第39話:やっとキャリーヌに会える~サミュエル視点~
僕が生半可な気持ちで、カリアン王国に留学してきたのではない。そんな思いで、必死に伝えたのだ。
「ええ、分かっております。今一番国を離れられない時期に、我が国に留学していらっしゃるという事は、それほどまでにキャリーヌを大切に思っていらっしゃるという事でしょう?先ほども申し上げましたが、私は誰よりもキャリーヌに幸せになって欲しいのです。サミュエル殿下、あなた様はキャリーヌを泣かせたりはしませんよね?」
不安そうな眼差しで、ミリアム殿下が僕に問いかけて来た。
「ええ、もちろんです…と言いたいところですが、僕は兄上の暴走を止められず、結果的にキャリーヌに深い傷を負わせてしまいました。だから、キャリーヌの傷を癒しつつ、僕を選んでくれたら…そう考えております。もちろん、キャリーヌが僕とは結婚したくない、この国でずっと暮らしたいというのでしたら、その時は…身を引くつもりです…」
正直ここまで来て、キャリーヌを諦めたくはない。でも…もしどうしてもキャリーヌが僕を受け入れられないというのなら、その時は身を引くしかないのだろう…
「わかりました。今日あなた様と話が出来て、よかったですわ。あなた様ならきっと、キャリーヌを幸せにして下さると、私は信じております。ただ…もしキャリーヌを泣かせたら、絶対に許さないから!」
真っすぐ僕を見つめるミリアム殿下の瞳は、真剣そのもの。よほどキャリーヌの事を、大切に思ってくれているのだろう。
「もちろんです。僕もキャリーヌが悲しむ顔は、見たくありませんので」
笑顔でそう答えた。すると
「申し訳ございません!少し感情的になってしまいましたわ…それから、1つお願いがあるのです。キャリーヌには、私がアラステ王国に対し行った事は、どうか黙っていてください。もちろん、あなた様の留学を手助けした事も…」
「どういうことですか?キャリーヌは、あなた様のお陰でアラステ王国が落ち着いた事を、知らないのですか?」
「ええ…キャリーヌのお姉様、クレスティル公爵夫人にも、今回の件は内緒にして頂くようにお願いしました。あなた様が留学してくることも…キャリーヌは人一倍気を遣う子なので、私が色々と動いたと聞いたら、きっと恐縮してしまうでしょう。ですから、どうか黙っていて欲しいのです。私の自己満足でやった事ですので…」
この人は、何を言っているのだろう。キャリーヌの為に、彼女がどれほど尽力したか。それなのに、黙っていて欲しいというのか?キャリーヌが気を遣うから?この人、どこまでいい人なのだろう。
キャリーヌはこの地で、心強い友人に守られ、生きて来たのだろう。キャリーヌが築き上げてきたこの幸せを、僕が奪ってもいいのだろうか?
「サミュエル殿下、どうかされましたか?あの…私、また失礼な事を申してしまいましたか?気は付けているのですが、何分まだうまくいかない事も多くて…」
「いえ、何でもありません。ただ、キャリーヌは本当に心強い友人が出来たのだと…今までキャリーヌを守って下さり、ありがとうございました」
きっとミリアム殿下が傍にいてくれたから、キャリーヌも寂しくはなかったのだろう。僕がミリアム殿下の代わりになれるかはわからないが、今度は僕がキャリーヌを支えて行きたい。
「ですから、お礼を言うのは私の方なのです。私はちょっと動いただけですし…それから、サミュエル殿下が留学してくる件を、キャリーヌにまだ話していないのは、その…キャリーヌはあなた様に罪悪感を抱いている事もあり、なんだか言い出しにくくて…でも、決してキャリーヌは、サミュエル殿下を慕っていない訳ではなくて…その…」
必死にミリアム殿下が訴えている。
「ミリアム殿下が、僕ならキャリーヌを幸せに出来ると思って下さったから、留学の手助けをして下さったのでしょう?僕を信じて下さり、ありがとうございます。そうですね…せっかくなので、学院に行く当日まで、キャリーヌには黙っておきましょう。そして、キャリーヌをびっくりさせるなんてどうですか?」
まだキャリーヌは、僕が留学してくることを知らないのなら、当日まで黙っておくのもいいだろう。そう思ったのだ。
「でも…キャリーヌは内緒にしていた事に対し、ショックを受けないでしょうか?」
この子は、どこまでもキャリーヌを大切に思っているのだな…
「ですが明日にはもう僕は、学院に入院いたします。さすがに今から知らせるのは、無理があるのではないでしょうか?」
僕は早速明日から、貴族学院というところに通うのだ。さすがに今からキャリーヌに知らせるのは、無理だろう。
「分かりましたわ…それでは、このまま内緒と言う事で…」
どうやらミリアム殿下も、納得してくれた様だ。
明日、やっとキャリーヌに会える。それが嬉しくてたまらない。
早く明日にならないかな?




