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第三十八章 冷酷残忍


 フィアとシストの任務場所はディアロ城の近くの森だった。普段からよく魔獣の出るエリアで、フィアもシストも勝手を知っている。そこまで入り組んだ森ではないし、危険な植物も少ない。魔獣も巨大だったり危険すぎたりするものは出たりしないはずだ。だからこそ、フィアもシストも、そこまで苦労せずに任務をこなせると思っていた。


「あー……マジでいっぱいいるな」


 シストは飛びかかってきたチエル・ラビットを魔術で弾き返して言う。甲高い悲鳴を上げて地面に落ちた魔獣に魔力を当て、止めを刺してからほっと一つ、息を吐いた。

 これで、一体何匹目だろう。視線を上げれば、まだ自分たちに襲いかかろうと身構えている獰猛な獣たちの鋭い瞳と視線がぶつかる。

 チエル・ラビットは小さいが、噛みつく力が極度に強い。一度噛みつかれると引き剥がすのに苦労する。牙は鋭く、深く食い込むため、外すまでに失血死しかねない。また、足が速く身軽なため、剣を大きく振るうのは禁物だ。その隙に、襲われかねない。厄介な魔術を使わない分まだましだが、数が多いとなると……


「あぁ……面倒くさい」


 そうぼやき、フィアが溜息を吐く。亜麻色の髪を軽く払って、剣を強く握り直した。多くの魔獣に注意を払いながら倒すのはなかなかに骨が折れる。普段淡々と任務をこなすフィアにとっても、面倒であることに違いはないようだった。

 そんなパートナーを見て、くすりと笑うと、シストは剣を構え直した。魔術の発動を示す光がシストの剣を包む。


「確かに面倒だし、魔術で片づけるか。フィアの魔術ほど威力はないけど、これで充分だろ?」


 フィアの方を見てにっと笑うと、シストは敵に向け、剣を振るった。


「凍て付く風よ吹き荒べ、雪片猛吹雪(スノーフレーク・ブリザード)!」


 魔術の発動と同時、細かく砕けた鋭い氷の欠片が強い風で舞い、チエル・ラビットを襲う。シストの魔術はフィアのものほど強くはない。しかしそれでも彼は雪狼ヴァーチェの騎士。彼が放った魔術によって、肉食のウサギは耳障りな悲鳴を上げて次々と動かなくなっていった。


「流石シストだな……」


 先刻本人が威力は高くないといったが、そんなことはない。しかも、彼の魔術の精度は、雪狼の騎士の中でもトップクラスだ。現に、魔獣たちは倒れているが、傍で戦っていたフィアには傷一つない。

 流石だな、とフィアが小さく呟けば、シストは照れたように笑った。


「さ、片付いたし、もう少しこの辺りを調べてから帰るとするか」


 魔獣の大量発生の原因も結局わからないままだしな。シストはそう呟いて溜息を吐く。こうして魔獣を倒していたのは良いが、結局魔獣の大量発生の原因はよくわからないままなのだ。もしかしたら巣穴か、何者かが設置した召喚陣でもあるのかもしれない。少し調べてから帰った方が良いだろう、というシストの提案にフィアは小さく頷いた。


―― その刹那。


「全てを焼き払え、地獄の業炎(ヘリッシュ・フレイム)


 響いたのは低い声。それと同時に、突如燃え上がる炎。


「シストっ!」


 フィアは反応が遅れたシストの周囲に障壁を張り、間一髪で、炎を防ぐ。茫然としていたシストははっとすると、フィアに軽く手を上げる。


「ありがとう、フィア」


 フィアに礼を言ってから、シストは鋭いアメジストの視線を周囲に向け、魔力の出所を探った。薄暗い森の中に目を凝らし……叫んだ。


「あそこだ!」


 フィアはシストが示す方角を見据える。木の上に一人の人間が立っていて、手を二人の方に向けていた。闇に溶けるような、漆黒の服を身に付けた、人物。この位置からでは、顔も表情も窺い知ることは出来ない。しかし、それでも……その人物から、明確な敵意を向けられていることだけは、理解出来た。

