詰め込み過ぎに注意
聖地の魔力。
そう思えば幻想的で綺麗な風景に見えなくもない。
彩り鮮やかな光の渦が本来薄暗いはずの地下通路にたくさん浮いてる風景は、やはり自分の正気を疑いたくなるけれど。
最初に見た時の衝撃に比べれば、本で得た予備知識があるので心の準備が出来ている。
どの色から触ったらいいんだろう……。
渦だけで充分に明るいので、光るコップは階段の隅にでも置いておこう。
再度、心を落ち着かせるべく深呼吸して……むせる。むせて、引き返す。
ケホッケホンッ。コホン。
馬鹿ですか、私?
まだ掃除してないんだから地下だって埃っぽいに決まってるじゃない。
いや、もうここに来てから何度も自分って結構間抜けなんじゃないかというのは痛感してますけど。
学習能力は割と高い方だと思ってたんですよ。村でもお城でも、ここでも。
たぶん、今気持ちが浮ついてるのだろう。頭の中でぐるぐるご先祖様の言葉を考える方に意識が取られてたかな。
目の前の事に、集中集中っ!
呼吸が落ち着いたとこで気を取り直して。
ええい。とりあえず、一番近くにあってちょうどいい高さの緑色っ!
伸ばした掌が、触れた渦の中心に一瞬だけ引っ張られてドキッとする。
でもすぐに緑色が掌の中に吸い込まれていって。
掌から手首、肘、肩と腕を伝っていって首からすうっと頭の方へ。
うわあっ、今まで経験した事のない不思議な感覚。
光と一緒に伝っていった温もり。そんな心地良さに浸る間もなく、頭の中に知識が弾ける。
これは草木の魔力。思い描いた植物の芽を生成できる。
芽なんだ。いきなり草木を作れるわけじゃないんだ。
でも生成したものは本物で時間が経っても消えないし、草木の魔力を与え続ける事で早く成長する。
あ~身体の中に私の魔力と違う魔力が居るのを感じる。これが今触れた渦がくれた魔力なんだろう。
使ったら消えちゃって回復しないのかな?
そこまでの知識はくれないから試すしかないのか。
幾つかの芽の知識が与えられた。
草木っていうか……野菜。芽の姿と途中の成長してる姿と知ってる野菜の姿と枯れるまで。
これ与える魔力の加減間違えたら、枯れるとこまでいっちゃうって事だよね。
知ってる食べ物で良かった。知らない植物だったらどうしていいか困る。
与えてくれる知識、微妙だな。これ、他の渦もそうなんだろうか。
とりあえず危なくなさそうだから他の色も触ってみよう。
茶色は土。灰色は石。赤は火。青は水。
橙は何故か木材。草木と木材は別なのか。どういう区分なんだか。
そこまで触ったところで、身体の中が魔力でパンパンに。うわ、これやばい。
枯渇の正反対、魔力膨満って病気で以外で起きる事はないから知識でしか知らないけど、私、今その状態になってる?
使えばいいんだよね、使えばっ。うわわっ。
木材、木材。村で使い慣れたアンダルの木の薪っ。
カラン、カラン、カラン。
あ、もう木材の魔力が無くなった。
握ってぶん投げれそうなくらいの太さと長さな薪が三本。
……思わず、通路の奥に広がる無数の渦達の方を眺める。
一個の渦はたいした量じゃないっぽい。そして私が蓄えられる魔力もたいした量じゃないっぽい。
必要の都度、その分だけ触れって事かな。
同じ色の渦でも違う知識くれたりするんだろうか。
六個目の渦で今、パンパンでやばかった。一度に五個まで、それは自分に戒めよう。
身体が破裂するかと思った……!マジで怖かったよ!
赤い渦が何気に重要な知識を教えてくれた。
私の持ってる魔力を、効率はかなり悪いけど圧縮して渦がくれたような魔力に変換して放出できるって。
茶色の渦が教えてくれたのは、この魔力は今まで私が使ってたのと違って一時的じゃなく形を固定できる事。
物によって魔力の相性が違うらしい。
相性が合う魔力を込めれば、魔力が抜ける速度は緩やかになって形を長く保てる。
う~ん、そういう仕組みなんだ。波長が違うからすぐ抜けちゃって崩れるのか。
灰色の渦は、普段私達がやってた魔法の上級編の解説。波長が違ってもすぐには抜け難い込め方。
魔力操作が職人技過ぎて……難しいっ。なるほど上級者は長年の訓練でこれができるようになってるわけだ。
改めて高度な魔法を扱える人を尊敬する。村の職人さん達ったら、こんな事を出来てるんですね……!
橙の渦は、自然そのままに近い木材の生成から加工品に使い勝手の良い木材組織への変化のさせ方。
今、速攻でその知識使わせて貰いました。焦ってたので、すぐにイメージできる自然に近い木材生成だったけど。
青い渦は洗濯魔法で使ってるような水の粒子の動かし方についてだね……うん、それは元々知ってた。
うっかり渦に触れたりしたら怖いから、今作った薪を拾って上に一度戻ろうっと。
パンパンなのは収まったけど、複数の魔力が身体の中で異物感になってて気持ち悪い。
調子に乗って何個も触るんじゃなかった……。
一度に五個までなんて思ったさっきの自分に馬鹿って言ってやりたい。
これ、ずっと身体の中に貯めておくものじゃないよ。一時的だけにしようよ。
ご先祖様、そこまで書いておいてよ……って私が浅はかな行動したのが悪いんだけど。
とぼとぼと灯りを持って階段を昇り、玄関ホールまで戻って床にへたり込んだ時の気分はあれですね。
祭りでごちそうが並んでるからと調子に乗って色んな物を食べ過ぎて、具合悪い時の。
気持ち悪さと自己反省の共存はそれに近いです。
放出できるものから順番に出していきましょう。
野菜の芽の知識の中では、日持ちがして生でも食べれるキャロネを作ってみよう。
芽を生成するだけで半分くらい魔力を持っていかれた。
これ食べられる状態まで育つかな。途中だった場合、どうしたらいいんだろう……。
うん、中途半端で終わりました。食べられそうな状態には達したけど、市場には並ばないくらい小ぶりですね。
でも久々の新鮮な野菜っ!
最近ずっとロクな物食べてないから、齧った瞬間の味に感動ですよ。
皮ごと丸齧りでも美味しい……。あ、ついやる事より先に食べる事に夢中になってしまいました。
別にそれほどお腹が空いてたわけじゃないんですが……。幸福感って大事。
とはいえ日持ちがする物を出したのに即完食した自分のダメさ加減が辛いですね。何してんの私。
土はとりあえず粘土に向いてそうな土質の塊で。小さい壷一個分かぁ。
石は一種類しか教えてくれなかったので、灰色の塊を一個。重しくらいにしかならなさそう。
水は樽の中にジャバッと出して。火……火はどうすればいいんだろ。
本物の火を作っても、火ってずっとそのまま残らないよね。
一個くらいなら異物感たいした事ないから、身体の中に置いておこうか。
使いたい時に火を出せる。便利だ。
ラウニー族の魔法にはないけど、昔は他の種族みたいに使えたのかなぁ?
自分のじゃないけど魔力をあれこれ動かしたし、知識を一気に詰め込んで疲れちゃった。
木とか石とか土とか散らかしてるけど、一回ベッドで横になって休もう……。
家具何でもいいから作らなきゃ急がなきゃと思うけど、頭が回らない。
休んだら。休んだらすぐに作るからっ!