表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/73

第10話:友達が出来ました

「ちょっと、馴れ馴れしく私に触れるのは止めて頂戴」


 途中で手をふりはらわれてしまったのだ。いけない、私ったらつい嬉しくて…


「申し訳ございません。嬉しくてつい…」


「ちょっと、そんな悲しそうな顔をしないでよ。ただ少し、驚いただけよ。テラスで食事だったわね。さあ、行くわよ」


 ミリアム殿下が、スタスタと歩き出したのだ。よくわからないが、食事は一緒にしてくれる様だ。彼女の後を付いていく。テラスに着くと、既に席がほとんど埋まっていた。さて、どうしよう。


 あっ、あそこ、空いているわ。


「ミリアム殿下、ここ空いていますよ。ここで食事にしましょう」


 急いで席に座り、殿下に手を振った。


「そんなに騒がなくても、席は逃げないわよ」


 そう言いつつも、急ぎ足でミリアム殿下も来てくれた。早速2人でお弁当を広げていただく。料理長ったら、私の好物をたくさん入れてくれたのね。どれも美味しいわ。つい美味しくて、頬が緩む。ふとミリアム殿下のお弁当に目をやると、見た事のないお料理が入っていた。


「その黄色いものはなんですか?見た事のないお料理ですが」


「これはお魚のフライよ。お魚を油で揚げてあるの」


「フライですか?初めて見ましたわ」


「アラステ王国は、揚げ物がないと聞いたことがあるわ。そんなに欲しいなら、差し上げてもよろしくてよ」


「まあ、本当ですか?これが噂に聞く、お弁当交換ですね。それでは私は、このお肉と野菜のムニエルを差し上げますわ。アラステ王国で人気のお料理ですの。まさか初日から、こんな素敵なお友達が出来たうえ、お弁当交換が出来るだなんて、思いませんでしたわ。それにこのフライ、とても美味しいですし」


 サクサクしていて、このソースとよく合っていて美味しいわ。


「ちょっと、誰があなたと友達になるだなんて言ったの?」


「でも、一緒にお弁当を食べて下さったら、私と友達になって下さったのかと…」


 もしかして、1人でいた私を気の毒に思って、一緒に食事をして下さったのかしら。よく考えてみたら、王女様でもあるミリアム殿下が、1人でいる訳ないものね…それなのに私ったら…


「だから、そんな悲しそうな顔をしないでよ。あなたがどうしても私と友達になりたいというのなら…その…お友達になってあげてもよろしくてよ」


「まあ、本当ですか?ありがとうございます。では、今日からミリアム殿下と私は、お友達です。そうですわ、お友達になったのですから、私の事はキャリーヌと呼んでください。私も、ミリアム様とお呼びしてもいいですか?殿下呼びだと、なんだか距離がある様で…」


「べ…別に構わないわ。あなた、そんなに私とお友達になりたいの?」


「はい、私は自国ではお友達を作る機会がありませんでした。それに私を送り出してくれた大切な家族や、この国で支えてくれるお姉様家族の為にも、私はこの地でお友達をたくさん作って、皆を安心させたいのです。私は今、幸せですので、心配しないで下さいと…」


 私のせいで今、アラステ王国の家族たちが大変な目にあっているかもしれない。私が母国を旅立つとき、悲しそうな両親や兄夫婦の目が、今でも忘れられないのだ。それに他国に嫁いでいるお姉様にまで迷惑をかけて…


 思い出しただけで、涙が溢れそうになる。


「ちょっと、泣かないでよ。ほら、このフライ、気に入ったのでしょう。たくさん食べていいから」


 ミリアム様がアタフタしている。この人、少し変わった人だけれど、きっと根はお優しい方なのだろう。私が令嬢たちから避けられていた時も、心配そうにこちらを見ていて下さっていたし。


「ありがとうございます。私のお弁当も食べて下さい。はい、どうぞ」


「ちょっとあなた、勝手に…いいえ、何でもないわ。その…ありがとう…」


「どういたしまして、そうですわ。放課後、一緒にお茶をしませんか?私、お友達とお茶をするのが夢だったのです」


「そうなの?キャリーヌがそこまで言うのなら、お茶をしてあげてもよくってよ」


「嬉しいですわ。ありがとうございます。ミリアム様が同じクラスで、本当によかったですわ」


「私が同じクラスでよかったか…」


 何やらポツリと呟いたミリアム様。そのお顔は、心なしか嬉しそうだ。


「ミリアム様?」


「べ…別に何でもないわ。さあ、早く食べてしまいましょう。万が一午後の授業に遅刻しては大変ですわ」


「そうですわね。急いで食べましょう」


 なぜか顔が赤いミリアム様と一緒に、急いでお弁当を食べた。なぜだろう、お友達と一緒だと、食事もいつもの何倍、いいえ、何十倍も美味しく感じる。私、貴族学院に来て本当によかったわ。


 貴族学院を勧めてくれたお義兄様に、感謝しないと。


 食事を終えた私とミリアム様は、2人仲良く手を繋いで教室に戻った。行きとは違い、私が手を繋いでも文句を言われることはなかったのだ。きっと私を受け入れてくれたのだろう。それが嬉しくてたまらない。


 きっとミリアム様とは、素敵な友人関係を築いていける。なんだかそんな気がしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