 二人の視線に気が付いたのか、黒服の人物は手を下し、フィアとシストの前にひらりと飛び降りる。冷たい目をした、黒髪黒目の男だ。肌ばかりが浮くように白い、黒衣の男性。

 男の魔術の炎が消えたのを確認してから、フィアは障壁を解き、同時に剣を抜いた。鋭く、蒼い瞳が敵と思しき男を捉える。


「……何者だ」


 フィアは低く問いかける。普段よりなお、冷たく、冷ややかな声で。黒衣の男は、静かに答えた。


「"暗殺者"と答えたら理解できるだろう」

「! ロシャの仲間か」


 フィアが呟くのと同時。


「当たり!」


 軽く空気が揺らぎ、ロシャが男の隣に現れた。驚いた表情を浮かべているフィアとシストを見て、楽しそうに笑っている。背の高い新たな刺客と並ぶと、ロシャはより一層幼く見えた。

 黒衣の男はフィアを、そしてシストを順番に見つめる。そして緩く口角を上げ、言った。


「俺の名はノアール。貴様らの前に姿を現すのは初めてだな。フィア・オーフェス、シスト・エリシア」


 名を紡がれ、二人は驚いた顔をする。


「な……!?」

「何で俺たちの名を……」


 動揺した声をあげる二人を見て、男……ノアールは僅かに笑った。


「貴様らのことは知っている。散々貴様らの様子は観察したからな……憎々しき、ディアロ城城勤騎士。雪狼のヴァーチェ……実力は、上の中、といったところか。……困るな。俺たちの駒をそう簡単に殺されては」


 用意するのも簡単ではないのだが。そう言いながら、彼は足元に散らばった魔獣の骸を示す。駒、とはチエル・ラビットを含め、大量発生している魔獣のことだろう。舌打ちして、フィアが言う。


「やはり、貴様らの仕業だったのか」


 何の理由もなしに、魔獣が大量発生するはずがない。この異常の原因は、彼らなのだと、フィアは苦虫を噛み潰したような顔をする。


「当たり。やっぱり賢いね、フィア君は」


 ロシャはそう言って、面白がるように笑った。揶揄うようなその口調に、フィアはさらに表情を険しくする。


「お前らの目的は一体何なんだ? いきなりダンスパーティに乱入したり、アルを襲ったり……この騒ぎを起こした理由もさっぱりわからねぇ」


 唸るようにシストがそう言うと、ノアールはふっと笑みを浮かべ、肩を竦めた。


「我が主の計画のため、としか言えんな」


 その返答にフィアはそっと、息を吐く。

 やはり、”影猫”を名乗る彼らを統制する何者かがあるらしい。そう思いながら、フィアは言う。


「答えになっていないな。ただ……貴様らは敵だということだけはわかった」


 そう言うが早いか、フィアはロシャに飛びかかる。話すだけ無駄だ、とでも言うように。その行動が読めていたのか、ロシャは少しも慌てず、フィアの剣を躱した。そして大袈裟に肩を竦めながら、言う。


「危ないな、いきなり斬りつけてこないでよ。怖いなぁ」


 ロシャはフィアの攻撃を恐れる様子はない。くすくすといつものように笑みを浮かべていた。ノアールは手を出そうとせず、彼らの様子を見つめている。ロシャ一人で充分だと思っているようだ。


「今日こそは、仕留めてやる」


 そう言いながら、フィアは剣をロシャに向かって振り下ろす。ロシャは緩く笑って、その攻撃を自身の鎌で受け止めた。ぶつかる剣と鎌。飛び散る火花と、響き渡る金属音。

 シストも、それに加勢しようとする。しかしその姿を視界の端で捉え、フィアが叫んだ。


「シストはそこに居てくれ、巻き込むのが怖い!」

「ッ……」


 そう言われて、シストは足を止める。助けになりたいのは事実だが、自分が居ることで彼が存分に戦えないのなら、手を出すべきではない。歯痒さに唇を噛み締め、シストは彼らの戦いを見つめた。

