後編
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一ヶ月の間、ミュリエルはファビアンとメロディの教室に行っては、婚約者でもないただの幼馴染とずっと一緒にいるおかしさ、ファビアンがメロディを優先するのは何故なのか、など毎日、質問をしたり、二人の行動を諫めたりした。
ファビアンのクラスメイトたちがその様子を見ていたので、暴力や暴言を受けることはなかったが、それでも二人がいらいらしているのは分かった。
メロディに至っては、わざわざミュリエルを呼び出して二人っきりで話そうとしたが、その時はアンジェラとジェラールが一緒についていった。
特にジェラールは、ファビアンとメロディの行動が常識外れであることをメロディに告げたが、メロディは聞く耳を持たず、ただただ幼馴染だからと言うだけだった。
ファビアンは、ミュリエルに何か言いたそうな顔をする時もあったが、すぐ傍でメロディがミュリエルに反論するので、何も言ってこなかった。
ここできちんと言える人だったら、こんな事態にはなっていなかったのに、とミュリエルが思っても、ファビアンは目を逸らし続けていた。
「ミュリエル嬢、今日で一ヶ月が経ちましたが、これからどうされる予定ですか?」
今日もファビアンとメロディは、ミュリエルの言葉を否定してどこかに行ってしまった。
教室内で心配そうにミュリエルを見ていたクラスメイトたちの内で、ジェラールが代表してミュリエルにそう聞いてきた。
この一ヶ月の間、ミュリエルが本当にがんばっていたのを全員で見てきた。
ファビアンたちがどこかに行ってしまうと、最初の頃は悲しい顔をしていたミュリエルが、最近は諦め顔になっているのも知っている。
彼女の質問や苦言は、婚約者として当たり前のことばかりだったし、ファビアンとメロディの言葉は幼馴染という関係を強調するだけの薄っぺらいものだった。
それをずっと見聞きしてきたので、このまま婚約は解消されるのだろうと、誰もが理解していた。
「皆様、色々とお騒がせをいたしました。ファビアン様とメロディ様に何かを言うのは、本日で終了させていただきます。これから一ヶ月の間、私は何も致しません。その間にファビアン様が何をなさるのか、見守るつもりです。……おそらく、このまま婚約は解消となるでしょうが、ファビアン様がメロディ様を優先する以上、仕方のないことだと思っております」
ミュリエルが淡々と言葉を紡ぐ姿は、もはや怒りも悲しみも通り越しているようだった。
「ファビアンは、変わりませんでしたね。誰かに相談でもするのかと思っていましたが、誰一人としてそういう話はしていないそうです。あの二人は、誰の言葉も聞き入れるつもりはないようです」
残念そうにジェラールがそう言うと、クラスメイトたちが仕方なさそうな顔をしていた。
「学園は、小さな社交の場でもあります。ここでの振る舞いがそのまま将来に響くなんてことも、ざらにあります。ファビアンは、彼自身の行動で信頼を失いました。メロディ嬢にいたっては、もはやファビアン以外の人間に嫁ぐことも出来ないでしょう。好き好んで彼女を妻にしようと思うのは、よほどの訳ありの者しかいないでしょうから。厄介事だけを運んでくる妻など要りませんからね。まぁ、彼女にしてみれば、それが狙いでもあるので、喜んでファビアンに嫁いでいくのでしょうが」
ジェラールの言葉に、クラスメイトたちが頷いていた。
少なくとも、この世代の者でメロディを妻にしようという者はいない。
優先するものを間違えれば、こうなるのだ。
ファビアンは、幼馴染というだけでメロディとの関係を断ち切れずに、近しいままにしてしまった。
婚約者を蔑ろにしてまで幼馴染を傍に置くということは、周りからは乗り換えたとしか見えない。
そのことに気が付くこともなく、婚約者の言葉も聞かず、幼馴染の女性を優先したのだ。
