アトラの杞憂
誤字直しました。
「ああ〜〜もう身体動かない〜〜。ああ〜〜死ぬ〜死ぬ〜疲れ死んじゃう〜〜! 早くベットに連れてってぇよ〜アトラ〜、ふかふかのお布団で寝たいよぉ〜」
「アトラ! 急にどこ行ってたの? 心配してたんだよ! ってその肩に担いでるのってミュウル!? あれ、ディアンスには当分帰らないって言ってなかったっけ? なんでアトラと一緒にいるの……」
ったく、俺だって疲れ果てているのにギャーギャーとやかましいエルフ様だ。そんなに喋る元気があるなら自分で歩きやがれってんだ。お前を担いでるせいでレミィから疑いの目を向けられているじゃないか。こちとら新婚なんだぞ! 早々に愛想尽かされたらどう責任とってくれる!
「ああー、なんて説明したらいいか。すまん後にしていいか、いま疲れ果ててさ。もう呂律が回んねぇや」
2人の愛の巣となったカジノに帰ってきて、旦那である俺を妻らしくお出迎えをしてくれたレミィに冷たい1言を言い放つ。
レミィは心配と疑念が入り混じった表情になってしまい、寂しそうに顔を伏せた。普段装っている勝ち気な雰囲気とはほど遠い姿。以外な一面をみせてくれた喜びと、後ろめたさが反発し、胸が締めつけられるような気持ちになった。
「ごめん、もう限界かも……」
「うわ〜アトラ! あんたしっかりしなさい! わわっ!」
膝に浮遊感が纏わりついた途端に視界が真っ白に染まる。
「ぎゃふん! ううっ、痛ったい〜……」
「アトラ! 大丈夫!? ねぇアトラ!」
意識が遠のく中、ミュウルが吐く小言と、レミィが大げさに俺の名を連呼する声が頭の中で響いた。
「ううっ……ここは、どこだ?」
「あっ、兄貴ィ! みんな! 兄貴が目を覚ましましたぜ!」
目が霞む、この声はサポか? みんなか……たぶん病室かなんかだろうが、イルまで来ちゃいないだろうな。
「おい、お前ら……仕事はどうした。まさか俺の様態を見に来るためだけに、ほっぽりだしたんじゃないだろうな」
ミュウルが去ってからディアンスは、政策目標である軍備の増強に向けて全ての舵を切っていた。
とは言っても、ディアンスにはそもそも外敵などおらず、数100人規模の治安機関しか既存していなかったため、ゼロからの軍備増強となったが。
まずは徴兵で若者を集めるところから始まった。選りすぐった人員はバズズとべズズに牽引させることにし、調練場などを設けて、今は鍛錬を優先的に実行させている。
200人程度の規模の軍隊、ディアンス10万の人口からすれば寂しすぎる数字だが、いずれは数万人規模の軍隊の核となる200人と考えれば特段悪くはない数字だと思っている。
どちらかといえば食料の確保や、労働者の維持、武器の生産などの方が懸念であり、ミュウルの洗脳とやらの効力も、主が都市から離れてしまえば時期に無くなってしまうものらしく、無茶が通る今現在で、地盤をさっさと固めてしまおうってのが当面の課題であるのに。こいつらときたら。
「みんなアトラのことが心配で来てるのよ。当然でしょ?」
「そうだぜアトラ。調練なんて後でいくらでもできらぁ。他のみんなも同じだ、俺たちのボスが倒れたって聞いたんなら、最優先に駆けつけるに決まってるだろう?」
「それに最近忙しくて会ってなかったしな、居ても立ってもいられなかったよなぁみんな」
レミィの言葉にべズズとバズズが同調する。場にはナイトを見送って以来、集まっていなかったいつものメンバーが揃っていて、ディアンス跡地での生活を思い出させた。
「ああ、悪かったよ。元はと言えば俺が倒れなきゃ集まってないメンバーだしな」
「ちょっと、ちょっと、私の心配は誰もしてくれないわけぇ~? 明らかな重傷者を差し置いてさぁ、身体に傷1つついてない奴を贔屓すんじゃねぇー。仲良し小好し軍団が」
