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第二十五章 婚約者




 時間通りに、二人は会場に到着した。大きな屋敷には既に多くの客が集まっており、賑やかな声がそこかしこから聞こえてくる。こうした場に任務以外で来ることなどないフィアにとっては圧巻で、思わず閉口する。そんな彼の頭を軽く撫でてやりながら、ルカは言った。


「まぁ、ある程度気楽で良いからさ」


 一つ頼むよ、といわれてフィアは大人しく頷く。こんな思いをさせられるのはもう二度とごめんだ、と思いながら。

 と、その時。


「ルカ様!」


 甘い声でルカの名を呼びながら、一人の女性が駆け寄ってきた。金髪金目の、いかにも貴族の令嬢という雰囲気の女性である。女性らしく身体のラインを出したドレスを身に付けている彼女は化粧もフィアのものに比べると随分と派手だ。ルカは小さな声であれが俺に見合い申し込んできた相手だよ、と若干うんざりした様子でいう。わざわざお出迎えとはな、とフィアは苦笑した。


「来てくださって嬉しいわ。それで、そちらの方は?」


 ちらり、とフィアを見て、その女性は訊ねる。挑発的、否……敵意をむき出しにした表情のままに。ルカはそれをみて、彼女に気が付かれないように溜息を吐き出した。

 今でこそ彼女は本気でルカの事を好きらしいが、親のすりこみの所為でそうなったにすぎないということをルカは知っている。そもそも、きっかけがないのだ。ルカが彼女を助けたとかそういったことがあったのなら納得も出来るが、そうではない。両親や周囲の話を聞くに、彼女の親たちが娘を城勤騎士の嫁にすればなにかと都合が良いと考え、彼女にルカに恋心を抱くように仕向けたらしいということを知った。

 彼女自身に罪はない。それどころか、大人たちの計画に利用されてしまった彼女に憐みさえ抱くが、だからといって彼女を恋人、ましてや婚約者にするつもりはない。しかし相手は貴族であり、家柄的には決して身分が高い訳ではないルカが誘いを無下に断るのも角が立つ。故に、なるべく温和に、しかしきっぱりとこの縁談を断るために、嫌がる従弟に協力を頼んだのだ。相手がいるのだと見せつければ、諦めもつくかもしれないとそう思って。


「フィ……アリサ、挨拶を」


 危うく本名を呼びかけたルカに促され、フィアはふわりと表情を綻ばせ、礼をした。


「はじめまして。アリサ・ローレンスと申します」


 フィアが男として騎士をしている以上本名を名乗るのはまずいということで偽名を使うことにしていた。ファミリーネームはありきたりなものにしたが、名前が上手く思いつかず、結局はフィアが以前あった少女の名を借りることにしたのだった。

 “フィア”の名を聞き、女は怪訝そうな顔をした。そして上から下までフィアを眺め、口を開いた。


「アリサ様……聞いたことない名ね。ご出身はどちら?」


 明らかに不機嫌な調子で彼女はフィアに問う。貴族じゃないようね? という嫌味が含まれているのがフィアにもルカにもわかった。欺いているのは此方とはいえ、家族に無礼な振る舞いをされるのは面白くないようでルカは眉を寄せる。フィアはそれを小声で諌めると、そのまま嫌な顔ひとつせず、笑顔で答えた。


「遠方の出身なのです。こちらに働きに来て、ルカ様には色々とお世話になっておりまして」


 そういいながら、穏やかに微笑み、さりげなくルカと仲がいいことをアピールする。それをみて、ルカは小さく笑った。フィアの観察力と演技力はなかなかのものだ。相手が最も嫌がり、なおかつ反論出来ないことを最善のタイミングで口に出すのだ。しかも、不自然のないように。


「大した演技力だな」


 相手に聞こえないようにとはいえそんなことを呟くルカを一瞥し、フィアはドレスの裾で隠しながら彼の足を踏みつけた。そんな二人の様子に気づく様子もなく、女性は仮面のような笑みを浮かべ、フィアに向かって手を出した。