「……一度は婚約者として良い関係を築けた方とお別れするのは、大変寂しく悲しいことだと勉強させていただきました。どうか皆様はこのようなことにならないように、婚約者の方を大切になさってくださいませ」
この一ヶ月、ミュリエルとファビアンを見てきた者たちにとって、この言葉は何よりも重かった。
誰を優先するかによって、どんな関係だろうとこんなに簡単に崩れていくものだということを、目の前で見せられたのだ。
たしかにこれだけ周りや婚約者からくどく言われて、ファビアンが意地になってしまったところもあると思う。
だが、言われるだけのことをしていたのはファビアンだ。
そして、忠告を聞かないと決めたのもファビアンだ。
メロディは最初からファビアン狙いだったが、これから先、同じような手を使う者が現れたとしても、今回の教訓が活かされるだろう。……活かされると信じたい。
今回のことは、自分たちはもちろん、後輩たちにも語り継いでいかなければならない出来事の一つだと思う。
ミュリエルが、自分たちのようになってほしくないと願っているのなら、せめてこれから先、同じような出来事が起きないように教訓として語り継いでいく。
深々と頭を下げたミュリエルに、見守っていた全員がそういう気持ちになった。
「ミュリエル、がんばりましたね。あなたがこの一ヶ月間、侯爵令嬢として毅然とした態度で婚約者とその幼馴染に対峙していたことを、私たちは知っています。大丈夫です。何かあれば、証言してくれる人はたくさんいますよ」
ファビアンの教室から人気のない裏庭のベンチへと移動したミュリエルは、約束通りずっと一緒にいてくれたアンジェラの言葉に、そっと涙を流した。
「……諦めているつもりでも、心のどこかでファビアン様が変わってくれるのを期待していたの……。ファビアン様の心の深い場所に、あんなに幼馴染という存在がいたとは知らなかったわ」
自嘲気味にミュリエルがそう言うと、アンジェラは首を傾げた。
「深いというか、何も考えることのない無邪気で楽しかった頃に帰りたかっただけでは?」
「え?」
「ミュリエル、これは私の考えなのですが、たしかに幼い頃から共に過ごした者同士、共通の記憶というのはあるのでしょう。あの時こうだったね、これはこうだったね、などという話をすれば、懐かしい気持ちで盛り上がれます。ですが、それは全て過去形でしかありません。そんな二人に未来の話は出来るのでしょうか?」
「未来の話?」
「えぇ。あくまでもあの二人は、久々に再会した幼馴染だと言い張っています。過去にどれだけ一緒にいたとしても、二人は全く違う人生を生きてきたのですから、途中経過は違います。今のあの二人の話題は、一緒にいた時のことばかりです。では、語り尽くしたらどうなるのでしょう?会っていなかった頃の話をしますか?そんな話をしたところで、あの二人ではお互いの共感は得られません。メロディ嬢に至っては、ミュリエルの話が出たら不愉快でしかないでしょう」
幼馴染だが、ずっと一緒に育ってきたわけではない。
メロディは領地にいたし、ファビアンは王都に来ていた。
共通する過去がない時間の方が多いくらいだ。
「色々な過去の話が終わったら、もう一周するつもりなのでしょうか?過去の話をするのが悪いと言っているわけではありません。思い出を友人と語るのは、大変楽しいと思います。ほとんどの方が過去を語っても、未来に向かって歩いて行っているのに対して、ファビアン様とメロディ嬢は、過去に留まろうとしているように見えるのです」
ほんの一時だけ、過去に留まるのならこんなことにはならなかったのだろうが、ファビアンはメロディとの過去にずっと留まることを選び、戻ってこなかった。
……戻る気もないように思えた。
「上手く言えませんが、あの二人にとって、今よりも昔の方が居心地が良かったのでは?」
