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弔いの旅路  作者: クジラ
それぞれの行く先
48/78

ミュウル編 決着

改稿です。

最後らへん描写増やしました。

また、頑張らせていただきます。

 晴天の霹靂(へきれき)とでも言うべきか、ミュウルの頭の中に、誰かが助けてくれるなどという楽観的考えは存在していなかった。


 レミィの母、マリィがまだ存命だった頃、私の子はとっても賢いのよと、自慢話によく持ち出されていた神童レミィ。その溺愛っぷりは過度なもので、ミュウルは最近までレミィの顔すら知らないほどだった。理由は、あの子には、うんと自由に生きてほしいから、だそうで、私の代であなたの世話係は終わりにしてほしいとまで哀願(あいがん)されていた。嫌々承諾していたミュウルだったが、当然、思うところは色々あった。


 レミィが負けたらしい。結婚するらしい。お相手は同一人物のようだ。


 血溜まりに倒れる男、人の輪の中心にいる奴がそうか、死にかけじゃないか、まったく、人間は世話が焼ける。


 アトラに対する第一印象は、数いる人間のうちの1人、のはずだった。


 恋をする目をしている。眼差しがそうなんだ。溶けてしまいそうな。レミィは、アトラを見つめる際に放つ、自分の熱に気づいていないんだろうか?


 同胞が人間の命を奪ってしまったようだ。被害者の親族である人の子にかける言葉が見つからなかった。が、言葉巧みにアトラは立ち直らせてみせて、すっかりナイトはアトラに懐くようになった。レミィ同様に熱い視線を向けて。凄いな、まだ20年ぐらいしか生きてない青年だろうに。


 必然だったのかも知れない。

 

 成功と失敗、すなわち経験。書きはじめの設計図だろう? 手に持つのは? 筆をずいぶん走らせるじゃないか、まるで完成形が見えているみたいに。


 頭がいい、人望が厚い、勇気がある、なにか、どれとも違う気がする。


 自然に託そうと思ったルギオスの力。むしろナイトより、この男の方がふさわしいのではと、失礼を承知で思った。


 どこで培ったかは知らないが、この男には、今を生きる5秒先、1秒先を好転へと導く、生粋の先見性が備わっている。


 心にどっしりと乗っかる安心感が証拠だ。ろくに力を扱えない者が与えていいものではない。とミュウルは思った。


「状況を教えろって、見たらわかるでしょ! 超ピンチ! ちなみに私はもう指1本動かせないから! そこんとこよろしく!」


「さっきまで泣きべそかいてたお前はどこに行ったんだ? はぁ~あ、こんなことなら来るんじゃなかったなぁ〜」


 言葉とは裏腹に、アトラの表情は自信満々で、いつものキザな笑みが溢れている。


「ぐっ……かいてない。泣きべそなんか……」


 片手でアトラの肩に担がれるミュウルが、小声で事実を否定する。アトラはその発言を意にも介さず、


「第六感って言うのか? お前にルギオスの力を継承されてから、なんか妙に感覚が鋭くなってな、胸騒ぎがしてして来てみればこれだ」


「ほんと、人生変わちまったよ。まさか、こんなおとぎ話の中に出てくるような怪物と対峙する日が来るなんてさ」


 ミュウルが食われる寸前、救出に成功したアトラだったが、今の自分では、目の前の生物に勝つのは不可能だと早々に結論づけていた。


 いくらルギオスの力があるからといって、まだ力を使いこなすことのできない身では、よもやエルフを食い殺そうした化け物なんかに刃が立つわけがないと。


 それに、あの怪物の見た目。赤黒い皮膚に、筋骨隆々の肉体、運動能力の高さを思わせるしなやかな四肢歩行姿、全長は30メートルを超えていそうな巨体で、放たれる圧は恐ろしいなんていうレベルの代物じゃなかった。


