5巻目 1回戦
コミックマッチ1回戦の残りの試合のダイジェストになります。
Twitterの方で参加選手の能力等をツイートしていますので、そちらもぜひご覧下さい。
それではよろしくお願いします。
1回戦第2試合は繊維軍、情報処理軍、自動車整備軍の試合である。
能力者自身を媒体とする変形型が集まる情報処理軍は、地弘ら建築軍と同様バランスの取れたアタック&ブロック作戦。
攻撃に守備、移動、妨害までも持ち前のチームワークで器用にこなす繊維軍は当然のようにアタック&ブロック作戦。
例年は火力重視のオーバーアタック作戦で攻めがちな自動車整備軍も今回は、アタック&ブロック作戦に挑戦しているようだ。
──大体育館 男子更衣室
2試合目が始まり、1試合目に出場した選手はアイシングをしたり、ご飯を食べたりと身体の休息と回復を図っていた。
モニターが設置されており、ここにいながら2試合目を観戦する事も可能となっている。
サッカー部のマネージャーを務める木上や男子バレーボール部に所属している2年ME軍の羽賀が、試合に出場した皆のアイシングを手伝っている。
「2Aの後輩君!君は思ったより小さいんだな」
と、地弘に声を掛けたのはセラミック軍リーダーの相良だった。
身長の事を言われ、地弘は露骨に嫌な顔をする。
「あぁ、すまんすまん。試合中の存在が大きく感じたからさ」
軽く謝ると更に続けた。
「君の傘、俺の腕と似てるだろ?」
「あ、確かに」
相良の言葉に反応したのは、地弘の隣でセラミック軍の梶本の脚を冷やしていた木上だった。
「だろ?それで思ったんだけど、せっかく2つの特性を持った能力なんだから、2つを組み合わせた必殺技みたいなの考えたらいいんじゃねぇかなって」
「必殺技……?」
地弘が聞き返す。
「あぁ……必殺技、だ。例えば、俺だったら全相殺の左腕と超反発の右腕をぶつけて、超反発の衝撃を飛ばす事ができる。これで防御系の俺の能力に1つ、攻めの手を増やすことができるんだ」
「さっき僕にやったやつだね」
木上の反応に、「そうだ」と返す相良。
「必殺技か……」
「まぁ、出来る事を増やせばやれる事も増えるだろうしな。じゃあ俺は体育館で試合見てくるから、2回戦も頑張れよ」
「あ、あざす」
地弘は、手をひらひらと振りながら部屋を後にする相良の背中に向かってお礼を言った。
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「霧峰先輩、この試合は何に注目すると良いんですか?」
更衣室の壁に設置されたモニターに映し出される2試合目を見ながら、島が尋ねた。
「そうだな……今回のフィールドは草原。私たちが試合をした森に比べて遥かに見通しが良い。こういうフィールドの場合、積極的にボールを取りに行けるオーバーアタック作戦を実行するチームが優勢に立つ事が多い。だが、今回は3チームともアタック&ブロック作戦のようだから、リーダーの采配と個々の判断力が勝負の決め手になってくると思うぞ」
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──第1回戦第2試合 フィールドテーマ“草原”
試合開始から10分。
平沢寿休のシュートで繊維軍に点が入った。
「おっしゃ!ナイスフォローだ!代中!」
「あざっす!平沢先輩もナイッシューです!」
「おうよ!」
平沢は、代中にグーサインを出すと後ろを振り返り叫んだ。
