第29話 次世代の冒険者!
「か、【神狩り】に……ですか……っ!」
国王の言葉で俺は言葉に詰まった。【神狩り】。その言葉を知らないわけがない。それは、英雄の業。世界に存在する数多くの神々。それは人類の生存領域を脅かし、人の営みを阻害し、人の命を奪う。
【神狩り】とは王国が【正なる神】の名の下に、神々に虐げられている人々を解放する大義ある行為である。
それを、俺達に……ッ!
「南の果てに、新たなる神が確認された。それを、討伐して欲しい」
国王が低く言う。
「南の、果てですか」
「どうだ。受け入れてくれぬか」
俺が『ヴィクトル』にいた時ですら【神狩り】は命じられなかった。それは、『ヴィクトル』にはそれだけの力量がないと判断されたからだろう。
そんな依頼を、こんなに簡単に。
俺は背後に潜んでいる伯爵を見る。彼はいつものようにのほほんとした顔を浮かべている。
……アイツか? いや、まさか…………。
流石にそれは伯爵のことを敵視しすぎだろう。
「分かりました。その依頼、我々にお任せください」
俺は国王に向かって一礼する。神の討伐は名前をあげれるだけではなく、莫大な報酬金が舞い込んでくる。どちらかと言えば俺の目的はそっちだ。
人が死ぬ限り、孤児たちは居続ける。孤児がいるということは、孤児院にやってくる子供たちの数も減らないということだ。そういった子供たちが、せめて人並みの生活を送れるように。
それは、俺がどうにかしなければいけないことだ。
力を持っている奴が、助けないといけないことだ。
だからこそ、
「Sランクパーティー、『神殺し』。この名に恥じぬ活躍を、お約束いたします」
そう、言うのだ。
国王は安心したように深くうなずいた。
「なら“征装”がいるであろう。うむ。服の採寸は……レイト」
「はっ」
呼び出された女性が王に向かって礼。
「お主が彼らの採寸を。英雄たちに相応しい服を見繕うのだ」
「お任せください」
「『ミストルテイン』よ。そなたたちの活躍、期待しておるぞ」
国王はそう言って、立ち去った。
「……はぁ」
どっと疲れた。慣れないことはするもんじゃあない。
「レグ。かっこよかった……。……大人、だった!」
「ああ、ありがとう……」
エマが笑顔で褒めてくれる。ちょっと照れ臭くなったが、それよりも上手くやれたかどうかの方が心配だ。
「あ、あのレグさん」
「レグで良いって……。それで?」
未だにさん付けを止めようとしない、フェリに俺が問いかける。
「か、【神狩り】って……何するんですか?」
「……【神狩り】知らないの?」
「い、いや! 知ってますよ!! でも、神様を殺すって……本当に殺すんですか!?」
「人聞きの悪い事を言うんじゃねえよ……。俺たちが殺す神ってのは、その力で人々を虐げてる奴らだ。知識があり、知恵があり、あり得ないほどの力を持った……モンスターだ」
「も、モンスターなんですか!? で、でも神様じゃ……?」
「弱い冒険者が間違って殺しに行かないようにジャンルを分けてんだ。モンスターみたいなもんだよ」
そこまで言って、1つの具体例を思いついた。
「ああ。ドラゴンみたいなもんだよ。あれだってモンスターだけど、竜って言って別の種族になってるだろ」
「言われてみれば……」
「俺たちがやる【神狩り】ってのはそういうもんだ。世界中の国々が協力して、英雄たちを神にぶつける」
「英雄たち……? なんで私たちが選ばれたんですか??」
「さぁ。リッチーにでも聞けば教えてもらえるんじゃないか?」
俺が鎌をかける様にそう言ったのだが、
「え、何々? いま愛しのレグ君が私の名前を呼んだ声が聞こえてきたんだけど」
平然とした顔で会話に入ってきた。
「リッチー伯爵、なんで私たちが【神狩り】に選ばれたんですか?」
「私が国王に君たちの活躍を熱弁したからだよ」
何やってんだよ。