 幾度目かの剣戟の後、ロシャは笑みを浮かべ、フィアに問う。


「相変わらずだね。フィア。接近戦は君にとって不利なんじゃないの?」


 僕はいつでも君に触れられるよ、とロシャは言う。フィアは彼の鎌を打ち返し、冷静な声音で言った。


「貴様に触れられなければ問題ない」

「そっか。じゃあ、疲れて動けなくなったところで君の手を掴むことにしようかなぁ。それとも、キスでもしてあげようか」


 そう言いながら、ロシャは黒い瞳を細める。フィアは小さく舌打ちをして、険しい声で返した。


「お断りだ!」


 そう言いながら、一際強く斬りこむ。ロシャは彼の攻撃を躱し、飛びのいた。そして、視線をフィアから外し、にやりと笑った。


「ねぇフィア。一緒にいたのって、パートナーなんだよね?」


 ロシャの言葉にフィアは大きく目を見開く。彼の意図に、気が付いたのだ。ロシャは今までも、フィア本人よりも、フィアの仲間を襲ってきた。残忍な笑みを浮かべながら、ロシャはシストの方へ飛ぶ。

 フィアは舌打ちをして、シストを庇おうとした。彼に怪我をさせたくはない。その一心で。


―― その、刹那。


 シストは、視界の端で銃を構える黒い男の姿を捉えた。


「やめろフィア、罠だッ!」


 シストが叫ぶのと、鋭い銃声が響き渡るのは同時だった。


「……ッ」


 撃ち抜かれた衝撃で、フィアは地面に転がる。土埃が舞った。


「フィアッ!」


 シストが悲痛な声で名を呼んだ。フィアはきつく歯を食いしばり、悲鳴を堪える。

 左肩を撃たれていた。そう、初めての任務の時、ロシャに撃たれた左肩を。

 荒く息を吐きながら肩を押さえるフィアを見て、ロシャはにやりと笑みを浮かべ、言った。


「前に僕が魔術弾で撃ったところだねぇ。流石ノアール。影猫一の狙撃手(スナイパー)の名も伊達じゃないね」


 ノアールは称賛の言葉に気を良くする様子もなく、冷たくロシャの方を見る。それは、仲間に向ける優しい瞳でもなく、褒められたことに気をよくした表情でもない、ただただ、冷たい瞳で。