「はっはー!見たか!美珠〜、進介〜!」
「るっせー!ほとんど後輩くんのフォローじゃねぇかよ。てめぇは靴紐使ってねぇじゃねぇか!」
「ばーか、後輩の力を最大限に引き出すのも先輩でありリーダーである俺の実力なんだよ!」
「……さ、笹谷くんっ!つ……次のボールが出てくるよ!」
「そうだな。俺らも頑張ろうぜ、柊菜!見てろよ、寿休、美珠!」
繊維軍リーダーの平沢寿休、自動車整備軍リーダーの笹谷進介は共に野球部に所属しており、情報処理軍リーダーの千葉美珠と自動車整備軍3年代表の轟丘柊菜は野球部のマネージャーを務める。
彼らは小学校からの同級生であり、奇しくも幼なじみ対決となっていた。
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試合終盤。
激しい奪い合いの末、天井スレスレに打ち上がったボールを掴んだのは、自身の身体の一部をポンプに変え、空気を圧縮・放出する能力・加速機巧で大ジャンプした千葉だった。
「させるかよ!」
彼女の目の前に繊維軍3年代表・秋山が現れた。彼の頭上には円盤型のUFOが浮いている。このUFOが彼を空中まで連れて来たのだ。
「能力、拘束する左腕!」
大きく振り被った左腕は一瞬で、彼女を丸々包み込めるほどの大きさの虫取り網に変化した。秋山は網を振るうが、その網は彼女をすり抜け、ボールのみを捕えていた。
彼女はちっ、と舌打ちすると呟いた。
「やっぱり、頼空ちゃんのUFOが厄介だわ。でも……弱点もちゃんとある!」
彼女の加速機巧が踵から踝に移った。
「縦から横へ!」
一瞬だけ空気を放出し、空中で身体の向きを地面と水平にした。すかさず、ふくらはぎをポンプに変え、空気の全力放出。
ブォンッ、と空気を切り裂く音と共に放たれた彼女の回し蹴りが、
円盤形のUFO──紬木頼空の能力・拾われた未確認を蹴り飛ばした。
「あっ!!」
秋山が「やばい!」と言わんばかりの表情で彼女を見る。
「あんたは、空中に居る術を持ってない……でしょ?」
秋山からボールを奪い返し、ゴール下で待つ1年の沢田大疾にパスをする。
沢田はボールを受け取るとそのままシュート。
一際長いブザー音が鳴り響いた。
第2試合終了。2回戦進出 情報処理軍。
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1回戦第3試合は電子軍、電気軍、工業化学軍の試合なのだが、圧倒的だった。
彼らのチームワークは完璧だった。
メンバー間の長所短所を完全に理解、補完し合う事で相手チームの弱点を的確に狙い、試合開始からおよそ6分、ブザー音が鳴る。
14対4対3。電子軍に14点目が入った。
高パワー高スピードのチームは沢山いる。
チームワークの良いチームも沢山いる。
相手の動きに柔軟に対応できるチームも沢山いる。
彼ら電子軍はその全てが頭ひとつ飛び抜けていた。
ボールが現れたのは電気軍側のエリア。
「これ以上、電子軍に決められてたまるかよ!凍てつく海嘯!」
電気軍2年代表の萱野隼は、氷のサーフボードの上に乗り、加速。地面に転がるボールを掴んだ。
萱野に対して、電子軍1人工業化学軍2人がボールを奪いに近付く。
「りょう!」
「ちっ」と舌打ちをした萱野は電気軍リーダーの真名部涼馬を呼びながら、向かってくる3人に対して大きなドリフトをし、細氷──俗に言うダイヤモンドダストを巻き上げた。
「呼び捨てにすんじゃねぇよ、ば萱野!