「EランクなのにSランクの『ヴィクトル』でも抜け出せなかったダンジョンから救い出し、あの“魔女”から魔法を拝借。さらには【賢者】が作った王都の防御結界を2撃で破壊する異形の完全討伐。いやあ、どうだい! こうして並べてみると中々凄いものだねえ」
……確かに、確かにそうだな。
自分で言うのもあれだけど、そうやって並べられると文句のつけようが無い戦果だ。っていうかあの結界、【賢者】が作ってたのか。知らなかったぞ。
「というわけで南の果ての神様殺しに君たちが選ばれたって言うわけだ。うん。でも私は君たちの力を信じているからね。神様の1人や2人くらい簡単に殺してくれるもんだと思ってるよ」
伯爵はそういって笑う。
「じゃあ、これから君たちは服の採寸かな? 私は邪魔だからそこら辺を歩いておくよ」
おっと、そうだ。“征装”の採寸があるんだった。
……マジか、あの服着るのか。
「れ、レグ。服って……あの“征装”なの?」
「うーん……。そうだと思うけど……」
マリがとても心配そうに俺を見てくる。俺も自身がないが、そう言って頷いた。
「はい。その“征装”ですよ」
声の主は先ほど国王に呼ばれていたレイトさんだ。
“征装”とは、【神狩り】に向かう冒険者が身に纏う服のことだ。
これを一言で言うと、カッコイイ。滅茶苦茶カッコイイ。それを着ている人間は、つまるところ英雄である。すなわち子供たちの憧れであり、そうあるべき人種だけが身に纏えるものなのだ。
「では採寸を始めましょう。こちらに」
もうやるのか、と思ったが『神殺し』は犠牲になる人間が少ない方が良い――つまり、早ければ早いほど良いのだ。
「……何で俺たち、だったんですか」
「どういうことですか?」
王城の中を歩きながら、俺はレイトさんに聞く。伯爵が国王に俺達の戦果を自慢した。だから、俺たちが選ばれた。確かに理には適っている。だが、そもそも根本的な問題があるのだ。
「他にも英雄はいるでしょう」
そういうことだ。
王国は【神狩り】を主導し始めた国。他の諸外国よりも多くの英雄を抱えているはずだ。
「いないんですよ。レグ様」
だが、返ってきた返答は。
「皆様、亡くなられてしまいましたから」
レイトさんは無表情でそう言った。
「死んだ? あの英雄たちが??」
「王国が抱えている【神狩りの英雄】たちはたったの3パーティー。最強の【勇者】パーティーと、『バルムンク』。そして、レグ様たちの『ミストルテイン』だけ」
「ば、馬鹿な! 英雄たちが死んだなら、俺たちが知らないはずがない」
俺の口にそっと、人差し指があてられる。
「言えるわけ、ないでしょう。英雄が死んだなど」
「……黙って、いるのか」
「ええ。そうです。民が混乱に陥らないように」
「クソッ……。なんてことだよ」
俺は一人で毒づいた。Sランクパーティーとして活躍を積み重ねれば、国王から選ばれる【神狩り】。それは栄誉ある職だ。そうであったはずだ。死んでも称えられない? そんなことが許されていいのか。
「お気を付けください。レグ様、南の果てにいる神は既にSランクパーティー『レーヴァテイン』を壊滅させました」
「『レーヴァテイン』を?」
名前だけは聞いたことがあるパーティーだ。王国ではなく、その南の国々を中心として活躍していた記憶がある。
そんな遠く離れた王国まで活躍が噂されるSランクパーティー。それが、壊滅しただと?
「『レーヴァテイン』を失った向こうの国が泣きついて来たんですよ、王国に。何とかしてくれ、と」
「なるほど。それで王国はそれを受け入れた、と」
それにレイトさんが頷く。
「お願いします、『ミストルテイン』。貴方たちには王国の威信が掛かっているんです」
下らないものだ、と思う。王国の威信なんかで子供たちは救われないとも思う。
だが、自分は冒険者だ。
『クエストに私情を持ち込むな』。それは、冒険者の鉄則だから。
「任せてください」
俺は胸を張る。
自分は、冒険者だから。
「何とかしてみせますよ」
そう、言うのだ。