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第五十章 哀れな魂



 アンバーとロシャを残し、クオンはブランシュを連れて空間移動の魔術を使った。アンバーやフィアたちの居る場所から離れた地点に着地してから、クオンは一つ、息を吐き出した。


「まったく……雑魚騎士の分際で、僕に触れようなんて、三万年早いんだけど?」


 クオンに腕を掴まれていたブランシュはクオンを睨み付けながら、憎まれ口を叩く。そんな彼の言動に肩を竦めながら、クオンは言った。


「はいはい。悪かったな。雑魚騎士で。……でも、その雑魚の欺瞞(ペテン)に引っかかったお前らは、一体何だろうな?」


 クオンがそう言うと、ブランシュは小さく舌打ちをする。


「そうだね。僕はそれが一番悔しい。僕の作戦通りに行かないなんて、思ってなかった。……ノア兄様に合わせる顔がないよ」


 憎憎しげにいうブランシュ。クオンはふっと溜息を吐いて、言う。


「そうかい。だったら二度と会わなきゃ良い。会いにいく必要なんざ、ねぇよ」


 そう言って、クオンは服の内側から投擲用の小型ナイフを何本か取り出した。それをくるくると回しながら、クオンは言った。


「残念だけど、俺もあんまり長くお前と遊んでる時間はないんだ。さっさとフィアたちを助けに行かないといけないからな」


 今どうなっているかはわからないが、フィアたちが居るはずの方角から大量の魔獣の気配を感じる。早めに助けに行った方が良いだろうと、クオンは推測していた。

 そんな彼の言葉にブランシュは目を細めながら、言う。


「そりゃ大変。でも、僕がそれを許すと思う? 此処らで挽回して、ノア兄様に示さないと、僕が生まれた意味、なくなっちゃうからなぁ」


 呟くようにそう言った彼は足元に大きく、円を描く。彼が小さく詠唱するのと同時、その円は魔力を帯びた魔法陣に変わった。


「ね、君も本当は頭脳派なんでしょ? なら、腕っ節だけじゃなくて、魔術で勝負しない?」


 挑発的に笑う彼を見て、クオンは微笑んだ。


「わざわざ俺に有利な戦い方させてくれるって訳か?」

「君にとって、じゃなくて、僕にとって、だよ。僕は影猫一の魔術師。御主人(マスター)やノア兄様には敵わないけど、結構強いんだ」


 試してみる? そう言って、ブランシュはクオンの目の前に炎の竜を作り出し、嗾ける。大きな口を開けた炎の竜が眼前に迫ってもクオンは慌てず、水属性の魔術を発動させ、防いだ。その様を見て、ブランシュは目を細める。


「ふーん。水の魔術も使えるんだね」

「一通りは何でも使える」


 そう言うとクオンはブランシュに向けて、手を伸ばした。


「眩き光よ我らを照らせ、光遊戯(シャイン・プレイング)


 詠唱と同時に眩しい光が放たれる。一瞬目を閉じるブランシュにクオンは彼に飛び掛かる。その攻撃を間一髪で躱したブランシュはひゅうと小さく口笛を吹いて、言う。


「驚いた。本当にどんな魔術も使えるの?」


 対して驚いた様子も見せず、ブランシュは言う。クオンも彼に笑みを向けた。


「どんな魔術でも使えないと、潜入捜査の役には立たない。それに、これが俺の家系の特質でね」


 そう言いながら、クオンは肩を竦めた。

 彼の家……ロゼル家は昔から、強い魔力を持つ人間が生まれる魔術師の家系だった。特殊な魔力を持つ者が多く、クオンもその例には漏れない。故に様々な魔力を使うことができ、それを活かして潜入捜査を主とする風隼の統率官を務めている。クオンのそんな言葉に、ブランシュは納得した様子で頷いた。


「あぁそうか。君は潜入捜査員だったね。だから僕らの魔術もなんとなく使えたのか」


 影猫のメンバーが使う魔術は、普通の人間が使うそれとは違う。悪魔属性の魔術の素質を持つ者は少なく、そうでない者は影猫の仲間として認められることは難しい。勿論、アンバーの魔術の御蔭でもあったが、元々はクオンの素質のために、影猫のメンバーが使う悪魔の魔術も辛うじて使うことが出来た。故にノアールたちに警戒されることなく、フィアの傍に行くことが出来たのだ。



