと思った。
「俺様にはゴラッソって素晴らしい名前があんだよ! わかったか!」
「……いやゴラゴラ野郎じゃんそれ……ぴったりのあだ名じゃん……ぷふっ」
「……おい誰だいま言ったの……お? いま笑ったの誰だぁ!!」
この場にいる誰もが内心そう思っただろうが、言葉を発したのは俺たちじゃない。ゴラッソは後ろを振り向き発言の張本人を探していた。
「お前かぁ……なぁお前だろ……ゴラァ……」
「ちがっ……俺じゃあないってホント!」
仲間の耳元で何度も口癖を囁くゴラッソ。見えていたのでわかるが、ちゃんと犯人は探し当てていた。ただ本人は目視していないので確証が持てていないようだ。
「おい……歯ぁ食いしばれ……」
ゴラッソが仲間のひとりに拳を振り下ろす動作に入る。
「ちょっ……違うって、違うって言ってるじゃないですか! やっ、やめてっ、やめっ……やめろボケェ!!」
「ぶほぉぶぐぇ!」
ゴ……ゴラゴラが、殴ろうとした奴に逆に殴り返された。なっ、なにが起こって……。
「リーダーぶってんじゃねぇよ! さっきから! ああん!? 言っとくけどお前より俺の方がつえーからな!」
「ゴォッ……ラッ……言ったなてめぇ〜、誰がボスか……思い知らせてやるよぉ! 後悔してもおせぇぞ!」
仲間割れか? まぁ急造チームだ。よほどの求心力を持った人物じゃないと、この短期間でチームを統率することは難しいだろうが、なにはともあれ逃げるなら。
「なんか知らねぇがチャンスだみんな! 今のうちにククポを連れて逃げるぞ!」
争いは2人だけに留まらず、なぜか他の数人も参加していた。よほどあのゴラゴラに鬱憤が溜まっていたのか、場は乱戦の模様を呈した。俺たちはガウの言葉を皮切りに、一斉に同じ方向に駆ける。
「たくぅ〜、兄者ぁはぁ~、チームの統率ぐらい最初にやっておきなよぉ〜。やり方ぁ~教えよっかぁ〜?」
「なんだこのデカブツ……」
突如として俺たちを通せんぼした巨石のような大男。どこに潜んでいたのか、ゴラゴラと同じような見た目をしていた。身体中の肌に描かれた絵? 文字? 模様のように隙間なく肌を埋め尽くしていて、よく見れば、手の平や眉間のシワにまで広がっている。兄者というからには兄弟なのだろうが、身体に描かれた絵は弟の方が多い。
「見てねぇで手伝えや! ディブタ!」
「あいあ〜い。じゃ〜イッパツぅ~っと――」
ゴラッソと争っていた数名がディブタによって瞬く間に打ち倒される。言葉遣いと同じでのっそりとした動きだったが、あの大きな拳を誰も防ぐことができないんだ。一撃で皆がピクリとも動かなくなった。のされる前に手に持った棍棒で反撃なども行っていたのだが、まるで効いてる様子はない。
「オデのチームを見なよぉ〜兄者ぁ〜。みんな大人しくしてるだろぉ〜? 誰がリーダーかぁ、誰が1番強いかぁ、わかってる証拠さぁ〜。なぁ〜お前らぁ〜?」
争いに参加しなかった4人がみな怯えた顔で下を向く。誰も目を合わせようとしない。その姿を満足そうにディブタは眺める。嫌な感じの奴らだ、味方を恐怖で縛り、あげく暴力まで振るうなんて。
「おいゴラァ、そう睨むなよ……てめぇらが余計なことしなきゃ起こってなかったことだろ。つか……ディブタ……お前……」
「どう考えてもやりすぎだ! 俺様のチーム全滅しちまったじゃねぇか! このブタ!! デブ!! どうしてくれんだ!! 目的忘れちまったわけじゃねぇだろ!?」
「ああ〜、ごめ〜ん兄者ぁ〜。忘れてたぁ〜」
「ったく! バカが!! 彫り師の地位を向上させる、サングリアのバカ市民どもに、身体に刻む芸術、入れ墨を認めさせる! そう誓ったよな俺様たち! ディエゴ様に取り繕うのが1番手っ取り早い方法なんだぞ。ミミゼラブルを失格になったらどうする!」
腕っぷしは弟の方が上なのは一連の流れを見れば明らかだが、力関係はどうやら兄の方が上らしい、あれほどの力を見せたディブタだが、ゴラッソにはたじたじといった感じで、ひたすらに謝っている。わりときつく詰められているのにも関わらずだ。
「入れ墨者の彫り師……お主らが……どうりで……」
スタッドさんが前に出て言った。後ろ姿で表情は見えないが、声には怒気がはらんでるように感じた。
「ああん? なんだジジイ。偏見ですかぁ〜? よくないですよぉ〜? 芸術を差別しちゃ~ねぇ〜……殺すぞゴラァ!」
「よしなよ〜兄者ぁ〜。きっとこのジイサンは入れ墨のよさを知らないんだよ〜。だからぁ〜……おい、お前らぁ~、入れ墨掘ってやっただろ? あれぇ~見せてやれ〜、この時代遅れのジイサンにぃ〜」
ディブタが引き連れている4人の動きがピタリと止まる。脱げ、と冷たく言い放ったセリフに、4人はしぶしぶ服を脱ぎ背中を露出した。
