第14話:キャリーヌとの出会い~ミリアム視点~
翌日、いつもの様に貴族学院に向かった。既に他の貴族たちも、クレスティル公爵夫人の妹が今日貴族学院にやってくることを知っている様で、皆が騒いでいた。
特に令息たちは、興味津々の様だ。クレスティル公爵夫人と言えば、この国では珍しいそれはそれは美しい銀髪をしている超絶美女だ。いつも冷静なお兄様ですら、夫人を初めて見た時は、頬を赤らめていた。
そんな女性の実の妹が来るとあって、クラス中が大騒ぎをしている。ただ、令息たちの盛り上がりっぷりを快く思っていない令嬢たち。
ちょっと、令息たちが騒ぐから、令嬢たちが不満そうな顔をしているわ。ただでさえ彼女は婚約者に裏切られ、家族からも引き離され、たった1人でこの国に避難しているのに。せめて学院では、楽しく過ごして欲しいのに…嫉妬した令嬢たちから、冷たくされたらどうするのよ!
そんな私の心配は、残念な形で的中する。先生に連れられてやって来た彼女は、夫人と同じく美しい銀色の髪をした、まさに美少女だったのだ。もしかしたら夫人よりも、美しいかもしれない。同じ女性の私ですら、見とれる美しさなのだ。
そんな美女を見た令息たちが、黙っている訳がない。一気に彼女を囲む令息たち。そんな令息たちに、笑顔で答えているが、どうやら令嬢たちと仲良くしたい様で、周りの令嬢たちをチラチラと見ている。
そして昼休み、近くにいた令嬢に声をかけるキャリーヌ嬢。でも、嫉妬に狂った醜い女たちは、キャリーヌ嬢をあしらい、暴言を吐いて去って行ったのだ。
悲しそうな顔のキャリーヌ嬢。ちょっと、彼女はただでさえ傷ついているのよ。それなのに、あの言い草は何なのよ!こうなったら私が…でも、私が話しかけても、彼女を余計に傷つけるだけかもしれない。私はどうも自分の思っている事を素直に言えないどころか、思ってもない事を言ってしまうのだ。
それでもキャリーヌ嬢が気になって、彼女を見てしまう。
その時だった。目がバッチリ合ったかと思うと、恐る恐る私元へとやって来たのだ。そして
「あの…もしよろしければ私と一緒に、お昼を食べていただけないでしょうか?私、どうやら令嬢たちに嫌われてしまった様で」
そう言って話しかけてきたのだ。私とお昼をですって?嬉しいわ、でも、私と一緒に食べて、もし彼女に嫌な思いをさせてしまったらどうしよう。完全にパニックになってしまった私は
「ど…どうして私が、あなたと食事を摂らないといけないの?私はこの国の第一王女なのよ」
思ってもいない事を叫んでしまったのだ。私は何を言っているの?どうして私は、こんな風にしか言えないのだろう。こんなんだから、皆から嫌われているのに…
案の定、キャリーヌ嬢も悲しそうに私から離れて行こうとしている。そんな彼女を、私なりに必死に引き留めた。それでも、やっぱり上から目線で、かなり感じが悪い。分かっている、こんな事を言ったら嫌われることは。でも、頭では分かっているのに、どうしても感じの悪い話し方になってしまうのだ。
きっとキャリーヌ嬢も、こんな私に嫌気がさして、離れていくだろう。そう思っていたのだが、なぜか嬉しそうに“テラスで食事をしよう”と言って、歩き出したのだ。
私のお弁当が珍しかったのか、魚のフライをあげると、目を輝かせて喜んでいた。さらに“素敵なお友達が出来た”と言って、それはそれは嬉しそうに笑ったのだ。
“友達”その言葉が、心に響く。こんな私の事を、友達と思ってくれるだなんて。嬉しくてたまらないのに、ここでも私は、思ってもいない事を言ってしまったのだ。本当に自分が嫌になる。
どうして私は、こんな人間なのだろう。きっとキャリーヌ嬢も、私の事を嫌いになったわよね。そう思っていたのだが、彼女はこんな私を受け入れてくれたのだ。
その上、放課後お茶にまで誘ってくれた。こんな風に、私を受けいれてくれるだなんて…
さらに、“私が同じクラスでよかった”と言ってくれたのだ。私の様な人間がいてくれてよかったと思ってくれたことが、嬉しくてたまらない。
私はずっと1人だった。誰からも必要とされていない人間、そう思っていた。でも今、キャリーヌが私を必要としてくれている。それが無性に嬉しくて、涙が出そうになるのを必死に抑えた。
私の事をこんな風に思ってくれているキャリーヌに少しでも喜んで欲しくて、すぐに使用人に頼んで放課後のお茶用に、珍しいお菓子を取り寄せた。
キャリーヌはお茶が楽しみだったのか、私の方に嬉しそうにやって来たのだ。そんな彼女に、また思ってもいない言葉を吐いてしまう。どうして私はこうも素直じゃないのかしら?本当は私も、物凄く楽しみにしていたのに…
ただ、キャリーヌはこんな私から離れることなく、私とお茶を飲んでくれた。私が準備したお菓子を、目を輝かせて食べてくれる。それがなんだか無性に嬉しかった。さらに、私の事をもっと知りたいし、自分の事も知って欲しいと言い出したのだ。
その言葉を聞いた時、胸が張り裂けそうになった。私の事なんて、誰も興味がないと思っていた。両親やお兄様ですら、私の事を知ろうとしなかった。それなのに、今日会ったばかりの令嬢が、こんな風に私に興味を持ち、私の事を知ろうとしてくれるだなんて…
それが嬉しくてたまらなかった。この日私は初めて、自分の事を話した。こんな風に自分の事を話す日が来るだなんて…
もちろん、キャリーヌの事もたくさん教えてもらった。もっともっと、キャリーヌの事を知りたいと思った。
この時私は、初めてミリアムという人間が、誰かに受け入れられたような気がしたのだった。