はじまりは王子様との邂逅
初投稿。
元々ツクール系のシナリオで考えていた話を小説にしてみる。
更新はかなり遅いと思います。
ラウニー族は、家事全般と家具製作に関する魔法が得意。
戦闘能力は極めて低い。っていうか、王国に数多ひしめく諸種族の中でも最弱。
職業選択の余地はあまり無いけれど、使用人を目指すなら就職先には困りません。
家事魔法は種族固有の能力でラウニー族以外は学んでも使えませんから。
ましてや私、村長の娘! 魔力豊富な血筋の村一番の才女でございますよ。
都会には存分に能力を発揮できるお屋敷がたくさん。広ければ広い程、いい!
兄弟はたくさん居ますから、村を出る事には何の憂いもありません。
お父様の紹介状は威力を発揮し、王城のメイドに雇用されました。
これで私の未来は安泰です。
と、思ってました。第三王子に呼び出されるまでは。
「ふむ、来たか」
わあ、綺麗な顔。ってのが第一印象です。
顎が細い白皙ながらも、女性と間違えられるって事は少なさそうな鋭い顔貌。
翡翠色の瞳が大きい、アーモンド形のやや吊り目。眉は若干太めかな、ぎゅっと力強い印象。
鼻梁は形良く、健康的な色合いの唇は厚くも薄くも無く。今は楽しげに頬を緩めている。
玉虫色というか虹色に輝いて見える髪は、何色なんでしょ。金?銀?
なんで虹色に見えるの?ここの照明、見た目は普通の燭台に普通の蝋燭が揺らめいてるけど、魔法の品なの?特殊なの?
いや私の髪色はいつもと同じだから関係ないか。
襟足は無造作な感じでバッサリ切ってあるので、分類としては短髪。
前とか横とか適当な感じだけど、土台が美形なせいか無造作ヘアも麗しく見える。
城には滅多に居ないという自称考古学者のこの王子様。
顔良し、頭良し、武器と魔法どっちで戦っても強い。何やらせても器用。
残念なのは性格という噂。兄二人は人格共に優秀なので、王様ももう諦めてるだとか。
自己中心、強引、超気まぐれ、思いやり皆無。
以上、ここまで王城に雇用されてからお喋り好きの先輩メイド達からの受け売り情報でした。
手より口ばっかり動いてあまり参考にならない人達の評価だから、話半分に聞いてましたけどね。
仕える人達の構成や力関係、気性は知っておくに越した事はないので、覚えてはいますけど。
うん、この評価だけで考えればできれば関わりたくないですね。
名前なんだっけ。あー、えーと、ウィルキンスか。ウィルキンス=レディア=ルォ=ファルセディア。
第二王妃レディア様の二番目の御子。第二王子とは同じ腹の兄弟。
なお、病弱な第一王妃様と壮健な第二王妃様は親友って言って良いぐらい仲がいいらしい。
だから別腹って言っても王子様達は皆、後継争いとかも無く仲良しなのだとか。
新米の私は、まだ誰のお傍にも近寄った事ないけどね。城の中でも王族居住区域は、専門の人しか出入りできません。
メイドの雇用なんて一々偉い人は姿見せたりしないので、第一遭遇王族がこの人だ。
ここは城の入口に近いエリアの応接室のひとつ。
そんなに格式ばった場所じゃないので、ややお高く品のいい程度の家具で統一されている。
「そのソファに座れ。そしてまず俺の話を聞け」
言われたから座るけど、落ち着かないな。新米下っ端のお仕着せメイドが座るソファじゃないと思います。
厚い綿を詰め込んだような程良い固さと弾力。生地はこれ、頑丈さがウリのゼイラー織ですね。
実用的な上質さです。そう簡単にへたれないので、出入りが多い部屋で長年使うには向いている。
……なんて評価をしつつ、王子様の話は長かった。途中、先輩が持ってきた茶菓子を彼が喋りながら平らげる程度には。
茶の方は時々口をつけさせて貰いましたよ。王子様と同じ茶が出されたので、せっかくなのでゆっくり味わいました。
この茶葉のポテンシャルをフルに引き出した味わいは、きっとフェルカさんが淹れたんだな。
家事諸般に一家言あるラウニー族を納得させる味。さすが、王城に仕える茶担当メイドの筆頭。熟練の職人技。
相槌も別に要らなさそうなので、黙って聞いてました。真面目に話は聞いてますよ。
で、冒険活劇の演談めいた王子様の長話を纏めると。
凶暴な魔獣が闊歩する魔境内を探索してたら、古代ラウニー族の遺跡を発見したのだとか。
張られていた強力な結界を魔力任せに突破したものの、建物には特別な認証が必要で入れない。
二行で終わった。いや後は苦労話とか寄道話とか本筋とは関係ない逸話ばかりだったから……。
「仕方ないから一旦戻ってきたのだが。新しく雇ったメイドがラウニー族の村長の娘とか、ナイスタイミング!」
軽いな、王子様。言い回しが庶民的だ。
旅暮らしの間も、割と市井に馴染んでたのかもしれない。
翡翠色の瞳の輝きが眩しい。自分の好きな話をして本当に楽しそうだ。
古代ラウニー族の遺跡かぁ。
古代って冠するから判る通り、私達現代のラウニー族とは学問上区分されている。
遥か昔は力ある上級種族のひとつに数えられていたらしい。最弱と呼ばれる現代と違って。
華を誇った領主一族の末裔とか、お爺様やお父様に散々聞かされてはいましたけど。
あれ、お伽話じゃなかったんですか?
