第36話:キャリーヌを迎えに行こう~サミュエル視点~
やっと王位争いに終止符が打たれたのも束の間、既に僕は15歳。すぐにでも僕の婚約者をという話が、貴族の間で出ていた。
「やはり王妃教育も終わられているキャリーヌ嬢が、サミュエル殿下の婚約者にふさわしいと私は考えております」
「キャリーヌ嬢なら身分的に問題はありませんし、かつてはサミュエル殿下との仲もよかったのでしょう?」
「キャリーヌ嬢がジェイデン殿下との婚約を渋っていたのは、サミュエル殿下を慕っていたのではないかとも言われておりますし。一刻も早くキャリーヌ嬢を帰国させ、サミュエル殿下との婚約を結び直しましょう」
好き勝手話す貴族たちに、僕は怒りを覚えた。この人たちにとって、キャリーヌはいつも都合のいい令嬢。兄上が駄目なら次は僕と婚約だなんて!皆キャリーヌの気持ちなんて、まるで無視じゃないか!
マディスン公爵も思うところがあるのか、腕を組んで考えている様だ。そりゃそうだ、キャリーヌがどんな思いで兄上と婚約を解消し、どんな思いで国を出たか。それなのに今度は僕と婚約するために帰国しろだなんて、公爵も言えないだろう。
ただ、僕をずっと推してくれていた手前、言いにくいのだろう。僕だって、キャリーヌの気持ちを大切にしたい。
「皆様、落ち着いて下さい。確かに僕は、キャリーヌを慕っております。結婚するなら、キャリーヌがいいと考えております。ただ…キャリーヌは兄上の件で、酷く傷つき、国を追われる形でカリアン王国に向かったのです。そんなキャリーヌに、今度は国に帰って来て、僕の婚約者になれだなんて、あまりにも酷です!」
「そうはおっしゃっても、キャリーヌ嬢は公爵令嬢だ。ご自分の思い通りにいかない事くらい、よく分かっているのではありませんか?それに今、サミュエル殿下もおっしゃったではありませんか。キャリーヌ嬢と結婚したいと」
「だからと言って、僕はキャリーヌを無理やり帰国させて、僕の婚約者になんてしたくないのです。そこで皆様にお願いがあります。どうか僕を、カリアン王国に留学させてください。カリアン王国でキャリーヌに振り向いてもらえる様に、頑張ります。僕はこのまま、キャリーヌの気持ちを無視して僕の婚約者になんてしたくないのです。どうか僕に、時間とチャンスを下さい。お願いします」
貴族たちに、必死に頭を下げた。
「ちょっと待って下さい、あなた様は、これから王太子になろうというお方なのですよ。ただでさえ時間がないというのに、カリアン王国に留学だなんて!私は反対です」
「さすがに私もそんな事は認められません!それにカリアン王国が、受け入れてくれるかも疑問ですし」
案の定、皆から一斉に反対された。マディスン公爵までも
「キャリーヌの気持ちを考えて下さっている事は有難いのですが、あの子も公爵令嬢です。きちんと話をすれば、きっとキャリーヌも分かって帰国すると思います。それにキャリーヌは、サミュエル殿下に好意を抱いていた様ですし。ですから、どうかカリアン王国に留学だなんて、無謀な事はお止めください」
そう言われてしまったのだ。
でも僕は、どうしてもキャリーヌを無理やり帰国なんてさせたくない。7年半前、大人たちに囲まれ、自分の意思に反し兄上と婚約すると言ったキャリーヌの悲しそうな顔が、脳裏に焼き付いて離れない。
僕はどうしても、またあの時と同じような事を、キャリーヌにはしたくないのだ。そんな思いから、貴族たちを根気よく説得した。
さらに僕が国を出ても問題ないという事を示すため、寝る間も惜しんで公務を務めあげ、山の様にある帝王学に関する勉強を全てマスターするため、勉強にも励む。もちろん、カリアン王国にも留学したい旨を相談した。
すると、何とカリアン王国の王女殿下から手紙が届いたのだ。
手紙には僕がすぐに留学できるように、手配を整えておくという旨が書かれていた。さらに、我が国の貴族や王族たち宛の手紙も。その手紙には
“今回の件で、我が国の中にはアラステ王国に対して、負のイメージを抱いている者も多くおります。特にキャリーヌの友人たちに関しては、元王太子殿下に対して怒りを覚えている貴族も少なくありません。サミュエル殿下が我が国にいらしてくださることで、アラステ王国のイメージ回復及び、2つの国がより強固な絆で結ばれる事と、私は確信しております。私共王族は、サミュエル殿下がいらっしゃることを、心よりお待ちしております”
その様な内容の手紙を送って来たのだ。カリアン王国は周辺諸国の中で一番大きな、まさに大国。本来なら我が国の様な小さな国なんて、相手にしてもらえないような国だ。マディスン公爵家の長女がカリアン王国に嫁いだことで、今は比較的仲良くしてもらっている。
そんな国の王女から、こんな手紙が来たのだ。貴族たちも大慌てで
「カリアン王国の王女殿下は、確かキャリーヌ嬢ととても親密な仲でしたね。ただでさえ今回の事で、我が国の評判が落ちているところに、キャリーヌ嬢を無理やり帰国させたら、王女殿下はじめ、カリアン王国からどう思われるか…」
「とにかく、イメージ回復に努めましょう。私はサミュエル殿下の留学に賛成です」
「私もです!万が一カリアン王国を敵に回すことになったら大変だ。せっかくマディスン公爵家のアリーナ嬢が繋いでくれた絆が、ここで途絶えるだなんて!」
「ラミア殿下の件も、元はと言えばカリアン王国の王女殿下の働きかけがあって、解決した様なもの。王女殿下がサミュエル殿下の留学を望むのであれば、従うべきだろう。それに彼女の独断での手紙とは思えない。きっと後ろに、陛下たちの思いもあるはずだ!」
今まで僕の留学に難色を示していた貴族たちも、一気に手のひらを返したのだ。それだけカリアン王国の王女殿下の手紙は、効果的だったという事だ。
こうして僕は、カリアン王国に留学する事が決まったのだった。




