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嘘の家族

自分の体温が移って暑くなっているタオルケットをベッドの端へと追いやった。

まだベッドの上から離れたくない。

自分の重い体をなんとかベッドの外へ持って行く。

5ヶ月前なら今の朝という時間がとても憂鬱に感じた。

今日は朝ご飯を食べることにやる気が湧いた。今日はというか毎日だが、毎日やる気が無くなってしまう。

扉を開け、階段を降り、リビングに足を踏み入れる。すると、いつもなら母と姉の話し声で騒がしくなるリビングがとても静かで、2人の代わりと言わんばかりに父が黙々とスマホで仕事しながら熱いコーヒーを少しずつ飲んでいる。

父はこちらに気づく様子はない。嫌な予感がした。

よく耳を澄ますと玄関から母と姉の声が聞こえる。

その甲高い声からして感情が昂っているのがわかる。

「ルイト君は偉いわねぇ〜あんな子のために待っててくれるなんて」

「そうよ、ほのかじゃなくて私でもいいのよ!!」

嬉しそう。

何故良い予感はことごとく外れ、悪い予感は嫌でも当たるのだろうか。この現象に名前が付いているなら付けた人はよほど悪い予感を的中させてきたのだろう。

こうやって毎日朝ご飯を食べるやる気というか、時間が失くなるのだ。

ルイトを待たせてはいけない。

空いたお腹のまま自分の部屋に戻って準備を急ぐ。

パジャマから着替えて、教科書類をカバンに詰めて、肩にかける。

今日はルイトが家に来るのが早い。いつもなら朝ご飯を食べる余裕があるくらいには家に来るのに。

余裕があったとしてもあの2人がうるさいため、結局はやる気が失くなるのだが。

慌てるように階段を降り、玄関へ向かう。

廊下に出た所で2人の眼光がギラリとこちらを向いた。下手なホラー映画よりもこっちの方が断然怖い。

2人の間から助けろと言わんばかりに睨んでくるルイトが見える。

「行ってきます」2人の間を半ば強引に通り抜け、家を出た。


いつも最初は話題を思い付かず、沈黙が続いてしまう。

とりあえず母と姉のことを謝らなければという思考が一番に思い浮かんだ。ごめん、と言う前にルイトの方から話しかけてくれた。

「よくもまぁ、毎日あんなこと…よく飽きないよな」

「だよね〜ルイトのどこがいいんだか、ちっともわかんないや。やっぱ2人とも、変わってるよね!」

ほとんど衝動で喋った。実際本音だ。

クラスの女子達がルイトをチヤホヤしている理由が全くわからない。それを他の子に言えば「変わってる」と言われる。

ルイトが鼻で笑ったのが聞こえた。

通学路は結構普通なことで溢れている。

適当に通行人がいて、適当に車がはしる。少々田舎だが、最近はショッピングセンターやモール、企業の会社がちらほらと建ち始めている。駅の近くの田んぼももう、今ではマンションが建っている。

自分の住んでいる町が賑やかになったのも嬉しいが、同時に静かな時間が少なくなってきているのが少し寂しい。

町の風景に浸っていると後ろから物音が聞こえた気がした。

気のせいというのは怖い。私はお化けは信じるタイプだが、出会ったことはない。まぁ、出会うこと自体珍しいものだろう。

そうだ、お化けといえばハロウィンといえば……

「わっっ!!!」

耳をつん裂くような大声がとても近く、ほぼ耳元で聞こえ、その声と同時に両肩にまるで地震のような、は言い過ぎかもしれないが今の私にとってはそれくらいの衝撃が伝わった。

そして咄嗟に「ぎゃっ」という声が漏れてしまった。

「あはは!お前、毎日されてるのに驚いてんのかよ!もうちょっと警戒心ってものをよぉ〜」

そう言ってカインと私の間に割り込んだ。

彼はそらちん。もちろんあだ名だ。本名は錦空翔(そらと)

活発でいつでも、どこでも笑顔を絶やさない。という印象を受ける人物だ。

私が幼稚園生の時からの幼馴染で、付き合いは約7年ほどになる。

幼馴染なだけあって昼休みや放課後も、遊んだり、朝も今のように一緒に登校している。

一緒にというか勝手についてくる感覚と同じだろうか。

毎回毎回、私の耳元で叫んで飽きないのだろうか。いや、飽きない。自分も毎回毎回ルイトの耳元で叫んでそれで毎回毎回驚いてくれたらそりゃもう面白い。

「ルイトも、少しは驚いてくれてもいいんだぞ?」

「毎日同じことされても流石に驚かない。あれで驚くほのかがすごいまである」

「そぉ?ありがと!」

「褒めてないと思うぜ…」

ごくありふれた平和な会話だ。他愛もない会話をしているとあっという間に学校に着いた。


「ねぇねぇ、東くんってさ、何処から来たの〜?」

「…奈良かな」

「何処だっけ、鹿とかいるやつぅ?」

「多分それだよぉ〜!!」

朝の時間が終わってすぐに女子の軍団に包囲された。ここの学校は訓練でも受けているのか。

だから嫌だったんだ。面倒なことはしたくないと。

この町は両親の地元だ。2人はここで出会ったらしい。

そんなの興味無い。元いた場所に未練があるわけではないが、かと言って別の場所に行きたいわけではなかった。ただでさえ毎日面倒臭い両親がいるのにそれに加えてまた新しい面倒が増えては精神的にもたない。

何度も引越しを拒否した次の日に引越しのトラックが家の前にいたのには怒りを覚えた。

そんなことを考えていても目の前の高い周波数を止めることはできない。

席にでも戻ろうとした時に、チャイムが鳴った。心の中で小さくガッツポーズをした。

自分の席は一番後ろの左から2番目、窓側に近い席だ。

隣は、幼さが感じられる可愛らしい女子だ。大口を開けてあくびをしている。今日はよく眠れなかったのだろうか。

あくびの後にこちらに気づき、少し気まづそうに会釈をした。

咄嗟に自分も会釈を返した。そのまま授業が始まった。

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