***



「なかなかやるね?」


 何度目かの魔術を弾きながら、ブランは言った。クオンは軽く肩を竦めて、彼に返す。


「だろ? どんな時でも冷静なのが俺の取り柄」


 そういうクオンは何処となく、寂しげでもあった。その表情を見逃すことなく、ブランシュは言う。


「そうなんだ。でも、その性格で苦労しただろうね?」


 そんな彼の言葉に、クオンの表情がごく僅かに強張る。ブランシュは静かな声で、彼に問うた。


「君が得意なのは変身魔術なんでしょ? それに付随して色々な魔術も使える……その所為で本当の自分を見失うのが怖くて、常に冷静な自分を保ってるだけなんじゃないの?」


 そう問われ、クオンは思わず息を飲む。揺らぐ、銀の瞳。それを見据えて、ブランシュは小さく笑った。


「図星? 情けないね」


 ブランシュは嬲るようにクオンに言葉を投げつけた。


「不便でしょう、そうやって、相手に合わせて自分を変えて。仲間に対してもそうやってるの? そうしていたら嫌われないだろうね、なるほど君は器用だ」


 そう言って、くすくすとブランシュは笑う。クオンは顔を歪め、首を振った。


「違う」


 その声は、何処か自信なさげだった。


―― 本当は、ずっと不安だった。


 自分は、仲間の前で”本当の自分”を曝け出すことができているのだろうか、と。もしかしたら、仲間の前に立っている自分も、仕事のために自分が作り出した人格の一つなのではないか、と。

 風隼の統率官として、敵の組織に潜入したことは何度もあった。その度に、自分というの姿を変え、性格を変え、敵を欺いた。幾重にも偽りの皮を被り、色々な人間になり替わった。ある時は無邪気な少年に、ある時は無口な青年に。おてんばな少女を演じたことさえあった。

 任務を終える度、変身魔術を解く度に、クオンは言い知れぬ不安に襲われていた。


―― 本当の俺、ってなんだろうな……?


 神風の奇術師と呼ばれるクオン。彼は、本来の自分を見失ってしまうことを酷く恐れていた。自分の姿を、性格を意のままに変えることが出来るからこそ、”本来の自分”を見失うことに恐怖していたのだ。仲間の前でさえ、偽物にしかなれないのは、嫌だった。作り物の人格でしか仲間と向き合えないなんて、嫌だった。

 動揺を色濃く瞳に灯すクオンを見つめ、ブランシュは軽く舌なめずりをする。そして自身の武器を抜き、言い放った。


「冷静に物事判断するだけじゃやっていけないって、教えてあげる」


 そう言って笑ったブランシュはクオンの隣に瞬間移動した。素早く間合いを取りながら、クオンは考えた。次に取るべき行動を。


「無駄だよ。その行動も予想済み」


 素早く方向転換をすると、ブランはクオンを狙い、短剣を突き出した。それに貫かれる寸前に体を捻り、ブランシュの武器を躱す。


「痛……っ!」


 完全には躱しきれず、短剣が脇腹を掠め、浅い傷を負う。痛みに顔を歪める彼を見つめ、ブランシュは言った。


「僕が得意なのはね、物事の推測。何がどういう順序で起きるか、何をしたらいちばん効果的か。それを考えて、皆に伝えるのが僕の仕事。ロシャの予知能力とは違うけど、結構役に立つんだよ?」


 ブランシュは笑いながら何度も何度も武器を突き出した。クオンはそれを躱しながら、考える。


―― どうするべきだ。


 思わず心の中で、毒づく。彼には、まるで隙が無い。クオンの行動を全て読んで、攻撃を加え、クオンの攻撃を躱している。


「どうしたの? 得意の魔術で僕と遊んでよ、騎士様」


 揶揄うように、揺さぶりをかけるように、ブランシュは言う。クオンは必死に彼を捕らえようと魔術を放つが、それは全て躱されてしまう。魔力を消費し、クオンの呼吸が荒くなる。

