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弔いの旅路  作者: クジラ
それぞれの行く先
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ミュウル編 久方ぶりの戦闘

 意外と日当たりのいい場所じゃないかとミュウルはぼんやり思った。倒壊した建築物の木片に埋もれながら、青い空を眺めて。


 日差しが強くなると、連動して自身の力も増す。エルフの力を弱める働きがあるナジュラハ砂漠においてもその原質は変わらない。だから、うっとうしい他のエルフとの連絡が途絶え、かつ、自分だけは悠々と暮らせる砂漠に、好んでミュウルは活動拠点を置いていた。


「お〜、いてて、急に無茶苦茶すんなぁ〜もう」


 パラパラっと、立ち上がる際に衣服についた木っ端(こっぱ)をはたき、家を倒壊させた元凶を睨む。


「もしかしてこれがナイトを襲ったっていう、先祖返りしたビングベアーってやつ?」


 そう、ナイトを襲ったという化け物の話。ナイトは森で先祖返りしたビングベアーに襲われたと言っていたが、生気のない目で、獰猛に呼吸を荒げているこいつは、どうみても、


「だとしたら、バカでしょ。こんなの先祖返りって言わないし、これ、ビングベアーでもないって」


 先祖返りは生き物を凶暴化させ、図体を大きくさせる等の形質があるが、ここまでの巨大化をもたらすものではない。確かにビングベアーっぽい見た目をしているが、別種だと判別できた。


 根拠は、今にも襲いかかって来そうな、地面スレスレに頭を屈める柔軟でいて胴長な身体と、長い前肢(ぜんし)後肢(こうし)に浮き彫りになる筋肉の逞しさだ。


 戦闘に特化しすぎている。明らかに自然由来ではない作り。エルフが関与している事象とみて間違いないだろう。シロナ先輩の力が弱まったことと言い、やはりこの森にはなにかがある。


「あんた強そうね……まぁ私には勝てないだろうけど?」


 クイクイっと手で挑発のゼスチャーを作り対象を煽る。


 獲物の嘲笑ともとれる余裕の笑みを打ち砕くため、化け物はエルフ目掛けて猛進を始めた。


「つっ、これは……受けらんないかも」


 脅威の脚力で跳躍し、一気に距離を詰め寄る巨体から繰り出される右クロス。重心の乗った一撃の圧に、受ける気満々だったミュウルの本音が思わず吐露(とろ)する。


 化け物の脳内を快楽物質が支配した。身体を引き裂いてやった。小屋をバラバラにしたように。この自慢の大爪で。勝ちを確信し、咆哮をあげようとした矢先、異変は訪れた。


 獲物が不思議にもまだ立ったままだった。完全に胴体を引き裂いたはずなのに、なぜか憮然と……何事もなかったかのように立っている。困惑が訪れる。


「(……いきなり残影擬人(ざんえいぎじん)を使うことになるとはね、攻撃をまともに食らえば今の私じゃ一発KOっぽいなぁ……あいつが私の技に混乱してる間に打開策を考えないと……)」

 

 獲物を凝視し、2度三3度攻撃を加えるが、何度試してみても爪は獲物の身体を通り過ぎていくばかり、しばらくして、化け物は目の前の獲物は偽物だと気づいた。ならば、本体はどこに。


 匂いは後ろ。振り返る、が、そこにいたのは、エルフの形を模した30体ほどの黒い物体だった……いったいどれが本物の血肉なのだ。


 ミュウルは残影擬人(ざんえいぎじん)の中の1体に紛れ、冷静に反撃の機をうかがっていた。家の周辺半径10メートル、日の当たるサークルから如何にはみ出さないかが勝負のアヤと悟る、なにせなまった身体、優位性は常に確保しておかないと。


 それにしても、あれは生き物なのだろうか? 己が影を片っ端から血眼に殴りつけていく怪物の挙動に、つつーっと嫌な汗が1滴頬を伝う。理性というものがまるでない。狂気そのもの。目の焦点がまるで合っていないし、開いた口からはぶらぶらと、攻撃の動きに合わせ舌が宙を乱舞している。よだれをねっちょりと糸引かせるおまけつきで、汚らしいったらない。


 場面が動く。化け物がいたずらに残影に攻撃を繰り返す最中でのこと、静止していた影の1体が今までの静止状態と違い、独りでに走り出し移動している。


 こいつが本物か、そう確信した怪物は、でためらなパワーで対象に向かって必殺の一撃を放つ、が。


「残念。そっちは影」


「本物は……」


 怪物の背を俯瞰(ふかん)で捉える位置に躍り出る影が1体。動きをつけた影に、まんまと前肢を振り降ろしてくれた無防備な背に、渾身の一撃をお見舞いしてやろうと跳躍したミュウルの姿だった。


 ほほ切る風が懐かしい。昔は強くなるために、真面目に鍛錬に励んでいたものだ。あの日々の記憶が蘇る。


「さぁ〜、久しぶりの本気。出しちゃうぞ〜!」


 えらく血が騒ぐ。もしかしたら私は、この時を待ちわびていたのかもしれない、誰かに必要とされ、頼られ、無我夢中で困難を突破する、今を生存するという、この実感を。


掌底(しょうてい)! 千閃光破(せんせんこうは)!!」


 己を纏う影が、手のひらから放たれる閃光の如き光で剥がれ落ちていく。


 自信に溢れる顔が(あらわ)となった、その力強い目は、化け物の背にピタリとつけた手に注がれており、そこから放射状に放たれる、無数の光のレーザーの行く末を見届けている。ミュウルの得意とする技の1つ、それは化け物の叫び声と共に、見事、身体に無数の穴を開通させる。


 悪くない威力だ、気持ちが乗っていたからか、全盛期と遜色ない一撃を打てたと、ミュウルは満足する。


「あ〜あ……断末魔。一撃必殺決まっちゃった感じ? まっ、腕慣らしにはちょうどいい相手だったよ」


 当たりどころが悪かったのか、情けない唸り声をあげた化け物は、しなしなと膝から崩れ落ち、大きな地響きと共に、地にバタンと倒れた。


 死んだか……生け捕りの方がよかっただろうか? ふとミュウルの頭にシロナの怒った顔がよぎった。


 怒られるかもしんない。別の意味で冷や汗が頬を伝うミュウルだったが、すぐに正気を取り戻す。


 ここは、シロナ先輩の領地の最南端あたる場所だ。ナイトの時もそうだったが、領地の端で起きる事象っていうのは、そう直ぐには領主の耳に届くものではない。


 幸い、言い訳を考える時間はいっぱいある。さぁ、バリエーションにとんだ言い訳を考えておかなくては、


 ふふっと、勝利の余韻を噛みしめるように、ニヤつき目瞑った。


 のが、いけなかった。


 背後、迫りくる気配に気づかない。


 ご自慢の筋肉をフル稼働させ、音という音を殺し、忍び寄る影に。


 知性から生み出された行動ではなかった。この最適解を化け物に与えたのは、純粋なまでの狂気。


 ミュウルにとっては、そよ風が吹いたとしか思えない風圧で、全身を激しく強打するまで、近くの木へぶっ飛ばされるのであった。


 大きな爪から血がポタポタと垂れている……影をいくら殴ってもつかなかった馳走が旨そうに(したた)っている。


 器用に舐り味わう。爪についた血を、一雫も落とさないように丹念に舐め取る。これだ、この味だ、この味が欲しかったんだ。化け物の中でそう告げていたのは、本能、そのものであった。

何度もすいません。

ちょっと誤字とニュアンス直しました。

いつもありがとうございます。

もっと頑張れるように精進します。


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