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ラウニーの箱庭  作者: 白石苗穂
序章 ~魔境の奥地へ連れられて~
2/22

全く安心できない説明

 ……。


 どうしていいかわからず、名も知らぬキラキラした人の方を見たら目が合ってしまった。

 途方にくれた顔、丸出しだったと思う。恥ずかしいから下を向こう。


「お気持ち察しますが、殿下は見た通りの方です。頑張ってくださいね」

「……あの、失礼ですが。殿下の仰っていたユンカース様というのは」

「初めまして、レディ。恐らく殿下は全く紹介しなかったと思いますが、私の名はユンカース=フォルネ=デュ=カルドネス。殿下の幼馴染で側仕えというか不在時の代理が現在の主な勤めとなっております。あの通り奔放な方ですので、気楽に構えてよろしいですよ。私も同じくです」

「ル、ルキネと申します!存じ上げなくて申し訳ございませんっ!」


 うわー、どうしよう。本人だった。不躾にいきなりファーストネームで直に呼んじゃったよ。あれ、でも何て呼べばいいんだ?カルドネス様、でいいの?

 王子様の代理って職名じゃないよね。誰か教えて。

 すごく高貴な家柄っぽい方でした。王子様と幼馴染ってことは、上から数えてすぐとかその辺ですよね、きっと。

 田舎から出てきた村娘なので、貴族の家名とかさっぱり知らないんですけど。これから学ぶ予定だったんですけど!


「ルキネ、ですね。偶然にも殿下の御名の一部と響きが似ています。それならあの遺跡馬鹿でも名前を忘れる事は無いでしょう」


 さらっと王子様を馬鹿とか言ってますけど、この人。

 癒し系の微笑みの下は黒いですか、もしかして。幼い頃から振り回されてそうですものね。


「さて、時間が無いので移動しながら説明しましょう。支度は既に西門に整えてあります。この格好では目立ちますから、門までは馬車で行きますよ」

「はいっ!」


 ごく平凡な容姿の私はともかく、キラキラ高貴さが滲み出たユンカース様がそのまま城の外に出たら大変ですよね。

 王子様は旅装束に着替えてくるんだろうけど、ユンカース様は侍従の格好のまま行くみたいだから。

 で、私はさっき言ってた通り、このまま、と。


 現状把握に努めつつ、俯き加減に後ろを付いて行くと、都の大通りを普通に走ってそうな使い古された馬車が既に用意されていた。

 御者さんはこちらを一瞥だにせず、キリッと前を向いたまま背筋を伸ばして手綱を構えている。

 扉を開けに降りてきたりしないんだ。あ、私が居るからユンカース様より先に行って開ければいいのかっ。

 お城のルール誰か教えて!って先程から私、そればかりだよ。


 って、ユンカース様に先を越された!脚のリーチ違うのもあるけど、さりげなく素早いな!


「さあ、お手をどうぞ」

「え、ええっ!?私ただの下級メイドですからっ。お気になさらず!」

「それはこちらの台詞ですよ。一人前の紳士たる者、女性には身分を問わず手を差し伸べるのが嗜み。ふふっ、新米さんは初々しく可愛らしいですね」


 顔に血が昇る。エスコートされるがままに馬車の座席に落ち着いたけれど、何これ恥ずかしい。

 恥ずかしい事を恥ずかしげもなくやる上流の紳士って、田舎出の庶民には甘さがどぎついよ。

 甘口だから大丈夫って騙されて飲んだ果汁割りの蒸留酒を飲まされた時並みに顔が火照ってるよ。

 馬車が動き出したお陰で小さな窓から入ってくるそよ風が顔に当たって、涼しい。

 このまま外の方というか壁ばかり向いてたら失礼かな。でも目下のこちらから話しかけるのも。どうしよう。


 まず、自分の膝を見る。隣に座っているユンカース様の膝を見る。上着の裾を見る。よし、顔を上げる。

 微笑みが近っ!?

