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辺境伯家の家令は忙しい  作者: 量産社畜型ひもにーと
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家令は叱り、当主は縮こまる

皆様、ご機嫌いかがでしょうか。


私はディルモンド家でハウススチュワードをしております、グスタフと申します。


お仕えするディルモンド家は歴史ある名家であり、エルスラント王国が起こった300年程前から辺境伯の地位を拝命し、襲い来る敵国や魔獣の類から西方領土を守り、富ませ、統治することで盤石な地位を築いております。


私どもの一族も、ディルモンド家の起こりから仕えさせていただいており、私で17代目。


5歳の頃からディルモンド家にお仕えし、15年程前に父が亡くなったことをきっかけにハウススチュワードを任されております。


そして今、私が仕えておりますのは19代当主のリュール・ディルモンド様。


齢37歳とまだお若いですがその辣腕をふるい、さまざまな施策を成功させ、先代にも劣らない評価を得ております。


武芸や魔法についても相応の才を持ち、王国騎士団でもリュール様に敵うものはそうはいないでしょう。


容姿も美麗と評すのが適しており、幼いころからある種、神秘的な美しさを持った方でいらっしゃいました。


昔はその整った容姿を利用し、ずいぶん放蕩していらっしゃいましたが婚姻されてからはずいぶん良くなったようでございます。


民からの評判も良く、我が領内だけではなく、他の領民や王都に住まう者たちにも絶大な人気を有しております。


曰く、「民を思い貴族を正し、王国をより良き方向に導く理想像。」だとか。


そして、国王陛下からの信頼も厚く、皇太子殿下とは親友のような関係であり今後も重用されていくことでしょう。


精神的にまだお若い部分が目立つこともございますが、今後成熟していけば瑕疵の無い方に成長されると確信しており、仕える身としては大変楽しみでございます。


ご家族の関係も良く、奥様のソニア様を大切にされており、ソニア様もリュール様を大変愛されていて、お二人の仲睦まじい姿は一種の名物のようなものとなっております。


お子様は長女のアリス様、長男のヴィルム様、次男のハンス様、次女のコーラル様、三男のゲイン様。


長女のアリス様は齢18歳でリュール様に似た美麗な女性です。上級学校を卒業後、一旦領地に戻り、結婚適齢期ということで国内外問わず様々な縁談が持ち込まれております。


長男のヴィルム様は齢16歳。武芸に優れ、王都の上級学校に通い日々後継ぎとしての勉学を熱心にされております。


次男のハンス様は齢15歳。ヴィルム様も武芸に優れお兄様と同じ学校に通い、王都の騎士団に入隊できるよう訓練されているとのこと。


次女のコーラル様は今年で13歳。ソニア様に似た非常に愛らしい容姿をされており、幼年学校を卒業し今年から上級学校に入学されるとのことで、大変楽しみにされておりました。


三男のゲイン様は現在9歳。非常に賢く、小さいころからリュール様の書庫に入りびたり、貪欲に知識を吸収されております。幼年学校では数十年に一度の天才だと評判だそうです。


家柄、武芸、容姿と揃っており私としても主への称賛は耳心地がようございます。


しかし、世の中には本当に完璧な人間などはおりません。


なにかしらの欠点を持ち、苦悩し時に傷つくのが人間でありますれば。


そんな主を助け、支え、時に叱咤し導くことこそ、使用人の務めと信ずる次第にございます。


ですので、


「もうよいお歳ですのに、そんな不貞腐れた子供のような顔をしても事態は何も解決しなければ、なんの教訓も得られません。だいたい先日起こした港を破壊した件についても反省したとおっしゃっていたのに、いったいなにを反省したというのですか。民に見本を示すエルスラント王国貴族の誇りはいったいどこへいったのですか。執務を投げ出し、護衛も付けずに森に向かい、あまつさえ森を焼け野原にするなどどういったおつもりでしょうか。ご子息様方でももう少し了見を持っております。狙われたなど言い訳にすぎません。そもそもリュール様が他国の者や国内の貴族などに狙われるなどご存じのはず。あなた様のその席に座りたい人間がいったいどれほどいらっしゃるとお思いですか。確かに旦那様には影をお付けしてはおりますが、護衛対象がノコノコと敵の前に単身で出るなど阿呆としか言えない所業にございます。護衛をされる側にも心構えや立ち回りがあると幼いころからお教えしたはずにございます。影も相当に慌てたことでしょう。その程度で慌てるなど訓練が足らない証拠ゆえに、再訓練を私の方で組みなおしましたのでそちらはご安心ください。とはいえ、そもそもお一人で出歩かれるなどなさらなければこのような事態は起こらなかったと言えます。ディルモンド家の私兵や護衛の者も腕利きが揃っておりますので、気分転換にお出かけなさりたいのであれば誰かを伴うのが常識でしょう。それを誰にも見つからぬように窓から抜け出すなど、お子様方でもなさいません。旦那様は、栄えあるディルモンド家の当主にございます。放蕩されていた学生時代やお父上の庇護下にあった下積み時代ではないのです。そもそも旦那様が執務を怠ったのが事の発端と聞いております。未確認の書類の中に、衛兵から怪しい人物に関する報告書がございました。旦那様が早々に確認を行っていれば詳しく調べられたものを。今回の事件で各所から上がってくる報告書に加え、ご自身の顛末書を作成しなければならず書類の山は積もるばかり。少しはご自身の立場を理解されたうえで、ふさわしい振る舞いを心がけてくださいと何度もお願いしておりますのにこの始末では亡きお父上様に申し訳が立ちませぬ。いままではある程度見逃してまいりましたが、これからはこのグスタフが全霊を持って補助させていただきます。そういえば、先日行った輸出の拡大の会談の際も……




