第50話:ミリアム様との思い出を作ります
「キャリーヌ様、今日は皆で街に行きましょう。最近美味しいと評判のお店が出来たのですよ。もちろん、サミュエル殿下も一緒に」
「まあ、それは楽しみですわ。サミュエル様も、いいですよね?」
「ああ、もちろんだよ」
笑顔で答えるサミュエル様。
気持ちが通じあって以降、私たちは時間が許す限り、クラスメイト達と一緒に街に出て、食事を楽しんだり買い物をして過ごしている。こんな風に街に出て何かをするだなんて、自国にいた頃には考えられなかった事を、今楽しんでいるのだ。
サミュエル様も、今までほとんど王宮から出たことがなかったため、とても楽しそうだ。私達は残りの時間を楽しんでいる。
この日も夕方近くまで皆で過ごした。
「キャリーヌ、来週にはいよいよ帰国だね。本当に僕と一緒に帰ってくれるのかい?君はカリアン王国が、大好きなのだろう?それに、ミリアム殿下もいるし…」
不安そうな顔のサミュエル様。私がずっと彼を避けてきたせいか、未だに不安な様だ。私の愚かな行いのせいで、サミュエル様に大きな心の傷を与えてしまったのだ。
「もちろんですわ。私の居場所は、サミュエル様の傍です。2人でアラステ王国に戻って、カリアン王国に負けないくらい素敵な国を作りましょう」
ギュッとサミュエル様を抱きしめ、そう伝えた。あの日以降、時間が許す限り、サミュエル様の傍にいる様にしている。少しでもサミュエル様が穏やかに過ごせるように。
そしてサミュエル様と過ごすようになって、気が付いたことがあるのだ。それは、サミュエル様がこの国にただ留学をしに来た訳ではないという事を。時間を見つけては帝王学など王になるための勉強を行うだけでなく、カリアン王国を見て回り、カリアン王国の良い部分を自国に取り入れようとしている。
さらに王太子殿下や陛下たちとも交流を深め、より良い関係を築いていたのだ。彼は次期国王になるため、この国に来てからも、努力を重ねていた。本来ならサミュエル様がこの国に来た時点で、私が支えなければいけなかったのに。
支えるどころか、彼を苦しめ足を引っ張っていただなんて…本当に恥ずかしい。その為、今は私もサミュエル様を支えられる様に、学院が休みの日は視察に同行している。今さらながら、少しでもサミュエル様の為に、動きたいと考えているのだ。
「ありがとう、キャリーヌ。ここ1ヶ月と少し、ずっと僕の傍にいてくれたことが、まるで夢の様で…いつか覚めてしまうのではないかと心配で」
「本当にごめんなさい。もうあなた様から離れたりはしませんわ。ただ…明後日の学院の休日なのですが、ミリアム様と2人で過ごしたいのですが、よろしいですか?」
そう、明後日はこの国で過ごす、最後の休日。今までお世話になったミリアム様と、最後の思い出を作りたいのだ。
「もちろんだよ。ミリアム殿下には、本当にお世話になったからね。2人で思い出を作るといい。僕の事は気にしなくてもいいよ」
そう言って笑顔を向けてくれたサミュエル様。相変わらずお優しいわ。
「ありがとうございます。それでは明後日は、ミリアム様と2人で過ごしてまいりますね」
サミュエル様に許可は取ったし、これで心置きなくミリアム様と過ごせるわ。明後日が楽しみだ。
~2日後~
「おはようございます、ミリアム様」
「おはよう、キャリーヌ。朝から元気ね」
「だって今日は、ミリアム様と2人でお出掛けできるのですもの。楽しみすぎて、昨日はよく寝られなかったのですよ」
そう、私はこの日を心待ちにしていたのだ。ちなみに今日は、王都のすぐ近くにある、人気のリゾート地に行く事になっているのだ。
「それじゃあ、行きましょう」
見送りに来てくれていたサミュエル様とカイロ様に手を振り、2人で馬車に乗り込んだ。馬車からサミュエル様に手を振る。そんな私を見て、なぜかほほ笑んでいるミリアム様。
「ミリアム様、どうかされましたか?」
「何でもないわ。ただ…キャリーヌが嬉しそうにしているから…」
そう言うと、窓の方を向いてしまった。ミリアム様は、誰よりも私の事を心配してくれていた人だ。もしかすると、未だに私の事を心配してくれているのかもしれない。
「ミリアム様、私は今、とても幸せですわ。あなた様のお陰で」
すっとミリアム様の手を握った。すると
「そ…それは良かったわね。あなたが幸せでないと、私も…」
そう言って俯いてしまったのだ。きっと照れているのだろう。少し不器用なところはあるけれど、いざとなったら全力でぶつかって来てくれるミリアム様が、私は大好きだ。初めて出来た私の大切な親友。でも、彼女とももうすぐお別れ…そう考えると、胸がチクリと痛む。
でも…今日だけは、そんな事は忘れて目いっぱい楽しもう。その為に今日、ミリアム様とお出掛けをする事になったのだから。
そうだわ!
「ミリアム様、今日はカリアン王国で人気だったお菓子を持ってきましたの。一緒に食べましょう」
せっかくなので、馬車の中でお菓子を勧める。
「まあ、美味しそうね。頂くわ」
俯いていたミリアム様も、笑顔でお菓子を頬張っている。やっぱりミリアム様には、ずっと笑顔でいて欲しい。
その後も2人でおしゃべりをしながら、お菓子を頂いた。
「見て、キャリーヌ。この森を抜けると、今日の目的地の街が見えてくるわよ。ほら、見えた」
ミリアム様の言葉を聞き、窓の外を見ると、そこには大きな海が目に飛び込んできたのだった。




