序章 龍炎 誕生 5
「見える? えぇ、見えますよ。怖い? どうして怖いのです? こんなに、かわいらしいのに。ねぇ?」
そう言いながら、女は何度も妖を撫でていた。妖の方も、頭を撫でられているうちに安心したのか、妖は女の廻りをくるくると駆け回り始めるようになった。
それを見ながら、女がつぶやいた。
「そう言えば、小さい頃から私は、たにんがみえない『何か』が見えていたそうです。祖母に言われていましたから。『あまり他人様にはこのことを言うもんではない』と。どうして人に言ってはいけないのか、よくわかりませんでしたが、私はその言葉を守り、他人様の前ではそのような話をしたことはありませんでした。」
「なるほど。そなたのおばあさまも、そなたとおなじように『見えて』いたのではないか?」
龍炎の問いかけに、女は首をかしげながら答えた。
「はっきりとは分かりません。見える、と聞いたこともありません。でも、今はたぶん、そうだったのだろうとおもいます」
「ふむ……」
龍炎は、魚を食べ終えると、串を片付け、妖に
「美味かったぞ。ありがとう」
と、言い、また腰を下ろした。
きっと、この女の祖母にも、『見鬼の才』に近い何かが備わっていたのだろう。『人ではない何か』が『見えて』しまう『力』が。
そして、それが『見える』ことを周りの人間に話したために自分が思いもしなかったようなひどい対応をされてしまった。その為に、その『力』を受け継いだのであろう孫娘には、同じ思いをさせたくないあまりに、『そのことは口にするな』と、言い聞かせたに違いない、と龍炎は思った。
たまに自分でも思うときがあるからだ。
この力、もし、自分が今のようなことをしない、ただの町民だったとしたら、なんの役に立ったんだろうか?と。