同じ病床にいやがったのかミュウル、というか隣のベットじゃねぇか。めんどくせぇな、誰かミュウルのベットの周りにも行ってやれ。俺と違ってミュウルには誰もついてない、それが気に食わないんだろうよエルフ様は。
「ミュウル、いったいなにがあったの? あなた背中の傷、お医者さんがなんで生きてるか分からないって、びっくりしてたよ」
「うーん、なんて言えばいいのかな? とんでもない化け物につけられた傷? っての? まぁ当然勝利は収めたけど、けっこうやばかったよ〜。ブランクもあったしねぇ〜」
「はぁ、詳しくは俺から説明するよ」
ひと通り俺が駆けつけた後の経緯をみんなに話した。誰も口を開く様子がなく、場には重苦しい空気が漂う。
「まぁ信じられない気持ちも分かるけど、実際に起きたことなんだ。現に私は自分の背中に治癒を施せないでいるし。ああ、力がすっからかんになったってことね。戻るまで数日ってとこかな? ほんと、自分で言ってて情けなくなるよ。出ばなをここまで挫かれちゃうなんてさ」
「俺も数日かかっちまいそうだ。ルギオスの力ってやつを消耗しすぎたらしい。まぁ、ひとつ教訓だな」
外傷を負ってるわけじゃないのに身体を動かせそうにない。不思議な感覚だ。ルギオスの力はエルフに起因しているから、ミュウルも同じ状態になっていることが推察できる。
無敵に思えたエルフにも底がある。実体験として理解した。
「だから、こんなとこで油売ってる暇なんかねぇぞってことだ。俺の予想では、あれ以上の脅威が後にやってくる。その時に、このディアンスは大きな役割をこなす要塞となってなくちゃいけない」
根拠はねぇけど……。そう最後につけ加えはしたが、ルギオスの力の継承者として感じることだ。このディアンスにはまだまだ隠された力が眠っている。今の俺では全体像までは見えないし、それを解放する力なんてないが、必ず使う時は訪れる。それまでに、なんとか形だけでも戦える態勢を整えておかなければ。
それからは、みんなと色々話した。まず食料自給率の問題について、俺がカナートを完全に壊しちまったから、水の確保の目処が立たなくなったと、ディアンスではエルフの種の性質をもたない食物を育てているから、持続的な水量の供給が不可欠で、対処に困っていると。当面は森から水を人力で運ぶことで、しのぐことが決まった。カナートをゼロから作り直す案も出たが、それには俺が待ったをかけた。あまりにも長い年月がかかってしまう大仕事だし、それに割く人員も今は惜しい。策があるからとみんなを説得して、バズズとバズズの部隊に長駆の訓練がてら水は運んでもらうことに決まった。
次に俺たちの立ち位置にちついてだ、今はミュウルの洗脳おかげで反発もなく、王などとのたまうことができるが、時期に洗脳は無くなってしまうことが判明している、だから今のうちに確固たる地位を築いておきたい。ここにいるメンバーは重用することに決めていて、それぞれが活躍できる場を用意するつもりだ。それで俺たちの支配力を高め、本当の意味でディアンスを統治する。
レミィにはカジノ経営で主に資金調達を、バズズやべズズには兵の練度を高め食料自給率の改善にも取り組んでもらい、サポとコッセには物資の調達、主に武器の生産にかかわる仕事を、そんな趣旨をみんなに伝え話した。
特に俺を撃ち抜いた拳銃、あれは使える。例えばあれを城壁内部の通路から外敵に向けて撃ち込めるとしたら、相当な脅威になることは間違いない。今は従順なドークのやつから製造ラインをさっさと奪取して、できれば改良し生産に取り掛かってほしいところだ。
話し合いは気づけば2時間も続いた。さすがに強制的に場はお開きとなり、また今度集まった時に話し合うこととなった。
「アトラ。あんた策があるなんて言ってたけど、どう考えてもカナートは作り直したほうがいいでしょ。どういうつもり?」
