第9話:令嬢のお友達が欲しいのですが…
初めて受ける貴族学院の授業。こんな風に沢山の人と一緒に授業を受けるだなんて、とても新鮮だわ。いつもマンツーマンだったものね。
あっと言う間に授業が終わり、どうやら休み時間というものになった様だ。せっかくなので、令嬢たちとお話を、そう思ったのだが…
「キャリーヌ嬢は、クレスティル公爵夫人の妹君なんだよね。夫人も美しいが、キャリーヌ嬢も本当に綺麗だね」
「銀色の髪の女性なんて、夫人以外に初めて見たよ。まるで女神の様だ」
「アラステ王国では、色々と大変な目にあった様だね。君の国の王太子は、どうかしているよ。こんなにも美しいキャリーヌ嬢に、酷い仕打ちをするだなんて…」
「あんな愚かな王太子がいる国になんて、もう戻る必要はないよ。ずっとカリアン王国にいたらいい」
「そうだよ、カリアン王国で結婚したらいいよ。姉君の様に」
「よかったら今から学院を案内してあげるよ。アラステ王国には、貴族学院がないのだろう?」
「それなら俺が案内をしよう」
「お前には立派な婚約者がいるだろう!俺が案内するよ」
「いいや、俺が!!」
なぜか令息たちが、沢山集まってきてくれたのだ。色々と親切にして下さるのは嬉しい。こんな風に、令息たちとお話ししたのは初めてだ。
「皆様、ありがとうございます。私は今日、学院に来たばかりですので、案内して頂けると嬉しいですわ」
「それじゃあ、早速案内してあげるよ。さあ、行こう」
「おい、抜け駆けはよせ!俺が案内してあげるから」
よくわからないが、沢山の令息たちが、私に気を使ってくれている様だ。こんなにたくさんの令息のお友達が出来るだなんて。
でも…
私は令嬢のお友達も欲しいのだが…
チラリと令嬢たちの方を見ると、なぜかこちらを睨んでいた。あら?私、令嬢たちに嫌われてしまったのかしら?
ただ、親切な令息たちを無下にする事は出来ない。せっかくなので、令息たちに学院を案内してもらった。
そして再び授業が始まった。そういえば学院内では、友人同士で昼食を頂くとお義兄様が言っていた。今日はクレスティル公爵家の料理人が、私の為に腕によりをかけてお弁当を作って下さったのだ。
よし、今度は令嬢たちと一緒に、昼食を頂こう。そんな思いで迎えたお昼休み。
「あの、よろしければ私も一緒に、昼食を頂いてもよろしいですか?」
隣に座っていた令嬢に、早速声をかけた。
「あら、あなた様は私なんかよりも、令息たちと一緒に食事をした方がよろしいのでしょう?少しお綺麗だからって、令息たちに色目を使うだなんて」
色目を使う?この人は何を言っているのかしら?
「マリアン様、早く行きましょう」
「それでは私はこれで」
そう言うと、他の令嬢の元に行ってしまったのだ。
仕方がない、他の令嬢を誘おうと思ったのだが。
「私たちも早くお昼にしましょう。あんな尻軽そうな令嬢と一緒に食事をしたら、私たちのイメージまで下がってしまいますわ」
「まさか我が国に、男あさりにいらしたのかしら?本当に嫌ですわね」
なぜか私の方を見ながら、心底嫌そうな顔をして呟いている令嬢たち。私、もしかして令嬢たちに嫌われてしまった?尻軽そうな令嬢だなんて…
「女の嫉妬は恐ろしいな。キャリーヌ嬢、気にしなくてもいいよ。俺たちと一緒に、食事をしよう」
令息たちが、私の元にやってきてくれた。でも…
「私は大丈夫ですので、皆様は令息同士、仲良くお食事をして下さいませ」
これ以上令息たちと一緒にいてはいけない、これ以上令嬢たちに嫌われたくない、そんな思いから、令息たちに断りを入れた。
ふと入口の方を見ると、こちらを見つめている令嬢と目があった。すぐに目をそらされてしまったが、その場を動かない。もしかして、私の事を気にかけて下さっているのかしら?
そっと彼女に近づく。
「あの…もしよろしければ私と一緒に、お昼を食べていただけないでしょうか?私、どうやら令嬢たちに嫌われてしまった様で」
恐る恐る令嬢に話しかける。もしさっきの様に、嫌そうな顔をされたらどうしよう。そう思ったのだが…
「ど…どうして私が、あなたと食事を摂らないといけないの?私はこの国の第一王女なのよ」
「まあ、この国の王女様だったのですね。申し訳ございません。失礼いたしました」
そういえばお姉様が、この国の第一王女、ミリアム殿下が私と同い年で、貴族学院に通っていらっしゃると言っていたわ。この方がきっと、ミリアム殿下なのね。どうしよう、王女様を怒らせてしまったのだわ。
必死に頭を下げて、その場から去ろうとした時だった。
「待って…その…どうしてもあなたが私と食事をしたいというのなら…その…してあげなくもないわよ」
蚊の鳴くような小さな声で、ミリアム殿下が呟いたのだ。
「それは本当ですか?ありがとうございます。それでは早速、一緒に食事をしましょう。そうですわ、テラスで食事をしましょう。さあ、参りましょう」
まさかこの国の王女殿下が、私と一緒に食事をして下さるだなんて。嬉しくて殿下の手をギュッと握り、歩き出したのだった。