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第3章 *1*

「お、どうした? 何だかご機嫌だな?」

 午後に配達する書簡や荷物を受け取ったサミルは、その中に知っている名前を見つけて思わず微笑んでいた。それをグランディに指摘され、「はい!」と元気に頷き返す。

「だって、これ見てくださいよ!」

 サミルが見せびらかすように持っている書簡の宛先は、ノウ地区に住んでいるユイナ=スプラウト氏となっている。

 が、それが誰のことだかわからなかったグランディは、首を傾げた。

 隣で自分が担当する荷物を鞄に詰めていたセオも、何を騒いでいるんだと言いたげだ。

「ほら、このユイナさんって、窓口にキャベツを持ってきた人ですよ。あの後、隣村となりむらに住んでる息子さんに『想いの種』を送った、あの!」

 そこまで説明されて、ようやく二人は「なるほど」と頷いた。

「それで、この差出人のナッツさんって、おばあちゃんの息子さんなんです! お返事くれたんだなぁって思ったら、私、嬉しくなっちゃって!」

「そうか、そりゃあ良い。お前が届けてやったら喜ぶだろうな」

「はい! あ、でも、お手紙だけだったら、おばあちゃん寂しがるかなぁ……。あんなに息子さんに会いたがってたんだもの」

 はしゃいだと思ったら急にしぼんだようになったサミルを、セオは鼻で笑う。

「そんなの、渡す前から考えてどうすんだ?」

「だって……届けるからには、やっぱり笑顔が見たいじゃない?」

 と、グランディはまるで子どもをあやすかのように、サミルの頭を帽子の上からポンと叩き、それからニカッと白い歯を見せて笑った。

「大丈夫さ。親ってのは、子どもから便りが届くだけで喜ぶもんだからな」

「あれ? グランさんって子どもいるんでしたっけ?」

 まるで親心をよく知っている風な口ぶりに、サミルは思わず問い返す。

「いやいや、いないけどよぉ。ウチのお袋がな……アエスタに住んでる弟からの手紙が届くだけで、一日中大騒ぎすんのさ。いつもそれを見てっからさ」

「なるほどです……」

「ほれ、そろそろ遅れないように出発した方がいいんじゃないか? あ、あと、喜んでるのにこの話すんのは嫌なんだが、ロードン氏の件は局長にかけあってみるから、もう少しの間、頑張ってくれな?」

 配達を担当していたライラは、風邪がなかなか治らず、復帰まではまだ時間がかかるらしい。そんなわけで、相変わらずサミルが対応するしかない状況が続いている。

 しかし、サミルは多少の文句を漏らしつつも、仕事だからと必死に割り切って頑張っていた。

「……はい、よろしくお願いします。じゃあ、行ってきますね!」

 サミルはグランディにぺこりと頭を下げると、いつもより軽快な足取りで想伝局を飛び出していった。

 その直後、続いて配達に出ようとしたセオを、グランディが引き止めた。

「セオ、あいつにはああ言ったが、多分、局長はあてにならないからな……。できれば、お前も気をつけてやってくれな」

「一度も会ったことのない局長なんて、俺は初めからあてになどしていませんよ。では、行ってきます」

「……お前さんも素直になって、あのに『心配してるぞ』って言ぇやいいのに」

「…………」

 その言葉を背中で受けながら、セオは無言のまま立ち去っていく。

「まったく……」

 不器用ながらも必死に頑張っている二人を、グランディはただ見守ることしかできない。そろそろその現状にも嫌気いやけが差してきていた。

「しっかしあの、ダメ局長もなぁ……どうにかならんもんかねぇ」

 ほとんど人のいることがない局長室の方を見やりながら、グランディはひとり深いため息をついたのだった――。


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