お手伝いしたいBluetoothちゃんはいつも接続切れを起こすᯤ
未来はいつだって、人類の予想だにしない姿をしている。
百年前の人類には、
携帯もスマホだって、車がまだ地べたを走り回っていることだって、
到底想像できなかっただろう。
そして今、人間はまた想像できない一つの分岐点へ至った。
「Bluetoothちゃん……? 悪いけどコップを台所に持って行ってくれない?」
「あいっ!」
流線的な白い髪に幼稚園児ほどの体、青を基調とした服を身につけた『それ』は。
人間とあまり変わらない姿で、コップが大きく見えるほどの小さい両手で抱き抱えて歩く。
「また、変なものを作って送ってきたな……お母さん」
開いたダンボールに付属された封筒を開け、大学生の男の子は説明書を見る。
『スピーカーとか、ライトとか、Bluetooth接続ってすぐ切れてウザくない? だからそう、ママは考えました。
Bluetoothの擬人化という奴をっ! イラつくことも幼女になれば解消するのではないかとっ! ってことで試してみてねぇー。
PS——』
また適当な理由で変なものが作られたな、と大学生は棚に並んだおかしな玩具を眺め、開発者である母親の能天気さに頭を抱える。
『ガシャーンッ』
「——っぁぅ」
その時だった。
大きな物音がキッチンから響き渡り、急いで駆けつける。
「——ちょっ、大丈夫か?」
そして先ほどまで元気に動き回っていたBluetoothちゃんが床にうつ伏せになり、ピクリとも動かない姿を目にする。
『【Bluetoothちゃん】は当然Bluetooth接続のため、2.4GHzであり。
そして日本国内の邪悪な電波法によって、10mWまでしか出力できないBluetoothの弱点がそのままなので100mしか離れられず。
壁一枚でも接続が切れます』
「あれ……どうして、たおれ——」
大学生の持っていたスマホにBluetoothの文字が現れ。
再び接続されたBluetoothちゃんは小さい手で起き上がる。
痛そうなほど、赤くなったおでこ。
けれど気にする様子はなく、そんなことよりもコップが割れた事に気づくと目をウルウルとさせ始めた。
「怪我はない?」
「怪我、っぅコップが……ッ! コップが大怪我しましたッ!!」
今にも泣き出しそうに自分の服を握りしめ、ヒクヒク、とえずくBluetoothちゃん。
彼女はコップを指差し、大学生のズボンにすがりつく。
「わたっ、大切なコップを……ごめんなさいっ、分かんなくて……急に真っ暗になって、ごめんなさい、ごめんなさいッ」
『そして実験して分かったんだけど——接続切れを起こしたBluetoothちゃんは、罪悪感とかその他諸々の要因で離れなくなるから気をつけてね
ママより』
「ふぅ…………どうすんだ、これ」
キッチンにてゴシゴシと食器を洗い。
大学生は足に抱きついて離れなくなったBluetoothちゃんを見る。
「だいじょうぶ? 目がまっくらになってない?」
「そうそう気絶なんかしないから、座ってて良いよ」
あの一件を自分のせいだと謝り続けるBluetoothちゃんへBluetooth接続が切れただけ、と説明し。
大学生はついでに気絶の知識を与えてしまった。
結果『いつ倒れるか分からないのが人間』という情報が先行し、四六時中付き纏うようになってしまった。
「んっ、んー、手伝うっ! 今度は倒れない」
ケンタッキーに玉ねぎ、ネギ、卵を入れた炊き込みご飯をよそい。
大学生が持って行こうとすると、汚名挽回のチャンスとばかりにBluetoothちゃんはジャンプを繰り返して主張する。
「うーん……分かった、頑張って」
大学生は悩むフリをしつつ、部屋と部屋の境界に置いた椅子へ乗っかったスマホを確認してから茶碗を渡し。
冷蔵庫から飲み物を取り出す。
「……ん?」
振り返った大学生はまだ茶碗を持ったまま、自分のことを『じーっ』と待つBluetoothに気づく。
「どうした? 持っていっていいよ」
「ま、また、たおれるかもしれないから、まちます」
徐々に慣れさせるしかないか、そう大学生は不安そうなBluetoothちゃんの頭を撫でる。
「で、でも……」
「こぼしても、割れても大丈夫だよ。バイトすればすぐ買えるから」
母さん……貴方は数しれないほどゴミを作り続けたけど、ついに完成したんだね。
なんちゅう、えげつないものを作ったんだ?! Bluetoothちゃんは可愛いな。
「ほら、後ろついていくから倒れても大丈夫」
意を決して「あいっ」と頷くBluetoothちゃんはそのまま一歩を踏み出し、
『ガシャーーンッ!!』
再び、転んで茶碗が割れ。
大学生はニコニコしながら、あれ? と目の色が消えたBluetoothちゃんを抱き抱え。
どうして? と周囲を見渡す。
「っあ——スマホの電源が落ちてるッ!!」
そして30分後、来客用の茶碗に余ったご飯をよそい、カーペットの上に座って食べていた大学生。
「ごめっ……わた、わたしっ……」
その膝の上にはより一層強く抱きしめ、ヒクヒクと謝り続けるBluetoothちゃんの姿があった。
まだ書きたいBluetoothちゃんの話があるけど、とりま短編で投稿するわ