表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デリートマン  作者: わいんだーずさかもと
20/33

第20話 ~デリートマンの友達⑪~

「中元、これから言うことは全部オレの想像だ。証拠なんてない。ただ、オレはこれが真実だと思ってる。オレの考えを説明するよ。それからあんた、別にこの話に対して肯定も、否定もしなくていい。さっきも言ったが、おれはこれが真実だと思っている。あんたの意見なんざどうでもいい」


少し間をおいて、田坂が話始めた。麻里は田坂をにらみつけるが、田坂は意に介さない。中元はカウンターに座り、目の前にある泡盛に手をつけずに田坂の話を聞いていた。


「中元、この女との出会いやその後の関係については一通りお前から聞いてるが、一つだけお前の話で腑に落ちない点があった」


田坂は、私たちの関係を中元から聞いているのだろう。その中で出てきた疑問点ということらしい。


「お前は付き合っていく中で、『お互い魅かれあって本気になっていった』と言っていたが、それは違う。いや、お前に関してはそうでも、この女は違うんだよ」


中元は頷いた。


「さっきのこの女の発言でもうわかったと思うけど、こいつはそういう女じゃない。きっとお前以外にも何人もいる。体だけでつながっているような関係の男が。お前はその中の一人にすぎない」


「さっきの麻里を見て、おれに対して本気じゃないってことが、よーわかったわ」


「じゃあなぜ、お前に本気になったふりをしたのか。それはお前に偽装メールを送らせるためだ」


中元の顔が強張っていく。


「お前自身もうすうす気づいているだろう。お前が偽装メールを送った相手が、亡くなって、次の日のニュースになっていた。そうだよ。中元、お前は殺人の方棒を担がされたんだよ」


「田坂、おれ、やっぱり、とんでもないことを…」


「お前は悪くない。少なくとも、オレはお前を責める気なんてない。すべては、この女だよ。きっと、しげさんが邪魔になったんだ。お店の改装に反対されてな。こんなバー、しげさんが許すはずないからな」


(お前が変なこというまでは、しぶしぶだが賛成してたんだよ)


麻里の中に、田坂に対する怒りがこみ上げてくる。


「それで、しげさんを事故に見せかけて殺すことを思いついたんだ。おそらくこの女一人でやったことじゃなくて仲間がいる。殺し方も、人気のないところへ呼び出す方法も、おそらくだがその仲間の入れ知恵だ」


(その通りだよ)


「そして、人気のないところへ呼び出す方法として、偽装メールで呼び出す方法が考えられた。そして、メールの送信者にめでたくお前が選出されたんだ。この女はお前がシステムエンジニアでパソコンに詳しいことを知ってたからな」


「田坂…」


中元の顔が後悔の色で染まっていく。


「でも、体だけの関係の男に『旦那に偽装メールを送ってほしい』と言っても怪しまれるだけだ。殺人を計画してるんだから本当のことも言えない。だから、お前にお願いを聞いてもらえるように仕向けたんだよ。それが、この女がお前に本気になったふりをした理由だ」


麻里は、黙っていた。

肯定しているようなものだが、今更否定しても仕方ないと麻里は思っていた。


(この男にはばれている。でも、証拠はどこにもないけどね)


「中元、ここまではオレの予想通りだと思う。けどな、おれが把握できてるのはここまなんだ。その後、どうやってしげさんを殺したのか、その方法はわかってない。でもまあ、問題ない。ここまでで十分だから、もうこの先は調べる必要はない」


「ちょっと待て!田坂、麻里を警察に突き出すなら、証拠がいる。こいつがやったっていう証拠が。証拠もない上にどんな方法かわかってへんって、そんなんで警察動かんやろ」


(その通りだよ。田坂さん)


