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14th tale Let me wish Stardust

「ちょっと待ちなさい、椎菜!靴、こんな風に脱ぎ散らかして!ちゃんと揃えな!!」


「うるさいなぁ!いいでしょ別に!そんなの誰も困んないんだから!!」


「こら、椎菜!」




「椎菜!!」




 怒声が飛び交っていたあの頃の我が家。

 私はこれ以上ない程はっきりと、鮮明に思い出せる。

 怒鳴っていたのは、私とお婆ちゃん。

 私が小さかった時、あんなに仲の良かった私たちは、何時の間にか顔を合わせれば口喧嘩をするようになってしまっていて。

 どうしてだろう。

 原因は思い出せないけれど、きっとどうしようもなく、些細なことであったに違いない。

 そして、先に冷たく当たり始めたのが私であろうことも、また、まず間違いのないことで。


「椎菜、暇なら夕飯作るの手伝いなさい。だらだらしてばっかいないで!」


「私、宿題あるから」


「またそうやって誤魔化して、いい加減にしなさい!」


 靴を脱ぐのは面倒だったし、料理だってまともに作ったことはなかった。

 ましてや夕飯を作る手伝いなんて、尚更。

 私は人として当たり前のことを放棄した人間だった。お婆ちゃんが怒るのも、当然のことだったのに。

 お婆ちゃんのことが嫌いになったわけではなかった。

 あの頃の私は、自分でもどうかしていたんだと思う。

 高校生になる前、まだ中学生活を送っていた頃。

 家族の言葉が、私は何もかも鬱陶しく感じられた。当然、それにはお婆ちゃんの物も含まれていて。

 お父さんとお母さんは、ただ私が反抗期だっただけのことだと言ってくれるけれど。私は、そんな言葉で、私がしたことを片付けてしまいたくなかった。

 どんなにお父さんとお母さんが言葉で取り繕ってくれても、今、一番私を咎めて欲しい人がいないのだから。私にあと、もう一度でも、怒鳴ってくれる人がいないのだから。

 中学三年の冬。新たな春を匂わせ始めていた、今から、二年前のあの日。

 私は、お婆ちゃんの気持ちを裏切った。






「椎菜、食べたらちゃんと御馳走様って言いな」


「……」


 私は黙ったまま席を立ち、転がす様に箸を置いた。お婆ちゃんの注意に機嫌を露骨に悪くさせて、食卓から立ち去ろうとした。


「椎菜!!」


「はいはい!ごちそうさま!!」


 一言一言が、煩わしかった。

 全ての言葉が、私を子供扱いしているのだと感じてしまって。

 事実、子供だったのだけれど。

 当時の私には、そんなことも分からない。分からないというよりも、認めたくなかっただけなのかも。何度も何度も思い出してきたはずなのに、私は、かつて感じた自分の気持ちすら、未だに分かっていない。


「お婆ちゃん、何もこんな日にまで……」


 母が軽くたしなめても、お婆ちゃんの顔は憮然としたまま。

 乱暴な速足で部屋に戻る私をお婆ちゃんがじっと見つめていたのが、また私を、訳も分からず苛立たせて。

 部屋で机に着いても、頭の中はお婆ちゃんへの苛立ちが渦巻くばかり。大事な前日だというのに、私はそんな調子で、最後の見直しもろくにできないままで。

 ペンを所在なく回す私の下へ、お父さんがやって来た。


「……。いよいよ明日か、受験」


「……、うん」


 お父さんに顔も向けずに、私は答える。

 中学最後の冬、人生の岐路である高校受験は翌日に迫り。

 私は三年間の勉強の成果を出すために、最後の最後まで勉強の手を緩めようとはしなかった。

 大切な友人二人と同じ高校に通うと心に決めてからずっと、みんなで協力し合いながら頑張ってきた。


「お婆ちゃんもな、椎菜のことが大事なんだよ」


 私はうんざりした思いでペンを置いた。

 何故、勉強に集中させてくれないのか。明日がどれだけ大事な日かみんな知っているはずなのに。


「後で、お婆ちゃんの所に行ってやれ。今、また体の調子が悪いって寝てるけど、会いたがってるぞ」


 言うことだけ言って、部屋を出ていくお父さんの背中に、私は溜息をぶつけた。

 会いたくない。

 きっとあっちだって、そう思っているに違いないのに。

 一階の和室。普段からお婆ちゃんが寝室にしていた部屋の前へ、私は不本意ながらも足を運んだ。

 ふすまの隙間から漏れ出た光が、暗い廊下に差し込んで。私は眩しさに目を細めながら、深く息を何度か吸った。

 そして、覚悟を決めてふすまを開けて、部屋へ入った。

 お婆ちゃんは畳の上に布団を敷いて、体を寝かせていた。

 既に、数か月近く体調を崩しているお婆ちゃんの様態はなかなか良くならず、本人が渋っていた病院にも無理矢理入れるべきかと、両親は私に秘密で話し合ってもいたらしく。

 そんなことは露知らずに、私は嫌々お婆ちゃんの前に立っていた。私が入って来たのに気付くと、お婆ちゃんは上体を起こして、穏やかに微笑んで、こちらに目を向けた。


「さっきは……、ごめんね。椎菜。お婆ちゃん、昔の人だから、ああいうのはどうしても、気になっちゃって」


「……」


 返事はしない。しない。しなかった。

 思い出すにも愚かしい。私は私自身の愚行に苛まれる。胸を刺す感情に、身を焦がす。


「それで……、何?お父さんが行けって言うから来たんだけど」


 お婆ちゃんが少し、残念そうな顔をした。

 私は忘れない。その、一挙手一投足だって。

 何時か薄れて、消えていってしまうただの思い出だとしても。

 忘れたくない。どんなに胸が痛んでも。


「明日、高校受験だろう?これ、持って行きな」


 部屋の隅に置いてあった鞄から、お婆ちゃんは何かを取り出し、それを私に渡そうと差し出した。

 紫の錦布に綺麗な金色の糸文字が縫い込まれたそれは、お守りだった。縫われた文字は大きく四文字で、“合格祈願”。


「この前、神社で買ってきたんだよ。受かるといいね。佳代ちゃんたちと同じとこに行くんだろ?」


 嬉しそうに話していたお婆ちゃん。

 具合の悪い体で、私の成功を願ってくれていたのに。

 私はその証を、お婆ちゃんの気持ちそのものである、そのお守りを。


「……、いい。いらない」


 拒んだ。

 私は、お守りを受け取らなかった。

 あの時のお婆ちゃんの顔は、本当に、本当に、辛そうで、悲しそうで。

 私が何よりも憎むのは、あの時の自分。

 何よりも私が許せないのは、その時、私はそんなお婆ちゃんの顔を見て、胸がすく思いでいたんだ。

 大好きだったのに。

 あんなに、私を大切にしてくれたのに。


「椎菜は……、お婆ちゃんのこと、嫌い?」


 背中を向けた私に、お婆ちゃんが聞いた。

 思えばあれが、お婆ちゃんと交わした最後の会話だった。

 そう。

 最後だったのに。私は、最低の答えをお婆ちゃんに返してしまった。

 永遠に後悔することとなる、あの一言を。


「好きな訳、ないでしょ。馬鹿みたい」


 私は自分を軽蔑する。

 何よりもお婆ちゃんが恐れた一言を、私は平然と口にした。

 例え、思春期やら、反抗期がどうだと両親が言ってくれようとも、私は私を許しはしない。

 苛立つままに口を動かしたあの時の私を、私は決して、許さない。

 落胆するお婆ちゃんを部屋に置いて、自分の部屋へと戻ろうと、和室を出て。

 閉じたふすまの向こうから、咳き込む音が聞こえてきたけれど、私は知らぬ顔で去って行った。



“椎菜は……、お婆ちゃんのこと、嫌い?”



