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デリートマン  作者: わいんだーずさかもと
12/33

第12話 ~デリートマンの友達③~

「なんだ、この店?」


おれは変わり果てた店を見て思わずそうつぶやいていた。ここへ来るのは3年振りになるが、3年前とはまったく違う店になっていた。


大阪市大正区、JR大正駅の近くにそのお店はあった。おれが常連だった飲み屋だ。カウンターとテーブルが二つあるだけの小さなお店。おれはここの主人が出す料理が好きで、大阪にいたころ、よく通ったものだった。


「おー!とも!いらっしゃい!今日はハゲのええの入ってるから、刺身にしたるわ」


そう言ってカワハギをさばいてくれたしげさんのお店は、自分の中にある記憶とまったく違ったものになっていた。赤ちょうちんを出して、民家を改装してやっていた地元に馴染んだそのお店は、ガラスを基調としたつくりのオシャレなバーになっていた。お店の名前は「ICHARI場ー」、沖縄バーとなっていた。


お店はまだ営業時間前らしく人がいない様子だったが、中は良く見えた。店内は青をイメージしており、カウンターにいろいろな泡盛の銘柄が見えた。見るからに沖縄を意識したバーだった。


(ここは、変わってほしくなかったな)


田坂はお店を後にし、ゆっくりと駅へ歩き出した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「悪かったな、時間作ってもらって」


中元に誘われ、二人で梅田にある飲み屋に来ていた。中元がゆっくり話したいというので個室のあるお店を選んだ。


「いや、ぜんぜん。オレからも声かけようと思っとったから、ちょうどよかった」


週末の土曜日、野球部で集まってから一週間が経っていた。


「ようこちゃんはもう帰ったん?あの子、おもろいなぁ」


頼んでいた焼酎ロックが運ばれてくる。


「うん。仕事あるしな。帰ったよ。またすぐ来ると思うけど」


ようこは大阪へ来るとき月曜日に仕事の休みを取ってくるので、いつも週末に来て週明けの月曜日に帰っていた。


「あの子は結婚しても変わらなさそうやな」


ロックグラスの氷を指でカラカラ回しながら中元が言う。


「彩美も変わってなさそうやけど?」


そう、先週久しぶりに会った彩美も何も変わってないように見えた。


「まあ、そやな。でも、夫婦って難しいわ。やっぱり、ずっと同じ気持ちでいられるって、難しいな」


中元が何を言いたいのか分かった。今日はそれを聞きに来たのだ。


「中元、お前、不倫してるらしいな」


先週の飲み会の帰り、小久保に聞いたことを中元に告げた。


「別にさ、お前を責めるつもりはない。ただ、お前の気持ちはどうなん?一時的なもんなん?」


「最初はな、そやってん」


「最初は?」


「うん」


中元はずっと下を向いていた。中元の体全体から後ろめたさが伝わってくる。


「彩美は、子供をほしがった、たぶん、気づいたからやと思う」


「お前との確実な繋がりがほしかったんやろ。ほんで、お前が帰ってきてくれるって信じてるんやろ。彩美は、ずっと気づかんふりしてんねやろ。もう、可哀そうすぎるぞ。とりあえず、不倫なんかはよやめろ。あんなもん、ろくなもんやないぞ」


ずっと下を向いていた中元がこちらを見た。


「別れようと思う」


「早めがええぞ」


「彩美と」


「おう。早く…え?彩美と?」


「そう。彩美と」


聞き間違いではなかったらしい。


「離婚するってことか?」


「うん。そのつもりでおる。田坂、もう戻られへんねん」


「何言うてんねん。おまえが彩美とやり直したいなら、まだやり直せるやろ。オレは小さい人間やからパートナーに一回でも裏切られたら許すことできへんけど、彩美は許してくれるんやないんかな」


デリートサイトの管理人に言われたことを思い出した。


「もちろんすぐに元通りに戻れる訳ないと思うから、お前の努力も必要やし、時間も必要やと思うけど、今あきらめるところやないやろ」


「彩美のことは好きや。でも、今はもう、戻られへんねん」


言い方が、どうもひっかかる。何としてでも彩美と別れて今の相手と一緒になりたいという気持ちが伝わってこない。


「お前、大丈夫か?ほんまはどうしたいねん?」


「最初は、軽い気持ちやった。相手にも旦那がおったし。でも、続けていくうちにどんどん好きになっていった。本気になっていった。お互いに。だからそのへんにある不倫と一緒にすんなと思った。オレらは特別やと思った」


「不倫してるやつら、みんなそう思ってんのやないんかな。自分たちは特別やって」


自分も、そう思っていたのだ。


「田坂、離婚したのは不倫が原因か?」


「違うよ。結婚してるときに不倫はしてないけど、離婚してから旦那さんがいる人と付き合ったことはある」


そして、その時は自分たちは特別だと思っていた。周りの不倫と一緒にされたくなかった。でも、今思えばなんてことないただの不倫だ。


「そんときはオレも自分は特別やと思っとったよ」


「結婚、せーへんかったんか?」


「向こうは離婚してくれようとしたけどな、結局、旦那さんのところに帰った。その後、一切連絡取らんくなったから、今どうしてるかも知らん。でも、別れて一人になっていろいろ冷静になったら、お互いにのぼせあがっとっただけやなって思うわ。やっぱり、パートナーがいる人と付き合ったりしたらアカンよ。相手の旦那さんに申し訳ないことしたって思う」


「そうか」


「相手の旦那さん、亡くなったって?」


中元が答えるまでに少し時間がかかった。


「うん」


「事故って聞いたけど」


中元は答えない。


「なんか聞いてるか?」


重ねて聞く。


「・・・悪い。詳しくは言われへん。でも田坂、話を聞いてほしい」


「そのつもりで来てるからな」


(だいぶ、ややこしいらしいな)


「田坂に聞いてほしかってん」


小久保からその話は聞いていた。初めは、中元と彩美が付き合うとき間に入ったし、ギクシャクしていることにも気づいていたからかなと思っていたが、それが理由ではない気がした。


「麻里ちゃんを知ってるからか?」


自分の不倫相手の名前をズバリと当てられ、中元は明らかに動揺した。


「田坂、何を知ってる?」


中元の声が震えていた。


「今の時点では、大正にあったよく行ってた飲み屋さんがオシャレなバーに変わってたことしか知らん。なんでそうなったんか、ほんで、これからどうなるのかは、今からお前に聞く」


大正の飲み屋に中元を連れていったことはない。近所の馴染みの店なので、行くときはいつも自分一人だった。だから、おそらく中元と麻里が出会ったのはこの店ではないはずだ。常連だったお店の主人、しげさんの妻である麻里と中元は、いったいどこで出会って、何があったんだ。


(しげさん…)


亡くなったことは聞いていた。しかし、まさかその妻と友人が不倫関係にあったとは。そして、何かとんでもない秘密を友人が抱えているようだ。


「言える範囲でええ。話してくれへんかな」


しばらく、中元は無言だった。田坂は何も言わすに待っていた。中元の前にあったロックグラスが、カラン。と音を立てた。上の氷が解けてグラスの下に落ちたようだ。


そして、それを合図に中元がゆっくり話し始めた。


今回も拙い文章に最後まで付き合っていただきありがとうございました。

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