はるちゃんの警報
個室の壁のディスプレイパネルが、赤色に点滅にした。その赤色とはるちゃんの声は、熟睡中の私に届いた。
「警報。警報。船外非常出入口のドアが開きました。船内の環境に変化ありません」
私は寝ぼけていたのが、がんばって特急で覚醒した。
「はるちゃん、なにがあった?」
「宇宙空間側のドアが開きました。非常出入口はエアロックになっていて、ドアが2つあります。こちらの船内側のドアは開いていません。船内側のドアは、エアロック内から見て外開きなので、ロック内の真空と船内の気圧差によってドアは大きな力|(1トン以上)で船体に押し付けられているので開きません。すきまにゴムパッキンがあるので、空気がすぐなくなることもありません」
「初日の加速の時に結構揺れたから、それでドアが緩んで開いたのでは?」と私。
「さちちゃん、鋭い指摘です。振動で勝手に開かないように、人が意図した力をドアハンドルに加えないと作動しないようになっています」
「誰かかが外から開けたとういうこと? それは怖い」
「航行中この辺は何もない空間です。しかも秒速10キロメートル以上で移動しています。このような状態で本船と人が会うことはありません。出発時に貨物コンテナ区画にいた人が、今になって入ってきた可能性もありません。確認はできていませんが、ドア開閉確認スイッチの故障だと思います。この予想は間違いないでしょう」と冷静なはるちゃん。
「ドアどうなってるか見たらどう」と私。
「エアロック内のカメラレンズが何かに覆われていて見えない。出入口は、さちちゃんの個室の隣なので、ちょっと見てきて」
なんだかしょぼい宇宙船だと思った。加えて、その確認は乗員の仕事だろう、と文句をはるちゃんに言おうとした時に、パネルが再び赤色に点滅した。そしてはるちゃんが、
「ちょっとまってください。外側のドアが今、閉まりました」
私は怖くなった。これはドアスイッチの故障ではない。2回目の警報が出た時、何かと何かが当たる振動が船体に伝わったからだ。当たったのは、ドアと船体だと思う。
「はるちゃん。私の感じではエアロックの中に、何かが外から本当に入って、外側のドアを閉めたようだけど」
「さちちゃん安心して。エアロック内に船内の空気を導入しないと、先ほど説明したように人の力では開きません」
「空気の導入は、どうやって行う?」と私。
「ドアについているバルブを手動で開くだけです。バルブはエアロックと船内側の両方から操作できます」
「はるちゃん、そのバルブをロックして。今すぐ」
「バルブは手動タイプで、はるちゃんからの遠隔操作はできません。それとドア自体のロック|(錠前)もありません」
宇宙船の外から、不審者やエイリアン的なものが侵入することはないので、このような構造になるのは当然だろうけど。怖い。
なお、船内の人がおかしくなって理由なしに船外に出ようとした時は、まずはエアロック内に空気が満す必要がある。船外へのドアは、ロック内から見て内開きなので、ロック内の空気をポンプで回収して真空にするか、外扉の緊急バルブを開いて宇宙空間に空気を排出しないと開かない。おかしくなった人が無理に出ようとしても、他の人の安全は保てる。
私は個室を出ようとしたら、はるちゃんもいっしょに連れて欲しいとのことだったので、カメラ付きのパッド型コンピューターを持ち出した。
「はるちゃん見える?」
「見えます。さちちゃんと同じ目線ですね」
部屋を出て、非常出入口ドアの前まで行った。ドアの近くに、すでに船長さんもいた。
銀色の人
船長さんはエアロック内の照明スイッチをONにした。ドアに蓋つきの小窓がある。蓋は万一窓ガラスが破れた時に、空気漏れを防ぐものである。船長さんは蝶番付きの蓋を開いて、中をのぞく。
「人がいる。宇宙服を着ている」と仕事がら冷静に言った。
「はるちゃんもぜひ見たいので、さちちゃん、のぞいみて」
「うん」とうなずいて、船長さんの手を借りて(無重力なので、行きたいところにすぐ行けない)、私はパッド型コンピューターのカメラ(はるちゃんの目)を持ってドアに寄ってのぞいた。初期の宇宙飛行で使われたような、銀色のペラペラの宇宙服と白いヘルメットを装着した人がいた。(私は宇宙マニアで、宇宙服が1960年ごろの古いタイプと判った)
次に彼(たぶん)は、ドアをノックした。船内に入りたいとの意思表示である。
「船長さんどうしますか?」と私。
「入れるよ。真空中にいる人が、船内に入れてくれと言っている。入れない理由などない」と言ってすぐドアにあるバルブを開けて、ロック内に船内の空気を導入した。空気の流れによるシュー音が終わると、ロック内と船内の空気の圧力が同じになる。ドアハンドルを操作すれば簡単に開く。ハンドルは、船内とロック側の両方にある。
はるちゃん「外のドアもちゃんと閉じられているようです。隙間はなく空気もれはないです。問題はありません」
ドアは、そろそろと船長さんにより開けられた。中から銀色の人が現れた。ヘルメットは、どこかになくなっていて顔が見えた。男だった。
「ようこそコンコード号へ。私の言葉は判りますか? わたしは船長です。隣にいるのは、唯一の乗客のさちさんです。あなたについて、いろいろ話を聞きたい。いいですよね」
銀色の人「あなたの言葉はよく判る。船内に入れてもらってありがとう。今のところ、私に急を要する問題はない」
船長さん「この船は、外部に貨物コンテナが多数連結してある。あなたは、そのどれかの中にいたのだろうか? そうだとしたら、なぜこのようなことをしたのだろうか? 海の上の船ではよくあることだが」
銀色さん「私は密航者ではない。あなた方の船がちょうど私の近くに来たので、好奇心から近づいた」
はるちゃん「あなたをなんと呼べばいいでしょうか? それと、あなたの話おかしいですよ。その話が本当なら、秒速10キロメートル以上で航行している、この船の航路と同じところを、同じ向きに時速にして数キロメートルの差で、あなたが先に進んでいたことことになります。そんなことが実際に起きることはないです」
船長さん「はるの言うとおり。助けたのに、おかしな回答をされたら、こちらも厳しい対応になる」
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