 そんな訳ない。

 嫌いな訳、ない。

 何故、私は少しでも落ち着いて返事をしなかったのだろう。

 私はあなたが大好きだった。

 優しくて、私のことを何時も考えてくれていて、私にいつも笑い返してくれて。

 誰よりも、あなたのことが大好きだった。

 でも、あの時の私は、そんな大事なことすら忘れてしまっていて。

 ただただ、自分のことにばかり目が行って。あなたのことを何も見ようとしていなかった。

 ……、いいえ。

 私はあなたの優しさに気付いても、きっとそれを受け入れようとはしなかったでしょう。

 私はあなたの優しさすら、鬱陶しく思ったに違いない。

 全力で愛してくれていたあなたに対して、私はどうしようもなく愚かだった。

 だから私は、全てが取り返しのつかないことになってしまったと知った時、私を苦しめ続ける永遠の後悔を背負うこととなる。


 至極当然の、報いだ。






 翌日、受験会場へ行くために家を出る私を、笑顔で見送ってくれたお婆ちゃんは、とても辛そうな顔をしていたのに。私は何の関心も示さずに、玄関を開けた。

 一言も声をかけることなく、私は十五年も共に過ごしたお婆ちゃんと、お別れしてしまったのだった。

 そして、受験が終わり、私を迎えに来てくれた父の車に乗った私は、お婆ちゃんが亡くなったことを聞かされた。

 実感の湧かない事実に、私は口をつぐんで、後部座席で身を強張らせた。

 何も言えず、何も考えられず。

 私は車窓から、外の景色をぼぅっと眺めて。

 ただお父さんが淡々と語る、私が家を出てからのお婆ちゃんの様子を耳に入れて。

 お婆ちゃんは救急車に運ばれてからも、「椎菜、椎菜」と、私の心配ばかりしていたことと。お守りをずっと握り続けて、祈るのを止めなかったことと。

 最期には、眠るように息を引き取ったということを。

 お父さんは伝えることを全て伝えた後は、家に着くまで、それ以上何も言わなかった。

 私の視界を流れる景色の中に、住宅街に際立つ紅葉並木が見えて。

 お婆ちゃんと手を繋いで、仲睦まじく歩いたかつての思い出を、私は枯れてしまった並木道に幻視した。


「着いたぞ、椎菜」


「うん……」


 車からなかなか降りない私に気を遣ったのか、お父さんの声は優しかった。

 私が車のドアを開ける気になれなかったのは、自分のお婆ちゃんに対するこれまでの行いを反芻していたからか。単に、死という現実に実感が湧かなかったからなのか。

 お父さんがドアを開けてくれるまで、私は車の中で、窓の汚れと外の景色を、ずれていく焦点のままに眺め続けていた。

 私は朝のことを思い出した。

 お婆ちゃんが、とても辛そうな顔をしていたことを。

 あの時、私はお婆ちゃんの様子をどうして気にかけなかったのか。

 少しだけでも、よかったのに。

 私が気付けてさえいれば、もっと早く病院に連れていけていたかもしれないのに。

 私は意味もなく、できもしなかったことを考えて、現実から目を逸らして。

 家に入り、廊下を進み、一階の和室。

 お婆ちゃんが寝室にしていた部屋を前にして、私は体の動きを止めてしまった。

 まるで、意識と体を繋いでいた何かが、ぷつりと切れてしまったかのようで。

 指の一本も動かせないことに、私はぞっと恐怖に引きつった。

 廊下の暗さが増していって、私の視界の隅から、真ん中へ、どんどん光を奪い、黒く塗り潰して。


「椎菜……」


 ふすまの前で動かなくなってしまった私に、お母さんが呼びかける。

 酷く弱弱しく震えるお母さんの声は、崩れ落ちてしまいそう。

 私はお母さんの声に救われた思いだった。

 二度と戻って来れない所まで、何処かに行ってしまいそうな不安が、我に返った私の心の中に残っていて。

 私は大きく何度も深呼吸をして、昨夜のことを思い出して、体が震えるのを必死に、意識の外に押し出して。

 私は和室へと入った。

 光りが溢れ出す隙間は徐々に大きくなり、私の全てを包み隠さず照らした後、命が終わってしまった、大事な人の姿を私に見せつけた。

 横たわるお婆ちゃんの顔には、白い布が掛けられて、白い着物に白い布団。

 何もかもが、白かった。

 知らぬ内に私の体が動いて、お婆ちゃんの横に跪き、私は感覚のない手でお婆ちゃんの顔を覆う布を取った。

 死化粧の施されたお婆ちゃんの顔はM驚く程綺麗に見えた。

 けれど、良く見てみれば、深く刻まれてきた皺は、確かにそこにあって。

 お婆ちゃんが八十年以上生きてきた証。

 私には、その皺が、お婆ちゃんの経験してきた努力と苦労、悲しみが結実した物であるかに感じた。


「お婆ちゃん……」


 私はお婆ちゃんの顔に見入っていた。

 こんなにしっかりお婆ちゃんの顔を見つめたのは何時以来だっただろう。

 ずっと一緒の家にいたのに、こんなに老けてしまっていたことにすら気付けていなかった。


「お婆ちゃんな、ずっとこれを握ってたよ。最期まで、ずっと」


 お父さんが枕元に置かれたお守りを拾い上げ、私に手渡した。

 錦布のそれは、生地が歪むくらいに強く握られた跡があった。

 私はお守りをお婆ちゃんの手に乗せて、その上からぎゅっと握った。

 私はどうしてこれを受け取らなかったのだろう。どうして、嬉しそうな顔を、少しだけでもいいから見せてあげなかったのだろう。


「ごめんなさい……。ごめんなさい、ごめんなさい……。お婆ちゃん……」


 謝っても、謝っても。

 もう、届くはずはないのだけれど。

 言わなくてはいけないような気がしてならなくて、我慢、できなくて。

 握ったお婆ちゃんの手は、冷たくて。

 私は。

 私は、自分の全てを叩き潰してしまいたいと思った。

 今も続く、この罪の意識を何処へ向ければいいのか分からなかった。

 自分を無茶苦茶にしてやりたくて、いっそのこと、殺してしまいたくて。

 私は服の上から胸を抉ってしまおうと掻き毟り、自分の手に付いた何かを感じて。

 そして、私は、自分の手を伝う涙を見て、私は自分が泣いているのだということを、自覚した。


「お婆ちゃん。椎菜が立派な大人になったところ、見たいねぇ」


 何時か歩いた並木道。

 私たちが仲良く笑っていたあの頃を。あの時、お婆ちゃんが言っていたことを、思い出す。

 お婆ちゃんはどんな未来を想像していたのだろう。私にどんな人間になって欲しいと思っていたのだろう。

 少なくとも、お婆ちゃんが望んだのは、こんな私ではなかったに違いない。

 後に、お父さんとお母さんが私に語った話では、お婆ちゃんの容態はずっと悪化の一途を辿っていたけれど、私の勉強の邪魔にならぬようにと、他ならぬお婆ちゃんが口止めをしていたということだったらしく。

