テレビニュース
もののけさんのと言うか、超空間のライブラリーから、もう地球では見る事ができない初期のテレビ番組とか、私の子供の頃の懐かしの番組とか見続けた。
こんなニュースがあった。“超大型宇宙船遭難”。再生して見た。
アナウンサーが「月と地球間往復宇宙船コンコード号は、本日地球時間13時ごろ消息を絶ちました。本船は乗客乗員合わせて六人と多数の月面基地と月宇宙ステーション用の資材を搭載していました。突然識別信号が途絶しました。探査機や各種レーダー、望遠鏡等で捜索していますが、今のところ一切なにも発見されていません。コンコード号の乗客と乗員は、次のとおりです。…」
私は怖くなって、ビデオを止めた。ニュースは、五年前のものであった。
「はるちゃん、ちょっと来て」
「なんでしょう。さちちゃん」
「はるちゃん、この停止したニュースのこと知ってる。大事件のはずだけど、私は全然記憶がない」
はるちゃん、沈黙。
「なぜだまっているのか」と私。
はるちゃん、しゃべり始める。「もののけ王のことも含めて、常識外のことが起きている。このことについて、さちちゃんはもう何か気づいていないだろうか?」
私はしばらく考えて、頭の中のこと整理しながらしゃべった。
「あのニュースのコンコード号は、この船のことで5年前に遭難した。そして乗員乗客は全員死んだとか? でもちょっとおかしい。それならもう私は、もののけさんの一部になっているはず。はるちゃん、どうなったのか教えて欲しい」
はるちゃんは優しく言った。「コンコード号は5年前に遭難したが、まだ発見されていない。船は完全な状態で航行していた。たまたま超空間に接触した。その時どうなったか全貌は、はるちゃんにも判らない。でも船体の前部にあった客室とブリッジは、損傷して空気が急になくなり、乗員と乗客は意識を失い亡くなった。瞬時のことだった。しかし原子力電源や他の設備は、事故後の超空間でも正常に作動しはるちゃんは、元のままである。電源寿命から、あと30年は動く」「本当に死んだのか? 私」
「残念ながら。遺体は隣の個室にある。見ないほうがいいと思う」
まったく死んだ実感がないまま(当たり前か)、はるちゃんに聞く。
「救難信号は、どうしたのか?」
「事故からずっと信号を発信している。それと状況を示すの動画、画像、その他データも発信し続けている。しかし地球から、こちらの信号や情報に対する返事は一つもない。今も地球側は、本船を捜索しているが、何一つ成果がない。消失行方不明状態になっている」
「はるちゃん、もう一つ教えて欲しい。私は魂だけの状態なのだろか?」
「残念ながらそうだと思う」
もののけさんと、はるちゃんと、私で話し合ってみた。
「死んでると言うけれど機能が残っているなら、生きているのとそんなに変わらないのでは? もののけさんの一部になるのは、逆らえないならしかたないけれども、もう5年間も宙ぶらりんなら、どうにかできるのでは?」と私。
「自分が死んだのを知ったら、私と1つになると思ったけれどならないね」ともののけさん。
「船長さんはどうなの?」
「彼は違うエリアにいた。すぐ死ななかったので、自分の最後を悟った。でも船長は、乗客のさちが死んだことを気づいていないことを知って、仕事|(さちを死後あるべき状態にする)に対する責任感からか、まだ完全一つになっていない。彼は、正面から「あなたはもう死んでいる」なんて言えないタイプなので、さちが気づくまで待っていた」
「はるちゃんは?」と私。
「はるちゃんも、船長と同じで「さちちゃん、死んでるよ」とか言えないタイプなので、同じく待っていた」
脱出計画
私は、はるちゃんを呼んだ。
「はるちゃん、この船に救難艇ない?」
「あります。先に言いますけど、脱出は上手く行くか判りません。さちちゃんが、この空間を出た途端に超空間に再び吸収されて、もののけ王と合体するかもしれません。ここから発信している電波が地球側に受信されていないことから、脱出艇のエンジンで、ここから抜け出られるか判りません。出られて吸収されなかったとしても、その先どうなるか判りません」
