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姿

「待てって言ってるだろぅが!! って……、ああ!! 俺が倒れてるじゃねぇか!」


「無闇に人の身体に触れない方が良いよ」


 自分の本体に近付こうとする葛城だったが、鈴置の一言でその行動を止めた。そして、冬野を見詰め「どうして呼び出した?」と疑問を投げ掛けた。


「だってこの場合、仕方ないじゃない。というよりも、アンタはアンタなの?」


「やっぱりバカだな。俺が眠ったからといって、俺じゃなくなるわけがねぇ。という事は、この倒れている俺も、この俺も俺だという事になる」


 いかにも当たり前だというように言葉を発する葛城の夢自我だったが、どうも身体に異常を感じるのか身体を隅々まで確認している。


「葛城君、君の違和感の正体を教えてあげようか?」


 鈴置は意地の悪い笑みを浮かべ、葛城の夢自我に向かってそう言った。


「違和感? 違和感など……」


「無いと言いたいのかな? では、君はどうやって飛ぶ? その背中の小さな羽で、どうやって飛ぶ?」


「これ、飛べるのか?」


「飛べるさ。君、一人の力じゃ無理だけどね」


「な、なんだと!?」


「正確には、君のその姿では無理だというのが正しいのかも知れないけどね」


「どういう事だ!」


 今にも鈴置の胸ぐらを掴む勢いの夢自我だったが、「だから無闇に人に触らない」と鈴置に言われ、その黒い手を退いた。


「その黒い蟻のような姿は、葛城君の夢自我の具現した姿だ。しかしながら、君は今もう既にプラグinしている。という事はだ、君にinしているプラグに肉体を明け渡してみたらどうなると思う? これは我々、心理研究部の考察なのだが、プラグに肉体の支配権を譲った時、その姿は全くの別物に変わると考えている。どうだい? 君さえ良ければ、プラグ、そう、そこにいる冬野君に、君の肉体支配権を譲ってみないか? 嫌なら別に強制はしないが……」


「え!? わ、私?」


「しゃあねぇな。じゃ、一度試してみるか……」


「え……」


 戸惑いを隠せない冬野を他所に、鈴置と夢自我は、その肉体の支配権を冬野に委ねようとし始めていた。


「ところで葛城君、バカのフリをするのは止めたのかい?」


「頼むぜ鈴置、どうして夢の中でまでバカでいなくちゃなんねぇんだよ!? バカなのは、リアルだけで十分なんだよ」


 二人は話をしながら笑いあっている。そして冬野に早くするように促していた。


「え!? って、どうしたら……。え!? こ、こうかな?」


 冬野は葛城の夢自我発現の時と同じように、夢自我の心理に潜り込もうとした。


「う! うぅぅ!! ま、真っ黒だ……。な、何……ここ……。こう? これで良いわけぇ!!」


 冬野の叫びとその変貌は同時だった。黒い蟻の姿は、みるみるうちに崩れ、全身を緑色に包んだ蟷螂カマキリの姿に変わっていた。


「な!!」


「えぇ!!」


「ほう!」


 変貌に驚いたのは、葛城と冬野の二人だけだった。鈴置は、実験の結果が予想通りだったようで、一人でニヤニヤと笑いながら喜んでいる。


「夢自我の姿は、統治者のポテンシャルが強く出ると考えられている。たぶんだが、パワーの強い葛城君だからこその蟻、スピードとテクニック重視の冬野君だから蟷螂、といったところではないかな? まあ、その戦闘テクニックも、肉体支配者によって左右される筈だ。しかも、これが最終形態という訳ではない。葛城君、自身の夢自我に冬野君の意識を置いたまま、君も肉体支配に関わってごらん」


 肉体支配での姿形の変化だけで驚いている二人に対して、鈴置は更にグレードの高い要求をしてくる。葛城は戸惑いながらも、自らの肉体の支配権を冬野と共に行う事に躊躇いを感じつつも、鈴置の言う通りに自らの肉体支配を共有する方向へもっていった。


「ぐうぅぅ! こ、これはキツイな……。一人分のスペースの中に、二人が一度に入るような……」


「ちょ!! キツイわよ! 狭いって!!」


 二人の発する言葉の意味する場所は、夢自我の肉体内世界。鈴置には見えも感じも出来ないが、そこで何が起こっているのか容易に想像する事が出来たように、ニヤニヤとした笑いを止めない。そして、二人の絶叫が一つに重なった時。


「おぉぉぉぉ!!」


「何これぇ!?」


 二人が驚くのも無理はない。その姿は、黄金に輝く蜂になっていたからである。


「ふむ。それこそが最終形態だね。スピード・テクニック・パワー等を重ね合わせた二人の能力の集合体。しかし、そのコントロールは非常に難しい。よって、状況に応じて、その容姿を変貌させながら戦うのが一番良いだろうね」


 楽しそうに話をする鈴置だったが、それに葛城が食い付いた。


「さっきから聞いてりゃ、戦うだの戦闘だのって言ってるがよ、何と戦うんだよ!?」


「おや? 葛城君、君は気付いていないのかい? これはJustice hero dreamプロジェクト。ヒーローが戦わずして、どうしてヒーローを名乗れると思うんだい? しかも君は今日既に、戦いを済ませている」


「戦い?」


「朝の強盗……」


 小首を傾げた葛城だったが、冬野の一言に納得したようだった。


「でもよ……あんなの、幾らでもいるんじゃねぇのか?」


「だろうね。でも、ヒーローは一人以上要らない。そうは思わないかい?」


「やはりそうか!!」


「知っているんだね?」


 葛城の反応に楽し気に答える鈴置の反応に対して、葛城は大きな怒りを燃え上がらせていた。


「Dream knight……!!」


「そうか、彼を見たのか……。成る程ね。Justice hero dreamプロジェクト同士は、引かれ合うのかな? でも、ヒーロー同士の戦闘には経験値が少なすぎる。だから……、まあ暫くは小悪党を懲らしめてくれないかな? まだ暫くは……ね」

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