「……そうかもね。そういえば、二人の話を聞いていても、過去にこんなことがあったよね、という話はしていても、なら今度は……とか、そういう話はしていなかった気がする。アンジェラの言う通り、二人は過去に留まりたかったんだね。これからの話なんて、一切聞いたことがなかったもの」
正確には、メロディはファビアンの妻の座を狙っていたので、多少は前に進む気はあったのだろうが、過去を強調しすぎたことでファビアンがそこに留まり、メロディもそのまま留まることしか出来なくなったのだろう。
「ファビアン様は、もう動くことはないよね」
「残念ながら、そうだと思います。ファビアン様は、ミュリエルと正反対の方向に向かっていっていると思われます」
「うん、そして、そこに留まることを選んだ……だから、私に出来ることはもうないの……」
現実は、ファビアンとミュリエルの婚約は解消され、代わりにメロディが何としてもその座に納まろうとするだろう。ファビアンにその気がなくても、周囲が彼にはもうその道しか残されていないのだと、説得するだろう。
ここまでの騒ぎになってしまっているのだ。女性の方がファビアンを敬遠する。
ファビアンに執着している幼馴染が彼女面をして出張ってくると分かっているのに、わざわざ婚約をしてそんな苦労をしたくはない。どうせ最後には婚約解消になるのだから。
それが女性たちの本音だろう。
「お姉様に悪いことをしてしまったわ……」
「ロクサーヌ様は、婚約解消に大賛成されていましたが?」
アンジェラは、今回のことでロクサーヌとも知り合いになれた。
面倒事に巻き込んだ謝罪をされ、何かあれば力になるとも言われた。
ロクサーヌは妹を大切にする、アンジェラが持ち得なかった理想の姉のような女性だった。
当然、妹を蔑ろにする婚約者には激怒しており、婚約解消はロクサーヌ主体で行われることになっている。
「実は、お姉様は私と逆で幼馴染の方と婚約をしていたけれど、その方が学園で出会った下級貴族の女性と恋に落ちて婚約を解消しているの。何でもその時は、他の男性の方たちもあちらの味方になってしまって、お姉様は孤立無援状態になってしまったそうなの。その時の経験から、お姉様はもう男性は信用ならないから結婚しないと言っているのよ。それで、私に子供が生まれたら、侯爵家を継がせる予定だったの」
「……それは私が聞いてもよいお話でしょうか?」
「えぇ、お姉様と同世代か上の年齢の方々は知っている話だもの。ちなみに元婚約者の方は恋人と結婚出来たけれど、一年ほどで離婚されたそうよ。何でも価値観や考え方の違いに苦労なさったそうで、最後の方は険悪な状態になっていたそうよ」
姉はそのことを予想していたのか、離婚の話が聞こえてきた時も特に驚いた様子はなかった。
驚いたのは、その元婚約者から図々しく手紙が来て、ロクサーヌともう一度やり直したいとか書かれていたことだ。
手紙はそのまま彼の実家に渡し、二度とこんなことをさせないようにと厳重に注意もした。
婚約を解消した時に両家で話し合い、ロクサーヌには二度と近付かないと署名させたのに、たった一年で忘れたらしい。
「ミュリエルはどうなのですか?結婚はしたくありませんか?」
「……お姉様の時と違って、今回は男女問わず味方になってくれた方は多かったもの。もう少しだけ心の中の整理が出来たら考えられると思うわ。でも、今はまだ無理かな」
ロクサーヌは何も言わないが、自分自身の経験からミュリエルが結婚したくないと思っていると考えているだろう。正直、ミュリエル自身、どうしたいのか分かっていない。
ただ、姉よりは心の傷が浅いと思うので、もう少しだけ待ってくれたら前向きに考えられると思う。
問題は、その相手がいるかどうかだ。
「生まれる子供は暫定で侯爵家の後継者、でもお姉様に子供が生まれたらその話はなし。私はお姉様を支えていこうと思っているので、出来れば入り婿希望。もしあちらに嫁いだとしても、優先するのは実家になるわね。それに侯爵家の実権はお姉様が持っているから、私の夫になっても侯爵家を自由にすることは出来ないでしょう。こんな面倒くさい条件で私と結婚してくれる人は、いない気がするわ」