「……そうですの。私、カロン・フェンリルと申します。よろしくお願いしますね」

「こちらこそ」


 二人は、表面上はにこやかに笑って握手をする。その瞳の奥に敵意を滲ませたまま、カロンはフィアの手を離すと、言った。


「ルカ様、早く行きましょう? ダンスが始まってしまいますわ」


 カロンはそういいながらさりげなくルカの腕を取ろうとする。が。


「アリサ、俺の腕に捕まっていろ。お前はすぐに転ぶからな」


 ルカは気が付かなかったフリをして、フィアの手をとる。フィアはくすりと笑った。


「まぁルカ様、意地悪ですね。カロン様の前で恥をかかせること、ありませんのに」


 何処となく拗ねたようにそういいつつ、フィアはルカと腕を組む。恋人同士に見えるよう、照れたように微笑みながら。カロンが悔しそうに此方を見ているのを視界の隅でとらえながら、まぁ出だしは上々か、と心の中で呟くフィア。カロンに自分とルカが親しい関係にあるのだということは見せつけることが出来ているだろうし、それに対してカロンは少なからずダメージを受けているようだ。その点、計画は上手くいっているといって良いだろう。しかし、パーティはこれからだ。気を抜くことは出来ない。上手く丸め込まれないようにしなければならない。そう思いつつ、フィアはルカの腕に掴まったまま歩いていった。



***



 今夜のパーティーはカロンの父のロックが主催者だ。ロックは、今回ルカとカロンを結びつかせようとしている張本人である。娘の縁談を成功させるためにと、随分華やかにしてあるようだった。

 大きなシャンデリアや部屋中が香っているのではないか思えるほど大量の花。食器もグラスも、一流のものを揃えているらしいことが窺えた。権力も資金も存分にあることは、夜会の規模や雰囲気で窺い知ることができることくらいは、一介の騎士に過ぎないルカたちも理解できる。その様子を見てルカはすげぇなぁ、と呟いていた。それを聞いたカロンが嬉しそうに笑う。フィアはそんな従兄をちらりと見た。

 フィアは知っている。今のルカの言葉が、褒め言葉ではないということを。十七年間、従兄として傍にいるからこそ理解できることなのだが、今の”すごい”には呆れのような感情が含まれているのだ。

確かに、普通の見合いパーティならこれくらい煌びやかなほうが良いだろう。その娘を嫁に貰うことがメリットであると感じる人間が居ることも事実だろう。

 しかし、ルカを落とそうと思うなら、これは逆効果である。ルカは派手なものや華やか過ぎるものが好きではない。普段から魔術道具を含めた貴金属を身に着けないことも含め、派手すぎることが苦手なのだ。質素なくらいがちょうど良いという性分なのである。賑やかなパーティは嫌いではないらしいが、それはあくまで自分の仲間たちとする場合だけ。初対面に等しい人間にこんな風に派手にされても、その気持ちは冷める一方だ。

 相手の好みも知らずに見合いをセッティングするなど、愚かしいことをするな、と思いつつ、フィアは会場の中を歩いていった。と、その時。


「わ?!」


 慣れない長いドレスは歩きにくかったのだろう。フィアは自分で自身のドレスの裾を踏んで転びそうになった。フリではなく、素で。


「おっと」


 ふわりと騎士らしくフィアを支えると、ルカは微笑んだ。そして、少し乱れたフィアの髪を撫でつけ、言った。


「ほら、言っているだろ? 気をつけて歩きなさい」


 ルカは元々貴族護衛の任務に赴くことは少ないが、騎士としての作法は身につけている。にっこり、と笑ってフィアを支えるルカはさぞかし絵になったことだろう。その証拠に、周りにいる多くの女性が頬を赤らめている。


