序章 龍炎 誕生 3
龍炎は、両手の指を一本ずつ立て、それで両目を指さし、笑ったママ続けた。
「この目を見て、驚いたんだな? 心配はいらぬぞ。怖いことは何も起こりはせぬ。火が出るわけでもないし、これを見たからと言って呪われるわけでもない」
そこまで言った龍炎を見ていた女は、慌てて顔の前で手を振った。
「いえ、そんなつもりでは……」
「まぁ、よい。なんにしても、人はこの目を見れば、大体そのような反応をするのだからな」
「す、すみません……」
しょんぼりしてしまった女を、どう慰めたものか、と龍炎があごに手をやって考えているところに、先ほどの妖が、川魚を三匹ほど引きずって帰ってきた。
「オォ、ご苦労。なかなか器用だな、おまえ?」
そう言いながら、妖から川魚を受け取り、はっと気がついて女を見た。
「あ、いや、あの、ワシは一人で喋っているわけではなくて……」
と、そこまで龍炎が言うと、女はきょとんとした顔をして、こう言ったのだ。
「かわいらしいお友達がいらっしゃるんですのね。それに、かわいらしいだけでなく、お利口さんだわ」
女のその言葉を聞いて、龍炎の真由がぴくり、と動いた。
女を小屋に誘う。
「すまんが、朝から何も口にしておらぬ故、腹が減って仕方がないのだ。まずは、こいつを焼いて食べてから、そなたの話を伺っても良いだろうか?」
先ほどとはうって変わった笑顔で、女は答えた。
「もちろんです。何かお手伝い出来ることがあればいたしますが?」
小屋の中に、なにがしかの野菜でもあれば、汁を作ってくれとでも頼んだのだろうが、本当に何もない状態だったので、その旨を伝え、手っ取り早く塩焼きにして食べるから、と囲炉裏に火をおこし、魚を串に刺して、焼けるようにセットした。
「本当に何もなくてすまぬ。まぁ、すわっていてくれ」
龍炎にそう言われ、女は龍炎から少し離れた所に腰を下ろした。
女は、にこにこしたまま龍炎を見ていた。
龍炎は、頃合いを見計らって、串に手を伸ばし、焼けていることを確認すると、一口魚をほおばった。
小屋の外にいた妖は、するすると小屋の中に入ってきて、龍炎の反応を気にしていた。
龍炎は、妖を見ながら
「美味いぞ」
とだけ言った。
それを聞いた妖は、小躍りし、その場で宙返りをした。
すると、女はまたにこっと笑って、妖の方を向いて
「良かったわね、おいしいですって」
と、言ったのだ。
しかも、宙返りをした後もその場ではしゃいでいる妖の頭をそっと撫でたのである。