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6巻目 世早見の趣味と杜家の食卓

よろしくお願いいたします

──放課後 2年建築科教室

 地弘はミーティングを終え、世早見、希と他愛もない話で盛り上がっていた。


「──つまり、夢幻列島にいる“ガルガラス”と“モルフィナ”を捕まえれば良いって事か?」

「そうそう、2体ずつね。んで、“ガルガラス”と“モルフィナ”を融合させて、“ガルフィラス”作んの。そいつが闇属性攻撃力が50ちょっとあって、隣のモンスターに対絶望属性を付与してくれんのよ」

 世早見が自慢げに地弘に説明した。

 猫背で目まで隠れる長い無造作な髪の彼がこういう話をすると、何故かしっくりくる。話す声はハキハキとしているのだが湿っぽい陰気な見た目がオタクっぽさ(﹅﹅﹅﹅﹅﹅)を際立たせている。


 彼らが話しているのは、今、中高生を中心に爆発的人気のあるMMORPGの“フュージョン・モンスター”、通称“(エフ)モン”の話である。

 2000種以上の基本モンスター、6000種以上のアイテムから無限に近い組み合わせの融合モンスターを作り、パーティを組んでストーリーを進めたりフレンドと対戦したりできるゲームである。

 秀逸なデザインのかっこいいモンスターからポップで可愛いモンスター、繊細で美しいモンスターなど幅広いデザイン性のモンスターが男子からも女子からも人気があるソーシャルゲームである。

 地弘らもこのゲームに夢中になっていた。


「なるほどなぁ、そいつらを使えば良いんだな」

 地弘は教えてもらったモンスターの名前を呟きながら頷いた。


「僕も“グルグルメー”捕まえたよ〜、6匹〜」

「やるな希、これで400体くらいか?」

「396体目だよ、光琉。その6体で希が捕まえた“グルグルメー”の数は396体だ」

「よく覚えてんな、地弘」

「そうか?希は“グルグルメー”しか捕まえないし覚えるだろ」

「覚えねぇだろ!」

 世早見は食い気味に突っ込んだ。


「てか、携帯でやればいいじゃんFモン。なんで、家に置いてるタブレットでしかやらねーの?」

 世早見が携帯を取り出し、地弘に尋ねる。


 地弘も携帯を出すとクルクル回しながら、答えた、

「いやまぁ、歩いてる時は落とすから携帯触りたくねぇし、学校居る間はお前らと喋ってたいから学校で携帯触る事殆ど無ぇんだよな」

「……たまにそういう事言うよな、地弘って……恥ずかしくねぇの?」


「……何が?」


「何でもねぇよ」

 世早見は大袈裟にため息をつきながら首を横に振った。



「あ、思い出した。とっておき(﹅﹅﹅﹅﹅)だ」

 突然、世早見がポンと手を叩いた。無造作で長い前髪の奥の黒い瞳が輝く。

 地弘と希が首を傾げた。


「昼に言っただろ?とっておきの都市伝説だよ!」

 世早見は嬉々とした表情をしている。

「あぁ、さっき言ってたな」 

「何〜?」

 態度は違えど、2人は反応をした。


「聞いて驚けよ、108つある一野樹市の都市伝説の1つが竜頭(りゅうず)町の別荘地にある事が分かったんだ!」

 急に立ち上がり、机にバンッ、と手を付いた。


「そ〜なの?すご〜い!ひかるん、よく分かったね〜」

「まぁな。このミステリーキングに掛かればその(くらい)余裕よぉ!」

 世早見は、ここまでのドヤ顔が出来る人間が他にいるだろうかと思える程のドヤ顔で胸を張った。


「さすが、ミステリーキングだね〜」

 希が世早見を褒める。

 希自身は、都市伝説もミステリーキングもよく分かっていない。

 なんかすごそう、という感覚だけで褒めているに過ぎないのだが、世早見に調子を乗らせるには十分だった。


「そうだろう、そうだろう」

 世早見が更に胸を張る。


「ちょい待て待て、108つは多すぎんだろ。煩悩の数かよ」

 地弘がつっこむ。


「今から、皆で行こうぜ!」

「話を聞けよ、光琉!そもそも都市伝説って何があるんだよ」

「確かに肝心の内容を言ってなかったな。竜頭の別荘地にある都市伝説の名前は!“怪奇が集う館”だ!!」

 世早見はドヤ顔で言い放った。


「おぉ〜」

「希は分かってねぇだろ」

「ん〜、分かんな〜い」

 希はエヘヘと笑った。


「竜頭の山奥の方に、家主だったお婆さんが死んでから誰も住んでない館があるんだよ。それで、一野樹市で起こる怪奇現象の発生場所を辿っていくと行き着く所がその館だって言われてるんだ」

「へー」

 世早見の説明に地弘が反応した。


「お?ちょっと興味湧いてきた?」

「ちょっとだけな」

「それじゃあ、もう少し詳しく話を聞かせてやろう。俺が竜頭にあるって気付い……あぁ!!忘れてた!」

 世早見がいきなり大声を上げた。


「うるせーな、なんだよ」

「今日、会合だ!しかも報告会だし時間かかるじゃん!すまんけど週末行こう!予定空けとけよ!じゃあまた明日!」

 世早見は鞄を持って教室から飛び出していった。


「ひかるん、じゃあね〜」

「慌ただしい奴だな。俺らも帰るか」

 地弘も鞄を持ち、席から立ち上がった。


「ひかるんはなんで帰ったの〜?」

拳勇団(けんゆうだん)の会合だってよ。ほら、俺らも帰ろうぜ」

「分かった〜。あ〜!忘れてた〜」

 