「申し訳ありません。ルカ様、ありがとうございます」


 笑顔を浮かべ、照れくさそうにフィアは言った。


『まったく……歩きにくくてしょうがない。一刻も早くこのドレスから解放されたいのだが』


 口では素直な感謝の言葉を伝えながらも、ルカの脳内に響くのはそんな風にうんざりとしたような彼の声。


『仕方ないだろ。俺もこんな派手なパーティー、仕事じゃなかったら来ないし』


 ルカもまた、口には出さず、そうフィアに伝える。

 ……この会話は魔力による会話。頭の中で通信しているため、周りの人間には聞こえない。せいぜい恋人同士が仲睦まじく見つめ合っているように見える程度だろう。しかし、二人の間では、およそ恋人同士の甘いそれとは言えない会話がなされていた。


『っていうか、俺はお前に渡されたこの魔術道具が邪魔でしょうがないんだけど』


 顔を顰め、腕を振りながら、ルカは魔術で訴えた。


『それこそ仕方ないだろう。貴様の魔力だけじゃ通信魔術は不安定だ』


 脳内に響くのはそんないつも通りのフィアの軽口であった。


―― 遡ること数分。


 カロンが父に呼ばれ、話をしに行った時、フィアは素早く周りを確認して、ルカにあるものを渡した。受け取ったそれを怪訝そうにルカは見る。彼に手渡されたのは指輪だった。ごくシンプルなデザインの……ともすれば、婚約指輪か何かに見えそうな雰囲気の。

 ルカはそれを受け取って、怪訝そうな顔をした。彼は、普段絶対にアクセサリーを身につけない。殊更に、指輪は剣を握る際に邪魔になる。だから指輪は剣術でしか戦えないルカが嫌っているアクセサリーだった。フィアもそれは知っている筈だ。それなのに、何を思って自分にこれを?


「何だ、これ?」

「魔力強化用の指輪だ」


 フィアはあっさりと答えた。それを聞いてルカは顔を顰める。


「何でこんなものを?」


 自分がこんなものをつけないことは知っているだろう、とルカが言うと、フィアは溜息を吐いて肩を竦める。


「あまり表だって会話をすることは出来ない以上、魔力による通信が出来た方が何かと便利だからな。だが、貴様の魔力では是か非かを伝えることが限界だから、俺が持ってきた補助具を貸してやるんだ」


 フィアはそういいながら、半ば無理矢理彼の手に指輪を押しつける。彼の言う通り、ルカが持つ魔力程度では、数メートルの距離ででも、魔力による会話は成立しない。しかし、魔術道具による補助があれば、それも少しは補助できる。

 渋々受け取ったものの、ルカは不満げだ。現に、指に嵌めようとはしない。隙あらば返そう、という様子だ。掌のそれを指先で弄りながら、ルカはフィアに言った。


「これ、男の俺が付けてるのは変だろう?」

「恋人である俺からもらったと言えば変じゃないだろう」


 拒否する理由をつらつらとあげるルカにフィアは落ち着いて返していく。彼のアクセサリー嫌いはよくよく知っているが、”任務”に支障が出る可能性がある以上、なるべくリスクは下げておきたいという想いの方が強い。

 しかしルカもルカで、どうしても指輪をつけたくないらしい。しまいには、一度自分の薬指にそれを通そうとして、いった。


「っていうか、ほら見ろ、お前の指が細すぎてこれ俺には入らねぇよ」


 確かに、普段フィアが使っているものである以上、サイズは合わない。ほっそりしたフィアの指にはぴったりでも、男である、それも剣を手に戦う人間であるルカには小さすぎる。入らないのだから仕方ないだろう、と指輪を返そうとしたルカを見て、フィアは溜息を吐き出した。


「あぁそれなら小指に嵌めておけ。小指なら幾ら何でも大丈夫だろう」


 駄々を捏ねるな、と呟いたフィアはルカの拒否も無視して指輪を嵌めさせた。少々窮屈そうではあるが、きちんと嵌っている。それを見てルカは不服そうに顔を顰めた。


「邪魔だから嫌いだってのに」

「わかっているといっているだろう、我慢のきかない奴だな。そんなことだから魔力が上がらないんだ」


 フィアは呆れたようにそう言って、肩を竦める。魔術道具の中には、魔力を増強するための道具もある。それを使ってみたらどうかと今まで何度も諭してみたのだが、ルカは邪魔だから嫌だ、の一点張り。そんな調子だから魔力が上がらないのだといわれて、ルカは拗ねた顔をした。