能力!何処までも続く晴天!」
走ってきた真名部が手を翳すと、ボボボンッ、と連続した小さな爆発が起こった。萱野が巻き上げた細氷を爆弾に変え、爆破したのだ。
広範囲に及ぶ爆風は近付く3人を吹っ飛ばした。否、吹っ飛んでいたのは工業化学軍の2人だった。
「建前の締結、接続ッ!……先輩の爆破は風圧だけって分かってるからね」
対象同士を繋ぐ自身の能力で、自分の身体と周りの地面や壁とを繋いで爆風に耐えた電子軍2年の仲人助は、萱野に近付いた。
「こっちだって耐えられるのは分かってたよ!この爆破は、2体1に持っていくためだ!ボールを取りに来たのが咲誇ちゃんじゃなくてあんたで良かったぜ!ば萱野、行くぞ!!」
「ああ!」
真名部は萱野のサーフボードに手を翳した。サーフボールから絶えず溢れる細氷が爆弾に変わり、文字通り爆発的推進力が生まれた。
「速い!捉えきれない!」
仲人はインプロで追いかけようとするが、一瞬で引き離されてしまった。
真名部の引き起こす爆破は連鎖していく為、サーフボードから絶えず溢れる細氷に次々と着火し、萱野が真名部から離れたあとも爆破を続けていた。
爆発的なスピードそのまま、器用にボードを切り返し爆風で飛び上がった萱野はボールを持ったまま、ゴールに落下していった。
そのまま、ボールはゴールに入っ……
……
……
……
……
「くそがぁぁ!電子軍リーダーの能力強すぎんだろ!結果を5秒延長させるって何だよ!ズルすぎんだろ!だぁぁぁぁ!!!入んねぇぇぇ!!!!」
ゴール手前、ボールがピタリと止まりそれ以上は一切進まなかった。
「ボール持って来てくれてありがとね」
「ちっくしょぉぉぉぉ!」
電子軍リーダーの延岡洋は萱野からボールを奪うとそのままゴールした。
試合終了を知らせるブザー音が鳴り響く。
2回戦進出 電子軍。
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1回戦第4試合は造園軍、環境工学軍、家具インテリア軍の試合である。
地弘は、大体育館2階の観覧席から試合を見ていた。
「──さあさあ、メンバー紹介もフィールド発表も終わり、本日最後の試合です!──」
「えぇ!環境工学のリーダー、生徒会長じゃん!」
実況を務める樫野のアナウンスに地弘が声を上げる。
「メンバー発表の時、言ってたよ。ホントに話聞いてなかったんだな」
と、世早見が笑う。
「あぁ、めっちゃ寝てた。てか、あの人って生徒会長もクラス長もやってんだろ?コミックマッチのリーダーなんてよくできるよな。パンクしちゃうだろ」
感心する地弘に、世早見がニヤリと笑みを浮かべた。
「知ってるか?生徒会長って実は3つ子で、こっそり交代しながらやってるから3倍働けるらしいぜ」
「すご〜い!」
隣で聞いていた希が驚いた。
「また光琉の都市伝説か。おら、真に受けんな希。コイツのはガセばっかだからな」
世早見「何だと?それなら放課後にとっておきを教えてやるよ!」
地弘「分かった分かった」
────────
1回戦最後の試合は広範囲に影響が及ぶ能力で相手の妨害をするレンジダメージ作戦を採用しているチームが多かった。
試合開始から10分。
お互いに中々点数が決まらない状況が続いていた。
ボールの近くでは、造園軍2年代表の雨知莉夢と環境工学軍1年代表の十川和奏がボールを奪い合っていた。
「能力!邪神の炎!!」
雨知の左の掌から打ち出された炎の玉が十川を襲った。
「きゃあ!何すんのよ!!」
十川は、全身から炎を吹き出す自身の能力でそれを防いだ。
「火力勝負ね。やってやろうじゃないの!本気に行くわよ!能力、邪神の炎!」
今度は彼女の右の掌から轟々と炎が放たれた。
十川は自身の能力を発動したが、吹き飛ばされてしまった。
「くっ、やっぱり近距離の炎は威力がすごいわ。でも……こっちもやられっぱなしじゃいかないの!」
十川はゆっくりと立ち上がろうとする。
「もういいから、そこで寝てなさいよ!!」
雨知は左手の、炎の玉の方の邪神の炎を溜めた。
「……あ……れ……?」
急に雨知の視界が大きく歪み、意識が朦朧とし始めた。
「ハアハア……やっと、始まったみたいね。」
十川が苦しそうにニヤリと笑う。