 その事実がまた、更に私の心を痛ませた。






 あなたが死んでしまったあの日。あなたの愛が二度と手に入らなくなったあの日。

 私は、自分を戒めて生きていくことを決めた。

 謝ることも、恩返しもできなくなってしまった私にできる、たった一つの道を歩く。

 それが、あなたへの償いになることを信じて。己の弱さと永遠に闘い続けることを、私は誓った。

 あなたが思い描いていた将来の私に、今の私は少しでも近づけているでしょうか。

 友達の家から逃げるように帰ってきた私を叱ってくれたあなた。

 紅葉の舞う並木道。私と手を繋いで歩いてくれたあなた。

 高校受検のあの日、お守りを手に、ずっと私の成功を祈ってくれていたあなた。

 私は一生を懸けて償っていく。

 例え、無理だとしても。例え、無駄だとしても。

 私はそうせずにはいられない。自分を憎み、自分を恨み。失敗を重ね、後悔を重ね、それでも、足掻いている。

 あなたが望んだ私に、何時か必ずなるために。ずっと、永遠に目指し続ける。



 どれだけ進んでも、もう、あなたの返事を聞くことは、できないのだから。








SIN-CIA - Stardust struggles -








・ある少女の回想 十



 朝が来て、夜が来て。また、朝がやってくる。

毎日毎日、繰り返す。

 ベッドの中で、私は独り頭を抱えて、終わらない苦しみに沈み続けた。

 学校に行かず、家でも部屋からろくに出ることもなく。

 お母さんが部屋に持ってきたご飯を食べ、お父さんやお兄ちゃんが部屋に入り、居間からいなくなったときを見計らって、トイレやお風呂に行った。

 お母さんは私に度々声をかけてきたけれど、今ではそれも少なくなった。

 家族の私に対する視線が辛かった。

 私は、ホリーにはなれなかった。

 家族の素っ気ない態度が、それを私に否応なしに分からせる。

 なりたくなかったからなれなかったのか。元々、私には無理だったのか。

 もう、分からなくて。

 どうでも、よくて。

 薄っすらと目を開ければ、本当なら学校にいるはずの、この昼の時間に指す陽の光は眩しくて。

 ふと、部屋の色が暗く変わった。

 夏の日差しは、部屋の中でも確かに強いのに。

 太陽が雲に隠されて、影が張りつめた部屋に違和感を感じた。

 私はあの一瞬、世界が終わってしまったのだと錯覚した。

 寝転がったまま、ベッドの中でずっと抱きかかえていたぬいぐるみを両手で掲げて。

 学校にも連れて行っていたそのクマのぬいぐるみは、黒くつぶらなプラスチックの両目で私を見つめていた。


「みんな、終わり。みんな死んじゃった。いなくなっちゃった」


 自分の顔がどうなっていたか、私には分からないけれど。きっと笑っていたんだろう。

 日差しから逃れた部屋の中はひんやり冷たくて、少し寂しく、本当に何もかもが終わってしまった気になれた。

 ぬいぐるみは返事もせず、段々、私の両手は疲れてきて、両手を下ろした私の体にまた日差しが当たった。

 なんだか嫌に眩しくて、目を逸らした。

 横に倒れた世界で、再び温まっていく床の上に、鮮やかな色をした何かを見つけた。

 その何かが気になって、それが隠れている机と棚の隙間に手を入れた。

 その正体は、クレヨンの箱と、私が幼稚園児だった頃に描いた絵だった。

 箱の中には、まだ半分も削れていないクレヨンが揃っていた。蓋の裏側には動物の落書きがいくつもあって。私は次に、昔の絵に目をやった。

 家族の絵だった。

 私と、母と、父と、兄と。それと。

 私が生まれる前に死んでしまった、金色の髪の姉の姿がそこにはあった。

 写真を見ながら描いた姉は、クレヨンで下手くそに描かれたその家族は、楽しそうに笑っていた。

 昔の私には、世界がこんな風に見えていたのだと思い出した。同時に、馬鹿馬鹿しいという気持ちが私を満たす。

 気付くと、幸せが込められたその絵はバラバラに千切られていた。

 私は机の上にあった適当な紙を一枚床に引っ張って、クレヨンを握り、無心に絵を描き始めた。

 描いている時のことは、覚えていない。

 息をするのも忘れて、ひたすら手を動かして、私は紙の上に家族の絵を描いた。

 母と、父と、兄と、ホリー。

 槍で貫かれたり、壁に押しつぶされたり。みんなが私の思いつく限りの残酷な形で死んでいる、真っ赤な絵が出来上がった。

 乱れた息が落ち着きを取り戻して、完成した絵を改めて見てみた時、私の鼓動は跳ね上がった。背に冷たい汗が流れるのを感じた。体中の血が逆流し始めたかに思えた。

 私は言いようのない不安と不快感に襲われて。黒のクレヨンを取り出して、慌てて絵を消し潰そうとクレヨンを押し付けた。

 けれど、絵は綺麗に消えずに、家族の体を表していたいくつかの色と、血の赤が黒に混じりながら伸びるだけで、自分の顔が真っ青になるのが分かった。

 この絵は、いけない物だ。

 家族たちが血に塗れるその絵は、私を恐ろしい化物に変えてしまう気がした。

 次第に黒に塗り潰されて、絵は見えなくなっていった。けれど、未だ黒の隙間から薄っすらと覗く赤色に恐怖を感じて。

 黒だけではこの絵を消し去れないと思った私は、何故か胸に痛みを感じた。

 かつて、私と笑っていた家族の笑顔が頭に浮かんできて。

 今度は白のクレヨンで絵を塗り潰した。

 強く、強く、塗り潰す。

 二度とこの世に現れないように、隅から隅まで白を塗りたくった。

 胸の痛みはどんどん強くなり。その痛みが強まる程、クレヨンを押す力は強くなっていって。白色に黒色が伸ばされて、絵は灰色混じりに色を変えていく。

 私はそのたった一枚の紙が恐くて、恐くて、仕様が無くて。自分が自分でなくなってしまう程、おかしくなってしまいそうで。


 恐怖で黒色のクレヨンを。

 罪悪感で白色のクレヨンを。

 私は必死になって、絵の上に塗りたくった。


 やがて、絵は元の姿を欠片もとどめないくらい塗り潰されて。

 黒と白に覆われた、伸ばされた赤が不気味に覗くその紙を、私は投げ捨てた。

 ベッドに飛び込んで、体を震えさせて、私は今自分がしたことを忘れようとしたけれど。


 何時まで経っても忘れることはできなくて。こうして、今でも鮮明に思い出せるくらいに、あの恐怖と罪悪感は、深く記憶に刻まれてしまったのだった。







14th tale Let me wish Stardust








 閑散とした街中に、赤茶色の石畳を叩くブーツの音が響いている。

 コツ、コツ、と緩やかな間隔でリズムに乗って、けれど何処か、虚しい色を含んで聞こえるのは気のせいではないだろう。

 一人の少女が街の中心に建てられた、現代美術じみた、立体的な渦の銅像の足下に置かれたベンチで、華奢な片足を揺らし、爪先を地面に当てては返し、当てては返し。

 彼女の瞳は生気を失い、まるで死人であるかのようだ。

 全身力が抜けた彼女の体は、その元々のか弱さ以上に、脆い存在ではないかと思わせる。

 長いまつ毛が鬱々とした彼女の表情に重なって、その脆さを際立たせ。彼女は、箕楊椎菜は悲嘆に暮れていた。

 黒白の霧が包むこの夢の世界。

 ここから脱出するための手がかりとして探し出し、助けだしたホリーの死から、夢の世界における状況は一変していた。

 空に黒い霧から這い出たかのように、狂気を体現する白い笑顔が在った。

 その笑顔は夢の世界を高々と見下ろし、世界中の人々の心に恐怖をまき散らし、全ての人にこの世界の終末を感じさせる。

 何処にも逃げ場はなく。ただ世界の終わるその時を、皆が待つことしかできない。


「椎菜!ここにいたんだ」


 呆ける彼女の下へ歩み寄ってくる青年がいた。顔全体を覆う仮面を付けた、怪しげな風貌の執事姿の男だ。


「一人でいたら危ないよ?」


 彼は親しげに椎菜に話しかける。彼女の心境を想ってか、その声色は落ち着いた優しい物だった。


「うん。ちょっと……、一人になりたかっただけ」


 椎菜は、青年、スティープスの差し出した手を取って立ち上がった。

 言葉も少なめに、銅像のある広場から立ち去る二人は寄り添って。

 かつて、あんなにもいた街行く人の影は何処へやら。赤茶色の煉瓦の街、椎菜が初めに訪れた、このガレキアの街には誰の姿もない。

 道端に店を構える男性も、路地裏にたむろする子供たちも。皆、何処かへ行ってしまったようだった。


「商隊の人たちはどうなったかな」


 椎菜たちがランケット商隊と別れたのは、ガレキアに入る前。

 空に浮かぶ顔の主、ヴァン・ヴァッケスの拳一振りによって壊滅させられた、砂漠のランケットの街へと、商隊の面々は生き残った者がいないか確認するため、戻ることを決めた。

 商隊は、ホリーを失った椎菜一行に最寄りの街であるガレキアで休息することを提案し、馬車を一台回してくれた。

 馬車でも二日掛かりだった道のりは、「もし徒歩で行っていたなら」と考えるだけでも恐ろしい。

 商隊も仲間を失ったにも関わらず、客人への礼儀を忘れずに、椎菜たちに尽くしてくれた彼らには、どんなにお礼と謝罪を送っても充分とは言えないだろう。

 実際には、街の手前で馬車から降りて、御者と別れた椎菜たちを迎えたのは、人っ子一人見当たらない、がらんどうのガレキアの街並みであったのだが。


「分かんない……。無事だと……、いいな……」


 空に浮かぶあの狂気の笑顔は、何時また地上に降りてくるか分からない。

 椎菜には、紫在の動向も気になった。城で待つと言って消えて行った紫在。彼女は何をしようとしているのか。椎菜に何をさせようと言うのか。

 分からないことが多すぎて、椎菜は重みを増した心持ちに、顔を俯かせた。


「実はね、ちょっと街に誰か残っていないか探してみたんだ」


 椎菜が一人で物思いに耽っていた間にも、スティープスは椎菜に気を回してくれていたらしい。

 いくら気分が重くなろうとも、このままでいる訳にはいかない。

 例え、スティープスにとっても掛け替えのない人が、死んでしまった後だとしても。

 まだ、救うべき人が何処かで嘆いているに違いないのだから。

 椎菜はスティープスの優しさに愛しさを覚え、同時に自分がどうしようもなく情けなく思えて。


「そしたら、まだお店をやってる人がいたんだ。行ってみない?何か話も聞けるかもしれないしさ」


「……」


 ――――なんで、私、ずっと一人で落ち込んでだんだろう。


 椎菜はスティープスの優しさに、冷静さを取り戻す。

 椎菜の傍には、きっと彼女よりもホリーの死を悲しんでいるに違いない人たちがいたというのに。

 こんな風に、平気そうに椎菜に語りかけるスティープスだって、今もどれだけ辛い思いでいるか。

 白い手袋に包まれたスティープスの手を、椎菜は強く握り直す。

 馬車に乗っている間も、そこから降りた後も、ろくに話そうとしなかったスティープス。ホリーが死ぬのを目の当たりにして、ショックだったに違いない。

 そんなスティープスに気を遣わせてしまったことを椎菜は恥じた。


「ありがとう……。スティープス」


 ――――頑張ってくれるスティープスに少しでも報いられるように、私も強くいよう。何時か彼が苦しんでいる時に、今度は私が支えてあげられるように。彼と二人で、何処までも歩んでいけるように。


