頭は深刻でも身体は日常
学のある人は凄いと思う。
これだけたくさんの文字が並んでるのをスラスラと読めてしまうのだから。
私だと一行の意味を理解するのに時間が掛かって、なかなか前に進まない。
単語を一個ずつ追っていって、繋げて書いてあるから区切りを間違えると意味がわからないからもう一回読み直して。
普段使わないような言葉が多いから、理解するのに時間が掛かってしまう。
そして言葉がわかっても何を言ってるのかちゃんと考えながらじゃないと、頭から文章が抜けそう。
やっと文章の塊を次の区切りまで読み終わった頃には、焦って頭の中がグルグル。
だってさ、書いてある事が!
『魔法を使うだけでなくラウニー族の魔力に満ちた家具をたくさん配置しなさい。
そうすれば館の力が増す。
往年の力を取り戻せば、聖地の奇跡も復活するであろう。
時折現れる渦には、最高に相性がいい魔力と不思議な知識が満ちている。
古来より祭祀を司る我々一族の血筋以外には感じ取れないようだが。
魔力には種類があり、特別な魔力を集めないと作れない家具もあるそうだ。
伝聞なのは申し訳ない。私の知る代には既に渦は現れず継承は途絶えていた。
言葉や文字で伝えられるものではなく、渦から直接感じ取るしかないそうだ。
館が衰えれば魔力の抜けた家具も朽ちて消えてゆく。
旅路に持てない物は全て置いて行かせる。残してあった家具がもし全部消えていたなら。
急いで欲しい。
館に残された時間はもうほとんど残っていないのだから』
家具なんて、何処にも無かったじゃないっ!?
時間ない!時間ない!
どうしよ、どうしよ。館が衰えちゃってるっ。
って、渦!
渦ってあれだよね、地下にあったあの怪しく光る渦。
指輪も探さなくちゃなんだけど。
指輪渡せるまで、身代わりの家具を先に作っておかないと結界も館も危ないんじゃ。
魔力には種類がありってのもよくわからないけど。
家具ってもしかして魔力だけでも作れるの?
材料が無いと作れないと思ってたけど……。
渦から直接感じ取る不思議な知識……それしかヒントが無い。
気味悪い景色だったけど、すぐに地下行くしかないよね。
とにかく私、家具を作らなくちゃいけない。
読みかけの本を静かに置いて、ガバッと勢いよく立ち上がった私は。
「いやあああ~っ」
……脚の感覚が変になってて、すぐに崩れ落ちた。
床にぺったりと内股座りしてたんだけど、本に集中するうちに変な体重の掛け方になってたっぽい。
深呼吸して痺れは我慢できても、右脚に体重乗せると膝がカクンカクーンとなってしまう。
少し待てば治るだろうけど、これじゃ元に戻るまでまともに歩けないよ……。
気持ちは焦ってるから早く向かいたいんだけど、このまま行ったら階段転げ落ちコースだよね。
うぬぬ。
そうだ脚の悪いお年寄りは杖を突いて歩いていた。
光る棒……って、ああ、灯りはさっき違う形にしたんだった。がっくり。
一回形を作ったものって変えられるのかなぁ。自分の魔力だから抵抗は少ないと思うんだけど。
でも作り直してるうちに脚の方が先に治りそうな気がする。
そしてタイミングの悪い事にお腹の虫もなる。そんなに時間経ってたんだ。
ちょっと、今、やめてよ。急いで地下に直行したかったのに!
灯りはそのままそこに置いといて。
右脚の苦痛に悶えながら、ひいひい言いながら玄関ホールへと向かう。
とても人様にはお見せできる姿じゃない。いいんだもん、今は私しか居ないんだからっ。
階段を一段毎に悶えて変なポーズになってるうちに、治ったけどね。
ああ時間掛かって疲れた……お腹が満たされたら眠くなってしまいそうだ。
渦に触ってまた変な事が起きてもいいように、寝てからの方がいいのかなぁ。
でも時間が無いって読んじゃった後だと気になってしょうがない。
そんな心配は要らなかったんだけどね。
無駄にしゃっきり目覚める仕様の非常食だったのを失念していたよ。
鼻に抜ける薬草の香りが、もう少し爽やか系ならいいのにな……青臭いんだか、生臭いんだか。
生臭い物って普通日持ちしないんだけど、何を混ぜたらこうなるのかなぁ。
食べる度に疑問に思うけど全く見当が付かない。
気にはなるけど原材料を聞いてしまったら二度と食べれなくなる可能性も否めない。
わからないのはいい事なのかもしれない。
階段は暗いから灯りを持っていった方がいいかな。
地下の扉を開けたら光る渦だらけだから要らなくなるけど。
う~ん。持ち運びやすくて、階段に置いても安定しそうな形、がいいかな。
円筒形でシンプルな取っ手付きのコップを作ってみました。
光るコップ。
うん、シンプルで馴染みのある形は作りやすい。守り石さんに魔力流すの慣れてきた気がする。
さあいよいよ地下の摩訶不思議な空間へ突撃です。
扉を開ける前に深呼吸しよう。
すぅ~はぁ~。すぅ~はぁ~。
いざ!