2巻目 建築軍のメンバー
よろしくお願いします
───放課後。
まだいまいち実感が湧かない地弘は、言われた通り第5体育ルームに居た。そこには1年の島、3年の木上も居た。
暫くすると、ガラッと勢いよく扉が開き、台車の上に何やらたくさんの荷物を載せた霧峰が入ってきた。
「よーし皆居るな。再度自己紹介しよう。霧峰努夢だ 」
地弘と島が挨拶をすると話を続けた。
「早速本題に入るが、私は皆の能力の内容について大まかには知っているが細かい部分は分からないんだ。発動タイミングであったり、効果の及ぶ範囲であったりね。君たちもお互いの能力を理解する為に1人ずつ自分の能力について教えてくれ。……っと、その前に1年の島もいるし能力の分類について説明して──」
霧峰の話を「ちょっとすいません」と遮ったのは地弘だった。
「中河君だな。どうした?」
「あ、いえ、どうして俺がメンバーに選ばれたのかなーって。俺の能力って使い辛いし、もっとシンプルで応用の効くジ……中野や岡野の方が良いと思うんすけど……」
「それについてはおいおい話そう。とりあえず分類について説明していいかな?」
「あ、はい。すんません、お願いします」
「え〜、まず私達の操る能力は、その性質によって9つの型に分かれ、その中でも目的によって7つの系に分かれるんだ。先生から聞いてると思うが……」
「はい!入学して最初に教えてもらいました」
島が反応した。
「よし、それなら再度確認って事で。まず、能力はその性質によって増幅型、操作型、五元型、多元型、時間型、空間型、展開型、変形型、瞬間型の9つの型に分かれるんだ。そして、その能力の目的によって攻撃系、防御系、移動系、隠密系、探査系、特殊系、万能系の7つの系に分かれる。これらの型と系の組み合わせ63種類に全ての能力は分類されるんだ」
──霧峰が説明したように、能力には性質と目的によっていくつかに分類される。能力を持つ人たちは能力者、持たない人たちは未能力者と呼ばれるのだが、能力者になるタイミング─つまり、能力が発現するタイミングは人によって異なる。また、能力は、その能力者が持つモノの考え方や捉え方に左右される。──
「例えば、何も無いところから剣を生み出すような能力があったとしよう。まぁ3Aに居るんだけどね。で、この時考えられる型は何だと思う?島くん」
「えっと……展開型ですか?」
島の答えに霧峰は大きく頷いた。
「そうだな、私もそう思う。でも、センス……あ、センスってのは能力を発動する時に現れる身体の周りを覆う透明なモヤのようなやつの事なんだが、そのセンスを集めて剣を作り出してるかもしれないよな」
「あ、そうか!ということはセンスから剣への変化。つまり、変形型も考えられる訳ですね!」
「そうゆうことだ。系統だって剣だから攻撃系と思い込んではいけないよ。ちなみに、そいつが持つ剣を生み出す能力の分類は時間型探査系だからね。だから、相手の事をよく観察して分類を見極める必要があるんだ」
「なるほど……分かりました!」
島は大きく返事をした。地弘も「確かに」と頷いていた。
「あとはこのセンスだが、能力に使っていない間も出すことが出来て、その間運動能力や自己治癒力が少し上がる。このセンスのみを出し続けている状態をインプロと言うんだが、これはまぁ分かるだろう」
霧峰はインプロ状態を見せた。
「……とまぁこんな感じだな。じゃあ早速能力を紹介し合おうか」
「じゃあ、まずは僕から教えようか。といっても見てもらった方が早いかな」
そう言うと木上は人差し指を上に向けた。すると指先から勢いよく水が飛び出した。その水は広がったり落ちたりせず、ある程度の細さを維持したまま途切れる事無く部屋中を駆け巡った。
「これが僕の能力、止み続ける雨だよ。この水の糸は大体20メートルくらいまで伸ばせるよ。一応、水圧の力で物体を掴むことは出来るけどせいぜい20キロが限界かな。分類としては五元型特殊系だね」
そう言いながら木上は人差し指を軽く振った。すると、木上の身体の周りに留まっていた止み続ける雨の先端が動き出し壁に掛かっている時計を囲んだ。
再び指を振ると水の糸は水の輪になり、時計の周りを回り始めた。すると、その輪の回転に合わせて秒針が早く動きだした。
島と地弘の驚きの声が館内に柔らかく響いた。
「能力にはステージというのがあって、水の糸を操るのがステージ1。そしてこれが僕の止み続ける雨のステージ2、この水の糸で囲んだモノの流れを加速させるんだ……といっても、この糸で囲える規模のモノで動きにある程度の規則性がないと加速させれないけどね。僕のはこんな感じかな」
木上は止み続ける雨を解除した。
(すごいけどなんでこんな能力が代表なんだ?)