「お前もかよ!で、なんだよ?」

「はる(ねぇ)が夜ご飯作るから食べに来なってっ言ってたよ〜」

 地弘の問いに、希は「え〜と〜」と少し考え、答えた。


「マジ!?陽夏(はるか)さん帰ってきてんの?いつから?」

「ん〜とね、朝起きたら居た〜」

「晩飯っつったな、行く行く」


────────


──希の家

 地弘らが玄関を開けると、ピンクのエプロンが良く似合う女性がキッチンから顔を覗かせた。

 20代前半の彼女は、細身の割に出るところは出ており、健康的な黒髪ショートボブの女性だった。


「希おかえりー!お、久しぶりだな、地弘!ゆっくりしてけよ」

 ショートボブの女性──杜陽夏(もりはるか)は玄関口まで出てくると希を抱きしめた。

「はる(ねぇ)ただいま〜」

「おう、おかえり!」


 希を抱きしめ終えると、今度は地弘を抱きしめた。

「陽夏さんお久しぶりです。お邪魔します」

「おう地弘、ゆっくりしていきな。てか、地弘お前、ちょっと見ないうちに大きく……なってねぇな。小っちゃいままだな!」

「それは言わないでくださいよー」

 地弘は、抱きしめられながら会話を続けた。


 陽夏には誰彼構わずハグをする癖がある。彼女のルックスとスタイルでハグをされると勘違いする人間も多く、それゆえに敵も増えがちではあるが、仕事柄世界中を飛び回る為ハグが良い方に転がる事の方が多い。


「ふゆ(ねぇ)にただいま言ってくる〜」

「あ、俺も冬乃(ふゆの)さんにお線香あげさせてくれ」

「いいよ〜」

「ふゆ(ねぇ)も喜ぶよ。地弘、ありがとな」

 陽夏がグーサインをしながらお礼を言った。


 杜冬乃(もりふゆの)は希と陽夏の姉で、6年前に病で亡くなっている。地弘や世早見は中学に入ってから希と出会ったので、冬乃に会った事は無いが希から優しい姉だったと聞いていた。

 

────────


 仏壇に手を合わせた地弘と希は、リビングに向かった。


「いやぁ、久々の陽夏さんのご飯楽しみだな」

「僕も〜」


「あれ〜?」

 2人がリビングに入ると先客が1人いた。


 元々小さな背中が緊張からか、より一層小さく縮こまった女の子が1人ちょこんと座っていた。


「こよちゃんだ〜、どうしたの〜?」

 リビングの中央にある低いテーブルの地弘らが入ってきた扉から1番近いところに座っていたのは、桜庭小世美(さくらばこよみ)だった。


「夕飯の買い出し行ってたらスーパーでばったり会ってさ、せっかくだしうちで夕飯食ってきなよって誘ったんだ」

「杜先輩、お邪魔し……ッ!……マス……」

 挨拶しながら振り返った桜庭は驚いた表情を見せた後、頬を赤らめて小さな声で挨拶した。


「どしたの〜?こよちゃん顔真っ赤だよ〜?」

「ほーん。良いねぇ。青春だねぇ」

 桜庭の様子をキッチンから見ていた陽夏がニヤニヤと笑った。


「ん?」

 地弘と希は首を(かし)げた。


「もうすぐできるから、座って待ってな」

「俺、なんか手伝いますよ」

「いやいや、客人はゆっくりしときな。希ー、白くて大きな深い皿を4枚と、白くて中ぐらいの平たい皿を4枚と、銀の大きなスプーン3本と銀の中ぐらいのスプーン1本を出してくれるかい?」

「は〜い」


────────


 陽夏は、料理をリビングに運び、エプロンを脱いだ。

「よーし、食べよう食べよう。希は姉ちゃんの隣に座りな、地弘はこよちゃんの横だ」

「は〜い」

「うす」

「ハ…ハイ」

 地弘が隣に座ると、耳まで真っ赤になった桜庭は小さな声で返事をした。


 それを見た陽夏はニヤリと笑った。

「あー、そっちか〜。いいねぇ、青春だねぇ。お姉さん熱くなってきたよぉ」

「はる姉どうしたの〜?」

「ん?いやぁ、何でもないよ。ふふふ。ささ、積もる話は飯を食べながらだ。陽夏さん特性オムビーフシチューとカラフルチョップドサラダだ。たくさん食えよー!」



────────



── 一野樹市内 とあるビルの一室

 薄暗い部屋の中には、人影が2つあった。


「新入社員はどうだね?」

 部屋の1番奥に置いてある大きな革の椅子に座っている老人が尋ねた。その老人の顔には斜めに大きな傷が刻み込まれている。


「はい、期待できそうな“原石”たちは大勢居ますし、中には数人輝き出してる者もいます。特にこの間の“健闘士”さんは、“社長(﹅﹅)”の能力(コミック)が無くても十分戦えます」

 ビジネススーツに身を包んだフチなし眼鏡の女性が応えた。


「そうか、引き続き頼むぞ。 そろそろ動き出していい頃だろうからな……」


「承知しました」


ありがとうございました

次話もよろしくお願いいたします

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