明かりが必要なくらい外が暗くなってきたおり、隣で爆睡をかましていたミュウルが急に話しかけてくる。
「ああ、そうだな。通常であればな、ただ俺には感じるんだ。このディアンスがもつ真の性能ってやつを」
「へぇ~。そこまで感じとってるんだ。ふふっ、やるじゃないアトラ」
「教えてくれてもいいんだぞ? なにか知っているのなら、もったいぶらずにな」
「だめ。内緒。教えたところで、できるもんじゃないからさ」
しばらく沈黙が続いた。俺はちょっとだけ気まずくなって、話題を必死に頭の中で考えた。
「ミュウル……本当に俺はここにいてもいいのか?」
「どういう意味?」
生半可な話題を振っても、こいつはノッてこなさそうなので、本音をぶつけることにした。ミュウルはベットの向こうで背を向けながら横になっているので、表情はわからない。
「そのままの意味さ。元はと言えば、ルギオスの力は、お前の任務の補助的な役割をこなす予定だったんだろう?」
「ああ、それ。いいよ、別に、当てがあるって言ったでしょ? あーあ、こんなことになるなら、先にあいつを引っ張ってくるんだったなぁ! くそ~……今頃はぬくぬくと寝てやがるんだろうなぁ。なんか腹立ってきたぞ〜」
「あははは……」
掘り下げるか触れないでおくか迷うな、あいつ……誰のことだろう? えらく親しげだが。
「ちょっとした腐れ縁ってやつ。あいつとは同じ時に里を降りた同期だし。引きこもり同然の奴なの。だから強制的に仲間に加えてやる! くふふ、私と同じ苦しみを味わうがいいわ。あー今から楽しみねぇ!」
甲高く笑い声をあげたのが背中の傷に響いたのか。情けない声をあげてそれから喋らなくなってしまった。でも、そうか、俺の力は要らないか、少し心が楽になった。罪悪感があったから。
「ありがとうミュウル」
返事は帰って来なかった……もう寝たか。いや……関係ないか、感謝は言葉以外で伝えてこそだ。
「頑張らないとな」
そう、呟き俺も一時の安らぎを求め、眠りにつくのだった。
早朝。まだ寝ているミュウルを尻目に病床をあとにする。まだ安静にしていたほうがいい様態だが、今すぐにでも確かめたい事があった。
そう。ダン・オルガットという人物についてだ。
昨夜回らない頭で考えてみたが、それでも色々とおかしな点をいくつか見つけることができた。
まず、俺たちがカジノに行った日に都合よく鉢合わせたこと。なぜかダンさんとは事あるごとに居合わせてしまい、思えば行動を共にしすぎていた気がする。偶然と呼ぶには少し気持ち悪いものがあった。
次に、ナイトが落ち込んでいた時。ダンさんは、ナイトをおぶって宝物殿に一緒に行こうとしていた。ダンさんの性格を考えると、あの行動はおかしかったんじゃないだろうかと思う……なにか宝物殿に用があったのか?
次に、先祖返りという言葉の誤認識をナイトに植え付けた可能性があるということ、まぁこれは実際ナイトに聞いてみなけりゃわからないけど、きっと知らなかったはずだ。ダンさんに聞くまでは……先祖返りなんて言葉、ナイトの奴は。
「ちっ、もぬけの殻か……そういえば引っ越すとか言ってたっけ? 助手がその作業を手伝ってくれているとかなんとか」
ディアンス跡地のダンさんの元病院に来ていた。中にはなにもなく、すでに引っ越しは完了しているようだ。
「ああ、探すの面倒だなぁ。誰か知ってくれたらいいけど」
考えすぎているかもと、一瞬自分を客観的にとらえた。
例えば、ルギオスの力に興味があるとすれば、今も俺の周りにいるはずだ。それがダンさんはナイトについていって、このディアンスから消えてしまっている。
「杞憂ならいいけど」
本当のゴーストタウンとなってしまった跡地で、灼熱の空を見つめ自身の取り越し苦労を願った。
ちょっと投稿遅れました
ごめんなさいm(_ _)m




