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辺地の風  作者: yumyum
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幼馴染

 鴎が鳴き声を残し、リゴベルトをかすめていく。見ると、波の上に、鴎は群れを成して飛んでいた。

 リゴベルトは潮風を大きく吸い込んだ。それは故郷の香りだった。

 申しわけ程度につけられた段に足を取られぬようのぼっていく。そこはマリの郊外、海を見晴らすように建てられた墓地だ。

 記憶を頼りに一族の墓をさがす。程なくして見つけた墓は、意外なことに荒れてはいなかった。それどころかまだしおれ切ってはいない花が一凛供えてあった。

(墓守がここまで面倒を見てくれるとは思えない。とすると遠縁か、それとも生前親しかった人間か)

 いずれにしろ、有難いことである。リゴベルトは自身が持ってきた花を供えると腰を下ろした。

「帰ってきたよ」

 十五年前の戦争で父を亡くし、母は父の後を追うように流行り病で亡くなった。近くに親戚も居なかったリゴベルトは、それを機に軍人になることを決意し、マリをあとにした。それ以来忙しい軍隊生活に追われ、今日まで帰郷することはなかった。

 リゴベルトは大鳥の腕輪を撫でながら無沙汰を詫びた。

「でも、父さんも母さん分かってくれますよね……」

 ふと、人の気配に気づき振り返ると、子供を二人連れた女が立っていた。子供の一人は女の足に隠れるようリゴベルトを伺い、もう一人は女の前に立ってリゴベルトを興味深そうに見ていた。

「こんにちは」

 リゴベルトが挨拶しても、女はこちらを探るように見るだけで何も言わない。どうしたのだと思っていると、女はぽつりと呟くようリゴベルトの名を口にした。

「……そうですが」

「やっぱりそうね!」

 女の顔はパッと和らいだ。女はリゴベルトに駆け寄ると抱きついた。その勢いに、リゴベルトの方が女の大きくなったお腹の心配をしなければならなかった。

「私よ、分からない?」

 そう言われるとどこかで女を知っている気がする。そう、この人はたしか……

「フリアか!」

「そうよ!」

 フリアはリゴベルト家の隣に住んでいた子だ。歳も近いということもあって、二人は兄妹同然で育った。リゴベルトの記憶に残る少女とは異なり、今では立派な母親の顔をしていた。しかしよく見ると目頭に当時の面影を残しており、リゴベルトはそこに月日の流れを感じた。

「こちらにきて挨拶をなさい。母さんのふるい友だちよ」

 母親の突然の行動に驚いてか、呆然としている子供たちにフリアは言った。

 二人はリゴベルトのもとへやってくると、一人は元気よく、一人は恐る恐るリゴベルトに挨拶をした。

 リゴベルトは二人の頭を撫でながらそれを聞いた。

「もしかして、ここの手入れをしてくれていたのはフリアか?」

「そうよ。両親のお墓参りのついでにね」

 聞くと、フリアの両親も鬼籍に入ったということだ。

「そうか……」

 幼いころ、留守がちな父親の代わりにフリアの家族には世話になったものだ。リゴベルトは案内されたフリア家の墓にも頭をさげた。

 墓地を後にする。元気よく駆け下りていく子供たちをしり目に、リゴベルトはフリアに手を貸し段を降りていく。その折に、二人は近況を交換し合う。どうやらリゴベルトも覚えている何人かの住人まだマリで暮らしているらしい。リゴベルトも軍団長になったことまでなったことは喋ったが、それ以上は喋らなかった。下手に心配されても困るからだ。

 あらかた喋ると、リゴベルトには他に話すことが無くなった。それはフリアも同じようで、二人は目が合うと照れくさそうに笑みを浮かべあった。

「お腹の子は、もうすぐか?」

「ええ」

「今更だが、こんなところまできて大丈夫なのか」

「少しは動いた方が調子がいいのよ」

「そうか。この子は三人目か」

「いいえ、四人目よ。一番上の子は旦那のバルギータスのもとで店番してるわ」

「そうか。では、一人くらいは将来軍人かな」

「どうかしら、旦那は商人にしたがってるけど。いまのご時世、商売の方が豊かになれるって」

「そうかもしれないが、それは軍人が居て、平和を守っているからこそだ。できれば、一人くらい頼むよ」

「わかった、伝えておくわ。ところで、家に寄っていかない? なんだったら今日は泊まったっていいわよ」

「有り難いが、それがそういう訳にもいかないんだ」

「どうして?」

「これでも任務中でね。特別に時間を貰っている身なんだ」

「そう……それじゃあ、仕方がないわね……今度はどこへ行くの?」

「コスクだ」

「コスクかあ。それじゃあ大変ね」

「知ってるのか」

「ええ、私の母親はコスク出なの。小さいころに苦労話をよく聞かされたわ」

「それは知らなかった」

「でも、ここでん暮らしと比べたら、どこで暮らしたって大変かもね」

「確かにそうかもな」

 坂を下りきった。リゴベルトは何か言い残しているような気がしているのだが、特に浮かんでは来ない。

「それじゃ、そろそろ行くよ」

 諦めるように頭を振ると、リゴベルトは言った。

 フリアはとっさにリゴベルトの手をつかんだ。

「ねえ、私……その……いいえ、何でもないわ。次はいつ会えるかな」

「何時、だろうな……」

 リゴベルトは振り返り、フリアたちに手をる。

 新しい砦が、リゴベルトを待っている。

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