「……ロシャ、遊び過ぎだ。さっさとこの天使を連れて帰るぞ」


 冷たい声で、咎めるようにノアールが言う。構えていた黒い拳銃をしまいながら、見下すように、倒れたフィアを一瞥すると、そのまま彼の肩を蹴った。


「うぁ……ッ」


 蹴り飛ばされた痛みに、フィアが声をあげる。ぼたぼたと、地面に赤黒い染みが散った。


「こうなっちゃあ麗しの男装騎士様も情けないものだね」


 軽口を叩きながら、ロシャは地面に倒れているフィアを抱き上げようとする。


「この野郎……ッ!」


 叫び声と同時にロシャに振り下ろされる白い剣。柄の紫薔薇の飾りが、陽光に煌めいた。怒りに燃える紫色の瞳……シストの瞳がロシャを睨みつけていた。

 僅かに彼の剣が掠め、ロシャのフードが外れる。黒い、癖のある髪が風に揺れた。ちっと舌打ちをして、ロシャはシストを睨み返す。


「何すんのさ。この服、気に入ってるのに」


 破けちゃったらどうするの。そんな軽口じみた、しかし確かに殺意の籠った声音で、ロシャは言う。シストはそんな彼から視線を外さず、叫ぶように言った。


「ふざけんな。そいつを連れて行かせるわけにはいかねぇんだよ!」


 そう叫び、シストはロシャに斬りかかる。流石に人間一人を抱えてシストの剣を躱すのは不可能だと思ったらしく、ロシャはフィアから離れ、そっと息を吐いた。


「随分な口を利くね。状況元、君の方が不利でしょ? 二対一だよ。勝ち目、ないんじゃない?」


 今のうちに、降参しておいたらどうかな? ロシャはそう言って、笑う。


「勝ち目? 勝ち目……ねぇ……」


 シストは剣を握り直す。そして真っ直ぐにロシャを見据えると、凛とした声で叫んだ。


「勝ち目がないのはテメェらだ。俺のパートナーに手ェ出した時点でテメェらに勝機はねーんだよッ!」


 アメジストの瞳に怒りの炎を燃やし、シストはロシャに斬りかかった。普段より素早く、鋭く、剣を振るう。それを見て目を大きく見開きながら、ロシャは唇を吹いた。


「仲間傷つけられて、そんだけ力が出るんだ。……じゃあ、フィアを殺したら、どれくらい力が出るかな?」


 試してみようか、と首をかしげるロシャを見て、シストはギリッと唇を噛み締めた。

 殺させる訳にはいかない。彼らの詳細な目的は不明だが、フィアを狙っていることに間違いはないらしい。あのまま連れていかれたら、彼がどんな目に遭うかは、理解したくもない。


「ふざけるのも、大概にしろよ」


 そう呟くと同時、シストは魔力を放出した。

 鋭い氷がロシャを襲う。ロシャもそれを予測はしていなかったらしく、避けきれなかった。針のように鋭い氷が、皮膚を掠めていく。唇の端に流れた血を拭い、ロシャが毒づいた。


「人間のクセに……ッ!」

「ハッ! 魔物混じりがよく言うよ」


 それはロシャにとって、禁句だったらしく、ロシャの目が冷たく光った。激昂させれば、隙も生まれるかもしれない。そう思い口を開きかけた、その時。シストはロシャを見て、小さく息を呑んだ。


「なん、で……」


 思わず、呟く。ロシャは黒髪、黒い瞳だったはず。しかし、今のロシャの右目は……


―― 明るい、琥珀色。


 その色に、見憶えがあった。否、見覚えが、ありすぎた。ちらりと頭を過ったのは、子供のように無邪気に笑う、参謀部隊長の顔。

 自分を見つめるシストに、ロシャは怪訝そうな顔をした。


「何まじまじと人の顔見てんの?」

「お前……」


 シストが、口を開きかけたその瞬間。


「シストッ!」


 フィアの、必死の警告の声が響いた。


「え……」


 シストが振り向いた時には既に遅く。彼の腹部を黒い剣が貫いていた。


「っく、ぁ……」


 大きく見開かれる、アメジストの瞳。ひゅ、と掠れた呼吸が、彼の口から零れる。彼の腹を貫く剣を握っているのは無論、ノアールで。冷たい黒い瞳が剣に伝う紅を見て、僅かに細められた。


「甘いな。無駄が多すぎる。俺もロシャも、ただ闇雲に突っ込んでいって勝てる相手ではない。ロシャに遊ばれていただけだと気づかなかったのか……」


 憐れむような声音で、吐き捨てた後、ノアールはロシャの方へ視線を向ける。そして、窘めるように言った。


「……ロシャもふざけ過ぎだ。こんな騎士一人くらい、簡単に始末しろ。余計な時間を使っただろう」

ノアールはシストに突き刺した剣を乱暴に引き抜いた。紅い雫が地面を濡らす。

「かは……ッ」


 痛みに歪むシストの顔。傷口からぽたぽたと、血が落ちる。それでもシストは倒れない。剣を支えに、荒く息を吐きながら、立っている。倒れるわけにはいかない、というように、必死に。


「こ、のッ!」


 瞬間、フィアが肩を押さえ、立ちあがり、ノアールに飛びかかった。

 悪魔属性の魔力を纏うの銃弾を受けたために、体も上手く動かない。傷の痛みと魔力の干渉で、絶えず意識が揺らぐ。しかし、それでも倒れている訳にはいかなかった。

 フィアを動かすのは、大切な仲間を、パートナーを傷つけられたことに対する、怒り。シストを……パートナーを傷つけた敵に対する怒りを、その鮮やかなサファイアの瞳に灯して、フィアはノアールに斬りかかる。

