表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

共感/非共感

作者: 西順

 スーパーの揚げ物コーナーに刺し身が置かれていた。きっと誰かが刺し身を買うのをやめて、揚げ物を買う事にしたのだろう。それでも鮮度命の刺し身を揚げ物コーナーに置いていくのは少しやり過ぎな気がする。だからって、この刺し身を鮮魚コーナーまで戻しに行く気にはならないが。


 スーパーの店員をした事はないが、こう言ったものを見る度に、スーパーで働くのは面倒そうだと遠慮してしまう。きっと見付けた店員が刺し身を鮮魚コーナーまで戻しに行くのだろう。


 そんな事を思っていたら、明らかに店員に見えないサラリーマンが、その刺し身を持って自らのかごに入れた。まさか買うつもりなのか? と思わずその男の後を目で追うと、男は当然のようにその刺し身をかごに入れたまま、セルフレジコーナーに入っていった。マジかよ。


 世の中には善人と言うものがいるものだ。お人好しと言っても良い。進んで厄介事を背負い込んで、損をする人種だ。自分でない誰かの為に、何かをしてあげられる精神は尊いものだが、それって自分が善人である事に酔っているだけなんじゃないの? と俺は穿った見方をしてしまう。


 先述のサラリーマンにしても、揚げ物コーナーの刺し身を鮮魚コーナーまで戻しに行くのなら分かるが、その刺し身を買うのは違くないか?


 俺は揚げ物コーナーで唐揚げをかごに入れ、そのまま店内をうろつく。するとまた見掛けてしまった。パンコーナーにおにぎりが置かれている。今日はこんなのばかり目に付くな。


 俺の頭の中では刺し身の犯人とおにぎりの犯人がイコールで結ばれ、勝手に同一犯と言う事になっていた。何たる奴だ。刺し身だけでなくおにぎりまでも。


 世の中には悪人と言うものがいるものだ。例えば刺し身とおにぎりの犯人。買い物するのにコーナーと違うものがそこにあると、奇麗な水に墨を垂らされたような嫌な気持ちになるからやめて欲しい。これは俺がA型だからそう感じてしまうのだろうか。


 どうしようか。さっきのサラリーマンを見てしまうと、自分も同じ事をしないといけない気がしてくる。これが同調圧力と言うやつか。俺は一度そのおにぎりを手に取り、…………またパンコーナーにそのまま戻した。何で俺が他人の尻拭いをしなければならないのか。そう思い直したからだ。


「すみません、困るんですけど」


 そこで後ろから声を掛けられ振り返ると、スーパーの女性店員が睨んでいる。元は俺がやった訳じゃないのに、これではまるで俺がパンコーナーにおにぎりを放置した犯人みたいじゃないか。


 俺は「違うんです」と喉まで出かかった言葉を呑み込み、愛想笑いでおにぎりを再び手に取ると、かごに入れてパンコーナーを後にした。だと言うのに、店員の奴まだ俺を監視していやがる。


 俺はその視線が嫌で堪らなくて、さっさとセルフレジで会計を済ませてスーパーを後にした。俺のエコバッグの中には、唐揚げとおにぎりだけだ。家に帰ったら飲もうと思っていた発泡酒を買い忘れていた。


 何なんだよあの店員。人を犯人扱いするなっての。なんかもう会社帰りにあのスーパーに行きづらくなっちゃったな。まあ、幸い駅前には他にもスーパーもあればコンビニもある。はあ。あのスーパーが一番安かったのに。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