麻里はにやりと笑った。もう1年も前に事故で解決しているのだ。


「田坂さん、いっぺいくんの言う通りだと思うけど」


麻里が勝ち誇ったように笑みを浮かべる。


「中元、勘違いするな。この女にも言ったが、こいつを警察に突き出す気はないんだよ」


「田坂、それがわかれへん。お前、『この女を終わらせる』って言うてたけど、あれはどういう意味なんや?」


それについては、麻里も聞きたかった。


「いっぺいくん、良い質問。私も是非聞きたいの」


「中元…」


田坂が話し始めようとしたとき、入り口のドアが開き、男が二人入ってきた。一人は大柄でがっちりとした体格。もう一人は細身の男だった。


「麻里、『CLOSED』になってるやん。なんで閉店してんの?」


大きい方の男が言う。


「灰田くん、こちらの方に閉めろって言われて」


麻里はそう言いながら顎で田坂を指した。


「何、こいつら?」


灰田と呼ばれた男が二人を交互に見る。


「言いがかり付けられてるのよ。旦那を殺したってね。だから、あんた達を呼んだの」


「今からすぐ来てって言うのはそういうことやったんやな。お前ら何や?何の証拠があって今更変な言いがかりつけるんや?あー?」


田坂が男達の方を振り向く。


「これはこれは、共犯者の方たちですね。別にあなた方に用事はなかったんですが、せっかくいらしてくれたんだ。是非聞きたい。どうやってしげさんを殺したんだ?それだけがわからなくてね」


「麻里、こいつら、シバき倒してええか?」


「灰田、やめとけ」


細身の男が口を挟んだ。


「阿久沢、こんや奴ら、一瞬やぞ」


「問題起こすな。変に障害とかで騒がれるとやっかいや。おい、あんた。1年前に事故で済んだことを今更蒸し返して殺人やっていうからには、それなりの根拠があるんやろうな」


阿久沢と呼ばれた男が田坂を見る。


「根拠?オレの感だ」


「阿久沢さん、田坂さんはね、あたしらを警察に突き出す気はないらしいよ」


麻里がそう言って笑う。


「あんた、田坂さん?だっけか。あんたは今日何しにここへ来たんや?飲みに来てて、そんな話になったってはずないよな。元々その話をするつもりやったはずや。なんのつもりや?」


「確認だ。この女がしげさんを殺したっていうね。自分の考えに確信はあったけど、その最終確認をしにきたんだよ、阿久沢さん」


「それで、確認できたんか」


「できたよ。間違いなくこの女がやったっていう確認ができた。おそらくはあんたらの力を借りてね」


「あんたの想像では、おれらはどうやって力を貸したんや?」


「阿久沢さん、恥ずかしながらそこがわかってないんだよ。おそらくあんたらが実際に手を下したと思ってるんだけどね。でも、あんたらは話さないだろうし、それは別にどうでもいい」


「どうでもいい?あんた、本当は自分の想像していることを証明するような証拠を探しにきたんじゃないのか?まあ、そんな事実はないからそんなもんどこにもないけどな。あんたの考えてることがよーわからへんよ。あ、おい!灰田!!」