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



私はリュール・ディルモンド辺境伯。


父上が亡くなり、ディルモンド家の当主と辺境伯の位を引き継いだ。


学生時代も遊んではいたが、学ぶべきことは学んでいたし、父上の下で下積みとして業務を手伝っていたこともある。


父上は優しくも厳しい方だったので、領民のこと、領地のこと、貴族のことと様々なことを叩き込まれた。


そのおかげもあって私は賢く、心優しい領主として領民に受け入れられている自負がある。


昔はやんちゃしてたなと自分でも思うが、いまとなっては立派な当主だろう。


……家人の前以外では。


我が家のハウススチュワードを務めるグスタフはとても厳しい。


祖父の代から我が家に仕えていて、その手腕は優秀の一言に尽きる。


私を人として育ててくれたのは現在ハウスキーパーを務めるヴィヴィアンだが、私をディルモンド家の後継として育ててくれたのは父上とグスタフだ。


特に父上が急逝した後、心構えができていない私を導いてくれたのはグスタフだ。


彼の講義を受けているときは心の片隅に『これに何の意味があるのだろう?』と感じたこともあったが、実際は彼の教えがなければこうも上手くはいかなかっただろう。


だがこの歳にもなってこの長々とした説教は辛い。


私だって何も考えなしにこのようなことをしたのではないのだ。


子飼いの者に町の様子を探らせていると、数日前から怪しい者が民家に出入りしているとの情報を得た。


そもそも辺境伯とは国境付近に領土を持ち、他国の侵攻を防ぐための爵位である。


特に我が領土に隣接する諸国連合国家は、肥沃な土地を狙い度々侵攻を繰り返している歴史がある。


国家単位で抗議しても、『一部の暴走であり国家連合の意思ではない。暴走した者はこちらで処分を下し、新しい者を立てる』とはぐらかされてきた。


また、王国内でもそれなりに地位が高く、練度の高い私兵を多く所有し、肥沃な土地から取れる質の高い食糧や、港で行う交易などにより得ている収入源は見栄と権力欲に執着している貴族には喉から手が出るほど魅力的に見えていることだろう。


そんな理由からどうにも私を狙っているとのことなので、家族や使用人に手を出される前に自分で始末しようとしただけなのだ。


自慢ではないが私は剣と魔法にはそれなりの自信がある。


王国内でも上から数えた方が早いだろう。


であれば、他に被害が出る前に私自身を餌にして一網打尽にしてしまおうと考えたのだ。


もちろん、毎日届く領民からの嘆願や税収の見通し、面倒な貴族からのお誘いへの返事などから一時でも解放されたいとの思いもあったが。


だが結果として賊は捕らえ、焼けた森以外の被害は出なかったのだから良いではないかと思うのだが。


確かに今私が亡くなれば次の後継はまだ18歳のヴィルムになる。


まだ子供といって差し支えない年齢故、今私が倒れるわけには行かないだろう。


しかし、あの程度の賊なら万が一にも負けることはありえない。


そう判断したからこそ私が出たわけだが、グスタフには関係ないらしい。


何もそこまで言わなくてもいいではないかと思うのだが、そんなことは口には出来ない。


単なる使用人であれば暇を出してしまえば済む話だが、この領地も我がディルモンド家も彼がいなければたちまち衰退するだろう。


グスタフの息子であり、私がの兄弟のようなものでもあるネルトもかなり優秀ではあるが、すぐにグスタフに代わることができるかといえば、まだ難しいだろう。


決してネルトが無能なわけではない。


ただ、グスタフが優秀過ぎるのだ。


ハウススチュワードの主な仕事は屋敷の財産管理が挙げられる。


一見簡単そうに見えるが、何年も先の収支を予見し、溜め込みすぎず使い過ぎずの、天秤を左右平行にするような作業は相当な苦労を用する。


使い過ぎれば家が傾くし、溜め込み過ぎれば金は回らず領地は富まない。


そしてそれとリンクして、行政についても私の補佐として働いている。


利のある話にはいつのまにか食い込んでおり、逆に害になりそうなことがあれば、先回りしてその芽を潰してくれていた。


私が知っているだけでもかなりの数の事例がある。


しかし本人はまるで当然と言わんばかりに全てを私の功績だと断言した。


私がしたことと言えば、綺麗に要点のみが抽出された資料を渡され、一言『任せる』と言っただけなのに。


正直、私はいらないのではないかと思うことも多々あるのだが、亡き父上との誓いもあるし、使用人に養ってもらうなど上に立つものとして許容できるものではない。


そう思い必死になって取り組んできたのだが。


今回の件も、グスタフは知っていたのだろう。


その上で私がどのような対応をするのか見極めていたはずだ。


グスタフが家人を害する人間を見逃すわけがないと確信しているのだから。


昔から思っていたのだが、まるで父のようだと改めて実感する。


しかし、グスタフもいい歳だ。


そんなに怒ってばかりいると体調を崩しそうだと心配になるが、怒りの原因が私自身なのだから諫めることもできない。


そんなことを考えながら、今後はこのもう一人の父に心配を掛けないようと心に誓いながら延々と続く説教を聞き続けた。

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