「あと、こいつ不死身だから、死なないの殺しても」


「不死身! ホントかよ!」


 化け物との距離は20メートルほど、距離を詰める気があるならとっくに詰められているが、なぜか森に視線を飛ばし、その場に留まり続ける化け物の様子を伺いつつ会話は続く。


「たぶん。3回殺しても死ななかったし。それに死ぬ度に力を増していって、身体もデカくなってさ、色も変わって」


「なるほど、エルフ様が逃げだすわけだ」


「そういや、ナイトが砂漠に倒れていた時も、ミュウルと似たような傷が背中にあったな、もしかして、あいつの最初の見た目ってビングベアーだったりしたか? うんと凶暴な」


「いや違うけど、ナイトはどうやらあれを先祖返りしたビングベアーだと思い込んでいたっぽいね。私に断片的に話してくれた内容からして、見た目で違うって分かりそうなもんだけど」


「あ……俺があん時ナイトに、ビングベアーだって言ったから勘違いしたのかも」


「あんたが元凶!? 次会ったらちゃんと教えてあげなよ! あんな自然由来の化け物この世に存在するわけないだろって! エルフの力が原因かどうかも私は疑っているぐらいなんだから!」


 苦笑いを浮かべて頬をかくアトラだが、考えていることは自責ではなく、ナイトに言った自分の言葉の内容だった。


「(……確か俺がナイトの傷を見て、先祖返りしたビングベアーに襲われたんだろって指摘したんだよな。言い返して来なかったから、自説を疑いもしなかったが……)」


 なにかが引っかかるアトラ、


「(……先祖返り、まぁ一般的用語だと思うが、ナイトは聖書の存在も知らなかった奴だぞ。ごめん、先祖返りってなに? って聞き返してくるのが今思えば自然な流れなような気がするが……)」


 先祖返りというワードに眉1つ動かさなかった、ということは、すでにその言葉を知っていたということ。


 問題はいつナイトが化け物をビングベアーだと誤認した状態になったのかだ、聖書同様、ナイトが先祖返りなんて言葉を知らなかったと仮定して考えると、浮かんできてしまう顔があった。


「(……俺と会う前にあの男と会っている。奴は医者だ、ナイトが怪我を負った経緯も詳細に聞いていることだろう。それでなお、ナイトは誤認をしていたわけだから……)」


「(……ナイトに誤認を植え付けたのは……でも、なぜそんな嘘をつく必要があった? あの怪物の存在を知られたくなかったから……か? なんで? 繋がりがわからねぇな……うーん考えすぎか? そもそもナイトが普通に知ってりゃ破綻する考察だ……)」


「ダン・オルガット」


 そう、アトラが小さく呟いた時、事態は急変する。それを知らせたのは、まずミュウルの狼狽っぷりだった。指1本動かせないと言ってた割には肩の上でバタバタと、目の前の化け物が迫り来るのを騒がしく驚いている。


「くっ、急になんだよ!」

 

 巨大な壁が迫りくるような圧、アトラはそれに同等の壁を衝突させるイメージで目の前に障壁を展開する。ミュウルの光とはまた違う物質的な黄金の光。想像である程度は形成できて、光を限界まで引き伸ばすように空に固定して突進に備えた。


「おおっ! やるじゃんアトラ! いつの間にそんなに使いこなせるようになったの」


「毎日練習してんだよ! 大恥かいたあの日からな!」


 空に固定した障壁にぶつかり弾かれる化け物を見てミュウルが歓声をあげる。


「ただ、まだ攻撃には転用できない。防御だけだ俺ができんのは」


「ええぇ……使えな……」


「降ろすぞ、エルフ様」


「ちょ、冗談だから言っとくけど! 本心じゃないから!」


 大きなため息を吐き、アトラは目の前の脅威と再び対峙する。あいつの不審な行動について考えるのは帰ってからだと、今はとにかくこの窮地を逃れる方法を考えるのが先だと。


「ミュウル、ここはエルフにとっちゃあ居心地の悪い場所なんだよな? 今のあいつは森にいた時より力が制限されてたりすんのか?」


「えっ、ええ、あいつの力の源がエルフ由来だったらね。と言っても砂漠まで普通に入って来ちゃってるし、どうだろう? 私が進化させ過ぎちゃったのかな? たぶんナイトの奴は初期状態のあいつから砂漠に逃げ切って、助かったんだろうし」


