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ラウニーの箱庭  作者: 白石苗穂
序章 ~魔境の奥地へ連れられて~
12/22

現状把握したはいいけれど

「ケホッコホッゴホッ……うっ、どうなってんのこれ!」


 何となく先程入った時と同じ、蛙めいた姿勢で扉に体重を預けて魔力を流した途端にこれだ。

 魔法のイメージとか何にもない。開け~と単純な念を込めてかな~り適当にちょろっと。

 いやさっき流し込んでた時の感触は覚えてたからね。

 隙間にえいって押し込んで、それから考えようと思ってたんですよ。どうせすぐに浸透しないから。


 それがね、ちゃんと最後まで閉まってなかった軽い扉を知らずに勢いよく開けようと突っ込んだ時みたいに。

 押した扉が先に前へ行っちゃって、手応えを予測していた身体はバランスを崩すわけで。

 普通に立ってるより不安定な姿勢だった私は先程と全く一緒で何も無い空間に顔から突っ込んでいくのです。

 二度も顔面から転ぶとか最悪!……と思ったら。

 何か柔らかく伸びる網?布?のっぺりとした感触極上の皮膜?みたいなものに、ぼよ~んと弾き戻されて。

 お尻を打った。後頭部打つよりいいけど、痛い。

 床、板張りならまだしも石のタイルだからね!痛いよ!


 でも、それより王子様の姿が見えて声も聞こえた。良かった、助かった。

 お尻の痛みなんかより、そっちの方が重要。


「ウィル様~っ!」


 また勝手に涙が溢れてきた。うわ、これじゃ親とはぐれた小さな子供みたいじゃないですか~。


「おい、まず落ち着け!」

「え?ぶっ」


 立ち上がり駆け寄ろうとしたら、ぼよ~んとまた。

 今度はさっきよりも力強く弾き飛ばされて、痛っ、今度は肩というか腕の付け根から落ちた。

 斜めに変な体重掛かったから、酷く打った。

 小さい頃に新しいベッドで転がって遊んでたら落ちた時より痛い。そりゃそうだ当時より体重がある。


「怪我……してないか?いや、もう鼻血出て乾いてるっぽいが、骨は大丈夫か?打ち身なら手当てしなくても治る」


 痛む腕を押さえて転がったまま動けない私に、王子様が明るい外から声を掛けてくる。近寄っては来ない。

 ぼよ~んって。ぼよ~んって何。変なものがそこにあるよ!


「たぶん折れてないし、外れてもいないと思いますぅ……ケホッゲホッゲホッ!」

「痛みが引くまでゆっくりと静かに呼吸してろ。起きれるようになったら、こっちにゆっくりと来い。いいか、ゆっくりとだぞ」


 床に頭を乗せた状態で口を開けて喋ったら、息継ぎで埃まで思い切り吸い込んでしまった。

 咳き込んだら余計に酷くなったので、痛くない方の腕を動かして服の袖で鼻と口を覆う。

 外から射し込む光で、キラキラ光ってる。私がドタバタしたせいで舞っている埃が。

 暗闇の中で這いずってた時からわかってた事だけど、うっすら積もってるって表現じゃ済まないね。

 雑巾掛けしたら拭くじゃなくって、掴むだわこれ。箒でも掃除の役に立たず、一回桶ごと水をぶちまけてモップで全部押し流した方がいい。


 涙が落ち着いてくると、床だけでなく辺りの様子を見る余裕が出てきた。

 本当は今すぐにでも立ち上がって動きたいけど。大人しく座って痛みがマシになるのを待つ。

 お尻も体重乗せると若干痛いので、折り畳んだ脚の間に挟んで浮かせてる感じです。

 その代わり、膝と脛がタイルに当たって痛い。けど打った場所を圧迫するよりはまだいいか。


 扉の傍以外はかなり暗いから壁の方はよく見えないけど、何となくは見える。

 玄関ホール、ですよね。小さな民家なら一軒まるごと収まってしまいそうな広さの。

 彫像とかソファとか大きい調度をたくさん置いても、それでも広々とした感じは削がれないだろう。

 今は何にもない、がらんどうの空っぽだけど。

 う~ん壁に近付けば、照明用や絵画の掛け具くらい残ってるかもしれないけど。あれ家具じゃなくて建物の一部だから。


 王子様、逆光だから顔が見えないね。暗いから私も向こうからはほとんど見えないかな。

 って……あっ!?