 繋ぐ手の感触を噛み締めながら、椎菜は固く決心した。


「ねえ、全部終わったら……」


「ん?」


「お墓作ってあげようって思うの。ホリーとか、他の人たちにも」


「あぁ、お墓って前に椎菜が……」


 スティープスは、椎菜が少しだけ元気を取り戻したことを感じ取った。

 その代わりに、耐えていた自分の気持ちに意識が思い出されて、スティープスの気は徐々に暗さを纏わせていく。


「そう。私がお祈りしてたやつ」


「そんなことしても、意味あるのかな……。お祈りしてどうなるの?」


「何か起こるわけじゃないよ。本当の意味は私もよく知らないけど、死んだ人のこと、思い出してあげるの」


 空元気ではあるだろう。椎菜の声は精一杯に平時を装っていた。

 けれど、だからこそ、スティープスは椎菜の言葉を受け入れていくことができる。

 スティープスの心は、隠してはいても、やはり荒んでいた。それを、多少の怯えを持ちつつも椎菜は受け入れて、穏やかに続けた。


「死んだ人はもういないから、私たちの中に残った思い出を失くさないように、何度も思い出してあげるの。お墓ってそういう物だって私は思ってる」


「僕たちが思い出したって、ホリーは……」


 椎菜はスティープスの反応を窺がいながら、彼の疲弊した心を気遣いつつ。


「スティープスは、もし自分が死んじゃった後に誰も自分のこと覚えてくれてなかったらどう思う?」


「……。嫌かなぁ……、やっぱり」


「ホリーだってきっとそう言ったよ。自分のこと忘れて欲しくないって、絶対思った」


「そっか、そういう物なんだ。そっか……」


 スティープスは立ち止まって、手を繋いでいた椎菜も、同じく足を止めた。


「そうだね。お墓、作ってあげよう。僕も手伝うよ」


 墓を作るということは、死んだ人に対する行き場のない思いを受け止めることでもあるのかもしれない。

 例え、その人の体が墓の下に埋まっていなかったとしても、生者の祈るその場所が墓であるに違いない。

 墓の前で悼む者がいる限り、その人は決していなくなったとは言えないのではないか。

 そう思うことができるということが、大事な隣人を失った者にとって何よりも意味がある。死人に対してできる、たった一つの恩返しだ。自分のためで、相手のための。

 細長い椎菜の指が、スティープスの手を優しく包む。

 少しずつではあるが、椎菜は元気を取り戻していた。仮面の彼も同じく、気分を持ち直すことができたようだ。

 歩き出すスティープスに、繋いだ手を引かれる椎菜にもそれが伝わった。

 椎菜の顔から鬱気な雰囲気が和らいで、微笑む眼差しは隣のスティープスへ。

 絶望のぬかるみが、そこかしこに蔓延るこの夢の中で、椎菜にとって最早スティープスは、瞬く星のように、輝ける存在であると思えるようになっていた。







「どうなんのかねぇ。俺たちは……」


 ライオンがぼそりと呟いた。

 今後に憂う不安が、ついつい漏れ出てしまったのである。

 石畳に寝そべるライオンは、周りに誰の姿もないことを確認し、だらりと地面に顔を付けた。

 油断した所へ感じた背中の重みに、ライオンは驚いた。

 誰もいない筈なのに、背中に感じる確かな重み。

 スティープスは椎菜を迎えに行ったはずだ。ならば、今ここにいるとすれば、ディリージアとかいう、もう一人の姿の見えぬあの男。

 一人と一匹は、石畳に座ったまま小一時間待ちぼうけをくらっていた。一人になりたいと言って、去っていった椎菜を心配したスティープスも彼女を追いかけ、何処かへと。

 残されたのはライオンとディリージアであったが、ライオンにはディリージアの姿を見ることができない訳で。

 昼下がりに薄く灯りを浮かばせる街灯の下、ライオンは寝っ転がり、ディリージアはそんなライオンに寄りかかり、椎菜たちを待ち続け。

 ただじっと待っているのも辛くなってきた頃だ。ライオンは己には見えぬ聞こえぬディリージアに、話しかけた。


「あんたも大変だな。こんな大事になるなんて思ってなかっただろう」


 ライオンに背中を置いて座るディリージアは黙して聞いた。返事をしても聞こえないのだから、そもそもディリージアにはどうすることもできないのだが。


「これから先、何が起こるか分かったもんじゃない。何時死んだっておかしくない」


 ディリージアは空を見上げた。

 ヴァッケスの笑顔は高さのある建物に隠れて見えはしなかったが、充血した両目を向ける、気色の悪いあれを意識しなくて済むのはむしろ喜ばしいことだ。


「本当に椎菜を連れてっていいもんかね……。危ない目に会わせるだけな気がするよ」


 ライオンの心配も、ディリージアには理解できる。

 ライオンにとっては、この世界が一人の少女の夢であるという事実は元より、椎菜が紫在と仲良くなれれば現実に帰れるなどとは、信じる以前に理解すら難しいことだろう。

 だからこそ、ライオンはこれだけ心配もするのだ。ライオンには、椎菜に荒唐無稽な目的に命を無駄に懸けさせることに思えてならないに違いない。


「危険だとしても、行くと決めたのはあいつだ。俺たちにはそれを手伝うことしかできない」


 聞こえていないとは分かっていても、ディリージアはついつい口に出して答えてしまう。

 案の定、聞こえていなかったようで、ライオンは反応もせずに続けた。


「椎菜まで、ホリーみたいに殺されたりしたらなぁ……」


「……」


 無関係であるにも関わらず事態に巻き込まれてしまったのは、椎菜だけではない。故郷も、そこにいた仲間も失ってしまったこのライオンのことを、ディリージアも気の毒に思わない訳ではなかった。

 ディリージアはライオンのたてがみを、慰めるつもりで思い切り引っ張って。


「痛って!?」


「んん?」


「何すんだこら!!」


 ライオンは憤慨した。背中に寄りかかるディリージアに唾を飛ばして吼えかかった。


「何か間違えたか……?」


 唾に塗れながら、ディリージアは自分が何らかの過ちを犯したことに気が付いた。

 ディリージアは仮面に付いた唾を手袋で拭きつつ、唾も生き物に入るのだろうかと思案してみたり。今度は、指で摘まんでゆっくりと、たてがみを引っ張った。


「すまんな。何やら間違えてしまったらしい」


「お、おお?なんだ謝ってんのか?」


「こんなことでは、俺もスティープスのことを馬鹿にしていられないな」


 ふと、ディリージアは思い至った。


 ――――何時から、俺はこんなにも、夢の世界の住人に心を砕くようになった?


 ――――ここは夢の中。現実には在らぬ、全てはただの幻ではなかったか。夢の世界で、まるで現実にいるかのように振る舞うスティープスを小馬鹿にすらしていたというのに。これでは本当にあいつのことを馬鹿になどできない。


「馬鹿なのは、俺か……」


「まあ、あんま気にすんなよ。俺も気にしてないからよ」


 たてがみを弄られながら、ライオンの雰囲気は明るさを取り戻しつつあった。

 ライオンも、椎菜もスティープスも、少しずつ、ホリーの死から立ち直って。

 けれど一人だけ、ディリージアは未だ心に暗さを残す。

 彼の中で燻ぶる思い出に、ディリージアはどうしても苦境を乗り越えることができないでいる。

 ディリージアは己の後悔に明確な答えを得られぬまま、最悪の形で此度のホリーの死を迎えてしまった。

 ディリージアは再び空を見上げた。建物の影に隠れていたはずのヴァッケスの笑顔が、何時の間にか頭上で、彼を嘲笑っているのを見つけた。







 椎菜たちがスティープスに案内されてやって来たのは、かつては小奇麗であったであろうことを思わせる、古びた喫茶店だ。

 薔薇に似た花のつるが外壁を這う、赤煉瓦に、窓が一つの小さな店。

 ベルの付いた入口の扉には、落書き文字で「開店中」と書かれた札が掛けられていた。

 窓の向こうに光る店内の灯りが、まだこの建物の中に人がいる証であるとスティープスは雄弁に語った。

 椎菜にはこの店に見覚えがある。

 この夢に入ってきてすぐのこと、椎菜はこの街に来て、この店に入った。

 椎菜はここで、一番初めに夢の世界に遍在する、不味い飯の片鱗を味あわされたのだ。

 忘れがたい苦しみであった。あのからし種のアイスコーヒーの味を椎菜は鮮明に思い出し、周りに気取られないくらいの歪みを顔に浮かばせた。


「どうした?入らないのか?」


 どうやら、ディリージアは店に入るつもりはないらしく、ライオンも入口の横に寝転がる。

 スティープスは椎菜の後ろで、何故椎菜が店の前で狼狽えるのか分からない、といった様子である。


「いや……、どうしよっかな……」


「あ……、ひょっとして嫌だった?」


「違う!違うの。そうじゃないんだけど……」


 「ここに入れば、また妙な物を摂取させられることになるのでは」、と懸念をするのは、椎菜がこの世界で生きていくために身に付けた、未知なる食物に対する防衛本能。

 未だ地雷を踏むことは多々あれど、見えている地雷を踏むことはなくなった。


「じゃあ行って来いよ。俺が入ったら騒がれるから、俺は行かないけどな」


「俺も行かん。俺はそもそも入る意味がない」


「じゃあ僕らだけか。行こう、椎菜」


「……、うん……」


 大して興味もないといった御様子で、ライオンとディリージアは店に入っていく二人を見送った。

 当の椎菜は、スティープスが呼んでくれるので、ついつい気分良く返事を滑らせてしまって。

 自分の単純さと、椎菜たちが店に入った途端、こちらに目を向けた女店主の「いらっしゃい」の一言に、椎菜はいよいよ観念するしかないのであった。


「女の子が一人で、こんな街にどうしたの?」


「怪物から逃げてきて……、街に来れば大丈夫かと思ったんです。けど……」


 店内に他の客の姿はなく、適当なカウンター席に着いた椎菜に、店主は気軽に話しかけた。

 質問を受けた椎菜は、これを、ガレキアの街に人がいなくなった現状を把握するに適した機会と取った。


「街の中には誰もいなくて……。みんな、何処に行っちゃったんですか?」


 この街の様子では客が来そうもないのだが、店内は綺麗に掃除されている。

 スティープスは所在なくうろついていたが、やがて椎菜の隣の席に座った。

 客である椎菜の注文も聞かずに、店主は話に乗った。


「お城の姫様が、世界中に御触れを出したからね。一日に一つずつ、街と村をあの怪物が壊していくってさ。死にたくないやつは、城下町まで逃げてこいって。そしたら、兵士も一般人も全部大慌てで行っちまったよ。うちの店員もね」