「力が増しすぎて効きが悪くなっている……ってことか、いや、その可能性に賭けるしかないよな、どっちみち」


 腹をくくり、逃走を始めるアトラ、そのスピードはミュウルから見てもなかなかのもので、人間を超越した領域にあった。どこに向かっているのかと、この問には意味深な間を開け。


「さぁな」


「さぁなって、無計画? 砂漠のど真ん中まであいつと散歩でもするつもり? 飼い主のつもり? 名前はポチ? タマ? どっち!」


「ああもう、うるっさい! 俺には俺の考えがあんだよ! 黙って見とけ!」


 一進一退の防戦が続く、不格好な壁を張り進路と攻撃を塞ぐアトラ、ルギオスの力をなかなか突破できないでいる化け物、面白そうに戦況を茶化すミュウル。盤面は変わらず続いていき。


「きた!」


「わわっ! なになに!」


 炎天下の砂漠を駆け抜ける途中に突如として響き渡る地響き。それは足元に吸い込まれゆく大きな窪みを形成し、後ろから迫っていた化け物を飲み込んでいく。


 アトラたちは、固定した光の壁を絨毯のように下に引き、空に浮くことで難を逃れていた。


「なにが起こってるの? こんな規模の流砂? 初めて見たかも、いったいどういうことアトラ?」


「カナートだよ。前にでかい砂嵐があったろ? あれでディアンスにつながっている坑道のどっかが壊れちまったみたいでな、1カ月ぐらい水路が咳止められて水涸れを起こしてたんだ」


「そしてこの道はちょうどカナートの坑道の真下に位置しいる」


「つまりこの道をずっと辿ってディアンスに向かえば、咳止められる(あいだ)も絶えなく流れ続けた水のせいで、地盤が緩くなった箇所にいずれたどり着くだろうって算段だった」


「今は坑道に砂が流れ込んでる状態だな、で、巨体ゆえに砂漠に落とし穴を作ってしまった奴は、穴の先にある水をたっぷりと含んだ砂に溺れて命を落とすと」


 カナートとは砂漠に敷く地下用水路の事をいい、水の豊富な山麓から井戸を作り、その井戸の地下から横穴を広げて、街まで開通させてしまおうという、半ば力技のような地下水の運搬方法である。


 ディアンスまで続く母井は、深さ70メートル。横穴は全長30キロにも及び、途中、等間隔で工事の助けとなる竪坑(たてこう)が幾つも作られている。なんでも完成までには何十年もの月日がかかったそうな。