「というわけで、お前は今日から俺の専属。遺跡に行くぞ!」
「あの、お城の仕事は……」
「俺が城に居ないんだから必要ないだろ。元々留守の間の人員は足りてたはずだし」
「でも私、家事しかできませんよ?」
「必要としてるのは血筋だ。まず遺跡の認証を通れるかどうか、試すのが第一。それで駄目だったら要らんから城に返す」
「そこ魔境の中ですよね。えーと戦闘とか無理ですよ、種族的に最弱なの知ってますよね?」
「俺が強いから問題ない。個人戦なら国の騎士団より強いぞ、言っとくけど奴ら王族相手でも試合の時はガチだからな」
ガチとか、何処で覚えてきたんですかその言葉。自然に使ってますね。
「足手纏い連れながらだと条件違うんじゃないですか。随員の方は……」
「お前だけ連れて身軽に行った方が楽だ。安心しろ、担いでくから移動の心配もない」
担いでく!?
いや、それ魔物出ても戦えないでしょ!?
「メイド服のままでいいぞ。人里には寄らないから、その格好でいいだろ。丈夫だし」
「まぁ……そうですね」
私物より遥かに生地も仕立てもいいから確かに。
下級メイドの支給品は、生地自体は長持ちする丈夫さや皺になり難さの観点から上級の方とほぼ同じ物が使われているけれど、
汚れが目立たず洗濯の繰り返しに強い染色に加えて、デザインも動きやすさが重視されている。
実はこの長いスカートの下、ワンピースと同じ生地の裾絞り七分丈ズボンなんですよ。ドロワーズじゃない。
腰の左右に縫い付けてある紅色のリボン紐は普段は可愛く結んでるけど、たくし上げたスカートを前後で縛る為にあるんだとか。
支給された時に教えられて初めて知った王城メイドの真実。
高貴な方の目に付かない裏方で動き回る事が多い下級メイドが働く上での効率性を追及した歴史の結果。
って、王子様もこの作りの事、知ってるんかい!
心の中のツッコミが顔に出てたのか、王子様に失笑された。
「出発の詳しい話はユンカースに聞け。もうお前の事は手配してある」
リリン、リリン。
話は終わりだと告げるように、テーブルの上に用意されていた大ぶりの呼び鈴を案外優美な手つきで振った。
白いけどごつごつと大きくて戦士の手だなぁ。普段から鍛錬してそうだけど日焼けしない体質なんだろか。
すぐに侍従の格好をした若い男性がドアを開けて入ってきたので、私は立ち上がり軽く一礼する。
たぶん側仕えの人だろう。王子様と同年代でキラキラしてるから、高貴な家柄の子弟かな。
ふんわりした巻き毛にタレ目、どちらも柔らかい茶金の色合い。小動物系の優しそうな雰囲気。
王子様が真夏の直射日光ならこの人は春先の木漏れ日って感じ。目には確実に優しい。
ユンカースってこの人かな?
「お呼びでございますか、ウィルキンス殿下」
「うむ。すぐ連れてくから支度をしてくれ。俺も着替えてくる」
「かしこまりました。では、三の鐘に西門出立で宜しかったですか」
「頼む」
通じ合い過ぎてて、二人とも言葉が少ない。
あの、私、段取り全然わからないんですけど。
三の鐘って次の鐘ですよね。西門出立って、都出て魔境に向かうって意味ですよね、さっきの話から察するに。
つまり今すぐこのまま支度して連れてかれるって事ですよね。おおい、王子様!
当の本人は長い脚を颯爽と動かして、もう視界から消えてしまった。
おおい、説明足りなさ過ぎるぞ!