 その様を見つめ、ブランシュは告げる。


「無駄だよ。幾ら考えたって、僕を出し抜く術は思いつかない。……ゲームオーバーだね。僕の勝ちだ。自分のこともわからない君に僕が負けるはずがないよね!」


 愉快そうなブランシュの声。それを聞いてクオンはふっと自嘲気味な笑みを零す。


―― 確かにもう無理かもしれないな。


 彼の言う通り、勝ち目がないのかもしれない。敵の言葉に乗せられて動揺し、戦えなくなるなど情けないにもほどがあるが、それも仕方ない。自分が未熟だったというだけの話だ。そう思いながら、クオンが剣を落としかけた、その時。


「負けを認めるには早すぎるんじゃないの?」


 不意に、二人の上から声が降ってきた。ばっと顔を上げ、ブランシュが目を見開く。


「! 彼奴……!」

「アンバー?!」


 宙に浮いたままひらひらと二人に向かって手を振っているのは、アンバーだった。彼はクオンの傍にひらりと降り立つと、穏やかに微笑んで、言う。


「ありがとね、クオン。君の御蔭で、僕とあの子、ちゃんと仲直りが出来たんだ」


 そう言って、アンバーは微笑んだ。その表情からは、戦いの前の暗さが消えている。


「ね、クオン。思い出してごらんよ。君の得意な変身魔法の基本は何だった?」


 緩く首を傾げ、優しい声でアンバーはクオンに問う。その言葉に、クオンは揺らぐ銀の瞳を幾度か瞬かせた。


「変身魔法の、基本……」


 騎士になったばかりの頃、憶えたもの……それは。


「本当の自分を知ること」


 そうクオンが言葉を紡げば、アンバーは明るく笑って、頷いた。


「正解。変身魔法が得意なクオンは、僕らの誰よりもその能力に優れてるってことでしょ? それに……」


 アンバーは微笑んで、クオンの頬を撫でて、言った。


「僕らが知ってるクオンが本当のクオンだ。クオン自身がそれを見失ったなら、僕らがそれを思い出させてあげるよ。それでこそ、仲間だろ?」


 その言葉に、クオンは大きく目を見開く。アンバーが紡いだのは、クオンがずっと、求めていた言葉だった。

 それを聞いて、ブランシュはぎりっと唇を噛み締める。そして、叫ぶように言った。


「仲間仲間って……! 本当に君達って腹立つよね! ロシャもいつも言ってたよ!」


 そう叫んだ彼は短剣を片手に、二人に斬りかかってきた。アンバーはそんな彼の手頸を器用に掴んで止めながら、言う。


「そんなことない。ロシャ……ハクも、本当は仲間を求めてた。……君も、そうなんじゃないの?」


 ロシャと戦って、完全にではなくとも、察することが出来た。この操り人形たちは、人間の負の感情から作られているのだと。その根底にあるのはきっと、寂しさや恐怖なのだと。


「煩い」


 ブランシュはアンバーの腕を解こうともがきながら、彼を睨みつける。迷いの揺れる漆黒の瞳を見据えながら、アンバーは言葉を続けた。


「君も、御主人に作られた存在なんだろう。だから、不安なんじゃないの? 仲間が、ほしいだけなんじゃないの? ノアールに認めてほしいって思うのも……」

「煩いって言ってるだろッ!!」


 アンバーの言葉を遮るように、突風が吹き抜けた。アンバーが驚いて手を離すと、ブランシュは彼らから離れ、二人を睨みつける。彼の感情に同調するかのように、風が強く、吹いた。


