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 正門前に近付くと、三人の男子生徒が近寄ってきた。


「おはよ〜、葛城く〜ん」


 普段と変わらず馴れ馴れしい。三人で俺を取り囲む様にして歩いているのだが、三人の内の一人が普段通りやたらと話し掛けてくる。


「なあ、葛城。今日は持って来たか?」


「持って来たか?」


 残りの二人も続けて言うが、俺はそんな声も聞こえないかのようにゆっくりと歩いていると、「持って来たか? って聞いてるんだよ!」と、睨み付けてきた。が、そんなのは気にせずスルーする。


「おい! 葛城! テメェ、ナメてんのか!?」


 どれだけ凄まれようとも無視を貫く。コイツらは、相手が自分達より弱いと思っていると、いつまでもしつこく付きまとう。


「葛城ぃ!! 俺の昼飯代、俺が立て替えた四万円持って来たかって聞いてんだよ!」


 もう意味がわからん。どうして俺が、テメェの昼飯代を払わにゃならんのだ。しかも、自腹で払って、立て替えと言うか……。


「そうだ! 俺の払った俺の飯代二万円もな!」


「俺の二万円もだ!」


 下っ端二人も喧しい。しかし、相手にすると面倒臭い。だから無視を決め込む。


「聞いてんのか葛城!!」


 どんどん言葉が激しくなっていく。そして下駄箱に入ろうとした瞬間、ガッと肩を掴まれた。


「おい葛城。お前知ってるよな? この学校がどんな所かをよ。頭の悪いただのバカと、喧嘩っ早いバカしかいないって事をよ!!」


 あ〜、段々ムカついてきた。毎日毎日、本当にしつこい。コイツら、自分達が喧嘩っ早いバカだと自覚はしてるようだが、自分達を喧嘩の強いバカだと思っているようだ。


「だからよ、お前みたいなただのバ……」


「バ? ただの何?」


 しつこく話し掛けようとする生徒が話そうとした途端、相手の膝が逆の方向に折れ曲がり前のめりに倒れてきた。その倒れ込む相手の口目掛けて、俺は靴の爪先で突き飛ばし、相手の歯をへし折っていた。


「…………」


「な!?」


「え? お、おい……」


 意識を失ったのか無口になった生徒を見て下っ端二人は、開いた口が閉まらないみたいだ。


「何? ただのバカと、喧嘩っ早いバカ? で、俺はどっちだって?」


 笑顔で話しながら、倒れ込みそうになる男子生徒の鼻先を蹴り飛ばし、後ろに倒れそうになったところを、髪を掴み倒れないようにしてやり、もう一度、歯の折れた口の中に渾身の蹴りを入れてやる。


「アガ……、ガ、ガブ、あ、あ、あが……、ぐぶ……」


 意識はまだあったようだが、口から多量の血を流し、声にならない声を出しながら悶え苦しんでいる。仕方がないから、下っ端二人に聞いてみる。


「俺はどっちだって?」


 震えている二人は、俺を凝視したまま動こうとしない。いや、動けないのだろう。


「で、俺はどっち?」


 笑顔を崩さないように話し掛ける。まあ、こんな奴等に凄んでも仕方ないから、これで良いのだが。登校中の他の生徒はというと、そこには何もないかのように素通りしていく。当たり前だ。このバカ共が誰に絡んでいるかを知っているからだ。


「もうその辺にしとけよ智輝」


 屈託のない笑顔で陽哉が話し掛けてきた。そう言えば、コイツはずっと一緒にいたよな。


「だってよ陽哉。コイツらにここのルールを……」


「それは内緒にしておく約束だろ?」


「でもよぉ……。毎日、毎日、ウゼェんだよ」


「はいはい。ウザいだけでいいじゃん」


 俺と陽哉の会話に呆気にとられていた下っ端二人だったが、俺を標的にすると身に危険が生じると判断したのか、陽哉の方を向くと、いきなり二人で殴りかかった。が、陽哉の目が一瞬で変わると、その表情に笑顔は消え、一人の腕を手で払い除けると、もう一人の股間を足の爪先で貫いたのだ。そのまま、腕を払い除けた相手の腕を、両手で持つと肘が曲がらない方向に自分の膝を軸にして、折り曲げた。


「ぅぐうぅぅぅ〜!」


「があぁぁぁ!!」


 二人とも、悲鳴に近い呻き声をあげて、悶絶している。バカはやっぱりバカなんだな。俺と対等に話をしている陽哉が、弱者と判断してしまう愚かさが、コイツらの頭の弱いところなんだろうな。


「お、おい、陽哉……」


「ん?」


「「ん?」じゃねぇよ! お前、何瞬殺してんだよ!? 俺に言った事と」


「いやぁ、反射運動てのは、怖いねぇ」


「いや、笑い事じゃねぇって……」


 陽哉は、もう笑顔に戻り、ケタケタと笑っている。


「まあいいや。陽哉、遅刻すっぞ」


「うおっ! ヤベッ!」


 二人で顔を見合わせると、倒れているバカ三人の顔を思いきり踏みつけると、下駄箱から教室に急いだ。


 教室に俺達が入ると、他の生徒の数名が駆け寄ってきた。コイツらは、俺と陽哉のこの学校でのポジションを知らない。だから、俺達を心配していたのだろう。しかし、それは無用な心配である。何故なら、俺と陽哉は表舞台に立たないと決めた支配者なのだから。俺達に絡んでくるバカ達も居なくならないが、そのバカ達が秘密裏に病院送りになっている事は、一部の生徒しか知らない事実なのだ。まあ、病院送りにしているのは、俺達ではなく、俺達の直下の部下達なのだが。


 そんな事情を知らないバカ達は、俺達が上手くなんとか切り抜けて来たと思っているようだ。まあ、それはそれで、ありがたい話なんだけど。まあ、俺と陽哉は喧嘩の弱いバカだと思われていた方が楽で良いのだから。


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