地弘は不思議に思った。それもそのはず。コミックマッチは毎回少しずつルールが変わり、チームの相性や能力の駆け引きが試合を盛り上げるのだが、まだまだ未熟な高校生ゆえ基本的にパワーやスピード、効果の及ぶ範囲が広い能力が重宝されるのだ。
「僕の次は…じゃあ2年の、えっと…」
「あ、中河地弘っす。んと、俺の能力は展開型防御系の小人の雨宿りで、掌から傘出せます」
地弘はそういうと掌を前に突き出し、全身からセンスを放出した。放出された透明なモヤのようなセンスは突き出した掌の先に集まり、1本の短い槍のようなモノが現れた。地弘が少し手を突き出すと本物の傘が開くように、小人の雨宿りが展開された。
「左右の掌から1つずつ出せて、衝撃を受けると消えます。どんくらいの衝撃に耐えるのかはやったことないっすけど時速80キロの車を止めるのは楽でした」
地弘は自身の傘を具象化してみせた。
「へー!絶対的な防御力を誇る能力か!いいねー!」
木上が感心した表情で言った。
「あと、傘の内側が弾きます」
そう言って地弘は傘の内側を上に向け、その上に飛び乗った。
ポヨンという軽い音ともに地弘は高く飛び上がった。
「受け止める外側に、弾く内側か。絵に描いたような防御系だね」
「俺はこんな感じっす」
「1年の島です!僕の能力は滑稽な烏です!操作型特殊系で、触れた人の隠している性格や感覚をコピーすることが出来ます!」
「ん?」
島の説明に木上と地弘は首を傾げた。
「そりゃ、そんな顔にもなるな。よし、島くん、私に対して能力を発動してみてくれ。その方がこの2人にも伝わるだろう」
そう言いながら、霧峰は島に近寄った。
「分かりました!では、失礼します!」
島はセンスを纏った右手で霧峰の肩に触れた。すると霧峰の胸の辺りから黄色い玉のようなものが出てきた。
ふわふわと空中に浮かぶそれは、ゆっくりと島の胸に入っていった。それと同時に、パキパキという未開封のペットボトルを開けるような音と共に島の身体が淡く光った。
『これが私の能力だ』
島の口調が変わった。それだけでは無い。声色、立ち振る舞いが霧峰のそれに変わっていた。
「おお!すげー!」
木上と地弘は声を揃えて叫んだ。
『ん?でもなぜ隠されているはずの性格をコピーするのに普段の霧峰先輩の口調なんだ?もしや、霧峰先輩は裏表が無い人間という事なのか?』
「そうゆうことになるんだろうな」
『素晴らしい。私も是非見習いたい』
「普段から自分に正直に生きることは、楽でいいぞ」
『なるほどな。参考にさせてもらおう』
「だーっ!もう分かった!ややこしいから元に戻れ、島!」
地弘が叫ぶ。
『それは……』……「……申し訳ないです」
「なかなか面白い力だろう?思考も若干似るんだそうだ。」
元に戻り謝る島に霧峰が補足した。
「確かに上手く他のチームの司令塔なんかの思考をコピーできれば裏をかいたりできるかもね」
木上が頷きながら答えた。
「最後は私だな。すまないが少し待ってくれ」
霧峰はそう言って、台車の上からいくつかの割り箸と輪ゴムを手に取った。そして床に座りおもむろに何かを作り始めた。
「ゴム銃……すか?」
「そーだ。霧峰の能力はおもしろいぞ」
地弘の質問に木上は楽しそうに答えた。
「──よしできた。それでは中河くん、悪いんだがこの部屋の反対側に行ってくれないか?反対側に行ったら小人の雨宿りを発動して欲しい」
霧峰に言われたまま、地弘は部屋の反対側に移動し傘を開いた。
「それでは、いくぞ」
霧峰は、センスに覆われたゴム銃の引き金を引いた。部屋中に響く銃声と共に打ち出された輪ゴムは一瞬で15メートルはある体育ルームの向かいの地弘の元に届き、ドゴンッという轟音と共に輪ゴムは傘に着弾した。
「マジかよ!」
「ね?おもしろいでしょ?」
驚く地弘に木上は言った。