「煩い、仲間なんて要らない! 元々要らなかった、必要なかった! 僕がノア兄様を慕うのは、ノア兄様が僕を拾ってくれたからだ!!」


 強風に煽られ、先刻までの戦いですっかり消耗していたアンバーはその場に転ぶ。


「アンバー!」


 クオンは焦って、彼の名を呼ぶ。しかしアンバーは顔だけを上げて、叫ぶ。


「僕は平気! クオンは、その子を何とかしてあげて!」


 魔力を暴走させる彼は、どう見ても平静ではない。その姿が痛々しい。解放してやってほしい、そうアンバーはクオンに言う。


「……了解!」


 クオンは小さく頷くと彼が巻き起こす風を魔術で打ち消し、ブランシュの腕を掴んだ。


「離せ! 離せって言ってるだろ?!」


 僕に触れるなと叫ぶ彼に構うことなく腕を掴んだまま、クオンは彼の眼を覗き込み、言葉をかけた。


「ブランシュって言ったっけ、お前、魔術だけ強いみたいだな。さっきも今も、俺に腕掴まれたら抵抗しないじゃないか」


 前から多少感じてはいたが、今になって確信した。眼前に居る操り人形は、魔術の強さに特化したものなのだ、と。

 クオンの指摘に、ブランは目を見開いた。そして、悔しそうな顔をして、叫ぶ。


「そうだよ! 僕は”失敗作”なんだ! 魔術ばっかり強すぎて、力が全然駄目だから……初めは、廃棄されるはずだった! それを助けてくれたのがノア兄様だったんだよ!」


 震える声で叫ぶブランシュの目からは、涙が溢れだしていた。


「ずっとずっと、僕は生きてた頃から、誰からも必要とされなかった。寂しかったんだよ……それでも、ノア兄様は、僕を必要としてくれた。だから僕は、ずっとずっと、ノア兄様のために……!」


―― ノア兄様のため。


 その言葉にクオンは顔を歪めた。僅かな期間だったとはいえ一緒に過ごしたから、知っている。ノアールがブランシュを助けたのは、彼の魔術が本当に優れていたから、ただそれだけだったということ。別にブランシュを助けようとしたわけではないということ、そして、このまま放っておいたら、ずっと彼らの良いように使われてしまうだけということも……――

 影猫の主力メンバーは皆、御主人(マスター)とノアールが作りだした操り人形なのだと、クオンは突き止めた。彼らは、人に対する憎しみや恨み、寂しさを抱いたまま死んだ魂を見つけ出し、自分たちの仲間にしていたのだ。

 ハクも、この少年も、哀れな魂。心を奪われ、操られた哀れな魂。誰かが糸を切ってやらなくては、彼らは永遠に操られ続けるのだ。


「……俺たちが、終わらせてやる」


 クオンはそう呟き、ブランシュを地面に押し倒した。そのまま、魔術で拘束する。黒い瞳を大きく見開いて、ブランシュは叫んだ。


「何するんだよ! 離せよ! 離せ!」

「離さない。だって……」


―― 俺とお前は、良く似てるから。


 救ってやりたいんだ、とクオンは言い、微笑んだ。

 嗚呼、気が付いた。彼と自分はよく似ている、と。心に巣食う不安を誤魔化して笑って、誤魔化して。そんな自分を認めてくれた存在に嫌われることがないようにと必死になる姿が、よく似ているのだと。

クオンもそうだった。自分を認めて、褒めてくれる家族のために、必死になった。魔術の腕を磨き、騎士としての力を伸ばして。その力を失えば、失敗すれば、きっと失望されてしまうからと必死になって……――

 しかし、そんな彼と自分の違いもあると、気付くことが出来た。それは、信頼できる仲間の存在だ。崇拝ではなく、信頼の対象としての、仲間の存在。


「嫌だ! 僕はノア兄様のために、御主人のために、まだ……! 僕はそのために生まれたんだ!」


 そう叫ぶブランシュ。そんな彼を強く掴んで、言う。


「そうやって作りモノの体に縋ってないで、生まれ変わって誰かに愛されたいって願えよ馬鹿! お前はもう自由になるべき存在なんだ! 誰かのためなんて言うな!」


 クオンは叫ぶ。叱り付けるように、励ますように。ともすれば……彼自身に、言い聞かせるように。


「もう今の体に執着することはないんだ、今度はきっと……幸せに、なれるように」


 クオンはそう言って、ブランシュに最後の魔術をかけた。


「呪われし魂を解放せよ、魂浄化(ソウル・カタルシス)


