旅2
北の砂漠は徐々に終わりをつげ、丘へと姿を変える。それは、のちにはじまるアデンス山脈の先兵だ。アデンス山脈は長く、隣国まで続き、さらにその先の、その先の、この大地の終りまで続くといわれる一大山脈だ。
そんなアデンス山脈からはじまる川がある。アーマ川だ。アーマ川はワスカラン山を源流とし、川幅を広げつつ南西に流れを取り、しばらくいくと大きく西に流れを変え、そのまま海へとそそぐ。
幾つもの支流を持つアーマ川はこの地方をつなぐ重要な流通路だ。河口には大きな都のマリがあり、十五年前の戦争で平和を取り戻して以来、この地でその重要度は日一日と増している。
リゴベルトは今、そんな川の上の人となっていた。
当初の目的通りリゴベルトはクェアルドの砦で馬を返すと、旅を続けた。砂漠にはこの時期としては珍しく雲がはり出し、熱さは大分加減されていた。できればその日のうちにここは通過したたかったリゴベルトにとっては願ってもいないことだった。
休みなく歩き続け、正午を過ぎるころには平坦な道は緩やかな勾配をおびてきた。そのうち景色は起伏をともない丘となった。その間を縫うよう道は続く。植生もかわりはじめ、丈の低い木などが顔をみせはじめた。
本格的な山道に入る手前には井戸ががある。水を汲み、一休みするロゴベルトの前に、光は雲間を通して丘を照らした。
リゴベルトが二日かけて山道を抜けると、もうそこは砂漠ではなかった。下草が生い茂り、動物たちも顔を見せ始めた。そまま進むと姦しく鳥の鳴く森になり、そしてとうとうアーマ川までたどり着いた。
河岸のロピ族の村でリゴベルトは船頭を探し舟をお願いすると、出発は明日だということに話が決まった。
「兵隊さんはマリへ帰郷ですか」
それまで歌っていた鼻歌をやめ、船頭はリゴベルトに言った。
「いや、転属だ」
「そうですか。北の砦から来たっていうんで、あっしはてっきりお里にお帰りになるのとばかり思っていましたよ。それじゃあ、どこへ」
「コスクというところだ」
「コスク、聞いたことがないな」
「老いた……」そこまで言ってリゴベルトは思い直した。「南の国境沿いにある砦だよ」
「はあ」
船頭はまた鼻歌を歌いだした。この地方の曲だろうか。低く、唸るようで、単調な局長だが、それでいてどこか悲哀をにじませている。
「でも、兵隊さんは色んなところにいけていいですな」船頭はいった。「私らなんか、同じ所を行ったり来たりするだけで、やんなっちゃいますよ。たまには遠くまで旅してみたいと思うんですが、家族も居るし、なかなかそういう訳にはいきませんしね」
時折リゴベルトに話しかけては中断をし、船頭の鼻歌は続く。
リゴベルトはふなべりによりかかり、茶色の水をすくい、流し、また茶色の水をすくい、流し、そうして、旅を続ける。
数日後にはマリだ。