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「到着したわよ。どう? 体の具合は大丈夫?」

「ちょっとクラクラしますが、大丈夫です。ありがとうございました」


 宴会の次の日、ヴァンパイアのお姉様が私の家まで送ってくれた。

 魔族の国は、私が住んでいる所から相当遠くにあるらしいのに一瞬で着くなんて……やっぱり魔族さん達は魔法のプロなのね。


「突然いなくなったから、戸締まりとか出来なかったし……大丈夫かしら」

「え? 『あの』大魔導士の店に、盗みに入るような命知らずがいるの??」


 なんだろう……お姉様は酷く驚いているけど、そんなに師匠は有名人なのかしら?

 それとも、あの師匠が防犯装置か何かだと勘違いしているの?


「残念ながら、コソ泥は結構来ますよ。この間も骨董品を盗まれましたし……大損害です」

「そう……人族は凄いのね」


「はあ……お姉様、何で震えているんですか?」

「あなたは本当に分かってないのね……それと、お姉様って響きも素敵だけど『ルアン』って呼んで欲しいわ。これから長い付き合いになるんですもの」


「ルアンさんですか。素敵なお名前ですね! 私はリアナって言います。よろしく……あの、長い付き合い?」


 ルアンさんは大きな胸を揺らしながら私に近付く。

 本当に羨ましいわ……半分でいいから分けて欲しい。


「だって、あなたの護衛を魔王様から仰せつかったの。これからよろしくね? リアナちゃん」

「護衛!? いえいえ、そんな大層な身分では……ああ、逃げ出さないように監視ですか。お手数をおかけします」


 金貨100万枚の借金があるのだから、監視の一人も付けるわよね。それに師匠が帰ってきたら、あの人からも取り立てないといけないだろうし。


「あなたは本当に……まあ、いいわ。そのうち理解するわよね」


 残念な生き物を見る目で頭をヨシヨシと撫でられる。

 ルアンさんの身長は私より頭一つ分は大きいから、正面から撫でられるとちょうど目の前に例の物が現れるのだ。

 爆乳である。羨ましさで人が殺せるなら、私は5回はルアンさんを殺してるかもしれない。


「さて、じゃあ案内をよろしくね。私の新しい家なんですもの。いろいろ知りたいわ」

「はあ……本当に一緒に住むんですか? こ汚い家ですよ?」


 あんな豪華なお城に居た人が、こんな鳥小屋みたいな家で耐えられるのかしら?

 まあ、慣れなければ勝手に帰ってくれるかしらね……。

 同じ女性同士だから、気楽って言えばそうだけど。


「では、どうぞ。部屋は師匠の部屋を使ってください……ここですね。荷物はありますか?」

「あら、綺麗な部屋じゃない。荷物は大丈夫よ、ヴァンパイアですもの……この体だけあれば、どこでも生きていけるわ」


「はあああ、魔族さんは便利なんですね。羨ましいです」

「うふふ、気に入ったならヴァンパイアになってみ……」


「それは結構です、間に合ってます!」


 危うく噛みつかれそうになったので、全力で拒否した。

 私は普通の人間として、普通に結婚がしたいだけですから!

 そんなルアンさんをやり過ごして夕飯の準備をする事にした。

 