「それなら、なんであなたは逃げないんですか?早く城下町に行かないと、危ないんじゃ……」


 女店主はグラスを拭きながら、窓から見える人気のない街を見つめた。細めた目と落ち着いた声に、椎菜には女店主の哀愁が感ぜられた。


「あんたみたいに、こんな非常時にも茶を飲みに来る、おかしな子がいるかもしれないからさ」


 カウンターに立てられた小さなメニュー表を椎菜の席の前にずらして、店主は微笑んだ。


「さあ、何にする?お代はいらないよ。私の話し相手になってくれれば、だけどね」







「この街はね、私にとって特別な場所なんだ」


 店主は彼女の思い出を語り始めた。

 椎菜が何となしに尋ねた、店主の左手薬指に通された、指輪の送り主のことが店主の口を軽くさせたのである。

 スティープスは気を遣って、椎菜に断ってから店を出た。

 会話に参加できないスティープスは、椎菜と店主の二人でゆっくり話した方がいいと判断したらしい。


「ここで育って、ここで夫に会って……」


 店内の大きな窓からは、街路が見渡せた。

 今でこそ誰の姿もないものの、かつては人が行き交う、賑やかな景色であったであろう。

 植えられた街路樹も色よくそびえてはいるけれど、風の吹き抜ける街路には、むしろより寂しく感じられてしまう。


「ああ、あそこ。そこの木でよく待ち合わせたりしたもんだ。大抵、あの人の方が遅れてくるんだけどね」


「ひょっとして、約束の時間よりずっと早く来ちゃう人でした?」


「そうそう。やっぱり相手より早めに行った方が印象いいかなって思ってね。まぁ、あの人は約束より遅く来るんだけど」


「あはは。ひどい」


 店主は楽しそうに昔話をしてくれた。

 まだ年若く見えるこの女店主は、旦那のことを随分好いているようだ。話しながら街の景色に向けられる女店主の目には、大事な思い出が映し出されているに違いない。

 閑散とした街に見る思い出は、今とかけ離れて、美しいものであるのではないだろうか。

 椎菜は女店主の気持ちを量り、胸が痛むのを感じた。


「旦那さんはどんな人なんですか?かっこいい?」


 店主は椎菜のこの質問に、すこぶる顔つきを変えて返答した。これでもかと言う程得意気に、自慢気に。


「すっごいかっこよかった!」


「へー!へー!見たい!写真とかないんですか?!」


「あるよ!ちょっと待ってな!」


 店主が店の奥に飛んで行き、店内に静寂が訪れる。

 残された椎菜は、カップに入ったコーヒーに揺れる波を見つめて、胸に残る重たさに意識を向けた。

 今しがた、感じた痛みは何だろう。

 椎菜は考えてしまう。己の気持ちを見つめてしまう。


 ――――あの店主が寂しそうに目を向けていたこの街の景色にかつていた、ガレキアの街の人たちが皆、姿を消してしまったのは、私のせい。


 ――――私が紫在さんを説得できなかったから、こんなことになってしまったんだ。


 ――――私がこの世界を、壊してしまったんだ。


 椎菜の中で何かが膨らんで、彼女の心と体を内側から刺し貫かんと育っていく。

 椎菜は額を右手で押さえ、机に寄りかかった。左手を胸にかざし、爪を立て、強く、一度だけ、掻き毟った。


「あったあった!これだよこれ!」


 戻ってきた店主の声に、慌てて体勢を戻す椎菜に暗い気配は無く、椎菜は店主に向けて明るい顔を見せた。


「あ、本当にかっこいい!」


「だろう?」


 椎菜のその明るさは、負い目から来る暗い気持ちを押し殺し、相手に気を遣わすまいとしたが故の態度であった。

 店主は心地よい椎菜の返事に、気を良くして自慢を続けた。


「この指輪もそこの広場で旦那が私にくれたんだよ。噴水の前で、それに星が綺麗でね。気の利いた時に渡してくれたもんだ」


「素敵な人なんですね」


 先程から、引っかかることが一つ。

 気のせいであれば良いと思っていたが、椎菜はどうもその予感が外れている訳ではないと、思い至ってしまった。

 この女店主が先程からずっと語っている旦那は、今どこにいるのか。


「ああ。本当に、ぼーっとしてたけど悪くない人だったなぁ……」


「……。あの……、やっぱり、もう旦那さんは……」


 店主は、椎菜が気を遣っていたのだとようやく気付いた。

 あまりに椎菜が快く返事をしてくれていたので、とんと気付けなかったのだ。「しまったな」と店主は目を泳がせて、頭の中で言葉をまとめていった。


「あっはっは。気にすることないよ。半年くらい前に、運悪く逝っちまったんだ。私だって、そんな何時までもくよくよしれられないって」


「病気か……、事故ですか……?」


 恐る恐る尋ねてくる椎菜が、店主には可愛らしい。若い割に、よく人のことばかり考える子だと微笑ましくて。


「まぁ……、事故みたいなもんだね。知ってるだろ?魔女が住んでた森が一晩でめちゃくちゃに潰されてたって話。その時にね、丁度、うちの旦那が森に材料取りに行ってたんだ」


 それが、椎菜の心の傷を大きく抉ってしまうことも知らず。店主はそれと知らずに、罪の重しを椎菜に載せつけてしまったのである。


「夜中に森の中に入るなんて……。ヴァン・ヴァラックも出てたっていうのに、馬鹿な人だよ。そんな急ぐこともなかったってのにね」


「ごめんなさい!!」


 椎菜は机に頭をぶつける勢いで、頭を下げた。ぶつけた額を赤く腫れさせる椎菜の、涙混じりの大声に、店主は驚きのあまり息を呑んだ。


「私が悪いんです……。この街から人がいなくなったのも、あなたの大事な人が死んでしまったのも……」


 身を乗り出し、必死の形相で謝罪する椎菜の姿には鬼気迫る物があり、突然のことに、店主も返事など言えようものがなくて。

 「なんだなんだ」と店の外にいた二人と一匹も窓から店内を覗き見て、椎菜の泣く姿にぎょっとした。


「全部、私がお姫様と魔女のお婆さんを怒らせたからなんです。それで、それで……。私が、余計なことしなければ……。こんなことにならなかったのに……」


「ま……、まあまあ。とりあえず落ち着きなって」


 泣きじゃくる椎菜を座らせて、店主はこの珍客が一筋縄ではいかない経歴の持ち主であることを感じていた。

 店主も席に着き、一息置いて、正面に座す椎菜をどうしたものか考える。


「あんた、奴らと知り合いなのかい?」


「はい……」


 店主は驚いた。

 どんな事情があるのか知らないが、とんでもないのと関わっているものだ。簡単に信じられてた話ではないが、この様子では嘘を吐いているとも思えない。


「詳しいことは知らないけど、奴らを怒らせたからって、あんたが気に病むことじゃないさ。連中が何をしでかそうと、今に始まったことじゃなし。魔女に至ってはもう死んじまった」


「きっかけを作ったのは、私です……」


 椎菜は頑なに己の非を抱え込む。

 その悩みは根深く、椎菜の中に大きな存在として残ってしまっている。

 店主は腰を据え、椎菜に向き合った。

 本気の悩みに対して捧げる言葉は、本気の返答でなくてはならない。店主の経験と優しさが告げていた。


「あんたにどんな事情があったのか知らないけど……。なら、あんたがいなかったら何も起きなかったのかい?私はそうは思わないよ」


 椎菜は俯いて、店主の話を聞いている。人と話すことに飢えていた女店主は、誠実で心優しい椎菜に顔を綻ばせた。

 女店主も、椎菜が夫の死んだ原因に関わっていると聞いて、内心穏やかでいられないのも事実ではある。


 ――――けど、それをこの子に言及したところでどうなろう。なにより、こんな可愛い子を虐めては、私の明日からの目覚めが悪くなるというものだ。


 次の言葉をじっと待つ椎菜の目には、まだ大粒の涙が溜まっていた。店主は椎菜を、人の話がしっかり聞ける人間であると評した。


「いずれこんなことが起こるってのは、みんな分かってたことさ。あんただけのせいじゃないんだよ。みんな分かってても、今まで何もできなかった」


「でも、そのままそっとしておけば、何も起こらなかったかもしれないのに……」


「たらい回しにされてた爆弾が、たまたまあんたの手の中で爆発したってだけの話だ。誰もあんたを責められやしない」


「……」


「あんたは今こうやって、後悔して、申し訳ないと思ってる。今大事なのは、その気持ちだよ。その気持ちを、これから行動に移していけばいい」


 椎菜は涙を手で拭って、弱弱しくもうなずいて。店主を見る椎菜の目には力が戻っていた。


「ほらほら、何時までもそんな風に泣いてたら、可愛い顔が台無しだよ。待ってな。今、甘い紅茶入れてきてあげるから」


 椎菜の飲みかけのコーヒーを手に、店主は席を立つ。

 店主はちらりと椎菜の顔色をうかがった際に、椎菜と目が合ってしまった。

 恥ずかしさと驚きで、一瞬身を固めた店主に、椎菜は残った涙を指ですくいつつ、ぎこちなく笑って、言った。


「……、ありがとうございます。あなたとお話できて、よかった」








「城下町に行くなら、まずは歩きでウッドサイドに行くと良い。あそこなら、まだ城下町に向かう途中のやつがいるはずだ。馬にでも乗せてもらいなよ」


 店を出る時に、女店主が最後に教えてくれた情報が、椎菜たちの今後の方針を定めてくれた。

 ウッドサイドは城下町に寄った位置にあることから、避難民の中継地となっているのだ。ガレキアから城下町まで歩くとなると、二日や三日では足りない距離がある。

 しかし、ウッドサイドまでなら、歩いて半日程で辿り着ける。

 馬車一つ残っていない、このガレキアで途方に暮れることもなくなったのは喜ばしいことであった。


「今日はここで泊まっていった方がいいな。もうじき夜になる」


 そう言ったディリージアはしきりに空を見上げて、暗くなる霧の空色を見た。

 無人の街で宿を取るのはそう難しいことではなかった。黙って扉を開けて、黙ってカウンターを通り過ぎ、黙って適当な部屋に入れば事足りてしまうのである。

 何しろ、こんな状況だ。

 多少勝手をさせてもらうとしても罰は当たるまいと、椎菜は部屋の蝋燭に火を点けた。有り難いことに部屋は掃除され、ベッドも綺麗に整えられていた。

 椎菜は馬車旅でぐったり疲れた体を放り投げてベッドに飛び乗ると、体が埋まるふかふかの布団の気持ち良さに目を閉じた。


「おーい、飯食うべ」


 すっかりリラックスしていた椎菜の部屋に、どかどかと入り込んできたのはライオンであった。

 スティープスたちと、宿に残された食糧を探していたライオンはどうやら目当ての物を見つけたようで、椎菜を呼びに来たのだろう。


「うーん……、もうちょっと休ませて……」


 布団の気持ち良さに吸いつけられた椎菜はなかなか動こうとせず。「もうちょっと」、という椎菜の言葉を馬鹿正直に信じて三分程待たされたライオンは、己の愚かさから逃避するべく憤慨した。