 私、今とても人様に見せられない状態の顔だった。

 乾いてたのがさっきの涙でとけてデロデロだ。

 拭くもの……袖はびしょびしょ、ついでに鼻水も付いている。服は埃まみれ。

 腰で縛ってあったスカート、内側なら大丈夫かな……もう洗濯しないとどうしようもないから拭いていいよね。

 ぐしぐしと、指で触って確認しても何も付いてなさそうなくらいに顔を拭う。

 多少はこれで見られる顔になったはず。元々たいした造作じゃないけどね、気持ちの問題!


 あ~、少しは腕の痛みが落ち着いたかな。

 腕組みして立ってる王子様のとこへ早く行かなきゃ。


「ゆっくりとだぞ」


 うん、そうでした。

 焦った気持ちを見抜かれたのか、立ち上がった途端に言われました。見えてるのかっ。

 近付いていくと王子様が手を差し出して……ん?掌?


「ここに透明な膜というか壁というか何かがある。お前が突っ込んできた時は伸びたんだが、俺が触ってもこの通り板のように硬い」


 コツコツと反対の手で拳を握って、空間を叩いている。


「痛い、痛い、打った場所に響くからやめて」

「ん……やっぱりそうなのか」


 何がやっぱりなのかわかりませんが痛いです。

 おでことお尻はそこまででもないけど、腕はまだちょっとの衝撃でも響くんだから。


「じゃ、これは?」


 王子様が何かした様子はないけど、ぎゅうぎゅう詰めの乗合馬車がカーブに差し掛かった時のような窮屈な圧迫感が……。

 あ、軽くなった。


「何したかわかるか?」

「全然わかりません」

「今こっちの手で強く膜を押してみた。びくともしないが押された感じはあったか?」


 掌を見せている場所が膜のある場所のようだ。さっきは、ぼよ~んと柔らかかったけど?

 もう一回むぎゅっと。

 うん、全身にまんべんなく優しくだけど、押されてる感覚はある。


 そう伝えると、王子様の腕が下ろされて俯いてしまった。


「疲れてるとこ悪いが、試す事がもう2つある……ちょっとそのままで居てくれ。痛かったらすぐ声を上げろ」


 扉の脇の方へ歩いていき、視界から消える。

 けど声はすぐ近くで聞こえる。何を試すんだろう?


「今から建物の外壁を押す。少しずつ力を加えていくから、何か感じたら教えてくれ」

「…………あっ、押されました!」

「そうか。じゃあ今度は囲んでいる結界を押す。離れてるから魔法でやるが、加減できなかったらすまん」


 やばいの来るかも!と覚悟したけど、いつまでも何の感覚も来ない。


「……結構押してるが、何ともないか?」

「全然さっきみたいな事は無いですよ。あの~、私ちっとも何を試してるのかわからないんですけど」

「結界は関係ないみたいだな。あ~、結論を言う前に、だ。お前、こう腕を突き出してこっちにゆっくり近付いてみろ。いいか、痛くない方をだぞ?」


 再び視界に戻ってきた王子様が左腕をさっきのように突き出して掌を正面に向けている。

 同じように、こうですね。

 わかってますよ、誰がぶつけて痛い方の腕を突き出しますか。付け根なんだから上げようとしただけで痛いよっ。

 むにょんと変な感触があった。反発する弾力があって私の掌を押し返そうとしてくる。

 押し返す力が結構強くて、それほど踏ん張らずに維持できる地点は手首より少し深く入れたくらいかなぁ。


「これ持ってみろ。で、引っ込めてみろ」


 足元から水袋を拾って渡される。

 掴んだまま引っ込めようとしたら、あ、落ちた。


「もう一回持って。今度は水袋に魔力を流しながら引っ込めてみろ」


 ちょっと土埃で汚れてるから、さらっと表面の汚れを拭き落とすような感じで。あ、抜けた。


「物は通ったな。じゃ、ついでに非常食の袋も受け取れ。腹減ってるだろ?」

「あ、ウィル様は食べたんですか?」

「俺はさっき食べた。それ全部やる……返さなくていいぞ。お前が食べている間に砂を取ってくる」

「食べている間って……」


 さっきから王子様の態度から薄々感じてたんですけど、私この建物からもしかして出られないって事?

