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5話 いかなる時も魔王は堂々としてないとダメ

 さすがに人間界へ旅をするとはいっても解決の糸口が現状見つからないため、魔界にいるうちから準備を念入りにする必要があった。


 俺は魔王城にあるさまざまな魔界アイテムをリュックに詰めようかとも思ったものの、持っていける数にはやはり個人では少なすぎたので勇者や軍師殿に協力してもらった。


 勇者はあいかわらずぶーぶー文句を言っていたが身体が元に戻らなくてもいいのか? の一言でだいたいおとなしくなった。


 軍師殿はどちらかというと他の魔族に魔王の様子が変だと勘ぐられていないかを気にしていたようで城内にいる間は魔王の姿をした勇者の方について回っていた。そのおかげで、勇者もなかなかいい具合に魔王を演じている様子だった。


 翌日、退却命令が下されると当然、魔界全体が騒然となった。


「なぜ退却なのですか、魔王様」

「人間界への侵攻も佳境に入っている時期なのですぞ」

「ここで退くのはあまりにもったいなさすぎます。しばしご一考を」


「ええい! 鎮まるがいい」


コホンと一回咳払いをしたのち勇者はこう続けた。


「人間界に用事ができたのだ。人間界へ送り込んだスパイによると人間たちはこの魔族との数の差をひっくり返す秘策を打ち立てているとのことだ。それを俺の手で調査しなければならぬ。何より民を大勢死なせるようなことになっては駄目なのだ。愛する民が犠牲になってまで勝利を手にしたところで俺は嬉しいことなどあるだろうか。」


 苦し紛れの言い訳だったように思えたが、これが意外に功を奏したようで泣きながら魔王の演説に耳を傾ける者も大勢いた。軍師殿が演説文を昨日徹夜で書いていたらしい。


 魔王の演説が終わると会場一帯が拍手の嵐で包まれた。常に民のことを考えて政治を行ってきた父上には感謝するしかない。先代の父上があってこその民に頼られる俺がいるのだった。


 わたしも魔王様についていきます、お供させてくださいとの要望も多かったが勇者は全て断った。たしかに戦力はあるに越したことはないのだが、今回に限って言えば戦争をしにいくのではなく情報を集めて身体を元に戻すために人間界へ降り立つのだ。勇者と魔王の身体が入れ替わっているという事実はできるだけ広めない努力をしなければならなかった。噂がもし広がれば魔王としての俺の立場が失墜してしまう可能性もあった。


 魔王城客間、現在俺が寝起きしている部屋だ。俺は魔王城内では人間界で情報を集めてきたスパイという設定になっている。


 コンコンと短いノックが聞こえた。


「俺だ、入るぞ」


先ほど演説を終えた勇者だった。


「ちょっとなんなのよ! あんなに大勢人がいるなんて聞いてないわよ」


「元気そうじゃないか、はは、緊張したか?」


「あんたねぇ……殺すわよ」


やってみろよといいかけたが、この女ならやりかねない話だったので口には出さないことにした。


さて、本題。


「これからどうするの?人間界に行くんでしょ?」


「あぁ、といっても魔王軍が既に攻めた場所はもうだめだ。だからそれ以外の場所から当たろう」


「それってどういう……?」


勇者は不思議そうな顔をしてこちらを見つめている。仮にも魔王なんだからもう少し威厳がある素振りを見せろ。


「魔王軍が攻めた場所はもう人一人として生存者はいないはずだ。それによほど腕がたつ、俺たちの身体を元通りにしてくれる術師がいるとするとそう簡単に死ぬはずがない。まずは聖王都から行くことにする。もし術師がいないとしても情報を集めるうえでは聖王都が一番だろう」


 勇者の方はというと、少し顔を引きつらせながらうーんうーんとうなっていた。


「どうかしたのか?」


「いや、えっと……なんていうかその」


「なんだよ」


「わたし、家には帰りたくないんだけどそれだけはいいかな?」


何やらワケありらしい。察するに家族とは不仲とかそういったところだろうか。


「フン、まぁいいだろう。聖王都では基本的に宿を主軸に行動する」


勇者は安堵した様子を見せるとぐっと伸びをした。


「勇者よ、そろそろお前のことも聞かせてくれないか。聖王都に行って、お前の知り合いに会いでもしたら俺はなんて受け答えすれば――」


「――逃げて」


「?」


「だから逃げてって言ったの。知り合いらしき人がいたとしてもそれは他人の空似。いいわね?」


 あくまでも個人情報は絶対秘密な主義らしい。ガード堅すぎだろう、さすがに。


「あのなぁ、俺とお前は身体が入れ替わってるんだ。情報は共有しとかないとまずいだろ。一心同体みたいなもんだろう?」


「なんか意味深な発言ね……」


勇者が俺に詰め寄ってくる。


「あんた昨日の夜、お風呂入ったんでしょ? ていうことはその……裸も見てるのよね?」


 急な展開すぎて頭が回らなくなってくる。


「いや、そりゃそうだが。仕方なくないか?べ、べつにやましい気持なんかサラサラないしな」


「フンっ。反応がいかにもドーテーって感じね」


 え、いやまぁ六歳なんだから仕方ないだろう。なんでこんなに惨めな気持ちをしなくちゃいけないんだろう。俺は目の前の俺の姿をした何かを殴りたい衝動を必死でこらえた。


「お前の方こそ俺の身体に何かしたら許さないからな! ていうか筋トレしろよ。日課で腕立て腹筋スクワットそれぞれ50回ずつだからな。」


「え……ほんとに鍛えててこれなの……?全然筋肉ついてないじゃない」


 ほんとにつくづく魔界男児のプライドをガシガシと削ってくる女だった。


 その後もくだらない言い争いを延々としていたが、またも扉をノックする音が聞こえて軍師殿がそろそろ人間界に出発する時間ですよと伝えに来たのでひとまずお開きとなった。


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