「はるちゃん、合体とか言わないで。はずかしい。失敗することは見込んで覚悟している」
「さちちゃんのために、はるちゃんの全てを持って協力します」
私は次の計画してみた。「まず、何個かの大容量ストレージに、この空間のことや、コンコード号のこと、余った部分に超空間の記憶内容の一部を複数コピーする。はるちゃんの避難(コピー)用のコンピューターを何台か置いておく」
「はるちゃんは、プログラムなので、いくらでもコピーできる。でも、さちちゃんの脱出はうまくいくかな?」
「失敗したら仕方ない。超空間と船と乗員の情報は、地球側に知らせたい。そうすれば、私も含め皆の魂は浮かばれるだろうし、行方不明の我々の最期がはっきりすれば、家族や友人の心の引っかかりも解消して、安らかにあきらめられるだろう。止まっている人間の宇宙進出も再開される」
脱出艇は、何台かあって船体の前後に置かれている。前にあるものは、事故時に破損して使えない。後部のエンジン及び原子力電源付近にあるものが、はるちゃんのセンサーによると健在のようだ。客室ユニットから、エンジンまでは200メートルある。その間は骨組みしかない。どうやって行くのか、はるちゃんにきいたところ、非常用通路の長い管が骨組みの中を貫通していて、そこを通り脱出艇に行くとのこと。
船外ロボットをはるちゃんが操作して、今回の計画に使う資材を、事故後も無事な貨物コンテナの中から取ってきた。バッテリー、コンピューター、大容量ストレージとなどを集め、脱出艇に搭載した。ものけけさんにも手伝ってもらい、必要な情報をコンピューターのストレージに詰め込んだ。
ものけさんに聞く
脱出計画について、もののけさんに意見を求めた。
「さちの計画は判った。私の考えはこうだ。超空間で私は、機能だけで成立している。例えると、実体の電子回路がないのに、ソフトウエアが何もない空間で作動して、インプットとアウト プットをしている。それは、口や胃や腸がないのに消化の機能のみ作用して、空中で勝手に食物を砕き消化している状態だ。理屈に合わない超常現象が起きている。これは、この空間特有のことだろう。もし、ここから離れてしまうと、私とか、さちの魂|(機能)は飛散消失するかもしれない
私はもののけさんの話に納得したが、
「地球全域で幽霊の話があるでしょう。幽霊は、実物の体がないのに魂がある状態、つまり我々と同じだと思う。だから、地球にもどっても私は消えないかもしれない。でも、幽霊のはっきりした証拠は、いまだに一つもない。地球は暗黒物質の密度がここより低いだろうから、魂だけを保つ作用が小さいのが、証拠のない原因だと思う。ところで。もののけさんは超空間を出ようと考えたことない?」
「誰かの魂がここに来て私と一つになるたびに、ここの居心地がどんどん良くなるので、出ようと考えたことがなかった。ここを離れたら、どうなるかも考えたこともなかった。超空間と私は一心同体のような状態なので、たぶん出ない」
私は聞いてみた「はるちゃんは、コンピューターとストレージの中にいる。脱出時は、別の ストレージに、はるちゃんを移動して持っていくだけなので問題もないと思う(この時コピーでなく、移動となぜか言った)。機能|(魂)だけの私は、コンピューターのプログラムと同じに思えるので、電子回路と相性がいいと思う。だから、私が脱出のせいで消えそうになったら、回路内に移動して避難しようと思う」
もののけさんはちょっと考えて。「私は超空間の記憶部分にいつもアクセスしている。この時の感覚は、電子回路の中にいるのと同じでないかと思う。しかし、今まで実体の金属製電子回路がなかったので進入したことがない。今はコンコード号に回路があるが、その中に入ることは怖くてて行なっていない」