 そんなフィアを見据え、ノアールは静かに息を吐いた。


「フン……互いに思いあっているのは事実のようだな。……下らん馴れ合いが、互いを滅ぼすことになることを思い知れば良い」


 憐れみを込めて、ノアールは呟く。冷たい漆黒の瞳が、微かに細められた。


「はぁぁぁッ!」


 フィアは持てる力全てを込めて、氷属性の魔法を放つ。鋭い無数の氷が、ノアールに向かって放出された。


「無駄だといっている」


 ノアールは顔色一つ変えず、それを炎属性の魔術で打ち消した。そしてとびかかってきたフィアの左手を掴み、捻りあげた。


「う、ぐ……」


 小さく呻く彼を見て、ノアールは嘆息する。


「……困るな。貴様に死なれる訳にはいかないのだが」


 数段低い声で呟くとノアールはフィアの首を掴んだ。ノアールの長い指は、フィアの細い首を締め上げるのには十分だ。


「く……ッ」


 フィアは苦しげに息を漏らしつつ、ノアールの手を掴もうと藻掻く。しかし、皮肉なことに、外そうと藻掻けば藻掻くほど、ノアールが持つ悪魔の魔力のために、体力が削られるばかりで。

 がくり、とフィアの腕が力を失くした。息苦しさと痛み、そして悪魔の魔力の影響には、流石に耐えることが出来なかったのだろう。


「少し、おとなしくしていろ」


 ノアールは静かにそう呟くと、ロシャの方へ視線を向けた。


「ロシャ、もとはと言えば、お前が悪い」


 意識を失ったフィアを抱え直しながら、ノアールはロシャを睨んだ。何のことかと首を傾げるロシャの右目を指差し、ノアールは言う。


「コンタクトが外れているぞ」

「え? あぁ。だから此奴、びっくりしてたのかぁ。彼奴にそっくりだからね、この色」


 ロシャは納得したように頷いてから、シストの足を蹴り飛ばした。


「ぐ……っ」


 立っているのがやっとだったシストはその場に倒れた。カラン、と剣が倒れる。もう、立ち上がるだけの力は何処にも残っていない。地面に倒れ込んだまま浅く息を吐くシストを見下し、ロシャは目を細める。


「苦しそうだね……死んどく? その方が楽になれるよ」


 君は別にいらないし。そう言いながら鎌をちらつかせるロシャ。ノアールはそれをとどめて、言う。


「やめておけロシャ。どうせ放っておいてもそれは死ぬ。それより、”天使”を連れて行こう。主がお待ちだ」


 これ以上余計な時間を使いたくはない、と冷静にノアールが言う。それを聞いてロシャはつまらなさそうに唇を尖らせた。


「ちぇ。面白くないの。でも、僕の事を”魔物混じり”呼ばわりした御礼だけは、させてもらおうっと!」


 そう言って残忍に笑うと、ロシャは倒れているシストの胸を一度、強い力で蹴り飛ばした。その幼い容貌には見合わない力で。


「かは、ッく……」


 シストは息を詰まらせ、咳き込む。視界が、生理的な涙で滲んだ。揺らぎそうになる意識を必死に繋ぎ止めようとしながら、何度も浅い呼吸を繰り返す。

 その様子を見て呆れた顔をすると、ノアールはロシャに言った。


「気が済んだか。行くぞ」


 倒れたシストを見て悦に入るでもない。ちらと向けられた視線は、その辺りに生えている雑草を見るそれと然して変わらないものだった。

 シストに仕返しをして、気が済んだのだろう。


「はいよっと」


 笑いながらノアールを追いかけて走りだすロシャ。一度振り向きシストに向けるのは、嘲笑。


「待……ッ!」


 待て、と言いたかった。フィアを連れてはいかせないと、引きとめなくては、と思った。しかし、そうするだけの気力も体力も、シストに残っては居ない。

 起き上がろうとするが、体に力が入らない。ぐらりと視界が揺れて、そのまま、倒れこむ。


―― くそ、また、俺は目の前で仲間を……ッ!


 薄れていく意識の中で、シストが最後に見たのは……鮮やかな琥珀色と、清らかな白だった



 

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― 新着の感想 ―
[一言] わーー!明るい琥珀色……! 駆けつけてきた彼と同じ色ってことですね……! アンバーさんは能力もかなり特殊ですし、もしかして彼に何か関係あるんでしょうか。ロシェさんの方はアンバーさんを知ってる…
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