「まだかよ!腹減ったんだけど!!」


 椎菜はだるっこそうに布団の中からライオンに顔を向けた。鼻の頭まで埋まった彼女の顔には、両目がいたずらっぽく、にやにや輝いて。


「まぁーだ」


「早くしろよ……。飯食わないと元気でないぞ」


 呆れ返ったライオンはベッドの横に寄ってきて、思い切り大きなあくびを椎菜にくらわせた。


「くさっ!くさい!!」


「はっ」


 肉食獣の口内から発せられる強烈な生臭さに、椎菜は叫んで、枕に強く顔を埋めさせた。

 鬱憤を晴らし、嘲るライオンがそのまま床に寝ころんだ。そんなライオンを恨めしそうに椎菜は睨んで、彼のたてがみを掴んで引っ張ってやった。

 ライオンは嫌がって首を振るが、椎菜を置いて先に行ってしまおうとはしない。

 ライオンのそんな所がまた、椎菜に笑顔を浮かばせる。


「ありがとうね。ライオン君」


「……。何が?」


「ずっと一緒に来てくれて」


「ああ……、そんなことか。ただ、他にすることがなかっただけだしな」


 ライオンは何を今更、と言わんばかりに大仰に息を吐いて、顎を床に付けた。

 ライオンにとっては最早どうでもよいのかもしれないが、椎菜にとっては大事な話である。

 ライオンに対しても、椎菜は深い負い目を持っていた。

 昔のことを掘り返さないライオンに応え、気軽に接しようと心がけていても、内心ではやはり引きずってしまう想いが椎菜にはあって。


「私の事、恨んでない?」


「俺があんたの何を恨むんだ」


「私がいなければ……、あなたの故郷がなくなることもなかったでしょ……?」


 今でも椎菜は、はっきりと思い出せる。

 椎菜が魔女の怒りに触れて、魔女の魔法によって、ウッドサイドの森が壊滅させられてしまった光景。

 木々は折れ、屍が転がる森の変わり果てた姿は、椎菜の脳裏に深く刻まれていた。


「あんたを魔女の所に連れて行ったのは俺だ。実際に森を潰したのも魔女だ。自分を追い詰めるのが好きだな。あんたは」


 けれど、ライオンもまた、椎菜に負い目を感じていたのだった。

 椎菜に押し負け、魔女の家へ案内してしまったせいで故郷を潰してしまった、ライオンはそう思っている所があるようだ。


「何でもかんでも、全部責任を背負い込む必要はないんじゃないのか?もっと気楽にしてろよ。俺はあんたのそういう所が心配だよ。正直」


「……」


 言うことを言ってから、ライオンは椎菜が薄っすら笑みを浮かべて、彼を見つめているのに気が付いて。


「……、何?」


「そんなに私のこと、心配してくれてたんだなぁって」


 どうにもライオンはこそばゆくなってしまう。

 こうなっては、もうライオンは椎菜の顔をまともに見ることもできない。たてがみを後ろ足で軽く掻いた後、そっぽを向いたまま、黙り込んでしまった。


「……」


「ねえねえ、ライオン君さ」


「何だ、今度は」


「名前つけてあげる。いいのがあるから、ね?」


 椎菜からの、突然の申し出であった。

 頭を揺らす気恥ずかしさを忘れ、ライオンは思わず椎菜に顔を向け、驚きを隠せずに言った。


「名前なんていらないって言っただろ。必要ないんだよ、俺たちには」


 まだライオンと椎菜が会ったばかりの頃、一度、名前の話をしたことがあった。

 その時にも、ライオンは動物である自身に名前は不要である旨を伝えたのである。

 椎菜はそれを忘れている訳ではなかった。ただ、ライオンとの友情の証として、椎菜は彼に名前を持たせたくなった。名前で呼ぶことで、特別な存在であると互いに認識できるからだ。


