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4 私の個人魔法

「さ、改めて聞かせてもらえるわよね? お姉さんに正直に話してみなさい?」

「ル、ルアンさん、顔が近いです……」


 顔は笑っているのだが、目は笑っていない。

 言葉にすれば簡単なのだが、実際に目の前で見てしまうとかなりつらいものがある。

 それが文句なしの美女だというのも余計に怖いのだが、その豊満な胸が私に当たっているというのも心を削る要因だったりもする。

 ……泣いてなんかいない。


「んふふふ、そりゃあそうもなるわよ。そんな個人魔法を隠してたなんて、お姉さんはビックリしてるのよ?」

「隠してるつもりはなかったですよ……そんなに珍しい魔法でもないですし、使い勝手も悪いですし」


 そうなのだ。

 私だって、自分のこの『導きの天板』という個人魔法が自慢できるものならしていた。

 でも、そうしなかったのにはちゃんと理由がある。


「ルアンさんがどんな勘違いをしているのかわかりませんが、そんなに騒ぐような魔法ではないですよ? 条件が厳しいですから」

「……へぇ」


 未だに笑っていない目で私を見るルアンさん。

 これは確実に信用されていない。

 きっと、とんでもない検索能力の魔法だとでも思っているのでしょうね。

 ……私のコレの能力を詳しく説明する前の師匠とそっくりの反応ね。

 でも説明したら……呆れられるのかしら……。


「そんな目で見ないでください……えっと、私の『導きの天板』は発動に重要な条件があります」

「……」


 早く続きを言いなさい。

 そんな視線を送りながら、無言で私の頭を撫でるルアンさんに若干怯えながらも続ける。

 そんな状況でも距離が近いせいか、物凄くいい匂いがするのが悔しい。

 美人でスタイルも良くて匂いまで勝ち組なのね。


「無条件に人探しなどは出来ないのです。探せるのは『その条件で結婚相手として探してほしい』と依頼・お願いされた場合のみ。それがないと発動出来ないのです……」

「……は?」


 うん、師匠と全く同じ反応だわ。

 我ながら情けない個人魔法よね……何でそんな条件達成型の魔法なのかしら。

 それがなければ『人探し屋さん』としても生きて行けたかもしれないのに。


「ですから、私は結婚相談所しか出来ない訳で……」

「ちょ、ちょっと待って! 何!? 条件ってそれだけなの!?」


 あれ? てっきり失望されたのかと思ったのに様子がおかしい?

 そう疑問に思いながらも質問には答える。

 聞かれた事を無視するなんて出来ないわ。

 師匠のあの折檻が思い出されるし……それにルアンさんは私が借金を返せるのか監視している人ですものね。


「そうですが……でも依頼された結婚相手しか探せない魔法なんて、需要が……」


 ある筈がない。

 そう言おうとした私の肩をガッシリと掴んだルアンさんは鼻息が荒い。

 それでも美人なのは不公平だとも思ったのは内緒です。


「じゃあ、『こんな条件の人が居たら結婚したい』って依頼をすれば、発動するのね? そうなのね!?」

「は、はい。その通りですが……」


 私の答えを聞くなり、大きく頷いたルアンさんは魔法を発動した。

 足元に魔方陣を光らせた彼女は、非常にいい笑顔で私に告げるのでした。


「ちょっと魔王様に用事が出来たから行ってくるわね。いい? この場所から動いちゃダメよ? 直ぐに帰ってくるからね?」

「わかりました……いってらっしゃい?」


 何故にあんなにも急いでいるのか。

 私にはサッパリなのだが、きっと出来る女というのはああいうものなのだろう。

 コクコクと頷く私を置いて、ルアンさんは転移魔法の光の中に消えていくのでした。

 ……ここで待ってろって……お風呂に入ってもいいのかしら?