 カーテンだ、御者さんとの間に揺れるカーテンを見よう。


 シルエットが透けて見えない厚めの織布ですね。縒りが太い麻糸でしょうか。生成り色の地に細い色糸で飾り文字が刺繍で散りばめられています。

 馬車に使っている木材と同じ色とそれに合う深緑とアクセント程度に臙脂と薄紅。落ち着いた色調で乗せる人の老若男女を選ばず、格調高さを出している。

 縁は折り返して縫い合わせた直線でスッキリ。刺繍糸でどっしりとステッチしてるのは重しも兼ねてるのか。軽いとスピード出した時に靡き過ぎるし。

 床からは指の太さ程度だけ浮かせてあるので、並足程度で走らせてる今は裾の部分が揺れに合わせて僅かにそよいでいる。


 カーテンを観察してると呼吸が落ち着いた。

 それを見計らったようにユンカース様が言葉を発する。実際、見計らってたのかもしれない。


「それでは説明をさせて戴きますが、西門に付くまでは私の事は気になさらず楽にしてお寛ぎ下さい。到着した後は……苦労されるでしょうから、おそらく」


 遠い目をして残念そうな溜め息を吐かれるのが、身に染み入ってくる。

 少し哀愁が漂って見えるので、どう返事をしていいかわからない。王子様のせいでいつも苦労してるんだろなこの人きっと。

 あ、嫌な単語思い出した。


『安心しろ、担いでくから移動の心配もない』


 ……。


『担いでいくから』


 ……。


 担いでいくのか。本当に担いでいくのか、私を。

 実現しそうな腕力も体力もありそうに思える。フィールドワーク好きで、戦いも得意。

 私も華奢っていう程じゃないけど、どちらかといえばスレンダー寄りか。身長は低い方か、目立つ程低くはないけど。

 問題は担ぎ方だけど……両手が塞がってしまうからおんぶは無いだろうなぁ。


「殿下と共に魔境内にある古代ラウニー族の遺跡に向かう、ここまではいいですね。戦闘面において不利なラウニー族を連れて魔境を横断する手段として、殿下から特注品の調達を指示されました。成人を収納できるサイズの蓋付き容器型の背負子。急ぎでしたので、既にある素材を組み合わせて製作させました。ちょうどよい大きさのワイン樽に、背負いバンドを取り付けた簡易な物です。元々金具で補強されてますし、蓋をしても栓の部分を開ければ通気も悪くないはずです。頼んだ職人が気を利かせて、ひとつ計算違いがありましたが」

「計算違いって……」

「年代物の特級品に用いられていた樽で、香りが染み付いて大変かぐわしいです。殿下所望という事で一番良い品を素材に献上したとの事です」


 確実に臭いと思う。年代物の特級品っていうから好きな人にしたらいい香りなんだろうけど。

 私、匂いだけでたぶん酔うよ?成人してから、祝いや祭りの時には少しは飲んだけど、弱いみたいよ?

 栓を開けても蓋してたらほぼ密閉空間ですよねそれ?


「魔境内は常に危険に晒されると聞きますから、殿下が良いというまで蓋を開けたりされませぬよう。お花を摘みたい時は訴えてください、おそらく殿下は気が利きません」

「声は聞こえるんでしょうかね……」

「着いたら試してみましょう。そこは確認していません。扉に比べれば薄いですから、周りが騒がしくなければ聞こえると思いますが」

「どのくらいの時間かかるとかわかりますか」

「日単位で一体どのくらいでしょうね。人里に近ければ過去に誰かが発見しているでしょうし。携帯用の非常食は二ヶ月分用意してますが、非常用ですからね。殿下は狩猟と野営料理が好きで基本現地調達の人です。料理ができるのなら作らせて貰った方がいいですよ、一度試食させて貰いましたが、激しく不味いと誰もが太鼓判で有名な非常食よりはまだいいかなという程度です」


 軽量でかさばらず長持ちな上に栄養満点で満腹感も満たすけど、味覚が激怒すると市井でも有名なあの非常食ですね。

 都では子供が路端で戯れ歌にしてる。代々、子供達に愛唱されてる伝統の品だと市場のおばちゃんが言っていた。

 旅の不慮に備えてとか、飢饉対策とか、そういう需要にはあの非常食に勝る品は未だ開発できていない。

 うちの村にもあったよ。好奇心で子供の頃に盗み食いしたよ。泣いたよ。

 母さん、怒らないで大笑いしてたよ。

 それよりはマシって底辺過ぎるんですけど。王子様、美食で育ったはずなのに味覚大丈夫なのか。


「という事で、運ばれるだけです。遺跡に着いた後どうするのかは、状況次第としか言えません。末裔を連れて進展が無ければ、そのまま復路という事も有り得ます」

「食料の他は何か支度はあるんですか」

「野営の荷物は元々殿下が使っている物がありますので。騎士団の行軍用毛布と枕兼用のクッションを追加したくらいでしょうか。それくらいなら樽に一緒に入りますから」


 それって寝る時も酒の香りに包まれる予感がするんですが。でもクッション用意してくれたのはありがたいから感謝せねば。


「殿下、早いですね。また街中で馬を飛ばしたのですかあの方は。説諭は私ではなく今度帰った時に婆やがした方が効果あるので申告しておきましょう。さあ、レディ、健闘をお祈りします」

一話につき3000~4000字程度で進行。

箱庭生活が始まるまでオープニングに当たる部分が第一章。

纏まったら章付けしようと思います。

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