「こっ……これは……なんと……愚かな……」
「ギャハハハ!! おいディブタ! いつの間にこんな素敵な入れ墨掘ってやったんだぁ? クズどもにお似合いのぉ!」
4人の背には黒の字で大きく、奴隷その1、奴隷その2と、文字とともに番号が各自描かれていた。なんて悪趣味な。
「お前それで集合場所に来るのが遅かったのかよ」
「ごめ~ん兄者ぁ。お詫びに、兄者に逆らった奴にはオデが入れ墨を彫るから許してよぉ〜」
「……いや、許さねぇよ。こいつらの首に、首輪の入れ墨と、右頬にゴミ! 左頬にクズ! 額にカス! って刻むまではなぁあ!!」
緊張が走る。なんだぁそんなことでいいのか〜、っと笑顔を取り戻し向かってくるディブタと、ゴラッソの悪意に対してだ。奴らが争っていた際に落とした棍棒を拾い上げ各自戦闘態勢に入った。
「ギャハハハ! 逃げもしねぇ! 愚かだぜお前ら! 入れ墨はなぁ、男が交わす契りの盃のように、受け入れりゃ最後、死ぬまで消えねぇんだぜ! どうだ? 素晴らしいだろう? 肉が腐るまで、芸術として朽ち果てることができるなんてよぉ! ゴゥラッァ!!」
「あっ、ちなみにぃ〜。施術はこ〜れ! この針を何百回も何千回も肌にぶっ刺して色つけちゃいまぁ~す〜。オデ不器用だからぁ、兄者みたいに上手くできないけどぉ。いいよな別にぃ〜。ブスッ、ブスッってぇ〜、たぁ〜のしぃ〜お絵かき……させろ? お前らの身体でなぁ〜」
両者の薄汚い笑い声が響く、恐怖よりも嫌悪感の方が勝った。身体の中心に力が入るが、それはみんな同じだったようで、力強い眼差しで棍棒を構えていた。
「ワシがあのデカブツをやる……他のは任せた……」
「おいおい、バニング、まじでやんのか? いつでも逃げれる準備だけはしといてくれよ、万が一でもあんな針千本を顔面にぶっ刺されるのなんてごめんだからな俺はぁ」
「マク、モッコ! 2人はククポに乗っていつでも逃げれる準備をしといて! 俺とガウでもうひとりを相手にするから!」
マクとモッコに指示を出す。相手は6人だが、入れ墨兄弟以外からは戦闘の意思を感じない。警戒度は下げても問題ないだろう。それに、逃げるにしても、ある程度はこちらに力があると示さないと、ずっと付きまとわれることになる、そうならないために、手痛い一撃ってやつをコイツラにせめて食らわせとかないと。
「うん、わかったよナイト……ボクたちじゃ……さすがにね。力になれないかもだから……」
「私もケンカなんて7歳の時からしてませからね! ナイス判断ですよ! ナイト!」
「ゴラァィ! ボケっとすんな! 追えお前ら! 乗り物が逃げちまうだろ! このジジイとカス2人は俺様たちがボコすから、それまでには捕まえとけよ!」
へ、へぇ、とやる気のない返事で、ククポに跨るマクたちに4人の輩が迫った。
「ククッポ〜!」
「ああっククポが勝手にっ!」
「ナイト! 僕たちは必ず戻ってきます! それまで、負けちゃだめですよぉ!」
草原を走り出したククポに4人の輩がついていく、2人の安否が心配ではあるが、これで数なら俺たちが勝った。後は……マクとモッコが帰って来るまでに、こいつらに……ある程度のダメージを。
食らわせるだけ……ふぅ~……そういえば俺……喧嘩とかやったことないんだよな……どうしよ……。
「おい……ナイト……お前腕っぷしは? どんくらいある?」
ガウの囁き声の質問に首を横に振る。
「ううっ……そうか……俺もぶっちゃけ弱いんだよな……とっ、とりあえず、挟み撃ちでもするか? 効果あるのか知らねぇけど……ま、まぁ状況が悪くなったらすぐに逃げようぜ……な……」
はぁ〜あ、やるしかねぇかぁ、ガウがそう情けない声色で呟いた直後。
デカブツが早々に動く、棍棒を握りしめたスタッドさんに、あの大きな拳を振り下ろそうと――瞬く間に4人を鎮圧した拳。あれはマズイ、あれを食らっちゃあスタッドさんが!
「ぶへぇ〜!! いっ、いでぇ!!」
「なっ! ディブタ!」
今なにが起こった……ディブタが地にが倒れている? バニングさんは……無事だ。どこも怪我してない。
「地に拳をつける勢いで振り下ろすもんじゃあない、頭部がガラ空きだっぞお主。あまりの無防備さに棍棒を打ちすえる手が緩んでしまったわい」
「すっ、スタッドさん!」
「ばっ、バニング!」
ガウとほぼ同時に発声がだぶる。まさか拳を掻い潜っだけに飽き足らず、頭部に棍棒まで叩き込んだのか? もしかしてめちゃくちゃ強かったりする? スタッドさんって。
「貴様らに聞きたいことがある」
優しい面影がなくなってしまったスタッドさん、その目は怒りのままに轟々と燃え上がっていた。




