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アホウドリと地元のJK

作者: 花黒子


 私の村には、海から来たものをお堀様に預けるという風習がある。

 お堀様というのは洞窟のことで、入口にしめ縄があるが、鳥居はないという神社というか、なんというか、とりあえず神様を祀る場所だ。


 入ってみると、倉庫くらい大きな空間に骨だの船の残骸だのが所狭しと置かれていた。

 私も子供のころから、クジラの骨や恐竜の化石を浜辺で拾ったりすると、よくお堀様の中に置きに行った。



 期末試験が終わり、昼で村に帰ってきた。と言っても、バスで1時間はかかるから、最寄りのバス停についた頃には日が傾いていた。


「アイスー!」

「はいよ」


 最寄りのカムロ商店で、アイスを買い、浜辺を散歩。

 いつから算数が数学になったのかと、泣きべそをかきながらアイスを食べて忘れていたら、なんか踏んだ。かてーやつ。


「おい、浜は柔らかいって相場が決まってんだけど、亀かい?」


 無くなってしまったアイスの棒を齧りながら、足元を見ると、卵のようなものが落ちていた。ただ、固すぎる。たぶん、恐竜か何かの化石だろう。


 写真を撮って、「これ、なんですかね?」とSNSに投稿。しばらく待っても、友だちからのいいね1つだけ。

 とりあえず、お堀様に持って行くことにした。部活もしていない私の足腰はすでに老婆のよう。お堀様までの階段に、息を切らせてしまった。

 幼い頃はここを駆け上がっていたのかと思うと、身体能力お化けだったのかもしれない。


 海外のペットボトルや、クジラの骨の間に、そっと置いておく。

 後は「幸せを運んできますように」と手を合わせた。お堀様の洞窟から出て、スマホを開くと、友だちからメッセージが飛んできていた。


『それアホウドリの卵かもよ』

「え? アホウドリって実在しているの?」


 そんなアホなと思いながら検索してみると、実在していた。しかもなんかでかい。


「なぁんだ、アホウドリの化石か」

 一応、人工知能アプリにも聞いてみると「恐竜の化石かもしれません」とのこと。

 研究所に送ることを勧められたが、アホウドリの化石ってどこに送ればいいのかわからない。


「どうすりゃいいんだ!?」


 世界はいろんな指示を私にしてくるけれど、まったく何をしていいのかわからん。

 そもそもアホウドリの卵を梱包するのにあのプチプチはいらないのか。

 段ボールに入れてそのままってわけにもいかんだろうに。

 それともバスタオルか何かで包むのか。

 とりあえず、近くの大学に送りつけても、謝礼の一つも送ってきやがらねぇだろ。

 大人ってのは手柄は自分で、お金も自分。ジャイアニズムの権化たち。かわいい子だけを新聞に出して、しょぼくれたアイスの棒をガシガシと齧って尻を掻いているような私には目もくれん。


「よし、私は金が欲しいようだ。夏休みはバイトをしよう!」

 缶詰工場にバイトをすることを決心してから、前途洋々の私は木漏れ日を見ながら家に帰った。


「試験終わったの?」

 母親は私の幸せそうな顔を見ながら、聞いてきた。

「そうだよ。顔から幸せが溢れているかい?」

「いや、何かを諦めた顔だね。強く生きろよ。我が娘よ!」

「算数と数学の違いもわからない子に産んでくれてありがとう。母上様」


 晩御飯を食べて、風呂に入り、寝床でゆっくり動画サイトでも見ようとしたら、スマホがない。制服を見ても、鞄をひっかきまわしても、私の心の友ことスマホは消えていた。


「どこ行っちゃったのかな。お母さん! 私のスマホ知らない?」

 大声で聞いてみる。

 コンコン。


 玄関戸が鳴った。


「はーい」


 田舎ではチャイムなんか鳴らさない。母親が私の声も無視して、玄関に向かう音がしている。


「え!?」

 何かあったらしい。

「お母さん? 私のスマホ……」

 自分の部屋のドアを開けて、そっと聞いてみた。

「スマホは知らないけど……。あんた、ちょっと玄関に来て」

「え? なに?」


 階段を下りて、玄関を見てみると、大きな鳥が私のスマホを加えていた。


「ああ、どうも。アホウドリです。この人工知能アプリとたくさん会話をしましてね。とりあえず拾い主にお礼をと思いましてやってきた次第です」

「いや、普通に喋ってるし」

「ああ、喋っちゃいけませんでしたか?」

「だって鳥じゃん」

「あんた、何したの!?」

 母親は私を見た。


「いや、浜辺でアホウドリの卵を見つけたから、お堀様に持って行っただけ」

「そして私が生まれたというわけです」

 アホウドリは胸を張って羽を広げた。

「いや、雛の時期はどうした?」

「現代では、それほど必要ありませんでした」

「こいつ本当にアホウドリなの?」

 私はスマホを受け取って、人工知能に聞いてみた。


『アホウドリというよりもクラゲに近い存在のようです』

「じゃあ、アホクラゲ?」

「それは侮蔑の響きがありますね! やめてください!」

 アホウドリの癖に、プライドがあるらしい。


「で、アホウドリがスマホを返しに来てくれただけ?」

「そうです」

「じゃあ、用は済んだね。それじゃ」


 私はひとまずアホウドリを玄関から出して、戸を締めようとした。


「ちょっとお待ちを! 幸せを運んでくるように仰せつかっておりますけど?」

「それはお堀様に向けてのお願いよ」

「人工知能さんによると、どうやら私はそのお堀様の化身かもしれません」

「え!?」

 私はスマホを見た。


「そうなの?」

『可能性はあります』

「それじゃあ、ちょっとお茶でも出しましょうか。お茶うけはお魚でいいかしら?」

 母親がアホウドリを家の中にあげた。

「お母さん、お構いなく」

 そう言いながらも、アホウドリはペタペタと水かきの付いた足で上がってきた。


「アホウドリのお母さんじゃないでしょ!」

「いえいえ、これから一緒に生活するんですから」

「一緒に生活するの!? なんで!?」

「拾い主が1割持って行っていいというのが、法律で定められているでしょう」

「そうだけど……。え? 1割?」

「はい。9割は今もあの洞窟に安置されています。1割が私ということになります」

「それで、ああ、なるほどとはならないわよ!」

「まぁ、詳しい話は居間でやりましょう。お母さん、立つのがしんどい」


 こうして、私は神の化身であるアホウドリと暮らすことになった。

 のび太におけるドラえもん、キテレツにおけるコロ助みたいなものか。


「とりあえず、具体的に幸せについて教えてもらってもよろしいですか?」

「ええ? 難しいこと言うなよ!」



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