「何……を……した…のよ?」
炎の玉が消え、雨知は膝を突いた。
「私は……あなたみたいに全てを燃やし尽くすような炎は出せないけど……温度の上昇率は燃えた時のそれとは比べものにならないわ……今、あなたを襲ってるのは脱水症状と熱中症による意識障害よ。能力、干枯らびた魂の跡地……でも、私もダメみたい……」
2人はそのまま意識を失った。
ボールが出現して、1分半。
ボールは再出現した。
────────
試合開始から14分30秒。
家具インテリア軍1年代表の大橋勇太は、環境工学軍3年代表の岩本智也とボールを奪い合っていた。
「喰らえ!勇気の波!」
大橋の声と共に堅い地面が波打ち、深い藍色の巨躯を持つホオジロザメに近い種類のサメが地面から現れた。
「よりによってサメくんかよ。相性最悪だ。能力正解の盾!」
岩本は突っ込んでくるサメを、光系の盾で防いだ。
「勇気の波!喰い破れ!」
「まずいな。」
岩本は目の前に盾があるにも関わらずその場から飛び退いた。直後、サメはその盾に噛み付いた。
大橋のサメはまるで何も無いかのように盾を食いちぎった。
「くそっ、もっとバランスよく借りてくるんだった!サメ出すだけじゃねぇのかよ!なんだよアンチコントロールって!喰らったモノの支配権、操作権を消し去るって意味分かんねぇよ!焔玉!」
「勇気の波、潜れ!」
撃ち出された火系の玉を地面に潜ることで躱したサメはそのまま岩本の後ろから飛び出し、左腕に噛み付いた。
「痛くは無ぇ……けど!」
岩本は左腕に力を入れようとしたが、全く動かなかった。
脳の司令が左腕に届かないのだ。
岩本はその後も右足の操作権も奪われ動けなくなってしまった。
「ボールは貰います!」
大橋はボールを拾い上げ、走り出した。
「こん毬を持っていけばええんやろう?」
「!?」
聞き慣れない訛りと共に、袴姿の男が大橋の持っていたボールを奪い取った。
「何だ!?……ん?……あ!坂本龍馬!?」
ボールを奪ったのは、歴史の教科書に出てくる誰もが知る土佐藩の志士、明治維新に関わった江戸末期の偉人、坂本龍馬その人であった。
数秒遅れて環境工学軍リーダーの皆導全一が追い付いた。
「間に合っ…てないですね。トモヤン大丈夫?」
倒れて動けない岩本に声をかける。
「大丈夫に見えるかよ。で、なんで坂本龍馬なんだ?」
「昨日、テレビで見たんだよね。あ、龍馬さん!あの網に入れてください」
坂本龍馬は2つ返事で持っていたボールをゴールに入れた。
死者を一時的に召喚する皆導の生命の殺り取り。死者は操れるわけではないので、味方に出来るかどうかは皆導のコミュ力に掛かっているのだが、生徒会長、3年環境工学科クラス長、環境工学軍リーダー、利根町内会青年団団長(利根は一野樹市の中にある行政区画の1つ)、5人兄弟の長男、一野樹市キャンプの会・高校生の部部長を務める皆導には特に問題は無かった。
そこからは、2人の最強の指導者を手に入れた環境工学軍の独壇場だった。
試合開始から20分。試合終了の時間である。
環境工学軍13点、造園軍11点、家具インテリア軍9点で試合が終わった。
環境工学軍2回戦進出。
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数分後、開会の時と同様に各クラスが体育館の1階に整列した。
「本日の日程は全て終了しました。選手の皆さんお疲れ様です。明日は2回戦と決勝戦がありますので、今日は練習は行わず軽いミーティング程度にしておいて下さいとの事です。この後、各軍のリーダーは1度集まって下さい。それでは、後ろのクラスから教室に戻ってください。本日はお疲れ様でした」
放送委員副委員長の漁火のアナウンスでコミックマッチ1日目は終わった。
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──放課後、第5体育ルーム
そこには、建築軍の4人が集まっていた。
「みんな、今日はありがとう。おかげで2回戦進出できた。この調子で明日もよろしく頼む!反省点はこの後整理してLINEのグループに流しておく。今日はゆっくり休んでくれ。では解散!」
ありがとうございました。
次話もよろしくお願いします。