リトゥーマ
リトゥーマは寝床に横になり手紙を読んでいた。
リゴベルトに気付くと上半身を起こし、どうぞと椅子をすすめた。
「どうかな、部屋は」
「まさか一人部屋だとは思いませんでしたよ。まるで出世したようです」
「パロミノに感謝してくれよ。この部屋を用意したのは彼だ」
「あいつですか。こりゃ驚いた」
「どうしてだ」
「私たちは互いに虫が好きません。あなたの手前、気を使ったんでしょう」
リゴベルトとリトゥーマは二人して笑った。
「ところで、あの青年たちはどうしたかな」
「あの後荷物を下ろして帰りましたよ。あなたによろしくと言っていました」
「それはよかった」
何気ない話をしていると、リゴベルトは先ほどまでリトゥーマの読んでいた手紙が目についた。リトゥーマはそれに気づくと、
「時たま家族や親類からの手紙が行く先々の砦に届いているのです」
ひらひらと振った。
「一番下の妹が今度結婚するらしいです。たまには帰ってこいと書いてありましたよ」
「それでは今度は帰郷か」
「いや、このままバンバビルカに引き返します。馬を返して、そこでどこに行くのか決まりますよ。たしかバンバビルカの連中がここへ来る前に立ち寄った砦に用があると言っていたので、そこにいく事になるでしょう。明日朝には発ちます」
「そうか……それでは、これでしばらくのお別れか。バンバビルカの夜のように酒が飲めればいいのだが、私も明日から忙しくなりそうなのでな」
「そういえば、明るい内の騒ぎは何だったのですか」
リゴベルトはふざけて肩を上げた。
「私だよ。砦を見て回っていたら、責任感のある人間に捕まってしまった」
「大方、そうだろうと思っていましたよ。で、どうですかここは。気に入りそうですか」
「明日閲兵式がある。先ほどパロミノに言って早めてもらった。気に入るも何も、明日から私の砦だ」
リトゥーマはかしこまり言った。
「ここの兵を見ましたか」
「ああ」
「約半数は近くの部族の若者です。あなたが思っているようなことでしたら……」
「止めた方がいいと」
「職業軍人のあなたたちと違って、軍規に従うことに慣れておりません。無理に押さえつければ、反発だって招きかねない。そうなれが、ここがかろうじて保っている秩序も瓦解しかねない」
かろうじてか、とリゴベルトは苦笑した。しかし、リトゥーマの言う事は正しいのだろう。
「前例に倣えばいいのですよ。ただ、部族から食料を徴収し、コスクの砦を存続させていればいい……それでも、あなたはやろうと言うのですか」
どこかで聞いた言葉だな、とリゴベルトは思った。そして静かに笑うと、ああと頷いた。
「あなたには何を言っても無駄ですね。ならば……やつらと繋がりを作る事です。部族の人間は軍規や罰などでは従いません。それでも、あなたが慕われれば、あるいは……」
「有難う。出来るだけやってみるさ」
リゴベルトは旅の礼を言い、リトゥーマと握手をして別れた。