伯爵家の三男だったファビアンは、この条件が整っていた。伯爵家そのものが侯爵家に対して野心を持っていたわけではないので、後継者に関しても下手な横槍が入ることはなかっただろう。
一番難しいのは、この後継者に関してだ。
夫となった者やその実家が、ミュリエルとの子供をどうしても後継者にしたいと思った場合、姉と、ひょっとしたら生まれているかもしれない姉の子供が危険にさらされる可能性がある。
最低限ミュリエルの夫には、侯爵家の後継者にこだわらない人間を選ばないと、一族内での権力争いに発展しかねない。
「……ミュリエル、たしかに難しい条件ですね。ロクサーヌ様の後継者として育てられても、ロクサーヌ様に子供が生まれれば後継者から外される、本人も複雑な心を持つことになりますね」
「そうなの。小さい頃ならばともかく、ある程度の年齢になってからそうなった場合、素直にお姉様の子供を補佐してくれるかどうか分からないわ」
「……今この場であれこれ考えたところで、どうにもならない問題ですよね」
「うん。そうなんだけどね。次となると、アレコレ考えてしまうのよ。でも、絶対に次の婚約者には、幼馴染や女のお友達についてはしっかり聞くわ」
「ふふ、そうですね。女性関係は透明な方がいいですね」
「そうよ。もう、私以外の女性が婚約者面するのを見るのは、うんざりよ!」
「その調子ですよ、ミュリエル」
この数ヶ月間、悩んでいたことからようやく解放されたミュリエルは、アンジェラに向かって力強く宣言したのだった。
「婚約を解消した……?誰と誰の?」
「ご家族から聞いていないのですか?私とファビアン様との、です」
ミュリエルが何も言わなくなって一ヶ月以上経ち、改めてファビアンのクラスメイトたちにお礼がてら報告に行ったところ、ジェラールを始めとしたクラスメイトたちは、お疲れ様でしたとねぎらってくれた。
ファビアンとメロディがその場にいなかったので、しばらくアンジェラも含めてにこやかに談笑していたら、なぜか急いで教室に戻ってきたファビアンと、それを後ろから追いかけてきたらしいメロディが姿を現した。
はぁはぁと息を切らしているファビアンを全員で不思議に思いながら見ていたら、ファビアンがミュリエルに迫ってきたので、ジェラールが間に入ってファビアンを止めた。
「邪魔だ!」
「落ち着きなさい、ファビアン。なぜミュリエル嬢にそんな勢いで迫ろうとしているのです?もう二人の婚約は、解消したのでしょう?」
ジェラールの言葉にファビアンが意味が分からないというような顔をした。
そして、誰と誰の婚約が解消したのか聞いてきた。
「う、うそだ」
「事実です。つい先日、姉とファビアン様のお父様の間で正式に決まりました。お聞きになっていらっしゃらないので?」
ジェラールの斜め後ろからミュリエルに聞かれて、ファビアンの顔が真っ青になった。
そういえば、大事な話があると言われたが、父親にまでメロディとのことを口出ししてほしくなくて、ここ数日は顔を合わせていなかった。
「まぁ!本当ですか?」
メロディの嬉しそうに弾んだ声が聞こえてきて、ファビアンはようやく事の重大さを認識した。
「……メロディのせいか?」
「誰かのせいになさるのはお止めください。過程はどうあれ、ファビアン様が選んだことです。このまま結婚しても、ファビアン様の中で優先される方が変わらないのであれば、同じことの繰り返しになります。私は、私を優先してくれる方がいいのです」
「……そ、そんなの、言ってくれないと……」