「あぁ……保存庫にはそれなりにあるから、今日はこれでシチューでも作ればいいかな? あ、魔族さんってご飯はどうするのかしら?」


 師匠特製の食物保存庫を覗きながら、そんなひとり言が出てしまう。

 料理を作るのはずっと私の仕事だったから得意だ。

 あの師匠に料理なんてさせたら、間違いなく大参事になる……あの、謎の物体は思い出したくもない。


「さて、お野菜とお肉を切って……」


 シチューの下準備をしはじめたときに、その人はやってきた。

 バンッと豪快な音が聞こえてくる。

 どうやら、お店として使っている部屋の方からだった。

 火を消して、慌てて向かうとそこにはイケメンで筋肉ムキムキの下半身だけはお馬さんというケンタウロスさんが立っている。


「むっ、何かの儀式の最中であったか。すまぬな、どうしても気が急いてしまってな」

「い、いらっしゃいませ?」


 慌てて自作のアップリケ付きのエプロンを外す。

 非常にかわいい出来なのだが、これを付けて買い物に行ったら店番の子供に泣かれたので、それ以来は人前では外すようにしている。

 ……かわいいのに……かわいいよね? この触手ちゃん。


「儀式ではなく、夕食の準備なのでお気になさらず。それで、お客様でしょうか?」

「その格好でか……いや、人族はそんなものか? ああ、私は裏の仕事を頼みたいのだ」


 裏の仕事ね……骨董屋としてではなく、結婚相談所の仕事って事よね。

 ……魔王様から聞いてはいたけど、最初のお客さんがケンタウロスさんか。

 お師匠様に教わったからこういう種族がいるとは聞いていたけど、初めて目にするとなんというか……うん、結構威圧感はあるわね


「はい! ご利用ありがとうございます! それではこちらへどうぞ」

「うむ。邪魔するぞ」


 骨董品屋の一角、結婚相談用に用意した応接セットに案内をする。

 師匠が作ったこの場所だが、あの人のセンスだけは真似できない。

 豪華すぎず質素すぎない絶妙なバランス……悔しいけど完璧だわ。

 見るたびに自分のセンスの無さを実感してしまうそこに案内して、お茶の用意をする。


「あら、お客さん? お茶まで用意するなんて長くなるのかしら?」

「はい。結婚相談は聞くことが多いのでどうしても……ご飯が遅くなっちゃいますね」


「気にしなくていいのよ。それが私達も期待する事なんだから。ささ、お茶は私が用意するからあなたは行って」

「じゃあ、お願いしますね」


 ルアンさんにお礼を言って、速足で向かう。

 そうよね、何としても成功させてお金を稼がないと……借金の金額を考えると頭が痛くなるわね。

 うん、今はそこは無視しておきましょう。

 基本的に結婚相談は成功報酬が多いのだから。

 セッティングしてお見合いまでが銀貨1枚で、見事成立すれば銀貨5枚なのだ。

 当然、あまりにも厳しい条件を出す人は内容に応じて高くなるけど。

 ああ、でも魔族さんの場合はどの程度の金額にすればいいのかしら?

 そんな疑問を抱えながらも相談スペースの机で待っていたケンタウロスさんの向かいに一言挨拶して座る。


「えっと、改めまして。結婚相談所を営んでおります、リアナと言います。今回はお相手のご相談ですよね? その前にどのような方を相手に望むのか? そしてあなたの事を教えてください」


 ペコリと頭を下げて話を切り出す。

 意外とこの相談所に来る人達って『とりあえず美人を!』とか『イケメンを!』って無理難題を出す人が多いのよね。

 一番ひどかったのは『お金持ちですぐ死にそうな人』だったかしら?

 あれには正直に言ってドン引きした……しかも言ったのが虫も殺さないようなお嬢様チックな美少女だったのが余計に恐ろしい。

 ……胸も大きかったし、やっぱりスタイルがいい人は心が汚れているのだろう。

 それはともかく、このケンタウロスさんはどんな人なのかしら?


「ふむ。確かに私の事がわからないのに、見合う人を見つけるのは不可能であろう。わかった、何から話そうか……」


 そう言って考え込み、顎に手を添えて目をつぶる。

 あら、このケンタウロスさんは外見は威圧的だけど紳士なのかしら?

 最高ランクのSから最低のEランクまである『イイ人ランキング』のどのあたりに位置づけようかしら。

 これはAランクスタートでもいいかもしれないわ。

 そんな事を考えていると、ルアンさんがお茶を持ってやってきた。

 すると気配を察したのだろうか……考え込んでいた筈のモリモリ筋肉下半身だけ馬が、ルアンさんの胸を薄目で見ていたのだ。

 わたしはこの駄馬のランキングを心の中でしっかりとDランクに決定するのだった。


 嬉しそうにニヤニヤして……料金も割増しにしましょう。

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