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ラウニーの箱庭  作者: 白石苗穂
本章  ~ルキネ、領主館にて暮らす~
14/22

確認の途中で寝落ち

 淡い光を放つバングルを翳しただけでは、今までと同じ何も無い部屋に見えた。

 広過ぎず狭すぎず、大きな家具を配置したなら快適な居心地くらいの。三階だし、領主一族の部屋か客室かな。

 隣に繋がる扉が同じ方向の壁に二つある。並んでるんじゃなくて入口側と窓側に離れてて、それぞれ別の部屋があるみたい。貴族だったら衣装室とか支度室とかが部屋に付随してたり、寝室と居室が別れてたりするよね。


 奥までまっすぐ進んでまずは窓を開けて。

 振り返った瞬間に見えたソレに、私は慌てて開けたばかりの窓を閉めました。

 再び闇の中。


 だってね。

 床の壁際に本が置いてあったのが目に入ったんだもの。さっき見たのと反対の方向。扉が無い方の壁際に。

 日光は紙にとって大敵、天敵。

 あ、結界の光は日光じゃないから大丈夫かもしれないけど。

 守り石さんの光は大丈夫なんだろうか……。


 王子様、博識な王子様、教えて下さい!

 何でこういう時に傍に居ないんですか!ってこの状況じゃ無理だけど……。


 日光ダメっていう事は暗い部屋にあるんだから、灯りが無いと読めないよね?

 お城の図書室ってどんな種類の灯りを使っていたっけ……。

 細心の注意が必要だから掃除はベテランの担当って、先輩が案内してくれた時は中には入らず通り過ぎたな。


 日没後の主要な光源は蓄光石。

 お城ではですよ。庶民はそんな高い物使いません。何か適当で手近な物を燃やします。村なら棒っきれとか。

 廊下や大抵の部屋は夕方になると当番の人が蓄光石に魔力を込めてゆく。必要な時間分だけ経験と勘で。

 今使ってる守り石のバングルと同じ感じかな。これどのくらい長く光るのか不明だけど。

 蓄光石は魔力が通りやすいわけじゃないし光る以外の力は無いけど、その代わり魔力量さえあれば誰でも扱えるので便利。

 高価で古くなったら光らなくなるけど、油や蝋燭と比べれば消耗率は格段に違うので、お城ではたくさん使われてる。

 しっかり休めば使った魔力は自然に回復するから、長期的に見れば経費が抑えられるものね。

 でも白っぽくて無機質な感じがするから、部屋を使う人の好みによって魔法炎のランプが設置されてる場所もある。

 こっちは安全に点灯できる人が限られてる上、得意な魔法によって個人差が出るのが難。

 熱くない上に揺れない幻の炎を毎回同じ大きさで置ける匠の技で重宝されて、灯り当番専属になってるイフリト族の人も居る。

 火炎魔法のスペシャリストで有名な種族だけど、そこまで細やかな制御出来る人はなかなか居ないんだってさ。

 王族も使うような重要な場所以外は、灯り当番に頼らず、運用してる人達が自前で魔法炎を点灯してる事が多いけどね。

 調理部門の人とか安定した火力の修行を兼ねて、若手に魔法炎のランプを点けさせてたり。

 たま~に盛大に覆いを焦がす人が居て、掃除部門に回されてくるらしい。ついでだからと鍋とかも一緒に。

 大体、得意分野の部門に配属されてるからね皆。


 それはともかく。

 蓄光石と大して変わらない、むしろ弱い、バングルの灯りなら本に近づけても問題ないかな?


 ドキドキしながらそぉ~っと近付いてみる。


 一度明るくしてから窓を閉めてしまったので、目の調整が追いつかなくてあまりよく見えない。

 ちょっと目を閉じるか。


 ……あ、やば、寝そう。


 時間の感覚が無いから、困ったなぁ。

 夜明けと日没のサイクルに身体は慣れてしまってるし、王都では色んな時計があったり各所で定期的に鐘が鳴らされるので時間の経過を掴みやすい。

 砂は一杯あるから結界魔法が使えれば砂時計を作れるんだけどなぁ。あれ中が見える部分って結界以外で作る方法無いのかな。鐘鳴らし用の大砂時計は落ちた砂の重さで外に設置された目盛が持ち上がるようになってるんだったっけ?