 人としての理を外れた魂を浄化する、魔術。それをかけられたブランシュはふるふると首を振る。自分の身体が、意識が、溶けていく。それは、恐ろしくて。


「やめてよ! 僕は、ただ……ッ! 此処以外に、居場所がないんだ」


 ブランシュは涙声で、嫌だと叫ぶ。まだ、まだ戦わなければならない、と。戦わなければ、また居場所を失う。存在意義を失ってしまう。それが怖いのだと、目の前の少年は訴えていた。

 クオンは、涙に濡れた黒い瞳を見つめながら、言う。


「大丈夫。俺が保証してやるよ。次に生まれて来たときに、お前がこの世に嫌われないように、祈ってやるから、だから……」


 クオンの声は、微かに震えていた。そんなクオンを見てブランシュは少し驚いた顔をした。何度も漆黒の瞳を瞬かせ、気の抜けたような声で、問いかける。


「何、泣いてるの……? 泣きたいのはこっちだよ」


 ブランシュが驚いた理由。それは、クオンの銀色の瞳から、涙が零れ落ちていたから、で。クオンは指摘されて初めて気付いたかのように、自分の頬を伝う涙を拭った。そして、苦笑混じりに言う。


「ごめん、ごめんな……俺たち騎士にできることなんて、ごく一部の事だけなんだな、て思ってさ」


 そう言って、彼は笑う。幾筋も、涙を零しながら。

 もしもブランシュが生きている間に、誰かに必要とされる経験をしたならば、きっとこうはならなかった。自分を必要としてくれる相手からの無茶な要求に応えたり、そのために手を汚したりすることもなかっただろう。それを考えると、悲しくて、申し訳なくて……――

 多くの人を救いたくて騎士になった。そのために自分の力を使いたいと思っていた。しかし、そんな自分に出来ることはごく僅かで。それが悲しくて、悔しくて、涙が止まらない。クオンはそう言って、泣き笑いの表情を浮かべる。

 それを聞いてブランシュはゆっくりと瞬いた。それから、ふっと笑みを零した。


「意味わかんない……」


 呟くようにそう言った彼は少し戸惑ったように笑いながら、言う。


「訳わかんないよ。君、僕の敵だったのに、敵のために泣く訳? 本当に人間って……」


―― 訳わかんない。


 そう言ったブランシュはそっと息を吐いて、目を閉じる。その表情は、何処か穏やかなものだった。


「信じていいんでしょ? 生まれ変わった時、やっぱり駄目だったりしたら、君の事呪うからね?」


 ブランシュが消える間際、聞こえた彼の最期の声に、少しだけ安堵したように笑って、クオンは頷いた。今度は、きっと大丈夫。彼のような子供が孤立することがないように、自分は力を尽くそう。そう思いながら。

 そして、倒れたままのアンバーに駆け寄り、訊ねる。


「……大丈夫か? アンバー」


 遅くなってごめん、とクオンは彼に詫びる。アンバーはゆっくりと体を起こしながら、首を振った。


「平気、大丈夫。少し休んだら、動けるから……」


 ロシャとの戦闘での疲労と強い悪魔の魔力にあてられたことによるダメージだから、とアンバーは苦笑する。クオンはそうか、と呟いて微笑んだ。そして、静かな声で、問いかける。


「これで、良かったんだよな?」


 迷わなかったと言えば、嘘になる。ブランシュにかけたあの魔術は、勿論彼を思って使ったものではあったけれど、彼を消滅させた形になるのだ。恐ろしかったに決まっている。その魔術を使ったことが誤りではないかと、少しだけ、不安にもなっていた。

 しかし、そんなクオンの言葉に、アンバーは微笑んで、頷く。


「良かったんだよ、あれで。あの子たちは、きっと救われる。もし君がやらなかったら、僕が同じことをしていたよ」


 そう言った彼は、空を見上げる。魔獣の咆哮が響き、仲間たちと敵の魔力がぶつかり合っている気配を感じる。皆各々に、大切なものを守るために戦っているのだ。そう思いながら、アンバーは固く拳を握って、呟くように言った。


「こうやって、出来るだけ多くの人を助けよう。それで、未来を、守ろう」


 僕の予言が、外れるように。心の底から願うかのように、アンバーは言う。クオンはそんな彼の言葉に力強く頷いたのだった。




 

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