 まあお腹は実際空いてるので、まずは食べてからにしましょう。水も貰ったし。

 あ~不味い、やっぱり不味い、どんなに空腹でも不味い。

 空腹は最高のソースって誰が言ったんだったか。焦げた料理にソースかけてもどうやっても不味いのと一緒ですね。

 水が薬湯のような味になって気分的には打ち身にも効きそうな気がする。気のせいだけど。

 薬草も混ざってそうだから痛み止めの効能あったりしないかな~。


 膜が伸びきってぶちんと切れて出られたりしないかなぁ~と、手や顔を突っ込んでぐにぐに試してたら王子様が戻ってきた。


「ぷっ、くっ……お前、何で顔まで突っ込んでるんだ。潰れて変な顔になってるぞ」


 え、そっちから見たらそんな事になってるの?

 王子様の着てる服みたいに伸び縮みする布なら存在するけど透明なの無いから。

 変な顔になるの知らなかったよ!


「守り石の砂だ。何か役に立つかもしれないから渡しておく。結構重いから気をつけろよ」


 これ王子様の荷物を入れてた革袋だね。空にして砂を詰め込んできたんだ~。

 床に引き摺るように低めで渡されたけど、魔力を流したせいか手を添えて持ち上げてくれてるように軽々と受け取れた。

 魔力流すのをやめたら途端にずっしりと重い。片手じゃ持てないわ。両手でも厳しいかもしれない。


「あと、樽か……クッションとか毛布とか入れてたしな、中身を先に持ってくる」


 樽は、一度渡されて私が綺麗に浄化してから。

 王子様が水芸を見せてくれた。

 空に向かって迸る水柱。それが滝のように降ってきて樽の中を満たす。

 一回目は目測に失敗して地面がびしゃびしゃになっただけでほとんど入らなかったけど。

 攻撃魔法しか使えないとはいえ、魔力から火や水を生み出せるっていいなぁ。便利だもの。

 ラウニー族には残念ながらそんな素養が無い。

 魔力をぎゅっとして火を消したり乾燥させたりはできるんだけど、自力では生み出せない。


 最終的に。王子様自身と、彼が帰路に最小限必要と思ったもの以外は全部渡された。

 どうにか救出する方法を調べてくるから、ここで待っていて欲しいと。

 外と隔絶されてるから安全は確保できるはず。私がドジで怪我をしなければ。気を付ける。

 今わかってる事は、私が建物と魔力的に一体化してしまってるらしい事。うん、よくわからないけど。

 城に戻れば魔法研究の専門家もたくさん居るし、参考になる文献も残ってるかもしれない。

 最悪進展が無くても、食料が無くなる前に担いで走ってくるし水も補給する。

 王子様が私の命綱だ。他にこんな奥地まで来て更に結界突破できるような人居ないから。


「手持ちの食料がそれだけだから、最初は戻ったらすぐに折り返して戻ってくるが」

「全部干し物でいいからできればこの非常食以外だと嬉しいです。長引くのなら」

「御用達の最高品質の奴を買い占めてくる。この建物はお前の物だから過ごしやすくして待っていてくれ」

「いや私の物って」

「お前しか中に入れんし。法律上は魔境の中は所有権放棄になってるから誰の財産でもない。気にしなくていいぞ、奥地だから」

「まぁそりゃそうでしょうけど……」


 魔法の媒体として石の砂と布類があるし……食料と水があれば何とかなるかな。

 屋内で野営してると思えば。


 王子様が出発してしまうと、本当にひとりぼっち。

 どうせ動くと埃だらけだから、洗浄するのは我慢の限界が来てからでいっか……。

 正面玄関、とりあえず開けっぱなしでいいよね?閉めたら暗いし、風ちっとも吹いてないし。

 まずは建物の中の把握……う~ん、灯りが欲しい。守り石さん光ったりできないかな。試してみよ。

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