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能力

 黒蟻・蟷螂・黄金蜂、その容姿を変える事の出来る夢自我。本体は葛城智輝。サポート(プラグ)は冬野向日葵。この二人の能力によって発現する夢自我。ただ、まだ二人はこの夢自我の本質に気付いていなかった。



「それにしても変だな。本来、夢自我は白色はくしょくの筈……。しかし、あの夢自我は色を変える。もしかしたら、夢自我の亜種かもしれないな。面白い……、観察のやり甲斐があるというものだ」


 二人と別れた鈴置は、楽しみに浮かれていた。



「……って、ぇえ!! また電柱の上?」


 智輝が気付くと、また黒蟻の容姿で電柱の上に立っていた。


「よっぽど高い所が好きなのね……」


 頭の中に、直接話し掛けるようにして向日葵の声が聞こえる。


「向日葵テメェ!! お前はただ寝てるだけだろうが!!」


 二人は互いを呼ぶ際、苗字で呼ぶのも変だという事になり、名前で呼ぶことに決めた。


「しかしアレだな……。名前で呼ぶってことにしたけど、いざ、名前で話し掛けると照れるな……」


「ア、アンタがそういう事言うわけ? 私の方が照れるんですけど……」


「まぁアレだな。なんだ? そうそう……アレだアレ。……慣れだ。慣れてくりゃあ、大したことじゃ無くなるさ」


「慣れねぇ……。いつ慣れるのかしら……」


「直ぐだよ、直ぐ……。たぶんだけど……」


「まあいいわ。で、智輝がここに現れたってことは、この近くで何か事件が起こる可能性があるって事よね?」


「そうなるのかな?」


「じゃあさ、今回は私に戦わせてよ。私、まだ、姿を見せただけで、一度も戦ってないし……」


「え? 何、向日葵? 喧嘩した事あんの?」


「な!! 無いわよ! あるわけ無いでしょ!」


「じゃあ、どうやって戦うんだよ!?」


「そんなのゲームと同じじゃない。私、格闘ゲームは得意なのよ」


「い、いや……、ゲームじゃねぇし……」


「いいじゃん! どうせ無敵なんだから」


「無敵だけど……。俺の身体だぞ……」


「私の精神も同調してるけどね」


「う! ソコを突かれると痛い……」


 会話は頭の中で行われ、声は一切発していない。それでも二人は、周囲に声が漏れていないか気にして、周囲を見渡していた。


「って!! 智輝!! アレ! 引ったくり!」


「引ったくりって……小せえな……。それじゃ、向日葵で十分だな」


「ん、もう!」


 少し拗ねながらも向日葵は、その姿を蟷螂に変え、逃げる引ったくりへと羽ばたいた。


「うわっ!! 飛んでる! 飛んでるぞ向日葵!!」


「うるさいわね。蟷螂なんだから、飛んで当然でしょ!! それとも智輝、飛んでる蟷螂見たこと無いの!?」


「いや、そういう意味じゃなくてさ……」


「じゃ、ちょっと黙っててよね!!」


 向日葵はそう言うと、ターゲティングした引ったくり目掛けて急降下すると、引ったくり犯の目の前に降り立った。


「な、な、な、な、なんだ? い、い、今……、お前……ど、どこ、どこ……から、現れた……」


「う〜と、ね〜。空?」


 おどけてみせる向日葵だったが、確実に引ったくり犯は動揺していた。そしてバッグの中からナイフを一本取り出すと、「お前も殺すぞ!!」と叫んだのだ。


「も?」


「も!?」


「え? えぇぇぇ!!」


「ヤ、ヤベェ、コイツ、引ったくりなんかじゃねぇ! 殺人犯だ!!」


「えぇぇぇ!! マジ?」


「マジ」


 蟷螂姿の向日葵は動揺したが、蟷螂が動揺しているとは知らない殺人犯は、半狂乱に襲い掛かって来た。……が、向日葵はそれを身軽にかわすと、そのまま一歩下がって、後ろ回転蹴り(ムーンサルト)を放った。しかも畳み掛けるように、その鋭い鎌で殺人犯を切りつけたのだ。


「え……マジ?」


 智輝は呆気に取られていた。きっと自分なら粉骨砕身。我が身を切らして骨を断つ手段をしていたに違いなかった。それを向日葵は、一撃もダメージを受けずに、相手をKOしてしまったのだ。しかもTKO。殺人犯は、ものの見事に気絶していた。が、何故だか切り傷はなかった。


「ひ、向日葵……ちゃん?」


「ちゃんとかで呼ぶな! 気持ち悪い」


「つ、強ぇぇじゃねぇか!?」


「だから言ったでしょ? ゲームと同じだって」


「も、もしかして向日葵の得意な格ゲーって……」


「勿論! バーチャル・アタック・リアルに決まってるでしょ!!」


「マ、マジか!?」


「マジ、マジ、大マジ!! 私、全国対戦で六位なのよ!」


「バーチャアタックって、あのコードいっぱい付けてやる格ゲーだよな?」


「略さ、な、い! バーチャル・アタック・リアル! 本格型3D格闘ゲームなのよ! あの手足に付けるコードは、全てコードレスで、少しコードが出ているように見えるだけなわけ。でも、コードレスだから身動きに支障をきたさないし、動きやすい。だから、自分の動きたいように動けるから、コントロールパネルをガチャガチャやってする格闘ゲームと格が違うわけね。どう? わかった? 私の凄さ」


「わ、わかった。俺、向日葵とは喧嘩しねぇよーにするわ。マジでヤられたら、周りの笑い者にされちまうからな……」


「へへ〜ん!!」


「と、浮かれているとこすまねぇけどよ、俺ら滅茶苦茶、注目されてるぞ……」


「知ってるわよ。そんなの」


「写メとか撮られてるし……」


「だから?」


「早く逃げねぇと……」


「ん、もう。ビビりなんだから。わかったわよ。逃げれば良いんでしょ。に、げ、れ、ば!」


 そう言うが否や向日葵は羽ばたき、そのまま空へと舞い上がった。


「ふぅん。な〜る〜。こういう風に動くのね。意外と簡単じゃん!!」


 その言葉と共に、向日葵は更に高く飛翔し、野次馬の人だかりの中から姿を消したのだった。

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