 日時計は太陽が無いから無理だし。細工師さんが作る仕掛け時計は複雑過ぎて専門的な知識の無い私では仕組みがよくわからない。

 一定時間で解ける設置型の魔法で計ろうにも、私の場合は都度使う魔力が決まってないから一定という基準が無いし。

 何も計ってないのに毎回綺麗に同じ出来の魔法を使える人ってどうしてできるんだろ。

 たぶん才能だよね。音楽を奏でられる人みたいに。私、太鼓叩くのも鈴鳴らすのも下手です。笛もいまいち。


 ねっむーい。


 一度眠いと思ったらダメですね。

 本読むより先に、下に戻って寝よう。本って事は文字が一杯書いてあるよね、目が滑って読めなさそう。

 最初に換気始めてからしばらく経つと思うから最初よりは埃っぽくないはず。

 ……って風、全く吹いて無いじゃない。


 がっくりだ。

 もう荷物を置いた玄関ホールでいいや。布やクッションを積んだ周辺だけ少し掃除して寝るっ。


 そういえば本の置いてある場所の壁……何か刻んであるけど。

 それだけちらっと見て行こうかな……。

 窓と同じくらいの高さ。幅は三倍くらいあるかなという大きさが四角く縁取られている。

 素材は石だけど扉や窓縁と同じような紋様の装飾。

 王子様が何とか族の伝統紋様って言ってたっけ……うーん、頭が働かないや、思い出せない。

 縁枠の内側は指の太さくらいだけ壁面より窪んでいる。

 濃灰色に近い鈍い色の長方形とそれよりは薄い色の目地で構成された壁と違って、白っぽい滑らかな陶器の板を嵌め込んだみたいな。

 陶器?石かな?あれ?もしかしてバングルにした粉と同じ素材?

 もしかして魔力流したら光る?

 ちょっとだけ。ちょっと端だけ流してみようかな。ちょっとならきっと大丈夫。


 光れ~っ。


 あ、この手伝ってくれる感。やっぱり同じだ。

 え、ちょっと待って。守り石さん!バングルは手伝わなくっていいから、って、ちょっ!?

 バングルが砂になっちゃったよ。掻き集めて作り直さないと廊下や階段は暗いから戻れないよ!


 私が立っている側、全体の三分の一くらいが光ってしまった。そんなに流すつもり無かったのに。

 ふわ~ぁ、魔力を使ったら余計眠気が増してきた。眩しくないから光はあまり刺激にならない。


 建物の見取り図……?

 部屋と廊下、階段。それぞれが線で描かれていて、扉の位置と開く向きが直線と弧線で描かれている。

 その絵の中に部屋の名前が文字で綺麗な書体で刻まれている。

 浅く彫った場所に黒いインクを流して固着させたのかな。

 インクの方は結構掠れてるけど、彫りがしっかり残ってるから頑張れば見えなくはない。

 暗い中で光ってる物に顔近づけて凝視してたら、目が辛くなってくるけど。


 これ、たぶんこの館の一階だ。

 中央下に玄関ホールがある。廊下と大階段があって左右は領官執務室と、暖炉があるのが待合室兼談話室。

 領官執務室の奥にあった角部屋は領主執務室だって。その奥は政務保管庫。

 トイレっぽい部屋はトイレで合ってた。調理場と洗濯場も。

 用途のわからなかった小部屋は食器室、配膳室、使用人休憩室、作業場、用具室、その他諸々。

 一階の裏手側は館の使用人が働く場所だね。結構人数が居たのかな?

 使用人の生活スペースはやっぱり地下だろうか。光の渦だらけの不思議空間になってるけど。

 上は裏手側の部屋数少なかったし。各階のお世話に必要な部屋だけかも。

 あ、もう光が薄れてきた……。早い。

 右の方は二階と三階が描かれてるのかな、大きさ的にみて。あれ地下は?


 暗くなったら、ダメ、もう眠い。限界。

 ええ~、私ここでまた埃に塗れて硬い石床の上に寝落ちですか!?

 いやさっきのは気絶だけど。


 身体の欲求赴くままに、倒れる前に。痛いの嫌だし。もう立ってられない。

 私はそのまま石床の……大量の埃の……上に横になった。

 お仕着せの袖で顔を覆うように痛くない方の腕を上げた仰向けで。


 ジャリッ。


 しまった、頭の下……。うぅ。すぅ~。

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