二人の王子の秘密
夜間に出る外は、ほとんど明かりがなくとても暗い。
それでも、所々から零れる明かりを頼りに宿屋の傍にある小さい原っぱがあった。
アイゼは何も言わずにそこに座ると、僕にも座るように促してくる。
草が生えているとはいえ、綺麗な衣服のまま座るのはどうしたものかと考えていると、
アイゼはポケットから小さいハンカチを取り出して敷いてくれた。
安心してそこに座ると、横にいたアイゼが顔を逸らした。
「ありがとうございます、アイゼ」
「別に……ところで、アオ。別に敬語とかいらないから」
「え?でも、立場はアイゼの方が上ですし……」
「いいの。初めから思っていたけど、アオは俺とライゼルのことを王族だと知っているみたいだけど、今は関係ないから」
そうは言っても、初めから癖にようになっている場合はどうすればいいのだろう。
少し考えを巡らせて、ひとまず頷いておいた。
「わ、かった。ぎこちないかもしれない……けど、許してね?」
「ん。それでさ、アオはどこまで俺たちのことを知っているんだ?」
「……どこまで……えっと……二人が本当はこの帝国の後継者ってことくらいかな……」
ライゼルとアイゼは王子、と教えられたが本当は皇子なのだ。
けれど、現在の皇帝陛下には子が居なかったはず。
皇妃様が子を授かれない身体であるため、血縁者に継承されたらしい。どこかの攻略サイトにあったはず。
「そっか……じゃあ、俺たちの父親が処刑された騎士団長だってことも知ってるんだな」
「……え?」
「え?知らなかったのか?俺たちの父親は、元々第二皇子で今の皇帝陛下の双子の弟なんだぞ」
「ご、ごめん……今、知った……!」
冒頭に少ししか出てこないあの騎士団長が、第二皇子なのは本当に知らなかった。
たぶんこれは最後に出てくるネタバレなのだろう。
しかも、皇帝陛下の双子の弟、ということも知らない真実だ。
一瞬だけ見た騎士団長の表情と、皇帝陛下の表情はどう考えても似ていない。双子なのかも疑わしい。
「……ええっと……騎士団長と皇帝陛下って、本当に双子……?」
「母様からも疑われたくらいだから、全然似てない双子なんだって言っていたよ。俺も並んで見た時に似てないから驚いたっけ」
アイゼの表情が少しだけ子どもっぽい笑みになる。
たぶん、これが本来の彼の表情のなのだろう。
けれど、騎士団長の結末は知っている。家族の目の前で処刑されてしまったのだ。
しかも騎士団長は子どもたちを泣かせまいと、満面の笑みを作って首を落とされた。
「……本当はさ、皇帝陛下が処刑される予定だったんだ。でも、魔王は何か紙を持ってきて騎士団長を処刑することに変更した、って言ってきた」
「紙を持ってきた?自分の言葉で伝えたわけじゃないの?」
「違う。明らかにあれは、人間が書いたものをそのまま渡している感じだった」
「……魔王の後ろに、中年男性が居たというのは……?」
「新の皇帝陛下になった頃に、横領や人身売買など暗躍していた男爵がいたんだ。そいつだよ」
ここでようやくライゼルの言葉がつながった。
おそらく騎士団長を処刑することに変更を指示したのは、その男爵だ。
騎士団長の実子である二人を絶望に突き落とすために、わざと変更したのだろう。最低な人間だ。
「父様が処刑された時、俺たちも辛かったけど……一番辛かったのは母様だった。酷いショックで眠ったまま起き上がれなくなったんだ」
「お母さん……確か、帝国一の治癒魔法使いだって……聞いたけど……」
「うん。今の大神官様以上の実力者で、滅亡したノクターン王国の第三王子だよ」
「……うん?第三王子?」
お母さん、というからてっきり女性かと思っていた。どうやら男性らしい。
驚いて動揺していると、アイゼが苦笑する。帝国外の人に言うと、だいたいこんな反応になるらしい。
「男だというのが信じられないくらい綺麗な人なんだ。髪も長くて綺麗で、少しの化粧と女性ものの服を着ると女性よりも美しいって言われていた」
「中性的な美人さん、ってことかな……?あれ?でも、ライゼルフォードとアイゼのお母さんなんだよね?」
「あぁ、男ではあるけど俺たちを産んでくれた」
「男性妊娠に出産……すごいお母さんだ……」
まさしくファンタジー世界が成せる技だ。男同士で結婚し、妊娠して子を授かっている。
その生きた証拠である二人の皇子がここにいるわけだ。
命の尊さに感動していた時、ふと帝国一の治癒魔法使いであるお母さんのことに気づいたことがあった。
「……ん?帝国って、ほとんど魔法を使える人がいないんじゃなかった?」
「そうだ。だから、魔法を使えるだけで重宝される。その中でも、治癒に特化した母様は別格だったよ」
滅亡された隣国であるノクターン。
その国の第三王子が、どういう経緯で帝国の第二皇子と結ばれたのか不思議でならない。
気になるけど、これは今追及するべきことじゃないと思う。
「そうか……治癒魔法使いである母様を動けなくさせれば、魔法で帝国を統治できる……?」
「え?でも、男爵は魔法が使えないんじゃないの?」
「男爵は使えなくても、魔王が使える。あいつは全属性持ちの最強魔法を使うからな」
全属性持ち、と聞いてぞっとする。その能力の高さがあるからこそ、魔族たちは全員従っているのだろう。
今のパーティーでどこまで太刀打ちできるのか、もはや不安しかない。
しかも、魔王城の通り道である地下道はアイゼが悲惨な死に方をする重要な地点だ。
そこを変えるためにも、能力の底上げをする必要がある。
「アイゼ、たぶんこのままだと僕らは全滅してしまうよ。それだけ魔王が強いのは、よくわかるでしょう?」
「……確かにそうだな。ライゼルに相談して、能力の底上げをできる拠点を作ることにしよう」
「うん。僕も精一杯、支援するからね」
「……あ、ありがと……あ!えっと、俺らの身内話はナタリアにはしないようにな!?わかったな?!」
「わかっているよ。ふふ、アイゼは優しいね」
「勘違いすんなよ!俺らの目的のためなんだからな!」
ようやく聞いたツンデレの台詞に、また笑いがこみ上げてくる。
誰よりも相手のことを考えているのに、素直に褒め慣れていないのがとてもわかる。
元気よくツンツンするアイゼを宥めながら、僕らも宿屋へと戻り就寝した。
そして、翌朝になりライゼルに相談した上で、近くを拠点として能力の底上げ修行が始まった。