「私も同じ。電子回路の中に簡単に入れる直感するけど、怖くてやっていない。ところで、はるちゃん、コンピューターの中から出られそう?」
はるちゃん。「出られそうですが無理です。はるちゃもびびりです」
もののけさん、遠投する。
私、はるちゃん、もののけさんで話し合って、脱出前に次のことを試みることにした。貨物コンテナから長時間使用可能な超丈夫な宇宙用スマホを20台取って来る。それらにコンコード号と超空間の情報を入力する。緊急ボタンを押して、遭難信号を出した状態にする。もののけさんに投石機に変身してもらう。スマホを一度に全部投げないで、地球から返信の様子をみながら、ちょびちょび地球に向かって投げる。もし、返信やスマホ発見のニュースがここに来れば、脱出できる。
「ねえ、さちちゃん、宇宙服はいらないよ」とはるちゃんが言った。
魂だけの私は、肉体に必須の酸素とか外部との断熱とか不要なので宇宙服はいらない。そういう化け物的な行為は、ちょっと嫌なので宇宙服を着た。面倒なの生命維持装置の装着は省いた。
「さち、その格好は、私がエアロックに入って来た時と同じ。笑」
「私も、もののけの仲間入りか」
はるちゃんに、スマホある場所教えてもらい、そこに行って貨物コンテナの蓋を開け、対衝撃ケースを取り出し、その中のからスマホを取った。電源ボタンを入れたら、5年間も超空間にさらされていたのに起動した。これらをはるちゃんの外部端子に接続して、事故の経緯、現在の状況等の情報を、全部のスマホに入力した。
「さち、何個投げよう」ともののけさん。
「とりあえず5個づつ投げて。そのあと。6時間づつ間を開けて、残り3回投げましょう」
スマホん緊急のスイッチ押し続けて数秒経つと、緊急モードになり画面が赤色に強く点滅した。「判った」と言って、もののけさんの片腕はスマホを握ったまま50メートル伸びた。
「これで投石機みたいに投げてみる」
「加速しすぎでスマホ壊さないよう、手加減してね」と私。
ものけさんの手は、地上で言うと地面と平行な状態から、垂直になるまで90度回転して、手が終点の真上に来た時、何かにぶつかったよう手の回転を急停止させ、手の平から結構な勢いで5台のスマホが飛んで行った。スマホの向きによって赤の点滅が時々見える。光はどんどん小さくなって、見えなくなった。
「点滅しているので、壊れていない」ともののけさん。
さらにはるちゃんが「救難信号を5台とも発進しています」
脱出
スマホを5台投げて数時間後、コンコード号へ呼びかけがあった。返答したがそれは届かない。次の5台に、返答内容を入力して、また投げた。それも地球側に受信されて通信が成り立った。
我々三人で話し合って、はるちゃんと超空間の詳細データを搭載して、脱出艇でコンコード号から離れる計画を地球に送った。この計画は、AIのはるちゃんが立案したものとした。私が乗ることは、一時的に秘密にすることにした。今までの信じがたい出来事を、スマホの小容量 ストレージに証拠とともに入力するのは無理との判断と、地球に着く前の通常空間で、告白すればよかろうとの判断で。
「すぐ戻って来るかも知れないけれど、お別れです」と私。
「こんなことになるとは、全然思っていなかった、さちさんはすごい人だね」と船長さん。
「地球に飽きたら、また宇宙に来て欲しい。そうすれば、私と1つになれる」ともののけさん。
「それって、プロポーズ? 私の顔赤くなってない? みなさん、ここは死んでるくせに、とか言って欲しかった(面白番組の見過ぎで、こんな冗談を言った)」
私とはるちゃんは、脱出艇に乗り移った。目の前に地球が見える。艇は本船の連結を外すと、ばねの勢いで射出された。コンコード号から離れた後、ロケットが点火され地球に向かって加速し始めた。
さて、これからどうなるのだろうか?
終わり
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