「いい加減、見苦しいですよ、ファビアン。言ってくれないと?ばかばかしい。ミュリエル嬢は、ずっと言っていたでしょう?それを聞きたくないからと、毎回逃げていたのは君の方だ。それは僕たち全員が見てきたことです。君はいつでも、幼馴染といることを選んだ。僕たちは、君とミュリエル嬢の婚約が解消されても仕方ないと思っていましたよ」
ジェラールにかばわれるミュリエル。
ほんの数ヶ月前までは、その位置はファビアンのものだった。
だが、今はミュリエルと相対する場所にいる。
「ミュリエル、その、心を入れ替えるから。これからは君を優先するから!」
「ファビアン!何を言っているの!?あなた、婚約者が私だったら、昔話も出来て楽しいと言っていたでしょう?せっかくミュリエル様がいなくなったのだから、私と婚約すればいいじゃない!!」
ファビアンの腕をぎゅっと掴みながら、必死の形相でメロディが叫んだ。
「そうすればいい、ファビアン。実際、今回のことで君とメロディ嬢の邪魔をする家はなくなったと思ってくれていいですよ。僕たちは、それぞれの家族に今回の顛末を話していますから、すでに君たちはそういう仲だと認識されているでしょう」
「ジェラール!何を勝手に!!」
「君とメロディ嬢の仲睦まじい姿を見て、ミュリエル嬢との婚約を知らない者たちはすでにそう思っていましたよ。むしろ君に別の婚約者がいることに、驚いている者もいたでしょう。君は、ミュリエル嬢よりメロディ嬢を優先するという行動で、僕たち全てに君の中で誰が大切なのかを示し続けたんです」
心当たりが有り過ぎるファビアンはさらに顔色を悪くして、ジェラールにファビアンの中での優先順位がミュリエルよりメロディの方が上で、大切な存在だと言われて、メロディは喜びの顔になった。
そんな二人の顔を見ながら、ミュリエルはファビアンに告げた。
「ファビアン様、次の婚約者の方は大切になさってくださいね」
「ミュリエル……」
「ファビアン、ミュリエル嬢と呼ばないとだめですよ。ミュリエル嬢は、君とはもう関係のない方です」
ジェラールの指摘にファビアンが泣きそうになった。
関係ない。そうだ、婚約者でなくなった以上、ミュリエルは力ある侯爵家の次女、自分はただの伯爵家の三男。
上手くいけば自分たちの子供が侯爵家の跡取りになるはずだったのに、その話ももう消えた。
「メロディ様、ファビアン様をお願いします」
「あなたに言われなくても大丈夫よ!ファビアン、向こうに行きましょう?」
メロディはミュリエルを睨んだ後、ファビアンの肩を抱いて教室から出て行った。
「……あの二人が婚約したところで、上手くいくとは思えないですが、お互い相手がそれぞれしかいない以上、解消されることはないでしょうね」
「だとしても、それがあの二人が選んだ道です」
ジェラールの言葉にそう返したのは、いつも通り静かに見守っていたアンジェラだった。
「そうね、でももう私が心配することではないわ。あれだけ近くにいた二人ですもの、何とかなると思いたいわ」
どこかさっぱりした気持ちでミュリエルは、二人が出て行った扉を見ていた。
「ミュリエル嬢、新しい婚約の話は出ているのでしょうか?」
「……今、そんなお話をいただいたところで、すぐに返事は出来そうにありません。しばらく保留にしても良いとおっしゃる方がいれば、といったところです。もう少しだけ、心の整理に時間がかかりそうなので」
ファビアンとの婚約が解消されたからといって、すぐに新しい婚約者を作れるほどミュリエルの心は癒えていない。ロクサーヌも好きなようにしてかまわないと言ってくれたので、姉の好意に甘えてしまおうと思っている。
「そうですか」
にっこり笑ったジェラールを不審な目でアンジェラが見ていたことを、ミュリエルは知らない。
「……まぁ、ミュリエルが幸せになれれば、それでいいのですが……」
小さく呟かれた言葉に、他のクラスメイトたちが苦笑いしていたことも、ミュリエルは知らないままだった。
一度、完結という形にさせていただきます。すいませんが、ロクサーヌ編へと続きます。