「うるせぇ、叩き斬るぞ」


 珍しく物騒な物言いをしながらルカは恨めしげにフィアを睨み付けた。しかしフィアは彼の言葉を一笑に付した。


「その前に氷のオブジェにしてやるさ」


 そんな何とも物騒な会話をしつつ、フィアはルカを小突く。


「いいからおとなしく嵌めておけ、そうすればやり取りも楽だろう」


 これでこの話は終わりだ、といわんばかりにフィアに顔をそむけられ、渋々ルカはフィアの指輪を嵌めておくことになったのだった。



***



 パーティは華やかに、賑やかに続いていく。その中でフィアとルカはきちんと、親し気に見えるように注意して振舞った。尤も、魔力によるやり取りではいつも通りのやり取りが続いていた訳なのだけれど。

 表面上は仲良さげに見えるフィアとルカ。それを見ていればカロンが嫉妬に燃えるのも至極当然のこと。あの手この手でフィアを引き離そうとしていた彼女だったが、ふと何かに気づき、声をあげた。


「あら、お父様だわ」


 彼女が見つけたのは、彼女の父親。彼も娘の声に気が付いたようで、軽く手を上げて応じた。そして、彼女の隣にいる黒髪の青年を見るや、にこやかに笑いながら近づいてきた。


「はじめましてルカ殿。カロンの父のロックです」


 自己紹介して、手を差しだすロック。一見すれば気の良さそうな貴族の男性だ。しかしその笑顔の裏、思考の裏は、フィアにもルカにもわかっている。


「ロック様、この度ははこのような素敵なパーティーに呼んでくださって、ありがとうございました」


 ルカは笑顔で手を握り返しながら、魔力による通信でフィアにぼやく。


『いけすかないオッサンだな。娘を半分洗脳して騎士の嫁に、なんて考えする訳ない、みたいな顔してよ』

『顔に出すなよ。単純人間』


 気持ちはわかるが、とフィアは魔術通信で窘める。ルカは良くも悪くも素直な人間だ。心境が顔に出ることは良くある。しかし状況元今はその性質を抑え込んでくれ、とフィアはルカに伝える。

ロックはルカの手を離すと、フィアへ視線を向けた。上から下まで舐め回すように見つめられては正直気分もよくないが、フィアは微笑み、軽く会釈をして見せる。


「そちらのお嬢様は、妹君か何かかな?」


 彼は口元に笑みを浮かべ、問いかける。目が笑っていないな、とフィアは思った。それも当然といえば、当然だろう。自分が娘を嫁がせようと思っていた相手が若い女を連れているのだから。気が気でないのは、よくわかる。


『彼方様が諦めるかもっとタイミングを図って言うつもりだったが……何かと面倒だし、婚約者だって言っていいか?』


 フィアは魔力による通信で、ルカに問う。そろそろ無暗に敵視されるのも面倒だと思ったようだった。ルカはそれに小さく頷いて見せる。


『あぁ、いい。もともと俺はそのつもりだったし』


 寧ろ最初から婚約者なのだと告げたらどうか、といってきたのはルカの方だった。どうせ最後には改めて断るつもりなのだから、無暗に期待させるようなことはしない方が良いのではないか、と。

 しかしそれを否定したのはフィアだった。というのも、相手……カロンの気質的に、パーティに連れてきたというだけで婚約者だと告げた所で信じない気がしたのだ。ルカが自分を断るために連れてきただけの女性だといわれたら……尤も、それは事実なのだが……ルカが婚約を申し込んできた相手を断るために適当な女を連れてきた不義理な男、と見られてしまう可能性もある。普通に考えれば断ってもしつこく迫ってきた彼方が問題なのだが、相手は貴族。ちょっとしたことで要らぬ評判を立てられれば、仕事にも差し支える。それならばいっそ、パーティの間中仲睦まじい様を見せつけた方が婚約者だといったときに納得してもらえるだろう、という考えの元、敢えて婚約者だと名乗ることはせず、ルカの隣にいたのだった。