「ここまで想像通りになるなんて思わなかったけどな」


「アトラ。あんたってもしかして天才?」


「今頃気づいたのか?」


 劣勢を覆す起死回生の1手に、思わず顔が綻ぶミュウルとアトラ、窪みの中心に飲み込まれまいと、もがく化け物を注視し、ことの結末を見届けんとした。


「ねぇアトラ……なんか……上がってきてない? あいつ……ほら、見てあれ……」


「……ああ……なんか……その、あれだ……抜け出しちゃいそうだな……今にも……」


 身体の半分以上が砂に埋もれていたはずの化け物が、よくよく見ると肌面積を増やしているのがわかった。アトラたちの表情は肌面積に比例し曇っていく。


「おい! どうすんだよこれ! もう俺に策なんてねぇぞ!」


「アトラ。あんたってもしかしてバカ?」


「今頃気づいたのか? ってふざけてる場合か! お前はなんでさっきからそう楽しそうなんだよ! 真面目にやれ!」


 アトラの鋭い指摘に一瞬、真顔に戻るミュウルだったが、意味深な間を開け、再び戦況を茶化していた際のニヤニヤ顔に戻る。


「アトラ、あんたの力、攻撃に転用する時が来たんじゃない?」


 ニヤけた顔の割には真剣な眼差しが、アトラにつき刺さった。


「っつ、できねぇよ何度やってもできねぇんだ。なんかが欠けてるみてぇにさ」


 今の不安に押しつぶされそうなアトラは、年相応だなとミュウルは思った。


「仕方ないなぁ〜、私が手伝ってあげる。人生の大先輩として!」


「えー……」


「嫌そうにすんな! この恩知らず!」


「そうそう、目を瞑ってぇ〜。まずは深呼吸」


 こうして、ミュウル大先輩のレクチャーが始まった。ただ、その間にも化け物はみるみる地表にせり上がって来ていて、着実にアトラの焦燥を加速させる。


「さっき言ってた言葉。なにかが欠けてるみたいってやつ、あれけっこう考えの捉え方としていい線いってる」


「全部一気にやろうとするから上手くいかないんだよ。まずは頭の中で剣の外側だけをイメージして作ってみて、中は空洞で向こう側が透けて見えるようなやつを。色を塗る前の簡単な下書きみたいなのでいいからさ」


「こうか?」


 アトラが手をかざした先に筆で描いたような剣が出現した。


「そうそう、上手いじゃない。中は空っぽでいいからね」


「で、次に、それを奴に当てる瞬間だけ色をつけるイメージで力をこめるの。脱力からの爆発。しなるムチが空を打つ破裂音。大切なのは一瞬の最大出力ね」


 ミュウルは冷静に話をしてくれているが、状況を鑑みてやり直りしが利く状況じゃないことはわかる。一発勝負だ、これを決めなければ、流砂から抜け出した怪物に瞬く間に食われてしまう。


 アトラが腹を括ろうとした出ばな、化け物が流砂から抜け出す。ミュウルの助言をよそに、身体は嫌な力みでガチガチになった。


「さぁ! 自分を信じて! あんたならなんだってできる!」


 はっとするアトラ。ナイトの顔が思い浮かんだ。ミュウルの今の言葉、ナイトに自分が言った言葉そっくりだなと。


「(……なんだってできるか、ふふっ、俺が弱気になってちゃ駄目だよなナイト、それにディアンスのみんな……)」


 重荷を下ろしたような脱力感が、心と体と力をひとつにつなげた。アトラが意を決して放った剣の1振りは、化け物の身体を見事に真っ二つに切り裂き、身体の支えを失った化け物は、ただただ砂の底へと飲み込まれていった。


「アトラ、やっぱりあんたがルギオスの力を継ぐに相応しかったんだよ。この短時間でよく頑張ったね」


「なんだ、急に褒めて。ふふっまぁでも気分いいや」


「俺たちの勝ちってことでいいんだよな? 奴が蘇りさえしなければ」


「私の時はもっと早く蘇ってたから、勝鬨(かちどき)を上げていいんじゃない? たぶん奴は砂漠みたいなエルフの力を制限する場所だと蘇る事ができないのかも」


 4回目は蘇れないって可能性もあるぞ? そう喉まで出かかった言葉をアトラは飲み込んだ。今はとにかく窮地を脱することができたのを喜ぶのが先だと、


 自信につながる一撃を放てた達成感に酔いしれる横顔、ミュウルは自分がアトラに熱視線を向ける連中の一員になってやしないかと、自虐気味に顔を背け苦笑いを浮かべた。


 でも、なんとくなく、英雄というものがどういうものかわかった気がする。


 きっとルギオスも、この男のように、疲労から足元がおぼつかない状況下でも、泣き言ひとつ言わず怪我人を背負い続ける、そんな頼り甲斐のある人間だったに違いないと、


 いつものように風が砂を高く舞い上げる砂漠を進む勝者たち、余韻に打ちひしがれるのはディアンスに帰ってからだと、互いが目線で語り、互いがほくそ笑む。

ちょっと今週、脳みそが上手く働かなく読みにくいと思います。

たぶんまた改稿します。

ごめんなさい。

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