「私には要るの。あなたの名前」


「何でだよ……」


「いいでしょ?お願い」


 ライオンは再び恥ずかしそうに、そわそわと四本の脚を動かしている。その様子から、椎菜は彼が悪い気はしていないことを察した。


「……、どんな名前だ。適当なこと言ったら怒るぞ」


 ――――怒られたら、どうしよう。


 ライオンの一言に椎菜は一瞬臆したが、布団の上で枕に顔を埋めたままで、その名を発表した。


「レグルス。どう?嫌かな?」


 提示された命名案をライオンは反芻した。

 響きは悪くない。長ったらしくもなく、発音もしやすい。

 なら問題は、由来と意味である。


「レグルスって、どんな意味がある訳?」


 椎菜はこのライオンの反応が、レグルスという名前が彼に好感触であったと見た。


「星座って、知ってる?」


「星座は星座だろ。星の並んでるやつ」


「そうそう。レグルスっていうのは、獅子座で一番明るい星の名前」


「ああ、そういうこと。獅子繋がりね……」


 いよいよ悪くないといった雰囲気だ。ライオンの尻尾は興奮しているのか、しきりに揺れていた。


「かっこいいでしょ?」


「どうかね。まぁ……」


 ライオンは立ち上がり、大きく伸びをして、首の動きで椎菜に部屋から出るよう促した。


「呼びたいように呼べよ。別に、嫌じゃない」


 椎菜はようやくベッドから降りて、乱れた髪を手で軽く梳かしながら、ライオン改めレグルスを追い、隣に並んだ。


「レグルス」


「……、あー?何?」


「ありがとう」


「またお礼かよ。なんでもいいって、もう」


 レグルスの口調は怒っている体を装っているものの、声や仕草から御機嫌であることがばればれで。

 一緒にスティープスたちの下へ戻る椎菜も嬉しそうに頬を上げていて。まだ表情に影は残っているけれど、機嫌良く。


「また、少し元気になった。だから、ありがとう」







 宿に従業員がいないとなると、夕食も自分で用意しなくてはならない。

 幸い、使えそうな食材はまだ残っていて、椎菜はそれを調理して簡単な料理を用意した。

 どうせ食べるのは椎菜自身であるが、スティープスが見ている手前、少しは見栄を張らなくてはならない。

 米と炊飯器があったので米を炊き、調味料が一通り揃っていたので甘酢を作り、焼いた鶏肉に絡ませて、適当に選んだ正体不明の根菜を茹でて添えた。

 そして、塩とコンソメで味を整えたオニオンスープを横に並べ、準備は完了。

 後は食べるだけだ。椎菜は両手を合わせて「頂きます」、と心で念じた。


「椎菜は料理が上手なんだね。おいしそうだ」


「このくらいなら、誰でもできるよ……」


 確実なお世辞とはいえど、スティープスから貰った一言で、椎菜は女子としてのノルマは達成した。

 椎菜は一安心した所で、自分で作った料理の美味しさに驚愕した。

 こんなに普通の味を噛み締めたのは何時以来だったろう。危うく、現実の味を忘れ去ってしまう所であった。

 初めからこうすれば、食事に苦労することはなかったのかもしれない。

 だが、椎菜はこれまで、一切自発的に調理を行おうとしなかった。

 調理場や食器をどうするかという問題はあっただろう。しかし、実際の所は椎菜がただただ、面倒臭がっていたというのが大きく依るところである。

 椎菜が夕食を食べ終えて、口には出さずとも、「御馳走様でした」と言う風に両手を合わせるのを、スティープスは不思議そうに見ていた。

 すると、椎菜が夕食を食べ終えるのを待っていたディリージアが、皆に言った。


「俺は一足先に城へ行こうと思う。この間は紫在と入れ違いになったが、今度は会えるはずだ」


「また別行動?」


 ――――またどうして、こんなに突然。


 椎菜には、ディリージアの決断が酷く唐突であるように思われたが、ディリージア本人にとっては遅すぎたくらいで。


「紫在と話すのかい?」


「ああ。やっと話せるようになったんだ。何時までも立ち止まってはいられない」


 紫在に姿が見えるようになったということは、ディリージアにも紫在と話すことができるようになったということ。

 今は、ディリージアには不幸中の幸いとも言うべき状況でもあって。ディリージアは、紫在の下へいち早く向かいたい思いであったことだろう。

 しかし、それでもディリージアが椎菜たちに付いてきていたのは、必ずしも、紫在と会う心の準備を整える時間を求めていたから、というだけではない筈である。


「ん?なんだ、先に一人で行くのか?ディリージアが?」


 レグルスが椎菜の発言から推測した話の流れは、概ね当たっていた。ディリージアが一人で城へ向かおうという旨の話をしたに違いない、レグルスはそう直感した。


「まあな。紫在を止められるのなら、できるだけ早い方がいいだろう」


 ディリージアが軽い指の動きでスティープスに合図する。メモ帳に今の自分の言葉を書いて見せろということである。

 スティープスに見せてもらったメモ帳の文面に、レグルスは小さく溜息を吐いた。


「でも、一人で大丈夫?」


「さあな。だが、行く価値はあるはずだ。もし、俺が駄目だったなら……、その時はお前の出番だ」


 心配する椎菜に返した答えは、ディリージアの決意の程を感じさせた。己の想いが届かないと分かっていても尚、紫在に向き合おうとする彼は悲壮な空気を纏っていて。

 椎菜はディリージアを止めるべきかどうか迷ったものの、彼はきっと自分の決意を曲げはしないのだろうと、椎菜は彼を送り出すことを決めた。


「気を付けろよ」


 レグルスは椎菜の体の向きから予測したディリージアの居場所に向けて一言添えたが、その方向には誰もいない。


「……。ディリージア、やっぱり……。そうだ、せめて僕も一緒に……」


 やはり、ディリージアの身を一番案じているのはスティープスで、このままディリージアを見送るのに、スティープスは一抹の不安を感じていた。

 スティープスにとっては、ディリージアは初めての友達で、最も身近に思える存在でもあり。ディリージアの決意を無駄にしたくないと思う部分と、ディリージアを心配する気持ちとが、スティープスの中でせめぎ合っているのであろうと椎菜は感じ取った。

 ディリージアもまた、二の句が継げないスティープスの気持ちを汲んで、言葉を探しているようで。


「お前は椎菜たちを守ってやれ。それくらい、できるだろう」


 そう言って腕を組んだままじっと動かないディリージアからスティープスは目を逸らし、優柔不断な己を責めた。

 スティープスは、感情を整理できないでいる自分をこれほど未熟に思ったこともない。そんな折に、そっと握られる手の感触に、スティープスは顔を上げた。

 手を握ってくれる椎菜の両手は暖かく、スティープスの中の、板挟みになって凝り固まった心を融かしていく。

 スティープスは自分が今、目の前で自分の言葉を待つ、かけがえのない友人に言うべきことを理解した。

 今なら言えると、確信した。


「ディリージア。君になら、きっとできる。そう信じてるよ」


 スティープスのやっとの一言を聞いて、ディリージアはどう思ったことだろう。

 少なくとも、すぐ横でその様子を見ていた椎菜には、ディリージアがとても嬉しそうにしているように見えた。


「スティープス、俺がやった時計は持っているか?」


「え?あ、ああ。持ってるよ。これ」


 ステープスが懐から取り出したのは、金色の懐中時計。

 不安定な存在であるスティープスの体が保たれていられる時間を示す時計。

 ディリージアと紫在によって作られたこの夢の中、元々人の体を持たぬスティープスは、二、三日程の時間が経つ度に、半日近く体を手放さなくてはならないのだとか。

 その間、体を失ったスティープスの意識は夢の世界の外で、世界を見下ろしながらたゆたうのだと言う。

 スティープスに金時計を作り与えたのは、ディリージアであったのだった。


「もうじき、またお前の体が消える頃だ。椎菜を守りたいんだろ?だったら、また体が戻るまで待った方がいい」


「ああ。君の言う通りにしておくよ」


 最後に皆を見回して、ディリージアは去っていこうと背を向けた。


「それじゃあな」


「ディリージア!!」


 スティープスの呼ぶ声に立ち止まり、ディリージアは顔だけで振り返り、スティープスを見た。


「また会おう!君は……、僕の友達だ!」


「ははっ」


 短く、小さく。けれど心底、楽しそうな声で、ディリージアは笑った。


「本当に馬鹿だな、お前は。俺はずっと、そのつもりでいたよ」








 夜になり、部屋に戻った私はベッドに倒れて、体の力をふっと抜く。

 私の中に凝り固まった疲れを、ベッドの中に沈めていく。

 こうして宿の天井を眺めるのは、もう何度目になるだろう。

 夢の中で眠るという行為が、初めは不思議というか、変に感じたものだ。

 すっかり慣れてしまった、ここでの生活。

 晴れない空も、不味い食事も、不可解なミミズ文字も慣れた物。

 こんな世界でやっていけるのかと不安であったのに、案外、なんとかなるもので。もし、現実に帰れたのなら、この世界に二度と戻ってくることはできなかったりしないだろうか。そんな心配をするくらいには、馴染んでいて。

 それに、ここも悪いことばかりじゃない。

 ディリージアや、宿の表で眠っているレグルスは勿論。

 ホリーや魔女のお婆さんに、騎士の彼。

 他にも、いろんな街の人たち。

 そんな、良い出会いもたくさんあった。良いだけではなかった物もあるけれど、それでも私は、“良かった”と思う。

 夢の中で、そこの住人たちに何度も辛い目にあわされてきた。でも、落ち込んでいる私を元気づけてくれたのも、この世界の人たちだった。

 大好きになれる人たちに出会えたことを、私は嬉しく思う。


「椎菜。入ってもいい?」


 ドアの外から声がした。スティープスだ。

 私は彼に、“いいよ”と返事をする。蝋燭の火で照らされる部屋の中、薄暗さを残す夜の空気は冷たく広がって。

 一番大好きな人が隣に座る。

 ベッドに並んで腰かけて、私の横に座ってる。

 スティープスの重みで沈んだベッドが私の体を傾けて、彼の方に自然と体が寄せられた。

 スティープスの横顔が思っていたよりも近くにあって、恥ずかしくなるけど、嫌じゃない。この人になら、慌てふためくみっともない姿も見せていいのかなって、そんな風に思えるから。