 ルアンさんに吹きかけられたワインのせいで、身体中ベトベトのまま遠い目をするしかなかった私なのでした。



「お待たせ、リアナちゃん。いい子で待っててくれてお姉さん嬉しいわ」

「そ、それは何よりです」


 家の中なのだから、お風呂に入っても問題はない筈。

 しかし小心者を自認する私にとって、それはとてもハードルが高い行為なのである。

 要は、ベトベトのまま大人しく椅子に座って待ってましたとも……ええ。


「魔王様との話はついたわ。もう心配いらないわよ!」

「心配……ですか?」


 イマイチ話が理解できないでいる私を置いてけぼりにして、ルアンさんは話を進める。


「これから来るだろう魔族達には、きちんと順番を守るようにきつく言っておいたわ。だから安心して待っていてくれればいいわよ。一人一人、ゆっくりと時間をかける事を魔王様も了承したから誰も文句は言えないわ」

「は、はい」


「それにあなたの能力……個人魔法の件も最重要機密に指定しておいたわ。これで大丈夫よ!」

「……私の個人魔法なんて、そんなに重要な気がしないのですが……」


 お前は何もわかっていない。

 そんな風に言いたげで、しょうもない悪戯をした子供を見るような顔でルアンさんは首を振りつつも優しく言ってくれる。

 うう……地味にこれは心にくるわね……。


「結婚相手前提とは言え、大陸中の個人情報を見放題な魔法なんて……人族の貴族が聞いたらどうなると思うの?」

「……はっ!? 貴族様のお抱え結婚相談……」


「違う。そうじゃないわ」


 残念な生き物を見るような諦めた表情の彼女は、それでもやさしく私を撫でながら続ける。


「いい? 好みというのは貴族にとっては政争の武器にもなるわ。それに特殊な性癖でもあろうものなら、一気に切り札にすらなるのよ? そんな個人魔法を持つあなたは、良くて一生監禁生活。悪ければ手足を切り落とされてその能力を受け継ぐ子供を産む為に……」

「ひいっ!!??」


 い、嫌すぎる!

 お貴族様怖い!? それに普通の結婚の前にそんな扱いの人生なんて辛すぎる!


「ル、ルアンさん! 魔王様は? 魔族の方は違いますよね? 助けてくれますよね?」

「うふふ、そんなに怯えなくてもいいわよ。魔族は人族と違って寿命が長いから、そんな能力の為にそんな事をしないわよ。せいぜいが『へぇ、珍しい魔法だね』って認識かしら」


「それなら、魔族さん達は私をどうこうしようとは考えてないんですよね?」

「ええ。あくまでも『魔王様配下のお見合い相手』を『純粋に探す仕事』としてお願いするだけよ。それに、そんな仕事を任せている相手なのだから守ってあげるわよ。安心なさい」


 よ、よかった……お貴族様に私の個人魔法が知られる前に、魔王様達とお知り合いになれて。

 魔王様のお墨付きがあるなら、人族の皇帝陛下でもむやみやたらな事は出来ない筈。

 あの魔王様は、他の魔族さん達よりも遥かに強くて魔王になったって方だし。

 大陸中の人間・エルフ・獣人族の連合軍でも勝てないのでは? って話だものね。

 ……師匠の受け売りだけど……あってるわよね?


「まあ、色々と脅かしちゃったけど大丈夫よ。今まで通りお仕事をしてもらえば、約束通り借金を減らしていくし守ってあげるから。あ、でも魔族のお仕事最優先でお願いね? 大金を返そうと思ったら、それは仕方ないわよね?」

「はい! それは大丈夫です。元々、借金を返し終える迄は他のお仕事は受けないつもりですし」


「ならいいのよ。でも、それだと生活費が大変でしょう? だから、依頼料は一件一件キチンと払うわ。その中から少しづつ返してくれればいいから」

「ありがとうございます。正直、助かります」


「うふふ。いいのよ、長い付き合いになると思うから……さ、話は以上なのだけれど……」


 結局のところ、魔王様に借金を返す為に今の仕事をするのは理解した。

 生活費の問題も解決したし、ルアンさんは何であんな難しい顔をしているのかしら?

 

「ねえ、リアナちゃん。言いにくいけど……あなたも女の子なんだから、顔中に食べカスを付けてワインまみれになるほど飲んじゃ駄目よ? お姉さんと約束ね?」


 あんたが吹き出したおつまみにワインだよ、私の顔と身体のベトベトは。

 そう言えたらよかったのだが、生憎と小心者の私にはハードルが高過ぎるセリフである。

 内心そう思いながら愛想笑いをしてごまかしてしまうのは、最早クセとも言っていい。

 もしかして、この人は酔っているのかしら?

 記憶が曖昧になる程? あんな程度のワインで?


「さっ、一緒にお風呂に入りましょうか」

「……はい」


 釈然としない想いを抱えながらも、その言葉に従う。

 だって、本当に早くお風呂に入りたかったし……。

 でも、酔っているのなら……今までの話をどこまで信用していいのかしら?

 そんな不安を残したまま、お風呂場へと引きずられていくのだった。

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