第20話:キャリーヌは私の女神様~ミリアム視点~
「殿下、今日の夜会、お疲れ様でした。お戻りが随分遅かったですね。すぐに湯あみをして、お着替えをいたしましょう」
メイドたちが手際よく準備をしてくれる。
今日はとても幸せな1日だった。まさかカイロ様も、私の事を好きでいてくれていただなんて…
出会った時から物腰柔らかで、私にも普通に接してくれていたカイロ様に、密かに恋心を抱いていた私。彼の婚約者に内定した時は、嬉しい気持ち以上に、こんな私と婚約させられて、きっとカイロ様はショックを受けているだろうという気持ちが大きかった。
それにカイロ様の傍には、いつも令嬢たちがいた。こんな私と結婚させられる哀れなカイロ様には、せめて結婚するまでは自由にしてほしくて、あえて関わらない様にしていた。
でも…
今日、初めて2人で腹を割って話をした。まさかカイロ様が、私の事をあんな風に思っていただなんて…
お互い気持ちが通じ合った後、時間が許す限り一緒にいた。カイロ様と一緒にいる時間は、幸せそのものだった。お互いすれ違っていた分、これからは2人の時間を大切にしていきたいからと、週に2回は2人で会う事を決めた。
まさかカイロ様と、あんな風に笑い合える日が来るだなんて。それもこれも、キャリーヌのお陰だわ。
キャリーヌ…
彼女は私がカイロ様を好きだという事だけでなく、カイロ様が私に好意を持って下さっているという事も察していた。本当に不思議な子…まるで何でも知っている、魔法使いみたいね。
いいえ…
キャリーヌは魔法使いじゃないわ。もしかしたら、女神様なのかもしれない。
私はどれだけキャリーヌに助けられたら気が済むのかしら?
彼女がこの国に来てくれてから、私の世界は180度変わった。彼女のお陰で、灰色だった世界に光が差し込み、色鮮やかな世界へと変わったのだ。
私にとって、かけがえのない大切な存在。出来ればこれからも、ずっと私の傍にいて欲しい。
でも、キャリーヌは元々アラステ王国の公爵令嬢だ。今は一時的に我が国に避難しているが、国が落ち着いたら、いずれアラステ王国に帰ってしまうだろう。
もしキャリーヌが、アラステ王国に帰ってしまったら…
考えただけで、胸が張り裂けそうになる。
その時だった。
「ミリアム、お疲れ様。あなたさっきまで、カイロ様と一緒にいたでしょう。仲良さげに中庭から戻って来る姿を見たわよ。本当によかったわ、このままあなた達の仲がギクシャクしたまま結婚したらと考えると、気が気ではなかったのよ」
私の元にやって来たのは、お母様だ。
「お母様、実はキャリーヌが私たちの仲を取り持ってくれたの。キャリーヌは、いつも私の幸せを考えてくれていて…」
「そうだったのね、そんな気がしていたわ。キャリーヌ嬢、本当にいい子ね。このままずっと、この国にいてくれたらいいわね。今アラステ王国は、かなり大変な事になっている様だから、しばらくキャリーヌ嬢は国に帰らないと思うから、安心しなさい」
「大変な事とは、一体どういうことですか?キャリーヌの元婚約者、王太子殿下は王太子の座から引きずりおろされたのではないのですか?第二王子が次の王太子になるという話でしたよね?」
確かクレスティル公爵夫人が、お母様にその様な話をしていたはずだわ。それなのに、一体どうなっているのかしら?
「どうやら王太子殿下の新しい恋人でもあるディステル王国のラミア王女が、色々と口出ししている様なの。今アラステ王国にとって、ディステル王国は大切な貿易相手国。それにアラステ王国からしたら、ディステル王国は大国だし。出来れば穏便に済ませたいのでしょう。だからと言って、いつまでもラミア王女の顔色を伺っているだなんて。アラステ王国の陛下は、何をしているのかしら?まあ、アラステ王国が揉めてくれている方が、私たちにとっては好都合よね」
「お母様、それはどういう意味ですか?」
「だってアラステ王国が混乱しているうちは、キャリーヌ嬢はずっとこの国にいてくれるじゃない。キャリーヌ嬢には本当に感謝しているのよ。出来ればずっとこの国に…」
「ふざけないで下さい!キャリーヌがどんな気持ちでこの国に来たかくらい、お母様だって知っているでしょう?優しいキャリーヌは、きっと母国に残してきた家族を心配し、心を痛めているはずです。それなのに、アラステ王国が混乱したままの方がいいですって?言っていい事と悪い事がありますよ!」
キャリーヌはいつも私の事を考え、私の幸せを願って動いてくれていた。それなのに…
「ごめんなさい、ミリアム。私の考えは間違っていたわ。私は娘可愛さに、なんて愚かな事を…王妃失格ね。ただ、私たちに出来る事は、何もないもの。どうしようもないわ」
どうしようもない?本当にどうしようもないの?
私を孤独から救ってくれたキャリーヌ、そんな彼女の為に、私は本当に何も出来ないの?そもそもキャリーヌは、今どう思っているのかしら?
まずはキャリーヌの気持ちを確かめないと。