「私が手造りしたモノの性質や性能が数十倍になるのが私の力だ。分類は増幅型万能系。それが私の能力……努力の結晶だ!手造りの手間がかかってる程性能も上がっていく!」
──「これで全員、お互いの能力を理解できたわけだな。それでは今回のコミックマッチの競技内容と作戦、同時になぜこのメンバーなのかの理由も話そう」
そう言い、霧峰は競技の説明を始めた。
今回のクラスマッチの大まかな内容は玉入れゲームである。フィールド上にランダムで現れるボールを見つけ、中央のゴールネットに入れる事ができれば1点。3学科が1つのフィールドで競う。
15点先取した場合、もしくは試合時間の20分が経って1番点数が多い学科が勝ちというルールだ。現れたボールはゴールに入るか、出現して1分半経つと消え、再出現する。
コミックマッチなので自分の能力を最大限発揮出来るのであれば事前に申請した物を持ち込む事が可能だ。さらにフィールドは3つのエリアに分けられ、リーダーはボールが出現した時どのエリアに1番近いのかを知ることができる。
「──とまぁルールとしてはこんな感じだな。それで作戦なのだが、アタック&ブロック作戦でいこうと思っている。──」
コミックマッチの玉入れゲームの戦略は大きく分けて3つある。
1つ目は自分の陣地近くに現れたボールは狙い、そうでない時は効果範囲の広い能力を使い妨害する、“レンジダメージ作戦”。
2つ目はどこにボールが現れようが全力で取りに行く、“オーバーアタック作戦”。
3つ目は、近いボールは取りつつ相手が取ったボールはゴールに入れさせない“アタック&ブロック作戦”である。
これをメンバーの能力の特性に応じて利用していくのだ。
「──それで、役割だが主にブロックを私と中河、アタックを木上と島でやってもらいたい。だが攻め時では中河もアタックに行ってもらうし、我慢する時は島にもブロックについてもらう。島は攻めている内にブロックをやっている相手の性格をコピーしておけばブロック中に役立つし逆も然りだと思う。中河は能力がブロック向けなのに対して性格がアタック寄りなのがミソになってくると思う」
「なるほど。確かにそれだと攻守の両立ができていいかもしれませんね」
島が言った。
「あと、君たちはクラスの中でもインプロが得意な方みたいだから、シンプルな体力勝負になった時にも強く出れると思うんだ」
「なるほど……」
地弘も納得したようだった。
「それでは、明後日の放課後に練習をするから、ここに動ける格好で集合してくれ。解散!」
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── 一野樹市某所 ─某時刻
黒いビジネススーツに身を包み、フチなしの眼鏡をかけた女性が、怪我を負いうずくまっている青年の前に微笑を浮かべながら立っていた。
「うぐぅぅ……もう辞めてくれぇ!……俺は、そんな事望んじゃいない!」
青年は苦しそうに叫ぶ。その顔は痛みと恐怖で歪んでいた。
「……いいえ、海原良樹……貴方には嫉妬心がある。それは立派な欲に成長するわ。さあ、その欲を解放しなさい、欲塗れ」
彼女はセンスを纏った右手で、青年の肩を掴んだ。
「う、うがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
彼女が掴んだ青年の肩から薄紫色の宝石の結晶のようなものが生えてきた。
「あら、綺麗なアレキサンドライトね。欲望は“内なる殺意”……いいじゃない」
彼女は青年の肩の結晶に触れた。すると、彼女の指先で結晶は砕け散りカットされた宝石になった。彼女はそれを持っていたポーチに嬉しそうにしまった。
結晶が砕け散ると共に青年の瞳から色が消えた。
「これで私との契約は完了よ。既に人事部から貴方の社内名は聞いてるわ。よろしくね、“健闘士”さん」
ありがとうございました
次話もよろしくお願いします