 とはいえ、ずっと敵意を向けられて楽しい人間はいない。適当に聞き流すのにも疲れてきたフィアは、通信で確認した後で、恥ずかしげに笑った。代わりにルカが言う。


「妹ではありません。私の婚約者、アリサというものです」


 そうルカが告げると同時、ロックとカロンが小さく息を呑んだのがわかった。フィアは表情を保ったまま、二人の様子を蒼の瞳で見つめる。


「婚約者、でしたか。これは失礼なことをした」


 ロックが引きつった笑顔でフィアの手を握った。ルカに婚約者がいたとは、予想外だったのだろう。カロンもショックを受けた顔をしている。ルカの思わぬカミングアウトに暫し呆然としていたロックだが、すぐに笑顔を貼り付けると、ルカとフィアに向かって言った。


「では、アリサ殿もごゆっくり。……私はこれから仕事があるので、失礼します」


 彼は素直にそういって、微笑んできた。予想外の彼の反応に一瞬驚いた顔をしそうになり、慌てて表情を引き締め、笑顔を浮かべ、フィアは礼を言った。


「ありがとうございます」


 しかし、内心は疑問でいっぱいだ。


『仕事?』


 訝し気に、フィアは呟く。この状況で自分たちから離れるなんて、全く想定もしていなかったのだ。


『俺との縁談が上手くいきそうにないから気まずくなったんだろ』


 疑問に思ったことを魔力の通信でルカに問えば、そっけなく返ってくる返事。しかし、フィアは納得していない様子だ。


『そうかな。俺にはそうは思えない。もともとルカに挨拶したら帰るつもりでいたような気がするけど。それに、こんなにあっさり引き下がるのも……可笑しくないか?』


 そう、この国では、婚約者がいても、どうにか別れさせて、自分の娘と結婚させようとする貴族も珍しくない。婚約者がいると言われて、はいそうですかと引き下がる方が珍しいくらい。そもそも、見たところロックもカロンもそう簡単に諦めそうなタイプには見えない。寧ろ、強引にフィアとルカを引き離そうとするほうがありうるだろう。だからこそ、今こうしてカミングアウトしたことで、一悶着あるのではないかと警戒していたのに。


―― 俺の予想が外れただけか……?


 何事もなく済んだのはよかったが、逆にそのことがフィアは気になっていた。



***



 そうこうしているうちにロックは会場を去っていた。暫く間を空けて、カロンが口を開く。


「……アリサ様、婚約者だったのですね」


 掠れた声でそういいながらちらり、とルカを見るカロン。その表情に滲む感情は、上手く読み取れない。言葉で表すのなら、”無表情”に近いかもしれない。


「あぁ、紹介が遅れて申し訳なかった。アリサが恥ずかしがるものだから、聞かれるまでは言わないことにしているんだ」


 ルカがすまなそうにそういう。カロンが怒ってとびかかってこないかとフィアは身構えたが、その予想は見事に外れ、カロンは寂しそうに笑っただけだった。そんな彼女の反応に、フィアは少し、驚いた顔をする。


「そうでしたか。……お似合いですものね。どうか、お幸せに」


 泣き出しそうになるのを堪えるような顔をした後、彼女はそう言った。嫌みのない笑顔と、優しい言葉だった。嘘も、嫌味もない、その笑顔。純粋に、フィアとルカを祝福するような、そんな言い方だった。ルカも予想外の事態に面食らって瞬きしている。

 暫しその顔を見つめ、言葉の真意を探ったが、どうやら心からそう思っているらしいということを悟る。フィアは”意外といい子じゃないか”と思い、こんな形で失恋させられた彼女に、ほんの少し同情したのだった。



 

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