灰田が周波数発信機を田坂に向けていた。


「ちょっと、灰田くん!何してるの!!」


麻里が慌てて止めようとする。


「離せ、麻里。こいつ、さっきからむかついてしゃーないんやわ。大丈夫、こんなもん証拠にも何にもならへんわ!」


灰田が田坂に近づき、さらに周波数発信機を近づける。それは田坂の目の前まで来ていた。


「これか?これで…しげさんを」


田坂の表情が変わる。


「灰田!やめろ!」


阿久沢が止めにかかろうとしたとき、田坂が眼前のそれを勢いよく手で振り払った。発信機が灰田の手から飛び出し、宙を舞って壁に当たる。


「おい!何してんねんお前!!」


田坂に殴りかかろうとする灰田を阿久沢と麻里が押さえる。田坂は動かずに、灰田を睨みつけていた。


「お前、なんじゃその目は!離せ!こいつもやる気マンマンやないか!」


「しげさんは、ほんまにええ人やった。それを、お前らが…お前ら…全員許さんぞ…」


「田坂、やめろ」


中元が灰田と田坂の間に入る。


中元は、こんなトーンの田坂の声を聞いたことがなかった。田坂の体はかすかに震えていたが、二人の間に入った中元の体はガタガタと震えていた。


「田坂さん、もう帰れ。ここであんたと灰田にやり合われるとやっかいやねん。証拠もなくて、あんたの想像話をしにきただけやったら、もう用は済んだやろ」


阿久沢が暴れようとする灰田を押さえながら言う。


「お前ら、しげさんがどんな人なんか、知ってるんか?ほんまにあったかい人やったんやぞ。それを、お前らが…」


田坂の体が震えだす。


「田坂、帰ろう!」


中元が田坂を連れ出そうとするが、田坂は動かない。


「しげさんを知ってたか?やと」


麻里と阿久沢を振り切り、中元を押しのけ、灰田が田坂の胸ぐらをつかんだ。


「灰田やめろ!」


「阿久沢、どうせ証拠なんかない。教えといたろうぜ。おい田坂!お前が思ってる通り、おれらがやったんや!お前の大好きなしげさんをな!で、どうする?オレらを警察に突き出すか?証拠もないのにできるか?」


「灰田、もうしゃべんな!」


「お前の大好きなしげさんは死んだんや。もう、何しても帰ってけーへんねや!ほんで、殺した犯人が目の前におって追いつめたのに、何もできへん。悲しいなぁ、残念やなぁ!」


灰田が高らかに笑う。それを見て、田坂も静かに笑った。


「おまえ、何、わろてんねん?気ぃでも狂ったんか?」


「そうとも限らない」


「あー?なんて?」


「お前は『しげさんが何しても帰ってけーへん』って言うたけど、そうとも限らんぞ」


「麻里、阿久沢、こいつ何言うてんねん」


「頭でもおかしくなったんかな、もう帰ってもらおうよ」


「頭がおかしいのはお前だよ」


田坂が灰田の手を払いのけて麻里の前に立った。


「じゃあなに?あなたは死んだ人間を生き返らせることができるわけ?できるもんなら見せてみてよ」


「そんなことできるわけないだろ。でもな、『死んだことをなかったことにする』ということなら、できるかもしれない」


「おい!田坂!お前なに言うてんねん。しっかりしてくれよ!」


中元が田坂の肩をゆする。


「いっぺいくん、そいつ連れて帰って。それで、二人とも二度と私の前に現れないで」


「聞こえたやろ!さっさと帰れや!」


中元が田坂を連れ出そうとするが、田坂は動かない。


「おい!はよ帰れ!わからんのか?目の前から消えろって言うてんねん!」


灰田が田坂を突き飛ばす。灰田と田坂の間に距離ができたが、田坂はゆっくり歩いて再び灰田の前に立った。


「消えるべきは、お前らじゃないのか?」


「はあ?」


「消えるべきは、オレじゃなくてお前らだって言ってるんだよ」


「こいつ…」


田坂の表情に、目に、感情がなくなっている。灰田はあきらかに怯えていた。麻里も、阿久沢も。そして、その表情をみた親友の中元でさえも、さきほど感じた以上の恐怖を感じていた。


「消してやろうか?」


田坂が麻里、灰田、阿久沢の三人を順に見る。


怯えきっている三人を見たあと、もう一度静かに、田坂が言った。


「消してやろうか?お前ら全員」


その場は完全に田坂に支配されていた。誰も言葉を発することができなかった。そばらく続く静寂。そして、その空間を包んでいた静寂を破ったのは、中元の携帯電話だった。


「もしもし、はい。え?彩美が!わかりました!すぐ行きます。それで、病院は!はい…はい!」


電話を切った中元が狼狽していた。


「田坂!彩美が倒れて、病院に運ばれたらしい。おれすぐ行かないと」


「わかった!おれも付き合うよ」


中元が店を出て行く。田坂もそれに続いた。


3人は出て行く2人を、ただ見つめていた。2人の姿が完全に見えなくなった後、灰田が口を開いた。


「麻里、阿久沢、あの田坂ってやつ、あいつ人間か?あんな目、始めてみた。あいつ、何者やねん」


「前の店の常連客だった。でも、まるで別人だよ」


「おれ、あいつとはもう関わりたくないな」


3人は、しばらく動けずにその場に立ちつくしていた。


今回も最後まで拙い文章に付き合っていただきありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