「どうしたの?ひょっとして、私に会いに来てくれた?」


「うん」


「ひぇ」


 変な声が出た。

 冗談半分に聞いたのに、相変わらずスティープスは意味が分かっているのかいないのか、馬鹿正直に、真っ直ぐな答えを返してくるものだから。


「思っていたよりも早く、僕の体がなくなりそうなんだ。だから、伝えておこうと思って」


「ああ……、そういうこと……」


 私はわざと黙って、間を開ける。スティープスに、私が言って欲しいことを言わせたいがために。


 それだけじゃないでしょう?あともう一言、さあどうぞ。


「あ、いや。だから、君に会っておきたくて……」


「ふふ。ありがとう」


 スティープスは私の沈黙の意図を察すると、慌てて言葉を付け足した。

 そうやって、あなたが焦っている所を見るのも好き。格好良い所も好きだけれど、やっぱり、こういう可愛い所が私の胸を締め付ける。

 幸せな苦しさが、私の心をあなたで一杯にさせる。


「僕も、君にお礼を言わないといけない」


「……?何のこと?」


「ホリーのこと。君はあの子にとても良くしてくれた。君と一緒にいるホリーは、とても楽しそうだった」


 ホリー。

 優しくて素敵な子。

 もう、いなくなってしまった子。

 みんな口にははっきり出さないけれど、ホリーの死に心を痛めている筈で。ホリーが死んでから、こうしてあの子の話をしっかりするのは初めてだった。

 夢の中に来てから、ずっと関わり続けてきたホリー。

 いつも隣にいた笑顔が脳裏に過る。紫在さんに殺された時の、黒い殻の中で苦しんでいたであろう、ホリーの気持ちを想う。


「お礼なんて……。結局、あの子は………」


 ずっと、あなたと頑張ってきたのに。助けるって約束したのに。


「それでも、僕は感謝しているよ。君は僕のお願いを聞いてくれた。あの子のために頑張ってくれた」


 スティープスの手が、ベッドに置いた私の手の上に重ねられた。感謝なんてされることはできていない。

 けれど、スティープスは言葉を止めない。優しい声で、気持ちを乗せて。


「ありがとう。椎菜。この夢に来てくれたのが、君で本当に良かった」


 だから、私は決めた。

 誰にも語らない、私の後悔を。

 もしかすると、スティープスを失望させてしまうかもしれない。

 スティープスに、嫌われてしまうかもしれない。

 でも、私はスティープスに話しておきたいと思った。


「ねえ、スティープス」


「ん?」


「私のことで、聞いて欲しいことがあるの。聞いてくれる?」


「いいよ。君のことなら、なんでも」


 スティープスはどう思うだろう。

 受け入れてくれるだろうか。

 馬鹿な私。何時まで経っても大人になれない、私のことを。

 中学生活の終わり、お婆ちゃんが死んでしまった時の、私のことを。


「私のっていうか、私と私のお婆ちゃんの話。私が大好きだった人の話」


 どうであったとしても、これはあなたに話しておかなくてはいけないこと。

 そう思うから、私は覚悟を決めた。







 遥か遠い世界の彼方。

 黒くうねり、先を尖らす形は漆黒の。世界中の人々が目指す黒影の城、ディリージア。

 玉座を備えた、ディリージア城最上階の一室。城の最奥。

 無数の傷が刻まれて、部屋を奇怪に彩る幾何学模様も形を成さず、折れた燭台で部屋を照らすシャンデリアは、夢幻の力で宙に浮く。

 その部屋にある全てが、その部屋に面妖な趣向を添えている。

 世界の果てにそびえる城の中。玉座に戻った紫在は、世界を見下ろし時を待つ。

 夢の中、現実の幻影が作る波に抗い続ける一人の女性が、己の前に現れるその時を、待っている。

 これまでのように彼女の心が崩れるのをただ待つのではない。

 紫在は、直々に、己の心に纏わり続ける絶望を以て、箕楊椎菜という人間の心を叩き潰さんとしていた。


「椎菜さんは今、どの辺りかな」


「まだ遠いかな。彼女の足は大分鈍っている」


「ライオンさんは来るかな?」


「来るだろうね。彼は、箕楊椎菜と共にいる」


「じゃあ、スティープスとディリージアは?」


「彼らも一緒だ。箕楊椎菜の傍にいる」


「……」


 紫在の顔は黒い霧が晴れ、世界に曝された紫在の顔は、小さく笑っていた。

 怒りと嫉妬、そして寂しさが、紫在の笑顔を歪ませる。

 紫在は笑っている。笑っているのに。

 その目は、口は。悲しそうに、怒るように。目尻は下がり、額には皺が寄る。口は微小に吊り上り、歯は強く、噛み締められて。


「ねえ、椎菜さん、ちゃんと来てくれるかな?」


「どうかな。もしかすると、諦めてしまうかもね」


「その時は……、どうしようかな」


「殺してしまえばいい。ここは夢の中。君の気が済むようにしたらいい」


「そっか……。そうだね……。みんな、一緒に殺しちゃえばいいか」


 ――――きっと、あの人はこの場所まで来るのだろう。破滅していく世界を進み、私の下へ。優しいあの人は、私を放って置きはしないはずだから。


「世界を壊すのもいいだろう。それが逃げるということだ」


 紫在の隣で囁く男は、白いスーツに手足の長い体を包み、顔には白い霧がかかっている。


「全てを無に帰すのもいいだろう。それが諦めるということだ」


 男は慈愛の言葉で、紫在の心を堕としていく。紫在が抱える負の感情を膨らませて、紫在を飲み込ませて。


「君はもう、充分悲しんだ。誰も君を責める者はいないさ」


「……、私は」


「望むことをしたらいい。君は夢の中で、際限なく自由だ」


 そうやって、罪を重ねて。目を逸らさせて。

 何時か、紫在が己の罪に気付いた時。


「私は、もう元の世界には帰らない。私は、ここにずっといたい」


「ああ。そうしよう。君がそう望むなら、僕は君を守り続けるよ」


 かつての夢の主が望んだのと同じことを、紫在は望むだろうから。

 独り心を沈める紫在を横に、ヴァッケスは心の中で呟いた。


 ――――そう、何時か、その時が来たのなら。


 ――――紫在。僕はもう一度、君にナイフを渡すよ。







 話を終えて、椎菜は大きく息を吐いた。

 全ての事を上手く伝えられたかは分からない。隣でずっと静かに話を聞いてくれていたスティープスの反応を、椎菜は恐々と待っていた。

 やがて、スティープスは落ち着いた口調で言った。


「椎菜は、お婆さんが大好きだったんだね」


「うん……。でも、あの頃はそれが恥ずかしかった。馬鹿みたいだけど、大好きだって悟られるのも恥ずかしくて、嫌なことばかりしてた」


 スティープスの言葉に応え、椎菜の中から暗い気持ちが流れ出す。それは止まることなく、椎菜の口を動かせる。


「だから私、今は自分のことが嫌いなの。恐がりで、全然しっかりできなくて、何時まで経っても直らない。嫌なことがあると、すぐに逃げ出したくなるの。私にあるのはお婆ちゃんがくれたものばっかり。私なんて、自分じゃ全然、何にも大人になれないの」


「君にも……、そんな頃があったんだ」


 感慨深気にスティープスは言う。椎菜は、スティープスが自分のことをどう思っているのか知りたかった。

 今の話を聞いて、祖母にした自分の仕打ちを聞いてなお、スティープスが今まで通りに接してくれるのか心配で。


「……。がっかりした?」


「そんな風に見える?」


 可笑しそうに返してくれたスティープスに、椎菜は安堵する。

 体の力が抜けて、どうにも体が重たく感じられて。椎菜はついつい、スティープスの肩に頭を乗せてしまった。

 自然に動いてしまったとは言え、大胆にスティープスに寄りかかってしまった椎菜は、自分で恥ずかしくなる。


「どっちかって言うと、安心したかもしれないな」


「え?」


「君もいろんな失敗をしてきたんだなーって。僕もほら、なんかよく間違ったこと言っちゃうみたいだし……」


 対するスティープスは、落ち着いた物で。

 その実、スティープスの内心はとても落ち着いているとは言えぬ程、波打つ感情を抱えてはいたけれど。

 スティープスは椎菜が秘密を話してくれたくれたことが、嬉しくて仕様がなかったのだ。

 だが、スティープスはそれを表に出すことはしない。彼にも雰囲気という物が、多少は分かるようになったのである。


「一応、気にしてたんだ」


「そりゃするよ!だって君、怒るじゃないか!」


「あっはは、そっかそっか。ごめんね」


 笑顔を見せた椎菜を見て、スティープスは喜びつつ、宣言した。


「帰して見せるよ。絶対に君を、現実に」


「……、うん」


 嬉しくなった椎菜がスティープスに体を預け、スティープスは椎菜の軽い体の温かさを感じた。


「現実の世界には、君にとって大切な物がたくさんあるんだろうね」


「うん……。お父さんもお母さんも、友達も、みんな大事。みんなに会えないと、やっぱり寂しい」


 椎菜の肩を掴むスティープスの手に、椎菜は手を重ね、答えた。


「でも、私はこの世界も好き。恐いことも一杯あるけど、好きになったところもたくさんあるの」


「椎菜……」


「だから、現実に戻っても、私は絶対にまたここに来る。だって、ここに来れば……」


 顔を真っ赤に染めてぼそぼそと、椎菜が言った。


「その……。また、あなたと……、会えるし……」


「あ……、ありがとう……」


 歯切れ悪く答えたスティープスは、椎菜から仮面が覆う顔を逸らす。

 椎菜がどうしたのだろうとスティープスを見ると、その耳が真っ赤に染まっているのが見えた。


「ふふ。スティープス、耳真っ赤」


 思わず漏れた笑いは止まらずに滑り出し、椎菜は笑う。どうしたらいいのか分からないスティープスも、彼女につられて笑いだす。

 二人は暫く笑い合って、先に笑いを止めたのはスティープス。

 スティープスが懐から取り出したのは、金色の懐中時計。

 その針を確認して、スティープスは笑顔のまま自分を見る椎菜に、再び仮面を向けて。

 元気を取り戻した椎菜が笑ってくれるのをじっと見ていたスティープスが、満足そうにベッドに下ろした腰を上げた。


「そろそろ、時間かな」


 椎菜が寂しそうに表情を変えるのが、スティープスにはたまらなく嬉しくて、申し訳なくて。


「早く、戻って来てね?」


「ああ。体が戻れば、すぐに君の所に行くよ」


 同じく立ち上がり、自分に向かい合う椎菜を見ていると、スティープスは何故か椎菜を抱きしめてしまいたくなる感情に襲われる。

 スティープスは椎菜が嫌がるかもしれないと、気持ちを押し殺して、我慢した。

 椎菜に悟られぬよう、これまで何度も何度も繰り返してきた、スティープスの葛藤である。


「いつもありがとう。スティープス。ごめんね?私なんかの世話焼かせちゃって」


 椎菜の言葉には卑屈な色が覗いていた。スティープスにもそれが分かる。

 スティープスは勇気を出して、自分の勘を信じ、言うべきであろうことを椎菜に伝えた。


「……、椎菜」


「何?」


「君はとても素敵で、優しい人だ」


「……。は?」


 ぽかんと口を小さく開ける椎菜が、スティープスにはまた可愛く思えて仕様がない。

 だからこそ、スティープスは一番大切なことを言葉にした。

 椎菜の心を晴らすための、彼に言える精一杯の言葉を。


「僕には、君がすごく立派な人に思える。例え、君がお婆さんのお蔭でこんな風になれたのだとしても……」


「……」


「ここまで頑張ったのは、君なんじゃないかな?お婆さんのためにずっと頑張ってきた、君自身の力なんじゃないかな」


「スティープス……」


 スティープスの体が消えてくいく。白い粒の連なる線となって、揺らめくように消えていく。


「僕は、今の君が大好きだよ、椎菜」


 白と黒のクレヨンの線となり、椎菜の前から。


「君が君のことを嫌いでも……、僕は――――!」


 スティープスが、夢の世界から、いなくなって。

 跡形もなく、椎菜の前からスティープスの姿は消えてしまった。

 暗い静寂が耳につく。

 椎菜は蝋燭の灯りに照らされて、ベッドに背中から倒れ込んだ。

 椎菜はスティープスの言葉を頭の中で、何度も繰り返し思い返しては、彼の気持ちに想いを巡らせ。


「……、馬鹿……」


 くすりと一つ、笑みを溢して。


「私も、大好き。あなたのこと」


 たくさんの人たちのお蔭だ。

 望みが断ち切られていく絶望の世界で、椎菜は――――

 椎菜は、たくさんの人たちに、もう一度運命に立ち向かう勇気をもらったのだった。
















14th tale         End



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